東方四面楚歌   作:ソーヤー麺

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大変遅れました。
申し訳ありません。

これからはリハビリ期間となります、出来るかぎり更新させていただくつもりなのでご了承くださいませ。


48話 亀裂

ーー未明、三時過ぎ、白玉楼ーー

 

 

大きな目覚まし時計の音が、真っ暗な部屋の中でこだまする。

そんな目覚まし時計を、大きな掌が叩き潰した。

 

「…ウルセェ」

 

トレバーはすこぶる機嫌が悪い。

自らの首に出来た痣、この痣が更に機嫌を最悪にさせた。いっそ皮膚ごと削ぎ落としてやろうか、等と考えるほどに。

だが考えていても仕方ないので、トレバーは重い体を起こすと、頭をガシガシと掻きながら部屋を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー不明ーー

 

 

「起きろ」

 

地鳴りの様に重い声色が、薄暗い室内に響いた。

声の主は、椅子にきつく縛り付けられた男に冷水を浴びせかける。

顔面は既に原型を留めていない程に腫れ上がり、顔面の至る穴からは血を流している男、グレンは激しい暴行を受けている。

 

「……」

 

無言で腫れた瞼を無理矢理こじ開け、目の前の妖怪の男に向けて睨みを利かせる、だが、相手はそれを恐れる様な生き物では無かった。

 

「トレバーの野郎に連絡しろ、お前が探している男を捕まえた。とな、それと褒美はお前にくれてやる」

 

拳を赤く染め、手にしたバケツを投げ捨てた男が呟く、その男の背後からは若い女の嬉々とした返事が聞こえた。

とは言っても、グレンには半分すらも聞き取れては居なかっただろう、鼓膜は激しい暴行の間に破れていたからだ。しかしグレンは相手の口の動きを読み、自らの事を話しているのだと判ると、ある行動を起こす。

 

「…ペッ!!」

 

勢い良く吐き出された血ヘドが、妖怪の男の頬を汚す。

これで五度目となるこの行為、続けてグレンは言った。

 

「……そんなじゃ逝けねぇんだよ……アア!足りねぇ、足りねぇぞ!!もっと悦ばせろよ!?アアン!?まさかドーテーヤロウだとは言わせねえぞクソッタレェ…!」

 

変形した顔面で無理矢理に作る、狂った様な笑み。それは妖怪の男を更に本気にさせてしまった。

 

「上等だ…面白いなお前」

 

男の鋭い前蹴りがグレンの顔面を抉る。折れ曲がった鼻からは血が吹き出し、折れた前歯が宙を舞う。

ワイヤーで縛り付けられた両手足からは血が滲み、眼孔からは無意識に血の涙が流れ落ちた。

 

「…やりゃ…でき…じゃね…か……」

 

途切れ途切れに紡ぐ言葉に、男の血管が千切れんばかりに膨張する。気付けば血塗れの拳を再び振るっていた。

 

「減らず口を…」

 

グレンの頬に重い衝撃が走る。一体何度目であろうか。自分ならば一撃で終わらせてやるのに。と思いながらグレンの意識は再び闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー明朝、白玉楼ーー

 

 

肩で息をする、少女、魂魄妖夢は目の前の男、無名の剣士をゆっくりと見上げる、自分を見詰める妖夢の視線に気が付いた剣士は、右手にした日本刀を妖夢に向け、ニコリと微笑み呟いた。

 

「もう終わりか?」

 

その言葉に、妖夢の眼光が鋭くなると、妖夢は手にした長刀を両手で構え、剣士に向けて言い放った。

 

「まだまだ…ッ」

 

勢い良く大地を蹴り、一気にその距離を詰めれば、一撃必倒の刺突を繰り出す、だがそれを剣士は簡単にいなすと、手にした日本刀の柄で妖夢の腹部を軽く突いた。

 

「ごふッ…!」

 

口から空気が抜け、膝から崩れそうになるのを辛うじて堪えると、そのまま妖夢は長刀を横に向けて薙ぐ。

しかしその一閃もまた、剣士の日本刀により受け止められた。

 

「うむ、良い判断だ。私で無ければ今の一撃で倒れていたかも知れ無いね」 

 

ガツン。凄まじい衝撃が妖夢の脳を揺さぶる。

こめかみに入れられた、喰らい慣れた筈の柄による一撃は、やはり強烈だ。

 

「く…ッ」

 

崩れ落ち、地に膝を着いた妖夢。

この鍛練は妖夢がこうして倒れるまで続くのだ。

 

「止し、今日は此処までだ」

 

日本刀を、腰に下げた鞘へと納めると特徴的な八重歯を覗かせながら、剣士はニコリと微笑む。

そして、妖夢の肩を優しく抱けば、ゆっくりと立ち上がらせてやり、頭を撫でた。

 

「大丈夫か?少し手加減はしたつもりだが…」

 

「…大丈夫です、慣れました」

 

「そうか、やはり君には、君の祖父を越える使い手に成るだけの素質が有るだろう」

 

そう言われ、妖夢は少し考えた後にこう答えた。

 

「…そうでなくては、困ります。でないと、こんな世界で、あの人を守れない」

 

 

 

 

 

 

 

ーー数刻後ーー

 

 

「……其で?」

 

凛とした声色、剣士が思わず煮物を掴んだ箸を止める、決して食事中に手を止めない剣士が。

傍らで暖かい御茶を用意していた妖夢の額に思わず冷や汗が浮かび上がった。

 

「…トレバー、何も言わず行っちゃった…僕もビックリ…」

 

同じく冷や汗を浮かべた静葉が手を慌ただしく動かしながら懸命に説明する。それを冷ややかな眼差しで見ていた剣士は、止めた箸を大きな音を立てて置く。

 

「ふむ…成る程、トレバー君は個人的な部隊を編成して居た様だね。態々、殊勝な事だ」

 

そう言って剣士は僅かに口角を上げ、腰を上げた。

 

「さて、ならば私も参ろうか」

 

その言葉に静葉がゆったりと首を傾げ、問う。

 

「…何処に参るのかな?」

 

その問いに、剣士が今度は満面の笑みを浮かべ、答える。

 

「善は急げ、と、謂うだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー不明ーー

 

 

へし折れた腕を押さえ、不規則な呼吸を繰り返す。

金糸の様に輝く髪は薄汚れ、端正な顔立ちは痣や血痕で汚れてしまっている少女。

霧雨魔理沙は涙を流して目の前の惨状に歯をカチカチと打ち鳴らしていた。

同じ様に連れ去られた人間達は、体をズタズタに切り裂かれ、地面を転がっている。立ち込める死臭、血腥い臭いに嗅覚は既に麻痺していた。

 

「な、何で…」

 

口から出掛けた言葉を飲み込み、目の前の人物を見上げた。

狐の耳が特徴的な、妖怪の男。小綺麗な和服に身を包み、凛とした態度で魔理沙を見下ろす。だがその両手は鮮血により赤く染まっていた。

 

「何で、でしょうね?貴女が口を割らないからでは無いでしょうか?」

 

唇に指を当て、狐耳を動かしながら言葉を選んで話す男、彼は剣士の部下である。

 

「だ、だから、何度も言ってるだろ!?私は本当に霊夢の居場所を知らない!!」

 

魔理沙は涙ながらに訴える、辺りに散乱する、顔見知りの亡骸達に、巻き込んでしまったことを、心の中で謝罪を繰り返しながら。

 

「嘘は自分の為になりませんよ?」

 

そんなことはどうでも良いとばかりに、男は笑いながら再び問いかける。博霊霊夢は何処だ。と。

 

「ほ、本当に私は何も…っ!!」

 

言いかけた所で、魔理沙の頬に平手が飛んだ。

衝撃に床に伏せた魔理沙は、理不尽な暴力に、無事な右手で涙を拭いながら声を殺し泣いた。

 

「…また後で来ます。次はその右腕を折るので、そのつもりで」

 

それだけを告げれば男は部屋を後にする。

冷酷な表情を浮かべ、扉を閉めてから小さく咳払いすれば、小娘が。と吐き捨てて、男は長い廊下を歩いて行った。

 

「う…ぁ…あさぎ…あさぎぃ……」

 

残された魔理沙は自分の体を抱き、何度も名前を呼ぶ。

かつて自分を命懸けで助けてくれた、男の名前を。

だが、彼は此処にはいない。その事実が更に魔理沙の心を重く閉ざしていった。

 

「たすけて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー昼、人里の廃屋ーー

 

倒れた瓦礫を蹴り飛ばし、焼け残ったままの必要になりそうな薬品を、肩から提げた鞄に片っ端から放り込む作業を終えて、比較的綺麗な廃屋に身を寄せてから、一夜が開けた。

なんとか腹部に刺さった木片を取り除き、止血を終えて消毒、縫合を済ませたが、まだとても、セラスの容態は安心できる状況ではなかった。

痛みに呻き声を上げるセラス、浅木は寝ずにセラスの様子を見続けていた。

 

「…頑張れ」

 

何とか目を覚ますように、浅木は何度も綺麗な布でセラスの額を拭いてやり、手を握る。そして居る筈のない神に祈り続けた。

 

胸の中で一人の少女を思い浮かべながら。

 

 






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