19世紀のアメリカ合衆国の荒野で一人の男性が倒れていた。男の名は覇道鋼造。後に世界一の大金持ちとなる覇道財閥の総帥として知られる事になる男であるが、現在はアメリカに移住した日系人の貧乏な探検家に過ぎなかった。
彼は金鉱脈を掘り当てるというアメリカンドリームを夢見る探検家であったが、現実はそう甘くなかった。食糧も水も底をついてもはや録に動くこともできない有様だった。このままでは鋼造は野垂れ死にしてハゲタカに食い散らされて骨だけが残る運命だっただろう。
「いい感じに行き倒れていますね」
そんな彼に私は日本語で話しかけた。
「だ、誰だ…?」
行き倒れているだけあって鋼造の声はかすれているが、何とか会話は可能の様だ。
「私はエリーゼ・ペルティーニ、通りすがりの魔女よ。私と契約するならば助けてあげましょう。どうする?」
契約するか、という私の質問に鋼造は弱弱しく頷いた。
「いいでしょう。覇道鋼造、契約にのっとり私は貴方を助けましょう」
私は魔術で鋼造の生命力を高めてやった。これで一息をついたところで水を飲ませて消化にいい食べ物も食べさせてやった。こうして鋼造は九死に一生を得る事ができたわけであるが、勿論それだけですませるわけがない。
「では契約が成立したから、これからしばらく私に従ってもらうわ」
「ちょっと待て、どういうことだ!」
と、鋼造が文句をいって来た。
まぁそれはわからなくもない。助けてもらったからお礼をするという程度ならばともかく服従しろ。では納得しないだろうね。でもここはゴリ押しするとしましょう。
「あら、私が助けなければ貴方はここで野垂れ死にして死体をハゲタカに毟られて、骨だけになっていたのよ。それに比べたら遥かにマシよ。それに悪い話ではないわ。貴方を世界一の大金持ちにしてあげる」
と言いつつ、私は微笑んだ。
それからというもの、私は鋼造にアリゾナの金鉱脈を掘り当てさせて得た大金をニューヨーク市場で次々に投資させた。それらは当時としてはあまりに無謀な投資であったが、後にすべて莫大な利益を上げることになる。
そして鉄鉱、石炭、石油、鉄道、その他の諸貿易などでも莫大な利益を上げて、あっという間に世界経済を牛耳る巨大財閥が成立していった。その覇道財閥の総帥となった鋼造は私の言葉通り世界一の大金持ちになった。
私は原作通りにマサチューセッツ州アーカムに拠点を置いて、私の魔術理論を駆使してそこを強力無比の魔術的要塞にした。
しかし、ミスカトニック大学は建てられなかった。というものこの世界では邪神やその他の種族はこの銀河に一切干渉していない為に邪神崇拝集団や怪異どころか、魔導書や魔術師すら存在しないのだ。例外は私たちと裏死海文書ぐらいだ。
そういえばちょっとしたハプニングがあった。鋼造が孤児院にいる息子(覇道兼定)を引き取る時に兼定に刺されてしまったらしい。おかげで私が回復魔法を使う羽目になったが、今では笑い話ですね。
当時の兼定は非力な子供だったので大した傷ではなかったけど、運が悪かったら鋼造が死んでいたかもしれませんね。まぁ死んでもDQ世界の蘇生呪文で生き返らせればいいから別に構いませんよ。
こうして時間が過ぎて兼定の娘が生まれて10年が過ぎた頃に鋼造が私の目的を訊いてきた。どうも以前からそれが知りたかったようだ。
「鋼造、貴方には裏死海文書の写本を渡したでしょ」
「ああ、俄かには信じられんが確か起こりうる未来が書かれているという話だったな」
「それは間違いないわ。何しろ私はサードインパクトによって人類が滅亡した未来をやり直すために未来から来たのだから」
「そうか…」
未来から来たと言うとほら話に聞こえるが、私の場合は状況証拠的にそう言えば納得してしまうでしょう。何しろ未来人でもなければできないようなデタラメな投資をことごとく成功させているのだからね。
「時期的に鋼造にはあまり関係ないけどね。多分貴方の玄孫が当事者になるだろうから精々こき使ってあげるわ」
サードインパクトの時期は後百年ほどある。既に老人となっている鋼造がこれに関わる事はあるまい。
「まぁ玄孫の前に総帥の後継者が問題よ。鋼造、孫娘の瑠璃は聡明ね」
「瑠璃を次の総帥にするのか?」
鋼造にとって私が暗に次の総帥を瑠璃にするように言っているのが意外だったようだ。確かにいい歳をした息子がいるから普通ならばそちらを後継者にするだろう。
しかし、兼定は無能ではないが、覇道財閥を運営できるだけの能力は持っていない。小説版でも覇道財閥を維持できないと言っていたぐらいだ。いくら傀儡でもそれなりの能力がないと困る。だから原作で覇道財閥の総帥を見事に努めていた才媛の瑠璃に期待しているのだ。彼女ならば次に繋げてくれるだろう。
「…そうか、お前から見ても兼定では無理か」
と、鋼造が妙に納得したようなセリフを言う。
多分、鋼造自身も兼定では不安があったのかもしれない。まぁ孤児院に迎えに行くといきなり刺されて、その後は気まずくてまともに付き合えなかったから当然でしょう。
こうして鋼造亡き後の覇道財閥総帥に瑠璃が就任した。瑠璃はその才覚を発揮して見事に覇道財閥を運営していたが、浮いた話がなくて少々焦った。何しろ女性が安全に子供を産める時期と言うのは限られている。ちゃんと子孫を残してくれないといけないから晩婚では困るのだ。
瑠璃が政略結婚に嫌気が指しているのも理解できるだけに強く言えなかったが、どこかの貧乏探偵(大十字九郎)とゴールインしてくれた。正直家柄的に釣り合わないが、その辺りは私にはどうでもいい。重要なのは瑠璃が子供を作ってくれた事だ。
この瑠璃の子も成長すると一鉄と言う男の子をもうけたのでいう事はない。おそらく時期的に一鉄がゼーレとやり合うことになるだろう。そこで私は一鉄を調教もとい教育しておいた。すべては舞台の仕込みの為である。
解説
■覇道鋼造(はどう こうぞう)
デモンベイン世界では覇道財閥を一代に立ち上げた超人と称されているが、それは鋼造になりすました大十字九郎がやったことである。本物の覇道鋼造は金鉱脈を探している際に野垂れ死にした探検家にすぎない。この世界では本物の覇道鋼造がエリーゼによって覇道財閥の総帥に成り上がっている。
■覇道兼定(はどう かねさだ)
小説版『斬魔大聖デモンベイン軍神強襲』に登場した本物の覇道鋼造の息子で覇道瑠璃の父親。原作の覇道鋼造はマスターテリオンとの戦いに敗れて過去に飛ばされた大十字九郎が入れ替わった偽物なので、覇道鋼造(偽物)とは血のつながりはないが、本人はそのことを知ることなく、その後ブラック・ロッジに殺された。この世界では覇道財閥を維持する能力がないため、エリーゼには傀儡として使う価値もないと思われており何気に扱いが悪い人。それでも大学を卒業しているし、生活に困らないだけのお金は貰っているから仕事漬けの瑠璃より幸せかもしれない。
■覇道一鉄(はどう いってつ)
覇道鋼造の玄孫にして覇道瑠璃の孫。覇道財閥三代目総帥で、サードインパクトの時期に総帥であった為にエリーゼにこき使われる事が決定しているかわいそうな老人。先祖の因果というか、鋼造がエリーゼに多大なる借りを作ったばかりに膨れ上がった膨大な利子を含めてその返済に奔走する事になる。