漫画の中に入れたら   作:佐藤秋

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6 ワンピース

 

 変える能力をこちらでも何かうまく使えないものかと考えた結果、俺は雀荘に行ってみた。犯罪行為以外で手っ取り早くお金を稼ごうと考えたらやはりギャンブルだろうと思い至ったからだ。

 ギャンブルと言って自分が思いついたのが、パチンコ、競馬、麻雀である。前者二つは能力を有効利用できる未来が見えなかったので麻雀を選んだ。もともと、やったことがあるのが麻雀だけというのもあるけれど。

 絵合わせに必要のない牌の一つや二つを必要な牌に変えるだけで、勝率はかなり上がると考えた。

 

 結果として、三千円ほど儲かった。額としては少ないのだけれど、それはそれとして罪悪感がヤバい。人を騙して手に入れた感が強くて、というか実際その通りなのだけど、胸がズキズキと痛みを発する。

 また、緊張感もヤバかった。

 

 カイジの世界で船井から星を巻き上げたときはそうでもなかったはずなのだが。現実世界は虚構の世界と違うということなのだろうか。

 しかしカイジの世界でも、俺は借金がある連中たち相手に最後には、少々同情の気持ちも抱いていた。だからきっとこれは、現実かそうでないかの違いではない。俺が好きか嫌いかの違いなのである。

 船井は嫌いだから、罪悪感が湧かなかった。知らない人たちは好きとか嫌いなどが無いので、同情もするし騙すのは気が引ける、というわけ。

 

 こんな感情を抱くくらいなら、二度と雀荘でズルはしない。そう心に誓いつつ、とりあえずは儲かった三千円で、近くの古本屋で何かしら買っていくとする。自分の持っている漫画だけでは、入れる世界が限られるのだ。

 

 漫画が置かれている棚は、一通りすべてに目を通す。マイナーなもので案外都合のいい世界観の漫画があるかもしれないし、うっかり忘れている漫画作品があるかもしれない。最初は少年漫画のゾーンを見る。

 

 最初に俺の目に止まったのは、『バードメン』というサンデーの漫画。結界師の作者の作品である。

 この漫画は、主人公が事故にあった後、鳥男から血を分けてもらうことで主人公も鳥男になるというストーリー。俺が求める、新たな力が得られるかもしれない漫画だった。

 

 しかしこの漫画にも欠点があり、おそらく自分は鳥男にはなれないだろうと考えた。鳥男の血が馴染むのは若い体だけという設定があるためだ。

 主人公は、中学生。対する俺は大学生。

 もしかするとギリギリ可能かもしれないが、血を分けてもらうシチュエーションである以上、失敗したら俺は死ぬ。命を賭けるには低すぎる確率である。それにリターンもさして魅力的ではない。

 

 次に目に止まったのは、『僕のヒーローアカデミア』。だがこちらも、能力があまり魅力的ではないので却下する。自分の肉体が傷つく身体強化はさすがにピーキーすぎると思う。それに、俺の体が耐えられそうにない。

 

 その次は『ジョジョの奇妙な冒険第四部』。主人公が康一くんならスタンド能力が得られたかもだが、おそらく仗助が主人公だろうから無理だろう。これも却下。

 

 『ダーウィンズゲーム』。すぐに能力は得られそうだが、武器生成能力は今のところいらないな。これは保留にしておこう。

 

 都合のいい漫画なんてそうそう無いものだと思いつつ、別の本棚に移動する。能力を得る漫画というのは少ないし、ある程度の強さが無いと能力が得られる場面まで行けないものもある。

 

 闘いか。平和な国に生まれた以上、争い事には慣れていないからなあ。それに何より痛いのは嫌だ。

 

 と、ここまで考えて、唐突にいいアイディアが思い浮かんだ。痛みを避ける、とっておきの漫画があるじゃないか。

 

 ということで、俺はその一冊の漫画の他、読みたかったものなどを数点だけ買って、帰宅することにした。この主人公の能力を得れば、殴られたりしても大丈夫なことに気づいてしまった。

 

 自分の家に帰り着き、俺はさっそくその漫画の世界の中に入り込む。いやまあ、さっそくはさすがに怖いので、何度か読んで序盤の流れの確認くらいはしたのだけれど。

 また入る前に、自分の姿はその主人公のものに変えておく。

 

「おいおいルフィ、何をする気だあ? そんなとこにのぼって、ガキのくせにナイフなんて持ちやがって」

 

 漫画に入って開口一番、船の上で男が俺に話しかけた。 

 もう分かっただろう、俺が入った漫画のタイトルは『ワンピース』。殴られても大丈夫な能力というのは、ゴムゴムの能力のことである。

 

 ゴムゴムの能力。ルフィのように強くないなら全身ゴム人間になってもしょうがないと考えていたが、ゴムの体は打撃や銃弾が利かないという利点がある。

 この能力を得るのは簡単で、ゴムゴムの実を食べればいい。そこに至る過程も実に簡単で、最初のここを突破すれば、あとは流れに身を任せるだけで大丈夫なのだ。

 

「ふんっ!」

「!? おいルフィお前ェ! なにしてやがる!」

 

 俺は手に持っていたナイフを使い、自分の左頬に傷をつけるフリをする。実際に刺すのはさすがに痛いから嫌だった。

 だが、フリと侮ることなかれ、変わる能力をうまく使ったので、周囲からは刺したように見えるはずだ。

 

「野郎ども乾杯だァ! ルフィの根性と、俺たちの大いなる旅に!」

 

 場面が過ぎて、海賊たちの酒盛りのところまでやってくる。周りに強がった様子を見せていたら連れてこられて、自然に俺も飯を食う流れへとなった。

 

 酒場にいる若いお姉さん、マキノさんが出してくれたのは、分厚いベーコンみたいな肉とパンだった。少年漫画に出てくるような特別な肉という感じで、食べたら期待通りの味がする。これは一種の感動だ。マンガ肉や、ハイジのチーズには食べてみたくなる魅力がある。

 

 飯を食うどさくさに紛れて、俺は近くの宝箱に入っていた悪魔の実、ゴムゴムの実を口にした。

 確か設定では、最初の一口で悪魔の能力を得るはずだ。先ほどの肉とは違いひどい味の果物をなんとか飲み込む。

 近くにあるジュースで口直し。

 

「邪魔するぜェ」

 

 酒場のドアが蹴破られ、山賊の登場。確か名前はヒグマだったかな。

 まあ俺には関係ないなと、現実世界に帰還する。ゴム人間になれたのだったらこんな危険な世界に残る理由などもう無いのだから。

 

 自分の部屋で頬を強く引っ張ると、面白いくらいビヨンと伸びた。無事にゴムゴムの体になれたようだ。

 このゴムの体を使いこなせるよう、修行などするつもりは特にない。ルフィだって最初はうまくパンチなどを打てていなかっただろう。

 しかしこのゴムの体はどういうことができるのか。そういうことに関しては、一応検証はしておくことにした。

 

 

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