二人の魔女   作:ADONIS+

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46.グングニル

 時空震に巻き込まれた次の瞬間、エリーゼたちが乗ったカーリーはまた別の世界に移動していた。その場所は宇宙空間とも違う、なにか得体のしれない空間だった。

 

「姉様、これは次元空間です」

「次元空間という事は…」

「はい、ここは『魔法少女リリカルなのは』の世界です」

 

 リリカルなのはの世界には三千世界監察軍本部が存在しており、エリーゼたちにとってはある意味最もなじみの深い世界とも言えた。最もエリーゼたちが行く事が多いその世界はあくまで無限に存在する『魔法少女リリカルなのは』の並行世界の一つにすぎないから、この世界がその並行世界である保証はどこにもない。

 

「奴はどこ!」

 

 エリーゼが索敵の為に探査魔術を走らせると、ベヅァーは比較的近くにいた為にすぐに発見できた。

 

『くくくっ、下位世界を飛び越えながら行われる戦い。世界の壁も時間も壁も我らには障害となりえない。訪れる世界を崩しながら巨大な力をぶつけあう。まさに我らの戦いに相応しいと思わないかトリッパーよ』

 

 そこにベヅァーの嘲笑交じりの通信がカーリーに入って来た。これにはエリーゼも一瞬眉を顰めたが別に驚く事でもない。そもそもベヅァーが取り込んだジュデッカは元々はカーリーと同じ監察軍で製造された兵器なのだ。当然ながら通信機の規格も同じであるし、それを利用すればこちらに通信を送るなど当たり前にできる。

 

「戯けた事を、私はそのような事に興味はないわ。あるとすれば貴様を討つという事だけよ!」

『ほう、それができるとでも?』

 

 完全に舐めきっているベヅァーの嘲笑交じりの声を聞いてエリーゼは微笑した。確かにベヅァーの強さはこちらの想定を遥かに超えている。今のままでは勝ち目はないだろう。とはいえ、もう勝った気になっているのは油断し過ぎであるが、ベヅァーと敵対しているエリーゼにとっては好都合だった。

 

 

 

「明美、グングニルを出すわ」

「はい」

 

 カーリーの右手から闇が発生して、そこから一本の巨大な槍が出現していく。それは次元どころか異世界間の壁すらも超越して持ち主の召喚に応じて如何なる下位世界であっても出現する神器グングニル。それは文字通り神に属する死神たちが作り上げた至高の槍であった。

 

「スーパーモードに移行!」

 

 エリーゼはカーリーを通常戦闘用のノーマルモードから全力戦闘用のスーパーモードに移行させる。それに合わせてグングニルは各地の下位世界にアクセスして、そこから膨大なエネルギーをかき集めていく。

 

 このグングニルは、第一次ベヅァー戦争でミズナが下位世界からエネルギーを集めてベヅァーを倒した事を参考に死神たちが製作した神器で、この時と同じように各地の下位世界からエネルギーを集めて取り込む事ができる。

 

 通常、鬼械神カーリーはディス・レヴの力だけで戦闘するノーマルモードでも十分すぎる力を発揮できた為に、グングニルによるパワーアップを用いたスーパーモードは明らかに過剰な物であった。エリーゼも念の為に用意しただけで実際に使うつもりなどなかった機能であったが、皮肉な事にそれを使用して戦わなくてはいけない状況になってしまった。

 

『各地の下位世界からエネルギーを集めているだと! そうはさせん!』

 

 スーパーモードに移行したカーリーは、下位世界から集めたエネルギーを取り込んで全身を金色の光に包まれている。そんなカーリーを見てエリーゼがグングニルを用いて行っていることに気付いたベヅァーはそうはさせぬとカーリーに襲い掛かるが、カーリーはそれを捌いていく。先ほどまでは圧倒的な力の差があったが、今では同じぐらいであり守りに徹するカーリーに対してベヅァーは攻めきれずにいた。

 

 これまでと同じ光速を超えた超光速で繰り広げられる激しい攻防、それをカーリーは槍を用いて互角の戦いをやっていく。いや徐々にカーリーがベヅァーを押していくようになった。

 

『ば、バカな人間がこれほどの力を制御できる筈がない!』

 

 とうとうベヅァーを大きく上回ったカーリーに弾き飛ばされたベヅァーがそう絶叫する。最もベヅァーが驚くのは無理もない事だったりする。

 

 そもそも第一次ベヅァー戦争後に監察軍が対ベヅァー兵器を開発する為に推進していたスーパーロボット計画は半ば失敗に終わっており、多くのスーパーロボットが計画されたにも関わらず要求される性能を満たすことができたのはカーリーとドゥルガーの二機だけだった。

 

 これには勿論理由がある。そもそも人間サイズの人造人間の限界から、人間の数十倍もの大きさを誇るスーパーロボットを作ろうとし、その動力として無限力に目を付けたまでは良かったが、肝心のパイロットの能力が問題だった。

 

 言うまでもないが、ベヅァーとの戦いはそのあまりの強さから超光速で行わるものである。こうなるとスーパーロボットを動かすパイロットは超サイヤ人のような次元違いの身体能力を持っていない普通の人間なので、いくらシステムで補助してもその反応速度についていけなかったのだ。

 

 これでベヅァーと戦うなら、OSが未完成でまともに動くこともできない初期のストライク(機動戦士ガンダムSEED)のようにのろのろ動いて的になる様な戦いしかできない状態であった。では有人機を諦めて無人機にすればいいと思うかもしれないが、それは無人機を否定する総司令官トレーズの意向と、規格外な力を持つスーパーロボットの無人機が暴走したらとんでもないことになるという不安によって却下されている。

 

 こうした理由からスーパーロボット計画は頓挫してしまい、後にカーリーとドゥルガーが完成するまでは失敗の烙印を押されていたほどだった。では鬼械神カーリーとドゥルガーは何処が違っていたのかと言うと、無限力を採用していたのは同じであったが、パイロットの能力向上システムや補助システムが違っていたのだ。

 

 カーリーとドゥルガーには主動力としてディス・レヴを搭載していたが、他にも霊子動力炉を搭載しており、この霊子動力炉がパイロットである魔術師の魔力をバックアップする事で、その能力を次元違いに高めていた。これは元々バスタード世界でD・Sがユダの痛みを用いてその能力を思いっきり向上させていたのを参考に、より安定してより安全に能力を向上させる仕組みとして採用したものだった。

 

 最も霊子動力炉があれば誰でも可能というわけではなく、エリーゼの様な規格外な魔術師と、強い力を持つ魔導書である明乃のサポートがあって、初めてそれだけの魔力を制御できているのだ。仮に普通の人間やそこいらの二流魔術師が使ったりしたら膨大な魔力を制御できずに自滅するだけだろう。

 

 つまりベヅァーと戦う事ができるスーパーロボットという代物は魔術師、魔導書、鬼械神の三位一体がそろって初めて誕生した奇跡だったのだ。そして、エリーゼたちはグングニルという神器を使う事で更なる高みに至る事になる。

 

 

 

 そのカーリーとベヅァーが対峙していると、不意に空間が歪み、赤い鬼械神ドゥルガーが現れた。ドゥルガーはカーリーと同じグングニルを持ち黄金の光を纏っていた。

 

「アイシャ、グングニルの力でこちらに来たのね!」

『ええ、お待たせエリーゼ』

 

 こちらに通信を送るアイシャ。グングニルにはユグドラシル・システムの簡易版とも言うべき機能があって、更にエリーゼたちが持つ二つのグングニルはリンクしており、一方が存在している世界に移動する事も可能だった。

 

『あいつも下位世界から集めた力を取り込んでいるのか!』

 

 ベヅァーが怒声を上げる。今のカーリーだけでも勝てないのにドゥルガーの相手もしないといけないのだから当たり前だろうが、私たちはそんな事で情けを掛けたりはしない。

 

「アイシャいくわよ」

「ええ」

 

 カーリーとドゥルガー。二機は僅かな乱れもなくそろってグングニルを構えてベヅァーにその槍先を向ける。それは双子の姉妹であり、長年パートナーを組んでいた二人ならではの見事な連携だった。

 

「「消えなさい。ベヅァー!」」

 

 エリーゼたちは二つのグングニルから巨大なエネルギー波をベヅァーに向けて放った。そしてそれはベヅァーを飲み込んでいく。

 

『ぐあああ、バカな! こんなバカなーーー!!』

 

 ベヅァーはそれに抵抗しようとするが、それができずに飲み込まれていく。今のカーリーとドゥルガーの戦闘能力はベヅァーを完全に上回っている。そんな格上の相手が二人ががりで攻撃しているのだから、とてもじゃないが防ぎきれるものではないだろう。

 

 ベヅァーに取り込まれたジュデッカがそのエネルギーで撃破されて、そしてそれに取りついていたベヅァーも完全に消滅した。それだけでなく、このすさまじい攻撃の余波で大規模な次元断層まで発生してしまった。

 

「姉様、次元震です!」

「ええい、またですか!」

 

 次元空間で発生した次元断層は大規模な次元震となり、カーリーとドゥルガーはそれに吹き飛ばされてしまった。

 

 余談であるが、この時は『魔法少女リリカルなのは』の世界の旧暦462年で、この大規模次元震によって周囲の次元世界を崩壊させるという歴史の残る惨劇となり、後の時空管理局設立のきっかけとなった。




解説

■グングニル
 死神たちが対ベヅァー用に製作した究極神造兵器。あらゆる下位世界の並行世界の一部を凝縮して作成されている為、監察軍が用いているユグドラシル・システムに因んでグングニルと呼ばれている。その力は規格外そのものである為にその製造は極めて手間がかかり、死神たちはこれを二本作るだけで千年以上の時間をかけている。そのあまりの大きさゆえに人間どころか18m級のモビルスーツですら扱える物ではなく、55mという常人の三十倍もの大きさを持つカーリーとドゥルガーでないと扱えないほどの大きさである。

■スーパーモード
 カーリーとドゥルガーに搭載されている全力戦闘用のモード。負の無限力ディス・レヴによる膨大なエネルギーだけでなく、各地の下位世界から供給させる膨大なエネルギーを取り込む事で、唯でさえ強大な戦闘能力を桁違いに高めることが出来る。このスーパーモード発動時には機体の周りが黄金の光に包まれる為に一目でそれがわかる。理論上は通常戦闘時の数百倍まで戦闘能力を向上させる事ができるが、現実問題としていくらエリーゼたちでもそんなとんでもないエネルギーは制御出来ないので、今回は戦闘能力を通常戦闘時の三倍に引き上げているだけである。

■次元震
 リリカルなのは世界の旧暦462年に発生したいくつもの次元世界を滅ぼした次元災害。この世界ではエリーゼたちの戦いの余波で発生している。

■戦闘力
 気の強さを表す単位で、『ドラゴンボール』で使用させている。カーリーとドゥルガーは気を用いていないが、その強さを戦闘力で表現すると下記のようになる(1垓は10の20乗)。
 カーリー&ドゥルガー(ノーマルモード):戦闘力10垓
 破壊神ベヅァー(第二次ベヅァー戦争時):戦闘力15垓
 カーリー&ドゥルガー(スーパーモード):戦闘力30垓
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