漫画の中に入れたら   作:佐藤秋

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11 咲 saki

 

 確率操作者(パーセンター)は読んで文字のごとく、確率を操作できる能力らしかった。

 例えばコインを指で弾いたとき、表が出る確率はだいたい五十パーセント。しかしこの能力を使ったら、九十パーセントほどまでその確率を上げることができる。

 ただし、同時に裏が出る確率を下げることは不可能だった。当然だ、それだと結局表が出る確率を上げていることになるのだから。一度に操れる確率は、一つの事象につき一つまでのようだ。

 

 また、低すぎる確率は一律ゼロとみなされるようで、確率を上げる操作をすることはできなかった。範馬刃牙で愚地独歩が、三十万分の一以下の確率は統計学上ゼロとみなすと語っていたが、そのようなものだろう。数学上ではそのようなことは無いはずなのだが、この能力の中ではその理論が成立するらしい。

 

 さらにこの能力の性質上、俺は頭に考えただけで、その物事が起きる確率というものが直感的に分かる。

 明日雨が降る確率。俺が交通事故に遭う確率。コンビニのくじでA賞が当たる確率。

 それらの確率を知ったうえで、さらに操作が可能となるのだ。もっとも、百パーセントにすることは無理なので、ここぞというときの確実性には欠けるのだが。

 

 便利なのだかそうでないのかよくわからない能力をダーウィンズゲームの世界で手に入れたわけだが、ともあれ俺の予想通り、原作の主人公とは違う能力を得ることができた。ランダムで主人公が能力を手に入れる系の漫画では、俺が手にする能力もまたランダムに決定されるようだ。

 ジョジョのスタンド能力などがまさにそれである。とある矢に刺された人物はそれで死ななければ、スタンド能力に目覚めることができる。

 

 とはいえジョジョの世界に行くつもりは、今のところない。矢に刺されるところに行くまでのプランも無ければ、矢に刺されて生き残れる保証もないのだ。確率操作者(パーセンター)の能力で生き残る確率を九十九パーセントに増やせたところで、それでもなお一パーセントに命を賭けるのは確率が低すぎる。

 パワプロでは、怪我率五パーセントでも怪我をする。その五分の一に、命を張れようはずもない。

 

 それなら次は、どの漫画の中に入るのがいいだろうか。主人公がランダムで能力を得るような漫画。

 その条件で俺の頭に思い浮かんだのは、次の二つ。『出会って5秒でバトル』と『アライブ 最終進化的少年』である。

 ただしこちらも先ほどと同じく、命を張る必要性が見えている。前者は能力を得るために一度死ぬ必要があるし、後者は死の誘惑というのに抗えた者が能力を得るのだ。

 真っ先に思いついたのはいいが、これら二つの漫画に入るのは遠慮したいというのが本音である。

 

 ならば他にどんな漫画があるだろうか。いろいろ考えてはみたのだが、これといっていい案というのは他に思い浮かばなかった。着眼点はいいと思ったのだが、俺の知っている漫画の中で条件に合うものは無かったようだ。

 

 ということで本日は趣向を変えて、現実世界で楽しむことにする。

 一日ごとに漫画の世界に入っているため曜日感覚が曖昧になっていたのだが、今日は現実では土曜日だった。タケマサくんを誘って雀荘に繰り出すには都合のいい曜日。世界が俺に麻雀を打てと言っている。

 

 ということで雀荘に来た。タケマサくんと二人で乗り込んで、それぞれフリーで打つのが俺たちの楽しみ方だ。友達同士で金の奪い合いをして何が楽しい。別々で打って適当なところで切り上げて、飯を食いながら勝ち負けを報告するのが楽しいのである。

 

 さすがに週末ということで、雀荘に客は多かった。それぞれ別の卓に案内してもらうのはそう難しくなさそうで安心する。

 なまじ平日なんかに行ってしまうと、人が少なくて同じ卓で打つことになってしまう。それ以外にも、平日から麻雀なんてしている輩なんてそれだけ麻雀が好きということ、つまり強いということなので、ただ麻雀が好きなだけの俺たちは、相当運が良くないと勝てないのである。

 

 まずタケマサくんが卓に案内されて、次いで俺が別の卓に案内される。

 確率操作者(パーセンター)で俺とタケマサくんが勝つ確率を見てみると、それぞれ十三パーセントと十一パーセントだった。まあ、こんなものだろう。

 俺とタケマサくんの勝率はそれぞれ独立したものらしく、俺は能力を使ってそれぞれの勝率を上げておく。

 

 以前、黄葉くんの変える能力を使って麻雀をしたときは罪悪感がひどくて二度としないと誓ったが、この能力は別だと思った。俺の中では、運の良さを上げることはイカサマではない。確実に勝つわけでもないのだから構わないだろうというのが俺の考えだ。

 

 人間というのは、様々な価値観のもとに生きている。恋人が、異性と二人で遊んでいてもセーフだと思う者もいれば、異性と話すだけでアウトと思う者もいる。そして誰しもがその中に、アウトとセーフの境界線を持っている。

 

 だから今回俺が能力を使うのも、俺の中でセーフの境界線の内側だっただけに過ぎない。己の中でセーフなのだから、罪悪感を抱くこともない。

 

 こうして雀荘で楽しんだ結果、俺とタケマサくんは二人で一万円超えの勝ちを得た。うきうきとした気分で二人、夜もやっている居酒屋に入る。

 

「勝ったなー。なんか今日は俺、やたらと運が良かった気がする」

「俺も、同卓者に恵まれてたわ。なんか素人みたいな学生がおってな。俺がリーチしてんのにカンをするとか咲厨かな?」

 

 咲とはガンガンでやっている、かわいい女の子たちがたくさん出てくる麻雀漫画である。この漫画があるためにニワカ麻雀打ちがそれなりに増えた気がするのはおそらく気のせいではない。

 なお、能力麻雀ではあるのだが闘牌描写はかなり考えられているようで、麻雀好きな自分たちにも楽しめるような漫画になっている。

 

「咲と言えば、最近になって単行本読み返したんだけどさ。十二巻くらいから読んでなくて」

「お前は俺か」

「タケマサくんも? なんかあのころから、作者が怪我したのか知らんけど新刊なかなか出なくてな」

「気が付いたら結構出てたっていう。どうやった? 久しぶりに読んで」

「読み始めて早々、はじめちゃんがすげえ格好しててくそビビった」

「それな! 俺も全く同じこと思ってた!」

 

 意外に咲の話で盛り上がる。タケマサくんは社交性が高いうえにこういう漫画の話にもついてこれるので、ほとほとすごい奴だなと考えた。

 

「俺も一巡先見る能力欲しいわ。正直あれが一番ええやろ」

「確かに」

 

 タケマサくんの言葉に、咲の世界に入るのもありかなと少し考える。時間を気にせず麻雀が打てるし、かわいい女の子キャラもたくさんいる。なにより、確率は低いだろうが、あの世界観なら麻雀に関する能力が手に入るかもしれない。

 

 けれどやっぱり。麻雀とは勝つか負けるか分からないから楽しいのだ。なまじ強すぎる能力を得て、常勝してしまうのは面白くないと俺は思う。

 それに咲の世界ではお金は賭けていない。そういったギャンブル要素もあるから楽しいのだと思い直し、咲の世界に入るのは先送りにすることにした。咲だけに。うまい。

 

 

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