ちなみに伊波ちゃんの握力ゴリラって言ったら素手で首折られます。
まだあたしの身に起こってることが
理解できない。できないけど…周りが明らかに前と違うことは確かだ。
事実、あたしに対する職員の態度が全然違う。
前はみんなあたしを見て怖がってたのに、今は…まぁ、多少奇異な目で見られはするけど大体は普通の人間と同じように私と話す。
中には「伊波ちゃーん!」って勝手に収容室に入ってくるエージェントもいる。収容室に内側からの鍵が欲しいって博士に言っておこう。
それに何故か…あたしの力が弱くなったから
かな?サイト内を比較的自由に歩けるようになった。
…GPS付き首輪をつけなきゃいけないけど。
そんなある日の昼下がり。あたしはサイトのカフェテリアの窓辺でボーッと外を見ていた。
「あれっ…173?!173だよね?!」
声の主はあたしと同じくらいの年の女の子だった。少しウェーブした黒髪からイヌの垂れ耳みたいに癖毛が跳ねている。睫毛が長くて目もぱっちりしていた。
「…そうだけど」
あたしは素っ気なく返したが、女の子はすごく嬉しそうだった。まるで有名人に会ったみたいに。
「あっ、前の席いいかな?!」
「うん」
ますます女の子は嬉しがった。不思議な子。
「ヤバイ今日マジついてるわ!あの173に会えるなんて!!」
そう言いながらパシャパシャ持ってるi●honeであたしの写真を撮ってる。
「えっと…名前は?」
「マロって言うの!職員からはSCP-1471って言われてたけど、今はみんなマロって呼んでくれる!」
「そうなんだ。じゃあマロ、アンタも今回の認識災害の影響を受けたんだ?」
「うん!」
やったぁー173に名前呼んでもらっちゃったー!!なんてマロは一人で舞い上がってる。
「マジ最近ラッキーすぎる!認識災害で人間みたいになれたし!」
「人の姿って嫌じゃないの?あたしは力が弱くなったからこの格好は好きじゃないんだけど…ほら、見てて」
そう言って私はさっき貰ったリンゴを片手に持つと、ぐっと力を込めて握った。
ベシャッとみずみずしい音を立ててリンゴは割れた。
…前なら力を入れなくても少し握ればリンゴは割れたのに。
「はわわ…!!」
「…どうして驚くの?アンタだってオブジェクトでしょ?」
「いや驚くよ!私もともとは認識災害オブジェクトだからそんなふうにリンゴきゅっとしてドカーンできないもん!あっリンゴ食べていい?」
「ああ、そうなんだ…食べていいよ」
そしてその後もマロはペラペラと息つく間もなく喋った。その大半が自分がミーム汚染した人間の話や、SNS(T●ktok?とか言うのが好きみたい)の話だったけど、マロはすごく楽しそうだった。
「…だからこの格好も悪くないよー?前の私は大分ケモっぽかったから毛深くて私はむしろこっちの方が好き!色々おしゃれできるからさ!」
「おしゃれねぇ…興味ないかな」
「えーっもったいない!…あっいけない!」
「?」
「今からペスト医師のとこでエージェントの応急処置のやり方教えて貰うの!173も来る?」
「…うん。あとマロ」
「ん?」
「173じゃなくて伊波でいいよ」