インデックスside
惑星ニューアーカム上空を巨大なロボットが飛行していた。それは55mを超える程の巨体を持つ白銀の装甲を纏う機体。それは最古にして最強の魔導書『裏死海文書』によって召喚された“鬼械神ロゴス”だった。そのロゴスが上空にて逃げ去ろうとしていた怪異たちを容易く切り裂いた。
「くたばれ怪異共が!」
ロゴスのコクピットでは二十代ほどの青年、ジャンが興奮気味にそう叫んだ。
「ジャン、怪異は倒したからさっさと地上に降りて術式を解け!」
「けっ、分かっているよ」
私の意見にジャンは不愉快そうに吐き捨てた。
時は四十一世紀。かつてのサード・インパクトの危機から既に二千年以上の月日が流れていた。
この二千年と言う時間は人類にとっては長かった。かつてのセカンド・インパクトの被害から復興して宇宙進出を果たした人類はやがて恒星間航行を実現させて、三十世紀には天の川銀河全土にその勢力を拡大するまでになった。
ここで人類の歩みが止まっていれば問題なかった。しかし、人類は天の川銀河の外に進出してしまった。そう邪神たちが蠢く暗黒の領域へ。
近隣銀河に進出して暫くは問題なかったが、十年も経たないうちに別銀河に進出した人類は邪神たちの洗礼を受けることになった。
開拓者たちが正体不明の化け物(旧支配者などの邪神)に甚大な被害を受けた為に、人類は軍事力で彼らの排除を決定した。
しかし、当時の人類は科学技術こそ進んでいたが魔術などのオカルトにはまるで無防備だった。当然ながら人類は一方的な大敗北をこうむった。これが後に邪神大戦と呼ばれる戦争だった。
ここで、邪神たちが天の川銀河に侵攻してくればなす術もなく人類は壊滅していただろうが、彼らは天の川銀河に一切立ち入ろうとはしなかった。数少ないデータからそれが可能である筈なのに彼ら自身はそれをしなかったのだ。まぁエリーゼ様が施した制約の為にしたくてもできなかっただけであるが。
最も邪神たちも何もしなかったわけではなかった。奉仕種族や怪異たちを天の川銀河に送り付けるなどの嫌がらせを行ったのだ。
こうして、人類はオカルトに触れることになり、魔術結社や邪神崇拝集団などが誕生してしまい、その結果として人類文明は衰退してしまった。その為、恒星間航行もできなくなり、星間ネットワークを失った人類はこの惑星ニューアーカムのように各地の植民惑星でバラバラに生活するようになった。
こうした情勢の中で裏死海文書の精霊であるインデックスは人類社会に対する不干渉を止めて積極的に人類に仇なす怪異や邪神崇拝集団などと戦うようになるが、その過程でどうしても魔術師と契約する必要があった。これは裏死海文書が魔導書であるからで、いくら最古の魔導書でも魔術師がいなければたいした事はできないからだ。
「ジャン、お前の戦いは無駄が多すぎる。あの程度の敵を倒すために鬼械神を召喚するなどやり過ぎだ」
「……」
当代のマスターであるジャンは私の忠告に不快な表情をした。それを見てインデックスはため息をつきたくなった。
この青年ジャンは怪異に恋人を殺されて以来、異常なまでに怪異狩りを行うようになった。勿論、インデックスはそんな復讐心などに興味はない。ただ利害が一致して契約を結ぶのに都合がいいと思うだけだったが、それでもあんな戦い方では先が思いやられる。
本来、鬼械神とは人間に過ぎた物だ。当然ながらそんな物を召喚して使っていけば魔術師は命を削る事になる。実際これまでインデックスと契約した魔術師の多くが短命で終わっている。まぁそれ以前に戦死してしまった者もいるが。
この点で言えば最初のマスターのシンは優秀だった。彼は鬼械神の召喚を避けて結局一度としてロゴスを呼び出すことなく90歳で大往生を遂げた。インデックスの記憶にある中でもまっとうな人間でありながらここまで生きたマスターは他にいない。
まぁシンの場合はあくまで要人警護で人間相手に戦う事しかしなかったから鬼械神など無用であったし、卓越した能力によって魔導書に頼らずとも強かった。だから比較対象が悪いと言えば悪いのだが、それでもこの男の素人ぶりが目についてしまう。
「復讐を否定しないが、もっと効率よく戦え。そうでないと早死にするぞ」
この男が死ねばまた次のマスターを探さなければならない。正直言って頻繁にマスターを変えるのは効率が悪いから勘弁してほしい。とはいえ、インデックスはこれまでの経験からこの男が早死にするだろうと半ば確信していた。
正直言ってこんなマスターを使い捨てにするような事を続けるのは嫌気が指すが、それは仕方ないだろう。彼女は人類の為に悪と戦う存在で、そのあり方を放棄するわけにはいかなかったのだ。
エリーゼside
宇宙のタマゴの状況を確認して私は時間を確認する。今回はタマゴの中でかなりの時間を過ごしていたが、外の世界では一日も経過していない。一応その後の世界も確認していたが、良くも悪くもないという感じだ。
人類が近隣銀河に進出して邪神たちに袋叩きにあったのは意外だったが、彼らは天の川銀河に直接干渉できないから人類滅亡の危機に陥る事もないだろう。とはいえ、文明が衰退してデモンベイン世界みたいに科学と魔術が入り混じった世界になってしまったけどね。
邪神たちの奉仕種族や怪異たちを送り付けるという行動は私の決めたルールに抵触しかねない物であったが、それを言うなら先にルール違反をしたのは人類の方だろう。
愚かな事だと思うが、所詮は試作の世界にすぎない。だから駄目になっても別に問題ない。
「仮想宇宙の創造ですか。面白い事をしていますね」
「……貴方ですか。いきなり私の研究所に上がり込むのは止めて欲しいですね。心臓によくありませんよ」
私の後ろから話しかけて来たのは私たちを転生させた死神だった。
「それで、何の用です?」
「貴女たちに渡す分のグングニルが完成したので報告に来たのですよ」
「へえ、やっとあれが完成したのですか。予定よりも随分と遅れていたから半ば諦めていたのですが、それは何よりです」
「そう厳しく言わないでほしいですね。さすがにあれほどの物を仕上げるのは我々とて容易ではありませんよ」
「それは、そうでしょうね」
あれは魔導技術を極めたエリーゼですら作り出すことはかなわぬ正しく神器としか言いようがない代物だ。死神たちですら二つ作るだけで千年以上の月日がかかったのも無理はないだろう。
「でもやっと駒が揃いました」
カーリーとドゥルガー。そしてあれは人間が扱うには過ぎたる力だろう。
しかし、ベヅァーとの戦いの為には必要な力なのだ。いずれ必要となるその時にそれらは私たちの力となるでしょう。
解説
■ロゴス
裏死海文書の鬼械神として登場したオリジナルの機体。イメージとしては細見のアイオーンと言う感じである。
■ジャン
未来において裏死海文書と契約した魔術師。といっても契約する前は素人であったために魔術師としての実力は極めて低い。おまけに復讐心に振り回されて暴走気味なので短命で終わりそうな人である。