ヌルを撃退した後、カオスはヌルの残した施設をぶんどって研究に励んでいて、私も金稼ぎに励みつつもカオスと共同で研究をすることになったが、真っ先に私たちとカオスがやった研究は脳の記憶容量の克服だった。
通常、常人は脳の三分の一も使いこなせずに人生を終わらせるものだが、稀代の錬金術師であるカオスは全盛期の現在では脳を完全に使いこなしている状態だった。
しかし、人間の脳には容量の限界という物がある。その為、原作ではカオスはこの脳の限界により物覚えが悪く、過去の知識や技術をトコロテン式に忘れてしまっていて、ガラクタしか作れない状態にまで落ちぶれていた。
実のところ、カオスの記憶力に関しては私たちも大いに悩んだ。カオスにこの問題を指摘して対策するようにするか、それともそれを無視して原作通りにするか。
その結果、私たちはカオスにこの問題を指摘して、これを解決するために一緒に研究しようと持ち掛けた。
やはり何だかんだといってもカオスとは付き合いが長いし、それなりに良好な関係である。そんなカオスが後々に困る事になると分かっているのに知らんぷりをするのはあまりにも薄情だからね。
ここで記憶容量の克服と言ってもいろいろと案がある。
ミサカネットワーク(とある魔術の禁書目録)をヒントに複数の人間の脳をネットワークで連結させるという方法もあるが、これは非人道的なので却下した。
結局、パソコンの外付けHDD(ハードディスクドライブ)のように外部補助記憶装置を作ってその装置にカオスの記憶をコピーしてリアルタイムで連結するという手段が採用された。
ちなみに私を含めたトリッパーの場合は脳の記憶容量はたいした問題にならない。というのも記憶というのは脳だけでなく魂でも憶える事ができるからだ。
少し考えれば分かる事ですが、脳は肉体が経験した事を記憶する仕組みになっています。
つまりその体が経験した事のない事は覚えられないわけです。そうなると私達トリッパーが前世の記憶を持っている事が説明できないが、その穴を埋めるのが魂の記憶です。といっても誰でも魂の記憶を使えるわけではなく、肉体を持たずに魂だけで存在する者やトリッパーとかでないとまともに使えません。
普通は魂を持つ生物が死亡した場合は転生するが、その魂の記憶は消去されるか、封印されるかされる(その辺りはそれぞれの世界によって異なる)。
しかし、トリッパーの場合はその記憶を維持したままで下位世界にトリップして転生か憑依をするので前世の記憶を使えるし、その影響もあって魂の記憶を使いこなせるようになるのだ。
この魂の記憶は意外に便利で、脳の場合は容量に限りがあるのでカオスの様な問題が発生するが、魂の場合は容量が桁違いなのでシドゥリのようにやたらと長生きしているトリッパーでも問題にならないのです。
その次に行われたのが人工霊魂の生成でしたね。
試作M-666はすでにほぼ完成状態で、後は人工霊魂の問題だけでしたから、その理論も私たちとカオスが協力して実用化しており、無事に成功しました。
原作ではマリア姫の死後にM-666を彼女と同じ顔と名前にしていましたが、どういうわけかこの世界では比較的早くマリアが完成しました。といっても本格的な起動はかなり後にしてしばらくお蔵入りするそうです。
流石に今の時点でマリア姉さんと同じ顔と名前の女性型ロボットを大っぴらに動かすことはできませんからね。
まぁ私たちとしては共同作業でM-666の製造技術や人造霊魂のノウハウも手に入れられたので大いに有意義だったし、カオスも当時はあまり力を入れていなかったソフトウェア分野は私たちの協力でかなり向上しているので、お互い得るものが多かったです。
おかげでマリアは原作よりも感情が豊かで人間に近い状態になりました。
そして私たちは別に研究ばかりしていたわけではありません。折角GS世界にいるのだからと、魔術だけでなく霊能の訓練もしています。ぶっちゃけると領内の除霊は積極的にやっていますし、白魔術などを使い日照りの時は雨乞いをして、怪我人や病人がいれば治療をしたりもしました。
魔女だけに大鍋でトカゲなどを煮て薬を作ったりもしましたよ。というか魔女の知識は直接戦闘よりもそういう物が多いですね。
おかげで私たちは優秀な白魔術を使う魔女として領地だけでなく近隣諸国にも知れ渡るようになり、周囲の圧力が怖くなりましたよ。
まぁこれを克服するために国内や近隣諸国の有力者(特に力を持つ王侯貴族など)の怪我人や病人を助けてあげたりして、恩を売りまくりました。
中には魔法でどうにかできない場合もあって、監察軍の医療技術を白魔術と偽って治療に使用した事すらありましたが、これが大いに役に立ちました。
誰だっていつ自分や家族が病気になるか分かりません。そうなると極めて優秀な白魔術の使い手を安易に排除できないわけです。
こうした地道な活動が実って、私とアイシャの名は欧州に広く伝わる様になりました。何時しか私たちは13世紀最高の白魔女姉妹と呼ばれるようになりましたね。
ちなみに魔女になった上に不老である私達は結婚することなく、マリア姉さんが有力な貴族の次男を婿に迎えました。元から高齢だった父が亡くなってからは夫婦で領地を経営しています。
マリア姉さんはカオスを愛しているようですが、限りある命しかない自分ではカオスの負担になると原作でもカオスのプロポーズを断っていますが、跡取り娘であるから後継者を産む義務があるので、この辺りはマリア姉さんも大変ですね。
そして時間が過ぎていき五十年程たった1294年にマリア姉さんが亡くなりました。この時代からすれば寿命と言えるほど長生きしていますが、これには不老となった私達との違いがはっきりと認識させられました。
正直言って、もうこの世界で吸収できる知識や技術は少ないし未練もありません。それに、新たに領主となったマリア姉さんの孫は熱烈なキリスト教徒でカトリックの教えからはみ出ている物をやたらと敵視する困った小僧です。
当然ながら私達やカオスとの仲は最悪で、これにはカオスも嫌気が指して私たちと同じくこの領地から出ていくことにしたそうです。
こうして私たちはカオスと別れを済ませて、この世界から去りました。
後に聞いた話ではこの馬鹿孫は私の知識を悪しき物として排除したため、四周期輪作を止めて昔からの農業に戻して、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシなどを魔女がもたらした物として排除した為に欧州から失われることになったそうです。
実はこれらの農法や作物は歴史に与える影響が大きいから余所に広めずにうちの領地だけでやっていたので、この愚行で一気にすべてを失う結果になりました。
この結果、欧州の地で再び四周期輪作が行われて、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシなどがもたらされるのは後世になってからになりました。
もしかしたら、これも時空の復元力の働きかもしれませんね。まぁ今となってはどうでもいいですが。
解説
■人造人間 試作M-666
後の女性型ロボットのマリアで、世界初の人工霊魂の成功例。
■白魔術
好ましい目的で使われる魔法や魔術。一般的に恋愛成就、雨乞い、豊作祈願、紛失した物を見つけ出す、壊れた物を修復する、病気を治療するなどといったものが該当する。