第三使徒殲滅の三週間後に第四使徒が襲来した。ネルフ初の使徒戦が勃発したが、結論から言えばネルフの大敗であった。
今回はエヴァ初号機に綾波レイが搭乗していたが、シンクロ率がいまいちであった事と、彼女が命令に忠実過ぎた事が流れを変えることになった。
相田ケンスケと鈴原トウジがシェルターから抜け出していた為に、ミサトが初号機に二人を乗せて撤退するように命じた。
ここでレイのシンクロ率の低さが仇となり、二人を乗せた途端に初号機まともに動かせなくなり初号機は使徒に撃破された。おまけにエヴァ回収スポットから使徒が侵入してしまうという大失態を犯してしまう。
「エリーゼ様、すぐに指揮権の移譲を通告しなくてもよろしかったのですか?」
と、リーラが訊いてきた。
現在の特務部隊デモンベインはネルフが対使徒戦に敗退もしくは戦力を失った際にネルフに指揮権の移譲を通告する権限を与えられていた。
ここで国連軍のトップではなく特務部隊デモンベインが直接そうする事になったのは、デモンベインは名目だけは国連軍所属になっているが、独立愚連隊にして覇道財閥の私兵と言う存在で、国連軍上層部としてもデモンベインは動かしにくい存在だったからだ。
通常ならばそんな部隊は認められないだろうが、そこはデモンベインの人員がたった四人で分隊規模にすぎず、アメリカ合衆国を裏から支配している覇道財閥の後押しがあったからだ。その上、三年間だけの試験部隊であったし、その部隊に予算を一切出していなかった事からわざわざ文句を言う者も居らず、これまで誰も問題視していなかったのだ。
しかし、第三使徒殲滅でそれが大きく変わった。忌々しいネルフを差し置いて使徒を圧倒的な強さに仕留めた鬼械神の強さは彼らの想像を絶していた。当然ながらこれによって多少の問題が発生したが、そこは一鉄に収めさせた。
その結果、デモンベインは通常の国連軍の指揮系統から外れて独自に動ける部隊になったのだ。
「そうしてもいいけど、ここはもう少しネルフを痛めつけておきたいわ」
確かにエヴァが敗れた時点で即座に指揮権の移譲を通告すれば損害は小さくなる。だが、それではネルフの無能さが諸外国に対して目立たなくなるだろう。
しかし、敗北して大損害を受けて、その損失の為に国が二つ三つ傾くほどの予算を搾り取ればそれだけ各国がゼーレとネルフから離れていく。要は「使徒に勝ったデモンベインは金を一切要求してこないのに、ネルフは負けた癖に膨大な金を要求しやがって!」と反感を持たせればいい。そうなれば私たちには好都合なのだ。
そんなわけでしばらく待っていると、ネルフが「指揮権を移譲するから助けてくれ」と泣きついてきた。第四使徒が第3新東京市の地下、箱根大深度地下大規模空間(ジオフロント内)で派手に暴れているらしく、彼らもなりふり構っていられないのだろう。
流石のネルフもこの状況で「こちらの指揮下に入って使徒を殲滅しろ」と命令してこない。某作戦部長ならやりかねないけど、普通ならそんな事をしたら自分たちの立場が悪くなるだけだからね。
ふむ、これは突っぱねてもいいが、そうするとネルフが「国連軍に救援を求めたのに来なかったから被害が拡大した」と私たちに責任を押し付けてくる可能性があるね。そう考えれば、この辺りが潮時だな。
私は鬼械神カーリーに乗り込んで、虚数展開カタパルトでジオフロント内に出現した。
この私のカーリーはアイシャのドゥルガーとは色違いでほぼ同型となっている。これは使用用途がほぼ同じため設計も統一しておいたからだ。おかげで生産にかかるコストもある程度抑制できた。最もドゥルガーとカーリーは整備や修理など必要ないので、コストを抑えなくても運用面ではかなり楽である。
現在地のジオフロントは地下空間にもかかわらず意外に広いのでカーリーでも戦闘に支障はない。さてと、では目の前に使徒を始末するか。
第四使徒は転移でいきなり出現したカーリーを警戒しているのか、盛んに光の鞭をふるっている。その速度は音速を超えており、それなりに強力なようだ。最もカーリーからすればそんなもの児戯にも等しい。
「姉様。如何いたしましょうか?」
と、明乃が私に訊く。
正直な話、カーリーの規格外の性能をもってすれば第四使徒など玩具の様な物に過ぎないから、戯れになぶり殺しにする事も簡単にできるが…。
「戦いに遊びを加える趣味はないので、一気に片付けるわ」
「わかりました」
私は金ぴかの慢心王ではないので、例えザコでも油断などしない。
「触れれば消滅必至の奥義」
カーリーの右掌に展開される破滅の術式。形作られた手刀が白く燃える炎をまとう。絶対零度の白い炎をまとう奥義。
「「ハイパーボリア・ゼロドライブ」」
私と明乃の声が重なりカーリーの奥義が発動すると同時に、カーリーは亜光速で第四使徒の背後に回りその手刀で貫いた。第四使徒が展開しているA.T.フィールドも硬い外皮もこの奥義の前では紙装甲にすぎない。
そして、第四使徒の全身が凍り付いて粉々に消滅した。
私のカーリーとドゥルガーの違いは採用している近接昇華呪法にある。ドゥルガーはデモンベインのレムリア・インパクトを、カーリーはリベル・レギスのハイパーボリア・ゼロドライブを搭載していたが、この違いは別に深い理由があるわけでなく、単に好みが違っただけである。
「任務完了、これより帰還する」
ここは敵地とも言えるネルフ本部だ。長居は無用なので、私は転移魔法でさっさと引きあげた。
ネルフside
第四使徒殲滅から数日後。
当然ながら第四使徒戦に敗退した上に甚大な被害を出した事で、ゲンドウは老人たちにさんざん説教された。
「それで碇、弐号機と参号機の方はどうなった?」
「委員会も何とか早期に運び込んでくれることを約束してくれた」
「そうか。それはありがたいな」
「あの老人たちにとってもネルフがこれ以上負けたら拙いからな。当然のことだ」
そのゲンドウの言葉に冬月も頷いた。今のネルフが置かれている状況はシャレにならないものになっていた。地上の武装ビルだけでなく、切り札のエヴァ初号機が大破。おまけにジオフロントにも甚大な被害が出ていた。
それでも使徒に勝てていればなんとかネルフの面目は保てただろうが、実際には使徒に敗れて甚大な被害を出した挙句に国連軍に救援を求めるという醜態を晒してしまったのだ。
こうなると、国連議会でも公然とネルフ批判が巻き起こるのは同然だった。ついでに言えばネルフが出した被害の修復の為に各国が更なる負担を強いられる事が批判を更に煽っていた。
この世界の地球各国はアメリカという例外を除いて、セカンド・インパクトの被害から立ち直りきっていない。例えるなら乾いた雑巾を搾り取られるような事を強いられるので、各国は金食い虫のネルフに本当に嫌気が指していた。
こうなると、次も負けたらどう考えても拙い事になるだろう。おまけに初号機は前回の戦いで大破しているから、今のネルフは零号機しか戦力がないのだ。そこで無茶でも弐号機と参号機を送ってもらう事にした。
とりあえずネルフの方針としては、初号機にレイを乗せて、フォースチルドレンとフィフスチルドレンを選出して、参号機と零号機に乗せることにした。
ちなみにフォースチルドレンは鈴原トウジで、フィフスチルドレンは相田ケンスケだったりする。この二人はシェルターから出た事でネルフに様々な損害を与えたとして利敵行為などの罪状と、とんでもない負債を押し付けて脅迫する形でチルドレンに就任させた。最もトウジは嫌々ながらで、ケンスケは嬉々して了承していたのは対照的であった。
「ふむ、次は何としても結果を出さないと拙いな」
「ああ」
「しかし、そうなるとあの葛城くんでは荷が重いぞ。いっそのこと作戦部長を変えるべきではないか?」
「……」
そう、前回の敗北はミサトが致命的な命令を出したせいもある。というよりほとんどその所為だ。
ミサトが作戦部長になった本当の理由を知る冬月はミサトの能力など最初から期待していなかったが、まさかあそこまで無能だとは思っていなかった。
「駄目だ。裏死海文書の記述に拘るゼーレがそれを許す筈がない」
「やはり、そうか」
冬月はため息をついた。
追い詰められているネルフとしてはミサトなど使いたくないが、ミサトの存在は重要なファクターとなっている。その為にゼーレはミサトをクビにする事も作戦部長から外す事も許さなかったのだ。
「使徒と言えば、あのロボットは第四使徒を容易く倒していたな」
「老人たちもあのロボットにはかなり警戒しているようだ」
「そうだろうな。亜光速の機動性か。化け物だな」
ネルフではMAGIを使って第四使徒戦のデータを分析した結果、国連軍の青いロボット(カーリー)が、光速の42%の速度で第四使徒の背後に回り込んで、その手刀で使徒の胴体をぶち抜いた事が判明したのだ。
「あの巨体で、どうすれば亜光速で動けるのだ?」
「A.T.フィールドをどうやってぶち抜いているのよ?」
「というか、何で使徒が氷漬けになって粉々に砕けているの?」
などとワケが分からない事この上ないが、その圧倒的な強さは嫌でも理解できた。
「今はあのロボットの事よりも、次の使徒に何としても勝たねばならない」
「葛城君の指揮で?」
「「……」」(汗)
その瞬間ゲンドウの冬月の脳裏に一抹の、いや凄い不安が残ったのだった。
解説
■カーリー
エリーゼ専用機。外見は青く塗装したアイオーンみたいな感じ。実は亜光速どころか超光速で格闘戦ができるという化け物染みたスペックを誇る。
■ハイパーボリア・ゼロドライブ
リベル・レギス(斬魔大聖デモンベイン)の奥義。原子の完全なる停止というレムリア・インパクトと全く正反対の性質を持つ。エリーゼは元ネタから氷系の究極魔術であるハイパーボリア・ゼロドライブを採用している。見た目の派手さではレムリア・インパクトに劣るものの、対象となる敵を確実に殺す必殺技でありながら周囲に余計な被害を与えない為、レムリア・インパクトより使い勝手が良かったりする。