かわいい女の子キャラに会いたいという欲のために少々脱線をしてしまったが、ゴムゴムの能力を得て打撃も大丈夫な体になったので、次はもう少し危険な漫画の中に入って新しい能力を手に入れに行くとする。
できれば攻撃に使える能力がいい。そうすれば敵を倒して話を進め、また別の能力が手に入るかもしれないからだ。もっともゴムの体の打撃耐性だけでは心もとないので、別の防御能力もとれるものなら欲しいけれど。
漫画ごとにストーリーはそれぞれ異なるため、危険な漫画であればあるほど良い能力を得られるわけでは当然ない。リスクとリターンは漫画によってまちまちだ。なので入って得られる能力が、負うリスクに釣り合っているのかは真剣に考えておく必要がある。
次に俺が入るつもりなのは、ジャンプでやっていた『
そう、俺が次に得ようとしているのは、この超能力の力である。
主人公がどのようにして超能力を得るかというのは以下の通り。
主人公の夜科アゲハは、深夜無人の公衆電話でテレホンカードを手に入れる。そのテレホンカードこそが、いわゆるサイレンという世界へ渡るのに必要な道具だ。
サイレン世界は、荒廃した町と砂漠のような風景が広がっている。そこでの空気感染により脳のリミッターだかが解除されて超能力が使えるようになるわけだ。
サイレン世界から戻ってきても超能力は使えるので、俺が現実世界に戻っても超能力は使えることだろう。
ということで目標は、テレホンカードを入手してサイレン世界に訪れるところまで。アゲハがサイレン世界から戻るためにはやらなければいけないことがあるわけだが、俺は漫画の中から出ていくだけなので何の苦労もすることは無い。念のため可能な時間は深呼吸をして、危険だと思ったら帰ればいい。
いつものようにあらかじめ漫画を読んで内容を復習した後、漫画の中に入り込む。
場面は、アゲハが大勢の不良に取り囲まれてケンカするところから。正直足が震えるような場面であるが、ここは勇気を振り絞り、先ほど覚えてきた台詞を口にする。
「えーと、
ということでポルナレフみたいな髪型をしたガタイのいいお兄さんと、拳での会話が始まった。ケンカなんていうのは初めてなのだが、こちらはゴムの体なので打撃は効かない。結果防御をせずに攻撃だけすれば、いつかは勝てるというわけである。
ノーダメージで辛くも勝利し、待たせていたらしい友達とファミレスまで飯を食いに行く。いきなりできた友達と何を話せばいいのかは分からなかったが、一緒にいるだけで満足というようなレベルの友達のようで、特に会話が無くてもおのおの好き勝手に振舞った。
まあ、友達とはこんなものなのかもしれない。家に遊びに行って、漫画ばかり読んでいる奴なんてたくさんいる。例えば俺とか。
その帰り道、通った公園の公衆電話で、予定通りサイレン行きのテレホンカードを手に入れた。時間帯がズレていたらこのテレホンカードは手に入らなかっただろうが、漫画を読んでその時間を考察していたから問題ない。あと三分で門限などと言っていたからアタリをつけるのは容易かった。
家に戻り、門限を破った説教を家族に受けたのち、翌日となる。また漫画の中で一日を越した。いくら今はこの世界の主人公になっているとはいえ、他人の家で寝ている気がしてなかなか慣れない。
昨日手に入れたテレホンカードを使って、公衆電話で電話をかける。漫画だと電話をかけたら後に正体がバレてある人物に追いかけられるので、顔や格好は隠しておく。
『おはようございます! サイレン入国管理センターです。それではこれから入国審査を行いますので質問にお答えください』
受話器の奥から機械的な女の声が聞こえてきて、続けてハイの場合は①、イイエの場合は②のボタンを押すようにと言ってきた。
言われたとおりボタンを押して質問に答える。順調に答え、すでに質問が六十を超えようとしている段階だ。
『第60問。高校生活に満たされていないものを感じる』
実のところ、この質問には意味が無い。
漫画の続きを読んでいる自分は知っている。この質問は単なる時間稼ぎであり、電話の相手は受話器越しに俺の脳までアクセスしていて、接続できたら後日改めてサイレン世界に連れて行かれるのだと。
原作では、本日にサイレン世界への収集が行われるはずである。はずというのは、原作でアゲハがテレホンカードを使うのは後になってからのためだ。すでに原作とは違う行動をしている俺である。
収集されるのが今日だと分かったのは、ヒロインである雨宮桜子が、この日を境に行方不明になるからだ。
行方不明なのは、当然サイレン世界に連れて行かれているから。つまり収集されるのは今日。一人ずつ連れて行かれるのではなく大勢でまとめて連れて行かれるので、つまり自分も収集されることだろう。
公衆電話での通話が終わり、学校へ向かう。クラスメイトであるため雨宮もいるが、塞ぎ込んでいるため話すことは無い。サイレン世界に収集されるのはある程度周期があるので、心中でそろそろ呼ばれるのだと雨宮も考えているのだろう。
放課後、雨宮の財布がクラスの女子によってゴミ捨て場に捨てられるので、拾って雨宮まで届けに行く。
教室にいたので財布を見せた。
悪い女に好かれる能力も雨宮には効果が無いようで、持って行った財布は奪うように俺の手から取っていった。
「言っておくけど、俺が盗ったんじゃねーからな。落ちてたのを持ってきただけだぞ、俺は」
「分かってる、いつものことだから。……ありがと」
「お? おー、どういたしまして。まあなんだ、困ったときはお互い様っつーことで」
意外と素直にお礼を言われたことに驚いていると、頭の中で電話のベルが鳴る。どうやら予定通り、サイレン世界への収集が来たようだ。
慌てたようにこの場から離れる雨宮を見送りつつ、ポケットに入っていたガラケーを耳に当てると、俺はサイレン世界に飛ばされていた。ボロボロになった廃病院のような建物の内部に俺はいた。
俺だけではない、他にも十人近くの人間も一緒である。雨宮以外は見覚えのある人物はいなかった。原作とタイミングがズレているためだろう。
「夜科……? どうしてアンタがここにいるのよ……!」
「よお雨宮、さっきぶりだな。どうして? えーと、はて、どうしてと訊かれると」
「サイレンに電話したのね! テレカを使ったのね! なにしてるのよこの大バカ!」
「うぎっ、苦しい……」
雨宮に首を絞められていると、他の連中がだんだん騒がしくなってくる。やっぱりここはサイレンの世界なんだとかなんとかかんとか。
それを見て雨宮が元の世界に戻る方法を教えるも、もともとあの怪しげなテレカを使っているためにここに来てしまった連中たちだ。そのまま帰ろうと協力する奴らの少ないこと少ないこと。
結局声の大きい者が勝手な行動を取り、そいつについていく奴らが続出する。俺と雨宮のみが、この廃病院に残される。
「いいのか? あの連中ほっといて」
「ああなったら、もう何言っても無駄だから」
そして雨宮も、アンタはここに残ってなさいと言い残し、一人で別行動を始めてどこかへ行ってしまった。サイレン世界の謎を解くべく情報を探し回るつもりだろう。超能力がまだ目覚めてない俺は足手まといというわけだ。
雨宮の言うとおり、この廃病院で大人しく待っていることにする。
一時間。二時間。
三時間ほど待ったところで、頭がくらくらしだして鼻血が出てきた。サイレンの空気に感染したのだ。超能力の目覚めである。
あとはもう現実に戻って、症状が治まるまで安静にしよう。そう思った矢先に雨宮が戻ってきて、自分を見るなり安心したような顔になる。一応心配してくれていたらしい。
「大人しくしてて。二、三時間でよくなるから」
もともと現実に戻って大人しくしている予定だったが。
しかし雨宮が、濡らしたハンカチを額に乗せるなどで看病を始めてくれたので、もう少しだけこの状況を堪能しておくことにした。
膝枕まで期待していたのだけれどさすがに無理だった。