二人の魔女   作:ADONIS+

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15.五十年目の悪夢

GI500

 

 魔人戦争が開始してもう五十年がたっている。いつまでたっても終わらない戦争。膨大な戦費。それは当然ながら聖魔教団に支配されている魔法が使えない蛮人たちの大きな負担になっていた。

 

 また、魔人戦争によって魔軍に街が襲撃されるなどの被害を多々受けていて、彼らは魔軍の恐れを抱いて何とか戦争を終わらせたいと思うようになっていた。

 

 そして支配者たる聖魔教団も魔軍との長きに渡る消耗戦に勢力を著しく低下しつつあった。

 

 こうした情勢下で聖魔教団は戦費調達の為に情け容赦なく蛮人たちに重税を課していた。聖魔教団がここまで蛮人に配慮しなかったのは、原作と違って蛮人は戦争に何ら貢献していなかったからだ。

 

 この世界の最前線では当初は闘将と人造人間たちが魔軍と激しく戦っていたが、長きに渡る戦いで闘将たちが激減してその補充が追いつかなくなってしまった為に、現在では聖魔教団は残存するすべての闘将を闘神の護衛に回していた。

 

 こんな事ができたのは強力な人造人間が大量提供されていたからだ。エリーゼとアイシャは魔人戦争で人造人間たちが経験を詰んでどんどん強くなっていくのに気を良くして、監察軍の協力を得て人造人間を大量生産して積極的に前線に投入していた。

 

 事実、人造人間たちは強かった。この当時の魔軍に所属する魔物たちにとって戦えば戦うほど異常なまでに強くなっていく人造人間たちは恐怖そのものだった。

 鋼の鬼神、だれが最初にそう称したかは分からないが、魔物たちは人造人間をそう呼んで恐れていた程だった。

 

 また、運用にしても闘将と同じように人造人間に魔力を送り込むだけですむので魔法使いとしても使いやすかったのだ。命令権が間借りしたものである事に不満はあったが、彼らの戦果はそれを吹き飛ばして余りある程であった。

 

 そんな状況であった為にわざわざ前線に魔法を使えない蛮人を投入しようなどとは誰も思わなかった。

 

 何しろ軍隊というのは金食い虫だ。食糧や装備などいくらかかるか分からないのに、そんな出費をしてまで役立たずの蛮人(聖魔教団に所属する魔法使いの偏見に満ちた考えであるが、当時としては一般的な考えだった)を使おうとは思わなかったのだ。

 

 この結果、聖魔教団の蛮人に対する蔑視は原作よりも酷くなり、蛮人たちの聖魔教団に対する不平不満は高まっていった。そんな人類の軋轢を魔人ノスに付かれた。ノスは言葉巧みに蛮人たちを唆していく、折しもこの戦争が魔法使いたちの傲慢の所為で勃発したという噂が蛮人たちの間で蔓延していた為に、これを切っ掛けに蛮人たちは聖魔教団に反逆した。

 

 その事を知った聖魔教団の盟主ルーカ・ルーンは怒り狂い暴走してしまう。

 

 彼はこれまで魔軍に対して向けていた戦力を魔法を使えない蛮人抹殺にも投入していった。闘神都市の魔導砲を受けて消滅していく街。それは皮肉にも人類を救うことを切実に願っていたルーンが引き起こしていた悲劇だった。

 

 

 

「やはりこうなりましたね」

『原作通りだから、これは仕方ないわ』

 私は闘神都市ソドムから、闘神都市ゴモラにいるアイシャと通信を交わしていた。

 

 私はルーンの暴走ぶりにため息をこぼした。

 

 原作では蛮人の反逆は31年目に発生したが、この世界では50年目に起きた。

 

 ここまで長引いたのは原作と違って蛮人が前線に投入されていなかった事と、聖魔教団の力が原作よりも強化されていた事が原因だろう。

 

 しかし、魔法使いと魔法が使えない蛮人の対立はこの世界の人類によって避けては通れない問題で、遅かれ早かれ起きていた筈だ。

 

「それで、アイシャそちらの準備はどう?」

『こちらも前線に投入しておいた人造人間たちは回収しておいたわ』

「そう、なら撤退するわ」

『確かに潮時ですね。このままだと魔王ガイが介入してくるわ』

「そうだね。では、さっさとこの世界から出ていくとしましょう」

 

 この魔人戦争は合計15人の魔人とその魔人率いる魔軍が参加していたが、魔王ガイ自身は関わっていない。

 

 しかし、この聖魔教団の暴走はガイも無視できない筈だ。何しろこのまま聖魔教団が人類を攻撃し続けていれば人間の数が激減して勇者を覚醒させてしまいかねない。

 

 この世界の勇者は何でも倒し屋で、その力は人類の死亡率に比例する。つまり人間が死ねば死ぬほど勇者の力は解放されるのだ。

 

 四代目の魔王ナイチサは人間を殺し過ぎて勇者の力を著しく高めてしまい、その所為で寿命を大きく縮めるほどのダメージを受けたほどだ。

 

 それを考えれば、このまま聖魔教団が人間を殺しまくったら、勇者の力が解放されてしまい、そのとばっちりで魔王ガイも勇者に殺されかねない。

 

 原作ではそこまで行く前にフリークがルーンを殺して聖魔教団の暴走を止めたが、この世界のフリークは闘神Ωとしてルーンの傀儡になっているからそれは期待できない。この場合、魔王ガイが動くのは確実で、そうなると返す刀でこちらもやられかねないから、そうなる前に引き上げるのだ。

 

「まぁ収穫は十分にあったから損はしていないわね」

 

 私たちはこの世界で大きな利益を得ていた。勿論、自腹(エリーゼたちは監察軍に色々と借りを作った)でオリジナルの闘神都市を建造したり、人造人間を量産していたので投資も大きかったが、回収できた利益はそれを遥かに上回っていたのだ。

 

 

 

 実は、この世界の聖魔教団の魔法文明は原作よりも遥かに進歩している。その理由は私たちが魔法工学の発展を促したからだ。

 

 私たちのチート能力【理解】【分割思考】【高速思考】は極めて有効で、これらを併用することで現地の魔法技術を習得してきた。それらの知識を下積みにして、それを遥かに発展させた理論や技術を大量に編み出すことができた。

 

 普通ならばそんなことはできないが、【分割思考】と【高速思考】を併用すれば、私の脳を高性能の分析器と演算装置として機能させる事ができる。これはそこいらの天才では逆立ちしてもできない正にチート能力だった。

 

 更に私たちが元々いた上位世界では様々な魔法のアイデアがあってそれを知っていただけに、これまで収集した知識を元に、驚異的な速度でそれらの実用化を検討し、理論を構築して技術として確立していった。この為、現行魔法技術よりも遥かに進んだ技術を編み出すのはそう難しい事ではなかったし、後はそれらの魔法技術を実用化していけばいいだけだ。

 

 魔教団時代からそうした地道な行動をしており、聖魔教団は私たちが提供された理論や技術の実用化に血眼になり、膨大な予算を付けて技術開発を推し進めていた。

 

 本来、技術の発達というのは暗闇の中で試行錯誤するようなものであるが、私たちの場合は結果が分かりそれに至るまでの道筋が分かっているだけに、最低限の試行錯誤で技術革新が進んでいったのだ。

 

 この結果、GI440年代には魔法技術の凄まじい勢いで発達していたし、その後の開戦でそれは一気に加速された。

 

 古来より戦争は技術を爆発的に発展させるという言葉がある様に、聖魔教団は強大な魔人に対抗する為に死に物狂いで魔法技術の発展に力を注いでいたのだ。

 

 ちなみに私たちがここまで聖魔教団に肩入れしたのは彼らに仲間意識を持ったからでも、この世界の住民を救う為でもない。

 

 酪農家が良質の肉を販売して収入を得る為に手間暇かけて牛を育てるように、私たちも聖魔教団を手間暇かけて育てて魔法技術の発展を促した。

 

 それがこの世界の魔法技術の飛躍的発展を促し、私たちはそれを余すことなく収集していった。

 

 私たちにとってこの世界の人間は、いや人間だけでなく魔人や魔物を含めたあらゆる存在はどうでもいい存在で、彼らを利用して利益を得る事だけが目的なのだ。

 

 そして時期がくれば聖魔教団を見捨てて撤退するつまりだったから、ソドムとゴモラにはドラゴン、闘将、聖骸闘将などだけでなく聖魔教団の魔法使いすら配置せずに、私たちの私兵戦力のみで固めたのだった。

 

 ちなみに私が手に入れた魔血魂は解析が完了していたので、先ほど地上に投げ捨てておいた。

 

 流石にこの世界の魔血魂を異世界に持ち込むのは良くない。この世界の魔人の数を減らしてしまうからね。

 

 もはや用済みとなったこの世界に長居は無用だったから、私とアイシャは二つの闘神都市ごとランス世界から姿を消した。

 

 

 

 余談であるが、エリーゼたちが去った後、魔人戦争は大いに混沌とした状況となった。

 

 聖魔教団は前線を支えていた人造人間たちが姿を消したために地上での戦線を維持できなくなって敗退を重ねていき、闘神都市もソドムとゴモラの離脱と、蛮人抹殺に動いたために守りが薄くなって魔軍に侵入される事を許す結果となり、闘神都市内部で激しい戦闘が繰り広げられていった。

 

 しかし、それでも聖魔教団は魔軍と人類抹殺を止めようとはせずに人類を抹殺していく。

 

 この聖魔教団の暴走に危機感を抱いた魔王ガイがついに動いた。ガイはその圧倒的な力で闘神都市を次々に陥落させていった。

 

 こうして闘神都市は全滅。魔都デトナ・ルーカも陥落して聖魔教団は崩壊した。この時に盟主ルーンも魔軍との戦いで戦死した。

 

 その後、ガイは魔人や魔軍を元の境界線まで戻して、再び人類に対する不干渉政策を取る事になり、人類壊滅の危機は回避された。

 

 しかし、人類に真の平和をもたらす事を目的に掲げた聖魔教団が人類を滅亡の危機に追い込み、魔王ガイがそれを防いだ事は、その後の歴史に大きな影響を与えた。

 

 生き残った人類は聖魔教団を憎み、魔法文明の否定と魔法使いの弾圧を徹底的に行うようになり、数百年にも及ぶ弾圧の結果、魔法技術は廃れてしまった。

 

 こうして、ガイの時代が終わりリトルプリンセスの時代になった頃には、繁栄を極めたかつての魔法文明は見る影もなく衰退していた。

 

 また聖魔教団時代に作られた聖骸闘将は聖魔教団崩壊後も最後の指令である人類抹殺に動き続けており人類の脅威となっていた。その為、それらは聖魔教団の負の遺産として扱われる事になった。




解説

■役立たずの蛮人
 聖魔教団から見れば蛮人で軍隊を編成するよりも、闘将や人造人間で軍隊を編成した方が対費用効果が遥かによかった。というよりも闘将や人造人間が強すぎて相対的に蛮人が役に立たなくなった。

■ナイチサ
 ジルの前の魔王。人間を大虐殺したせいで勇者のリミッターを外してしまい、寿命を削られるほどのダメージを受けた。この反省から次の魔王ジルは人間を虐殺して数を減らすのではなく、人間を家畜化して一定の人口を保つ事で勇者の覚醒を防いだ。
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