六道の悪女たちの世界から悪い女に無条件に好かれる能力を手に入れたので、能力を実感するためにもかわいいヤンキー女が出てくる漫画に次は行きたい。
まあこの世界にとどまっていてもいいのだが、能力が効く対象が多すぎた。こっちは女性に対する経験値はゼロだ、まずは一人に好かれるくらいから始めないと死んでしまう。
ということで別の漫画で序盤にそういう女の子が出る作品を考えているわけだが、どうにも心当たりが出てこない。かわいいヤンキー女と言えば容易に想像できるというのに、キャラクターと言えばとなったらほとんど思いつかないのだ。これはどうしたことだろう。
唯一思い当った作品が、『ヤンデレ彼女』。タイトルのヤンデレとは病んでるデレではなくヤンキーデレのことで、条件にはバッチリ当てはまる。
これは四コマ漫画に該当する漫画であるのだが、入れる漫画にいろいろ縛りはあるくせに、四コマ漫画には普通に入れる。
まあ、入れるなら入ってしまおうと考え、一巻を手にした。波打つページに手を伸ばす。
中に入ると、登下校中の道へと出た。桜が舞い、春の陽気を感じさせる空気の中、すれ違った金髪のヤンキー少女と視線がぶつかる。
「な……何ガンくれてんだ死にてーのかてめえ!」
ヤンキー少女はバットを片手に、顔を真っ赤にしながらそう叫んできた。
彼女がこの漫画のヒロイン、竜崎レイナさん。設定的には俺より年下の高校生なのだが、さん付けで呼んでしまうのは、主人公の田中
レイナさんに限らず俺が漫画のキャラを呼ぶときは、他の登場人物の呼び方に影響されていることが多い。まあ、たいていの人がそうであろうと思う。
レイナさんの顔が赤く染まっているということは、悪い女に好かれる力の効果はあったらしい。もともと原作でもこの場面では顔は赤いのだけど。
お互いこの時点で一目ぼれするという、恋愛漫画真っ青のストーリーなのがこの漫画。元からそうなのか、好かれる力の影響かは分からないが、原作通りのストーリーはなぞれているようだ。
現在は下校時刻らしく、レイナさんとはこれ以上話すことなく帰宅することになった。これも原作と同じである。
そして翌日。カイジ以外の漫画内で初めて夜を越えられないえ、学校にて。俺はレイナさんと再会した。
「お、お前ら何してんだあ!!」
休み時間。レイナさんの舎弟に取り囲まれているところで、レイナさんが現れまた叫び声をあげている。
レイナさんの舎弟も当然悪い女に分類されるようで、好かれる力の影響があったらしく言い寄られていた。そこにレイナさんが登場したというわけ。
なお、舎弟たちと言ってもたったの二人である。
「まったくあいつら……アタシを差し置いてこいつに言い寄るとは、油断も隙も……隙も……す、好きとかんなわけねえだろがあああー!!」
舎弟たちを追い払い、なにやら一人で楽しそうなレイナさんだが、俺は別のことを考えていた。
というのも、こんな展開は原作にはなくて、少々戸惑ってしまっていた。
本来ならこのような絡みなどなくて、主人公の田中が屋上にレイナさんを呼び出して告白するのが、二人の最初の会話なのである。
どうやら悪女に好かれたせいでストーリーが変わってしまったようだ。まあ、屋上に呼び出すのも告白するのもこっぱずかしいと思っていたため、絡みが増える改変ならばむしろ歓迎するところ。
「くそお……コイツ見てると調子が狂う……。何だコイツ、伝説のジゴロかなんかか……?」
「……あの、レイナさん。助かりました、ありがとうございます」
「はっ? あ、ああ……アタシは、アタシのダチが迷惑かけてたみてーだから、ただそれを注意しただけだ」
話しかけると、以外にも結構しっかり対応してくるレイナさん。もっと暴走している人かと思っていたが。
「つーか、なんでアタシの名前を知ってんだよ」
「有名なので知ってました。それに、昨日の帰り道、目が合いましたよね」
「う、わーーーーー!」
ああ、やっぱり暴走する人だった。顔を赤くして口を開けているその姿がやたらかわいらしい。年齢的にも年下なので、なにやらほっこりしてしまう。
そのくせ俺は敬語で話しかけているわけだけど。主人公たる田中がレイナさんには敬語だったので、俺もそっちのほうが喋りやすい。
「会っていきなり言うのもなんですけど、惚れました」
「ほっ!? 惚れ……って、はあ!!? しょ、正気か!?」
「一応、はい」
レイナさんの反応がいいものだから、流れで結構簡単に告白ができた。意外と言えるものである。
しかしながら原作のように、屋上に呼び出しての告白はできなかっただろう。なんというか、覚悟を決めてからの待ち時間が俺には無理だと思う。そう考えると田中は男らしい。
「つ、つーことはなんだ!? お前はアタシの……か、彼氏に……なりてえってのか!?」
「そうですけど、いきなり結果を求めるのもなんなので、まずはお友達からとか舎弟扱いでも」
「バカヤロウ! 男なら妥協してんじゃねえ! それにアタシはまだ何も言ってねえだろうが!」
なんだろう、怒鳴られているというのに悪い気が全くしない。テンパっている様子が普通にかわいいからだろうか。
レイナさんがそんな様子だから、逆に俺も冷静になれてしまう。冷静だから、じゃあ俺と付き合ってくださいとも簡単に言える。言った。
「う、嬉しいけど、なんでアタシなんだよお……アタシ不良だしすぐ怒鳴るしガサツだし……」
「俺はかわいいと思います。それにさっき助けてくれたみたいに、優しいところもありますし」
「んなっ……か、かわいいとか適当ぶっこいてんじゃねえぞ!」
「本当です。正直さっきからずっとかわいいですし、頭を撫でてみたいとも思ってます」
かわいいものを愛でたいときは、抱きしめるか頭を撫でるかの二択だろう。抱きしめるのはいきなりだと思って後者を口にした。
それでも現実ではなかなか言えない言葉のはずであるが。現実世界にいるときよりも欲望に忠実になっている気がする。
「撫で……って、何ふざけたことぬかしてんだ!」
「やっぱり駄目ですか」
「だ、誰も駄目とか言ってねえだろ! 早とちりしてんじゃねえ! やれるもんならやってみやがれ!」
「じゃあ遠慮なく」
「うあ……」
許可が出たのでレイナさんの頭を撫でる。うつむいたレイナさんは顔が赤くて、恥ずかしがっているように見える反面、どことなく嬉しそうにもしている気がする。それがまたかわいくてほっこりする。
「ズルいっすよレイナさん、やっぱりあたしらも……」
「わあああああうらああああそんな攻撃が効くと思ったかこらあ!」
夢中で撫でているとレイナさんの舎弟二人が戻ってきて、叫ぶレイナさんに殴られる。これで誤魔化しているらしい。
暴力系ヒロインはあまり好きではないと考えている俺なのだが、こうして殴られてなおレイナさんの評価が変わらないのは、反応がギャグっぽいからだろうか。今の俺はゴムの体なので、殴られてもダメージが無いことなのもあるかもしれない。
「か、考えてみたらアタシ、お前の名前知らねえぞ! 名前なんだ!」
「田中です」
「田中! アタシにあんなことをしたんだ、責任とってもらうからな!」
「はい、もちろん」
「うぐ……で、でも周りには、アタシたちの関係は秘密だぞ!」
そう言って、顔を真っ赤にしながら立ち去るレイナさん。同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
漫画内での一日が終わり、今日はずいぶんこの漫画を満喫できた気がする。性欲は満たせなかったけど、かわいいものを愛でたい欲は満たされた。
俺もまだまだ若い男なので性欲は人並み以上にあるとは思うが、レイナさんにはさすがにそういう真似はできそうにない。
とりあえず、漫画内の女の子といろいろするという当初の目的は達したため、次回からまた新たな能力を得られる漫画に入るとする。
最初は漫画に入れるなんてと喜んで、能力を検証して縛りの多さにがっかりしていたが、最近はまた楽しくなってきた。レイナさんに感謝だなと、そんなことを考えながら元の世界へと俺は帰った。
また来よう。