二次元に入れる能力を検証してみて、とりあえず分かったことをまとめておく。漫画の中に何度も出入りしてみて、今のところこちらに都合のいいと思える面はあまりない。が、一般人は持ってないであろう特殊な力が自分にあるというのは気分がいいので気にしない。
まず入れる対象に関してだが、これが案外融通が利かない。知っていたらなんでもかんでも入れるというわけではなく、対象を持っていないと入れないようだ。ガッシュはちょうど単行本を手にしていたからその中に入れたというわけらしい。
また、ラノベやゲーム、アニメの中には入れない。本やカセット、DVDを持っていても関係なく、入れるのは漫画の中のみとなる。
さらに漫画の中でもなんでも入れるわけではなく、五大誌関連のものしか入れなかった。つまり、ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、ガンガンが出している単行本には入ることができる。月刊や別冊なんかでも構わない。そのかわり、エースだとかモーニングだとかは対象外というわけだ。
もっとも、今自宅にある漫画の種類には限りがあるため、試せていないものもあるわけだが。コロコロコミックなどはさすがに卒業していて持っていなかった。
入った時の自分の扱いだが、一巻の時点での主人公になるようだった。何巻からでも入ることができるが、扱いは一律して最初から。ガッシュの場合主人公は二人いるようなものだが、どちらかというと清麿が主人公だと自分は思っているので違和感は無い。
同じ作品に再び入った場合は、出たときの場面から再開する。つまりその場面を楽しめるのは一度だけで、やり直しはできないと思っていいだろう。何度も試せていないので絶対とは言い切れないが、今のところはできなかった。
主人公になるとは言ったものの、身体能力などは今の俺と同じになるようだ。
ガッシュの世界では清麿になったが、天才的な頭脳にはなっていないし、体力なども若返った気はしなかった。
別の、主人公が最初から強い漫画にも入ってみたが、異能もなければ突出した肉体でもない。闘うことが多く、死の危険だけを多く孕んだこの漫画に、入るメリットはほぼないだろう。
分かったことの最後として……まあ細かいことはまだまだ説明できていないのだけど今は俺が重要だと思うことを言うとして……俺がその物語に入った時点で、その漫画の展開は本来のものとは着実に変わったものへとなっていく。
バトル漫画で言うと、主人公が勝てた相手だからと言って俺が勝てるとは限らない。
恋愛漫画で言うと、主人公にずっと惚れている女の子も、俺に変わった時点では惚れていようが気持ちが冷める可能性も十分ある。
漫画の中の登場人物も、その世界の
そうそう、道具の持ち込みはお互いに不可能だった。
着ている服も含め、時計や財布、スマホなどは漫画の中に持って行けず、向こうに行った時点で俺は無理のない範囲で主人公のような服装になる。
反対に向こうの道具も現実世界には持ってこれず、お金を漫画世界から持って来たり、便利アイテムを調達するのは無理らしい。
さて、最低限の検証はできたかな。
まったく、漫画の中に入れることは喜ばしいが、縛りがこうも多くちゃ嫌になる。主人公になっても、俺のままだと成せないばかりだから意味が無いし、向こうの道具が得られないのは残念と言わざるを得ないだろう。
ただ一つ、もしかしたら二つ、俺の中で利点と呼べるものがあるのである。
それは、漫画の中に入っている間は、現実の時間がほとんど過ぎていないこと。リアルに支障をきたさないのは好都合だし、うまくやれば現実の時間も有効に使えることだろう。
そしてもう一つの利点になりうる可能性。
向こうの世界からは、道具は何も持ち帰れなかった。しかし漫画内で得た知識であれば、こちらに来ても忘れなかったのだ。
そのことから察するに……もしかしたら向こうの世界で特殊な能力を手に入れたら、こちらでもその力を使うことができるかもしれない。
ワンピースの世界で例えると、もし俺が向こうでゴムゴムの実を食べて戻ってきたなら、こちらでもゴム人間になれるかもしれない。いやまあゴム人間になっても利点が無いし、今のところ食べる予定はないけれど。
漫画の中に登場する特殊能力。正直な話めちゃくちゃ欲しい。
ガッシュに出てくるアンサートーカー。ジョジョ4部に出てくるクレイジーダイヤモンド。めだかボックスに出てくる
まあとりあえず、異能を漫画内から持ち帰れるかという予想が正しいのかを証明するために、俺は一つの漫画の中に入ることにした。
その漫画のタイトルとは、『アホリズム』。ガンガンオンラインで連載していたコミックスである。
間抜けそうなタイトルと思うことなかれ、アホリズムは日本語で『名言・格言』という意味だ。とある有名な芸人さんの名前の由来もこれだろうと、俺はひそかに考えている。
この漫画はタイトル通り、言葉を武器に闘うのである。具体的には登場キャラが『漢字』を一文字選び、その文字でできることを武器に闘うのだ。
例えばヒロインのアイラちゃんの漢字は『刀』で、自分に合う刀を作り出して闘う。『盗』が漢字のキャラもいて、相手の心臓を盗んで殺したりできる。なにそれ超怖い。
なによりこの漫画のいいところは、第一話で主人公が漢字を選ぶのだ。つまりそれは、俺が入ってすぐに能力を得られるということ。
さっそくアホリズムの一巻を取り出して、能力を得るまでに何か落とし穴などが無いか確認したのち中に入る。
舞台は主人公の
漫画では黄葉くんが車に轢かれそうになるところでヒロインのアイラちゃんと出会うのだが、わざわざ危ないこともするのも嫌なので気を付けて行くとする。死んだらどうなるかの検証なんて怖くてしてないし、万が一のことを考えて危険なことは避けるべきだと考える。
結果、アイラちゃんと出会うことなく学校についた。残念だが、これも俺の安全のため。なによりアイラちゃんは、背の低い黄葉くんに弟のような親近感を覚えて仲良くなるのだから、俺の姿だときっかけが存在していない。
入学式を終え、いよいよ漢字を手に入れる場面にやってきた。眉毛がサンジみたいに渦巻いている女の先生の指示に従い、目の前の紙に手に入れたい漢字を書きいれることにする。
何の漢字にしようか悩んだが、ここは黄葉くんと同じく『変』の漢字を俺は選んだ。いろいろ候補はあったのだけれど、原作にない漢字を選んだら不具合が起こりそうで、それだとなんだかんだでこの漢字が一番使い勝手がよさそうに思えたのだった。自分の姿を変えることや、周りの物体も変えて武器にすることができる力だ。
「……できたようだな。それではその言葉を口頭せよ」
「へん」
声に出せ、という先生の指示に従い俺は言う。漢字を書いた紙がはじけて消えて、変の字が俺の左手甲に刻まれた。
本来ならここから『触』という、まあ化け物と闘う試練みたいなのが始まるのだが、そんな危険を冒すつもりは毛頭ない。
そういうわけで俺は戻れと口にして、この世界からオサラバだ。こうすることで出ていけることは実験済みである。
次にアホリズムの世界に入るときは、化け物と闘う試練から再開になる。まあ、二度と入るつもりはない。アイラちゃんと仲良くなってるわけでもないし。
現実に戻ってきた俺は、真っ先に自分の左手を確認する。その甲にはまぎれもなく、先ほど手に入れた変の文字が刻まれていた。