漫画の中に入れたら   作:佐藤秋

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4 賭博黙示録カイジ

 

 俺の左手甲に存在する、アホリズム内での『変』の文字。これがここでも存在しているということは、現実でも変の能力が使える可能性が高い。

 

 俺はアホリズムの一巻の中で黄葉くんが能力を使っているシーンを参考にしながら、自分を別の人に変える能力を使ってみる。

 想像する人物は、大学で麻雀友達のタケマサくん。他学部だが、同学部でテストの過去問をコピーさせてもらうだけの関係の奴よりは仲がいい。俺に同学部の友達は少ないんだよなあ。

 タケマサくんのコミュ力が高い一面は俺も認めていて、その点では憧れていると言っていい。そんなタケマサくんの姿に変わるように想像しつつ鏡を見てみると。

 

「……すげえ、本当に変わってる」

 

 想像していたタケマサくんの姿に俺はなっていた。

 実物とはもしかしたら細かいところで差異があるのかもしれないが、俺にとっては違和感は無い。ただ、声は自分の声のようだった。

 また、自分の部屋で目に付いた洗濯ばさみを別のものに変えられないか試したところ、見事普通の鋏に変えることができたことも言っておく。

 

 とにもかくにも。

 これで、漫画内で俺が手に入れた能力は、現実に持ち帰れることが証明できた。

 となると次に試すのは当然、この変える能力を別の漫画に持ち込むことができるのかということ。それが可能だとしたら、時間の進まない漫画の世界で、俺はこの能力を使いこなす練習が可能になるわけだ。

 

 さて、どの漫画内で練習をしようかなと俺は考える。

 主人公が敵と闘ったりするような漫画は論外。まあ普通に考えて、ほのぼの日常系の漫画かな。

 理想は、一巻の時点で主人公にたくさん自由がある漫画だろう。学校に行ったり、仕事に行っている主人公は、意外と自由が少なそうだ。

 

 そうしていろいろ考えてみたのだが、どうにもいい漫画が思いつかなかった。現在俺の持っている漫画に限られているため、そもそも選択肢が少ないというのもある。

 

 結局自分の中で出した結論は、『カイジ』の世界に行くことだった。第一巻の時点で主人公に家族や友人の描写が無く、自由に動けそうな点で言えばこれが一番都合がよかったのだ。

 

 なお、もう一つの候補として『ゆらぎ荘の幽奈さん』のコガラシくんになることも考えたのだが、かわいい女の子がたくさん出るのに、それを全部()って自分の能力の練習に使うのはもったいないと思ったのだった。

 

 その点カイジには、男しか出ないのでオールオッケーだろう。最初に数巻分ギャンブルをしなければならないが、時間で言うと短いし、内容を知っている以上負けは無い。勝てばその世界で生きていくお金も手に入るし、負けたら逃げ出せばいいだけの話だ。

 

 と、いうことで、さっそくカイジの世界に入ることにする。初めに変える能力が使えるか試したところ、問題なく変わることができた。それが分かったので、本格的にカイジの世界でストーリーを進めていくことにする。

 

 主人公の伊藤開司は、友人の借金の保証人になった結果、その借金をチャラにするために、希望の船エスポワールに乗せられるのだ。

 俺もそのカイジよろしく、希望の船までたどり着く。そこまでの道筋は、遠藤さんという借金取りが用意してくれるから、主人公がカイジから俺になっても関係なかった。

 

 船に入り、中で金を百万円から一千万まで借りさせられる。後々のゲームで使われる、まあ軍資金みたいなものだ。

 

「船井や。限度額まで……」

 

 この後始まるゲームでカイジをいの一番に嵌める、船井という男が一千万を借りている。

 この船井は、次のカイジが一千万円借りるのを見て、それでアンタはほかのボンクラと違うだのとのたまって、協力しようなどとほざく、悪役だ。

 つまり今俺が一千万円借りることで、船井に騙されるルートに入ることができる……はずである。

 

「伊藤カイジ。一千万……!」

 

 なるべく神妙な顔つきを装って、俺は黒服の男にそう告げる。

 手渡された一千万はズシリと重くて、ここでしか使えない金とはいえこんな大金を手にすることなんて初めてで、少々であるが手が震えた。玩具みたいな金ならまだしも、現実の金となんら変わりないのだから仕方ないだろう。

 

 利根川先生の、勝たなきゃゴミ演説が終わって、今回のゲーム……『限定ジャンケン』が始まりとなる。

 胸元にはスターチップと俺が勝手に呼んでいる星が三つ。それに手元にはグーチョキパーのカードがそれぞれ四枚ずつ。これらでジャンケンの勝負をしつつ、スターチップを取り合うのだ。まあ、遊戯王のペガサス編と同じである。

 

 この限定ジャンケンの勝利条件は、カードを使い切った時点で、スターチップを三つ以上所持しているということ。つまり現状維持でいいわけだ。もっとも余ったスターチップは高額で売れるから、たくさん手に入るに越したことは無いのだけれど。

 

 ゲームが始まって十分も経たず、脱落者が現れる。

 それを唖然とした表情で見ていると、船井が話しかけてきた。完全に予定通りである。

 

「拍子抜けするやろ……あんさんの考えてること分かるで」

 

 船井が一方的に、あいつらは甘ったれだの、今回のゲームのことを何もわかっちゃいないだのと講釈を始める。うっとうしいが、一方的というのは俺の反応があまり関係ないということなので、そういう意味ではありがたい。これからルートを外れなくてすむ。

 

「カイジさん。組もうやんか。オレとあんた」

 

 こうして船井はまんまと、コンビを組もうと提案してきた。

 提案内容は原作と全く同じ。あいこでカードを消費して、さっさと勝ち抜けを決めてしまうこと。途中で裏切ってスターチップをカイジは奪われてしまうわけだが、それを知っている俺は逆にそれを利用してやろうと、船井の提案に即座に乗る。

 

「ええか。出す順番はグーチョキパーやで」

 

 黒服立会いのもと、俺と船井はあいこでカードの消費にかかる。

 一回戦、あいこ。二回戦もあいこ。

 こうして九連続のあいこを終えた後、勝負は問題の十回戦へと移る。

 

「……え」

 

 十回戦の勝負の後、船井が間抜けな声を上げた。なぜならあいこを続けるはずのジャンケンで、俺が勝利をしたのだから。

 

「……カイジはん。これはどういうことや……?」

「船井さん、それはこっちのセリフですよ。なんでグーを出す約束なのに、船井さんはパーを出しているんです?」

 

 原作では、ここで船井がパーで勝利して、カイジのスターチップを奪っていく。そのことを知っていた俺は、チョキで逆に勝ちまんまと船井の星を奪ってやったのだ。

 

 動揺している船井に俺は、前もって考えておいた提案をする。こうなってしまったら仕方がない。今度は俺がパーを出すから、そちらはチョキを出してチャラにしよう、と。

 最初は訝しんでいた船井だったが、俺がパーのカードを見せながら伏せ、手元に残った最後の一枚がグーであることを表にして証明すると、イカサマは無いと判断したのか乗ってきた。

 

 まあ、確かに普通なら、この状態でイカサマするのは不可能だろう。すり替えるカードなんて存在しないし、残りのカードも見せている。伏せているカードは間違いなくパーだ。

 

 そう、あくまで俺が普通なら。

 

「オープン」

「……はあ!? な、なんやて!? なんでグーがそこにあるんや!?」

 

 船井、チョキ。俺、グー。

 十一回戦も俺の勝利で終わった。

 なんてことない、黄葉くんの変える能力で、グーをパーに、パーをグーに、それぞれ見せかけていただけである。

 あらかじめこの展開まで見通して、カードを変化させる練習は事前に積んでおいたのだった。

 

 船井は一通りの罵詈雑言を俺に浴びせた後、最後の勝負はせずに去ってしまった。グーに変化させたままの、実質パーのカード一枚だけが手元に残る。さてラスト一枚、どう消費したものか。

 

 実のところ、この展開までは予想していた。残ったパーをどう消費するかも決めてあるのだ。

 確かこの後、パーの買い占めを始める男が出てくるはず。そいつに売りつけてしまえば、晴れてスターチップ五個で俺は勝ち抜けとなる。

 

 しかし買い占め男を待っているうちに別の男から勝負を挑まれ、最後の一枚で勝負することになった。

 結果はパーであいこ。この時点で俺の限定ジャンケンは終了となる。

 

 残った時間は三時間と三十分。ゲームが終わるまで俺はエスポワールの二階へ上り、豪華な食事を堪能した。

 ワインなどもあったが、俺にはおいしいと思えなくて、一杯も飲めずに半分以上残した。

 

 

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