「これほどの空中都市を見られるとは、なんと素晴らしい!」
異界空間の上空2000mに待機させた闘神都市ソドムに招かれたカオスは興奮気味だった。それはそうだろう。このソドムは私たちがこれまで訪れた世界で得た技術や知識がふんだんに使われており、現代の技術など軽く超越している空中都市なのだ。
「はい、ドクター・カオス」
そんなカオスに同行した人造人間マリアはこの世界では私がソフトウェアの分野を改善したから原作よりも感情が発達していて、しゃべり方もより人間に近くなっている。といっても人間にかぎりなく近いリーラと比べれば、すぐにロボットだと気付く程度の代物に過ぎないけどね。
マリアはよくみればロボットだと一目瞭然なのだが、リーラは外見では全く分からないし、実際に会話をして体を触っても人間と区別が付かないのだ。おまけに食事もできればセックスも可能なので余計に人造人間であると分かりにくいのだ。
こういうとリーラのマリアはまったく違うのだが、マリアの製作にはカオスだけでなく私たちも携わっている事から、ある意味マリアはリーラやエーファの姉に当たる存在と言えるだろう。
私はこの闘神都市ソドムの案内をリーラに任せており、リーラはカオスとマリアを一通り案内して接待していた。カオスは私が製作したマリアとはまったく異なるコンセプトのリーラに興味を持ったので、リーラが私たちが作り上げた人造人間について色々と説明した。
ちなみに私たちが作り上げた人工霊魂は大きく分けて三タイプになる。
身体能力や戦闘能力を度外視して、外見だけでなく内部機能も可能な限り人間に近づけた非戦闘タイプ。次に、戦闘能力をトコトン追及して外見も戦闘に特化した戦闘タイプ。最後に、闘神都市そのものに宿って管制を行う事が出来て、更に闘神を遠隔操作することで戦闘まで可能とする特殊タイプ。
この三つが製作されており、これらはマリアのコンセプトとはまったく異なる物だった。
しかし、現在では防空用のロボット兵だけでなく、戦闘タイプのレオンシリーズとグレイシリーズは闘神都市内部で凍結されていた。というのも戦闘がないために彼らを起動させておく必要がないからだ。
格闘に優れたレオンシリーズならば状況次第ではこの世界で起動させる事もあるかもしれないが、ランス世界の聖魔法しか使えないグレイシリーズは凍結するしかないだろう。何しろこの世界はランス世界の魔法が使えないようなので、グレイシリーズは役に立たない。
魔法や魔術という物は互換性が悪いので本当に使い勝手が悪い。私たちならばともかく、他の者はこの世界観の違いに注意しないといけませんね。元の世界でブイブイ言わせていた魔法使いがよその世界では無能者になっていたというのはよくある事です。
「しかし、こんなとんでもない代物をどうやって作り上げたのじゃ?」
いくら私たちが13世紀最高の白魔女姉妹であったとしても、この闘神都市を制作するなど不可能だからカオスが疑問に思うのも当然だろう。
「私たちが異世界に行っていたという話は知っているでしょう。だったら私たちが700年も何もしていなかったと思う?」
「成程そういうことか。異世界の知識と技術を学習していたというわけか。ではお前たちが異世界に行ったのは魔女狩りから逃れる為だけでなく、異世界の知識を求めたからじゃな」
「そうよ。あの時すでにこの世界で学習できることは粗方学んでいたからね」
カオスの推察通り、確かに私たちがこの世界を離れた理由はそれも含まれていた。
「異世界の技術か。それは興味深いな」
カオスは私の言葉に面白そうに言う。カオス程の天才にとっても異世界というのは未知の存在だから興味を持つのは分かる。
「それはそうと、カオス貴方に聞きたい事があるのだけど」
「なんじゃ?」
「以前貴方は若くて強い霊能力を持つ美神令子の身体を手に入れようとして、美神と敵対した事があったでしょ?」
「うむ、そうじゃ」
「何故美神令子にしたの? ヨーロッパの魔王と言われた貴方がわざわざアジアの僻地のしかも女性の身体を得ようとするなんて可笑しいですよ」
そう、普通に考えれば男性であるカオスが、女性である美神と肉体を入れ替えようと思うのは可笑しいのだ。鎌田勘九郎のようにオカマならばともかくカオスはその点ではノーマルな筈だし、大体美神でなくとも霊能力に優れた男性など世界中にいくらでもいるのだ。
原作では酷いボケ状態だったからその辺りの行動は理解できるが、この世界のカオスがそんな事をするわけがない。
「肉体交換というのは口実で、実は美神令子と知り合いになるのが貴方の目的でしょう?」
カオス程の者が、わざわざ美神令子と知り合いになるのはあまりにも不自然なのだ。だから無理やり理由を作り上げたと考えた方が自然だ。
「……その通りじゃ。しかし、それはお前たちも同じじゃろ。だから700年もこの世界から離れていたのに、この時期にこの世界に戻って来たわけじゃしな」
「そう、お互い考える事は同じだったのね」
その結論に至り、私とカオスは薄く笑みを浮かべた。
思い出してみれば、あの時のヌルとの戦いはかなりギリギリだった。それだけ地獄炉によって強くなっていたヌルは厄介だったのだ。
当時の私たちではヌルに勝つのは難しい。そういった意味では美神たちには中世ヨーロッパに時間移動してもらわないと困るのだ。だからカオスも私たちも美神たちと知り合いになるようにしたし、美神たちが時間移動するように誘導するつもりなのだ。
後日、私が製作したリーラに刺激されたのか、原作通りカオスが新たなる人造人間テレサの製作を決めたが、その資金は膨大なものになり私に出資を求めて来た。正直に言うと金などいくらでもあるからポイと出してもいいのだが、一応製作する人造人間の仕様書と人工霊魂の術式を提出してもらったが、それは原作通り色々と不味い代物だった。
「これは駄目ね」
「何故じゃ?」
資料に目を通した私がダメ出しをすると、カオスが疑問の声を上げた。カオスにとってはかなりの自信作だったのだろう。
「まず人工霊魂製造の術式だけど、この部分が曖昧で意思の制限が緩すぎるわ。これだといきなり反逆しかねないわよ」
「あ、ホントだ」
原作ではテレサが生みの親であるカオスにいきなり反逆したが、それもこんな術式をみれば納得できる。これでは危険すぎるよ。
「それとボディスペックが高すぎるわ。これじゃコストが高騰してしまうから売り物にならないわ」
「しかし、最高のスペックがあってこそじゃろう」
確かにマリアのように自らの相棒として制作するならそれで正解だろうが、今回は量産して金儲けする為の物である以上、消費者が買ってくれる商品でなくてはいけないのだ。
確かにボディスペックは低いよりも高い方がいいが、性能を追求しすぎると価格が高くなって売れなくなる。
大体一般人にとってやたらと戦闘能力の高いロボットなんていらないし、そんなものを一般人に販売したら法律的に問題がある上、余計な社会問題になってしまう。
また高い戦闘能力を売りにして軍隊に売り込むという案も難しい。というもの軍用アンドロイドというのはこれまで実用化されていないから有効性が証明されていないのだ。その様な物がそう簡単に採用されるのか、という問題が当然出てくる筈だ。
それに人を殺してなんぼの軍隊に使わせる事で人工霊魂に人殺しを学習させると、将来的にどのような悪影響が出てくるか分からない。
これはランス世界で散々軍事利用したお前が言うなと突っ込まれそうな考えだが、私の場合は製作した人工霊魂はすべて私の命令に従うという命令系統が極めてシンプルな物だからできた事なのだ。
結論を言うと、価格を高騰させてまでオーバースペックを追及しても全くの無駄である。私はその辺りの意見をカオスに説明しておいた。
「売り物にするなら余計な霊的素材の排除とスペックを人間並みにしてコストを抑えるべきだわ。当然飛行能力もいらないし、武器を内蔵する必要もない」
「しかし、それでは売れんのではないか?」
「そうでもないわ。家事をやってくれるメイドロボや、介護をやってくれる介護ロボとかいう触れ込みで売り込めばいいじゃない。コストさえ低く押さえられればそれで売れる筈よ」
「そうか! 確かにそれなら売れるぞ!」
これが後の大ヒット商品となるテレサシリーズ開発の経緯であった。
こうして、量産されたテレサは世界的に大流行して、家事、育児、介護の現場で大活躍したが、すぐに各国政府の規制により、それ以外の事務や工場労働などの仕事をさせる事は禁止された。
まぁテレサが活躍し過ぎると雇用がなくなってしまい、大量の失業者が発生してしまう為に政府の行動は間違っていないだろう。
私たちも何も人間の仕事を取り上げたいわけではないので、それに文句はない。