8.職業(上の世界編)
ゼロの使い魔の世界から撤退した私たちは休養を兼ねてしばらく監察軍本部でニート生活をしていた。といっても本当に怠けていたワケではなくて、仲間とのコミュニケーションを取る事や、次の世界に行く準備をしていた。
幸い監察軍にはトリッパー専門の娯楽施設を兼ねた各種原作資料のレンタル施設があり、そこで私たちは最近SFC版『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』とその攻略本をレンタルしてやりこんでいます。
そう、私たちが選んだ次の世界はドラクエⅢなんですよ。
実のところ、前世ではオリジナルのファミコン版を少しやった事があるけど、リメイクされたSFC版はやった事がなかった。更に言えばファミコン版もちゃんとクリアまでやっていないから原作知識が中途半端だ。
監察軍では以前はこういう場合は苦労したそうですが、近年では原作知識を得る為の資料とその為の施設が充実してきたので、改めて原作知識を知る作業が楽になりました。その為、攻略本を読み込んでゲームをプレイして、ドラクエⅢの原作知識を身に着けています。
言うまでもなく、この手の原作知識というのはトリッパー達の利点なのでしっかりやらないといけませんからね。
これまで原作知識を利用して最大限に利益を得つつも、危険を見事に回避できたのも原作知識が役に立ったからです。だから情報(原作知識)がいかに大切なのかは、私たちも十分に理解しています。
そんなこんなで、私たちは原作開始16年前のドラクエⅢの上の世界に来ました。ドラクエⅢは上の世界と下の世界(アレフガルド)の二つの世界が舞台になっていますが、私たちは上の世界で活動します。
ちょうどこの時期は魔王バラモスが上の世界に侵攻してきてアリアハンの勇者オルテガがバラモス討伐の旅に出かけた所です。
さて、この世界はゲームの内容をそのまま具現化した下位世界ですが、ちょっと勝手が違うところがあります。具体的には職業がそうです。
ゲームでは主人公が最初から勇者になっていて転職が不可能な状態になっている上に、仲間もルイーダの店で簡単にパーティ編成できるので分かりづらいですが、誰も最初から職業についているわけではありません。ましてや異世界からおとずれた私達なんかは無職状態です。つまりプー太郎ですね(笑)。
では、どうやって職業に就くのかというと、ここで出てくるのがダーマ神殿です。
てっきり転職する時以外はようがないと思っていましたが、ダーマ神殿に行って最初の職業を決めないといけないらしいです。
ここで職業を決めて初めて冒険者になれて、そうした人たちがアリアハンにあるルイーダの店に出入りしているというわけですね。
とにかく、職業を決めないと経験値稼ぎもできないので、私たちは始まりの街に相当するアリアハンをすっ飛ばしていきなりダーマ神殿に転移した。
「さてと、アイシャ最初はどの職業にする?」
「そうだね。転職の組み合わせも考えないといけないから悩みどころだね」
この世界では、ドラクエの呪文を覚えようと思っています。この世界の魔法はゼロの使い魔みたいに発動体が必要だったり長々と呪文詠唱があったりしないので、実戦向きですね。おまけにベホマは呪文一つで完全回復できたりするので使い勝手はいい。
ただ残念なのが、この世界の蘇生魔法は私たちトリッパーには効かない事ですね。下位世界の人間なら死んでも呪文一つで蘇る事が出来るのですが、私たちの場合は中々上手くいかないからゲームみたいに死んでも王様が生き返らせてくれるなんて事はありません。
つまり死んだらおしまいですね。どこかのVRMMO物で有名なデスゲームみたいな状態ですよ。だからこそ無茶はできない。蘇りが当たり前のRPGの世界ですが、これまで通り慎重にやりますよ。
「やはり遊び人→賢者に転職という形かな?」
「でもさ。その前に盗賊→武闘家→戦士というのも捨てがたいよ」
「確かにそうですね。じゃあ盗賊→武闘家→戦士→遊び人→賢者という順にしようか?」
「そうだね」
と、アイシャが承諾したので最初は盗賊にした。
ドラクエⅢの転職システムを利用すれば、戦士になれば剣や斧を使った戦闘ができるようになるし、武闘家になれば素手での戦いを鍛えることができる。いずれも私たちに不足しがちな近接戦闘能力の向上になる筈です。
私たちはチート能力とこれまでの経験もあって、魔術師や魔法技術の研究者としては大賢者も足元にも及ばないほどになりましたが、接近戦の技量は凡人なんですよ。
こればかりは地道に改善していくしかないので、この世界のシステムを利用してそこを鍛えるつもりです。
それと盗賊というのは、この世界では役に立ちそうな魔法を覚えられるので最初の候補に入った。まぁ盗賊は能力が中途半端だから序盤はいいけど、中盤以降は使い勝手が悪いからレベル20になって魔法を覚えたらさっさと転職ですね。というわけで私たちは盗賊になった。
「これが盗賊ですか。何か今までと変わらないな」
「服装もそのままだね。まぁよく考えたら当たり前だけど」
ゲームでは転職によって衣服だけでなく外見まで変わっているが、よく考えたら現実ではそうなる筈がない。
ゲームでは分かりやすくするために変更しているだけで、この世界では職業が変わっても能力値が変動する程度の様で外見や服装とかは変わらないようですが、装備可能な武器や防具は職業によって決まるようなので、この辺りはゲーム遵守だね。
私とアイシャはともに職業は盗賊なので、盗賊二人組のパーティという事になる。普通に考えたらバランスが悪いが、私たちの場合は異世界の様々な魔法が使えるので、それを補う事は簡単だった。
本当は他にも仲間を入れた方がいいけど、私たちの使う魔法はこの世界に存在しない物であるため、人目につきたくないので、二人編成のパーティをやる事にした。
ちょっと心もとないけどオルテガなんかは一人でやっていたからそれよりはマシだろう。
こうして私たちは異世界の魔法を使いながらレベルアップに励むのだった。
そんなわけで、私とアイシャは盗賊でレベル20になると、武闘家になってまたレベルアップに励んだ。
この時には格闘戦の経験を積んでおきたかったので、戦闘中は出来るだけ格闘で戦い、レベル20になると戦士に転職して剣や斧での戦闘をやりこんで、レベル20になると遊び人に転職した。
正直これまで魔法ばかりで近接戦闘は殆どやっていなかったんですよね。戦闘にしても長距離殲滅が主体でしたし、仮に目視距離の戦闘になっても白兵戦は避けていました。
これまでは固定砲台として力をふるっていたわけですが、今後の事を考えると「接近されたらおしまいです」ではやっていけないので、ここは苦労してでも近接戦闘を身につけないといけない。
最も武闘家や戦士の戦い方となると、私たちのチート能力による補正の対象外ですから、これまでのような急成長なんてできずに四苦八苦する日々でしたね。といっても死んでしまったら元も子もないので、安全マージンを取るためにレベルが低い時はスライム相手に頑張っていて、徐々に強い相手と戦うという本当に慎重な戦いをやっていました。
こうして苦心の末に接近戦の修練をやって遊び人になったので、これからは効率重視のレベルアップに切り替える事にした。
この世界には塔や洞窟などにモンスターがいる。通常はそこに潜ってモンスターと戦いレベルアップに励むが、私の場合は竜破斬(ドラグ・スレイブ)で塔や洞窟を丸ごと潰した。他にもモンスターの集まっている場所とかにも超長距離から竜破斬(ドラグ・スレイブ)を打ち込みました。
この世界はモンスターを殺せば経験値を得てレベルアップするという世界観なので、この反則的な行動でも経験値が手に入った。
この場合、その場のモンスターたちをすべて倒した事になり、大量の経験値が得られるのだ。たった一回でレベル20を超えたので役に立たない遊び人を卒業した。
正直RPGの世界観をガン無視している行動ですが、問題なくレベルアップできているので構わないでしょう。まぁ他のトリッパーとかには空気読めよと言われるかもしませんけど(笑)。
そんなわけで、とうとう念願の賢者に転職しました。
この賢者は魔力が高い上に魔法使いと僧侶の魔法をすべて使えるという職業で、レベルアップが遅いという欠点があるけど、そこは効率よく経験値を得られる私たちにとってたいした問題にならない。
ちなみにドラクエ3の転職システムは転職することでステータスが半分になる。私たちは転職を何回も繰り返したから、これまで得た能力も低下するのではないかと懸念していたが、実際に低下するのはこの世界の魔法を使う能力だけでしたね。
つまり転職のデメリットは異世界の魔法を使う能力までは影響しないというワケです。
しかし、反則染みたレベルアップのやり方で賢者としてレベルを上げまくっており、習得した魔法も一通り試してみた。こうしてDQ3の魔法は一通り習得しましたが、これからが私たちの真骨頂です。
まず、『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』で登場したメドローアを初めとしたオリジナル魔法を片っ端から試してみました。これは私たちでも即座にできる事ではなく習得に数時間かかりましたよ。逆に言うとそれほどの事をたった数時間で出来たからすごいと言えるかもしれませんね。伊達にチートじゃありません。
次に、『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』で登場した二つの呪文を組み合わせる合体魔法を試してみました。流石にこれには苦労するだろうと思っていましたが、私たちが高レベルの賢者であった為に、これらも多少の試行錯誤で習得することに成功した。
漫画でも二つの呪文を合体させる事で威力がかなり強化された魔法や、特殊な効果を発揮する魔法とかもありました。とりあえず原作で登場した合体魔法の組み合わせは片っ端から試してみましたし、他にも私たちが思いついた組み合わせによっていろいろな合体魔法を作り出してみた。
それと、忘れてはいけないのが世界樹です。この上の世界には世界樹があるので、私たちはそれを探し出しました。勿論、世界樹の葉も研究材料として興味深いものですが、もっと欲しかったのは世界樹の枝ですね。それは私たちの考えているあるアイテム作りの材料になるでしょう。
本当は世界樹を伐採して丸ごと持ち帰るというのもありかもしれませんが、さすがにそれはやりすぎですし、恐らくそこまで必要としないと思うので、私たちは世界樹の一部の枝を切り落して回収して、ついでにその枝に系統魔法の固定化をかけておいた。
こうして、楽しんでいると私たちがこの世界にきてから20年もすぎてしまい。主人公が魔王バラモスを討伐したという噂を聞くことになりました。こうなると、上の世界のモンスターも大人しくなりますし、もうこの世界で得る物はないので、この世界から引き上げる事にした。
解説
■各種原作資料のレンタル施設
『短編及び中編集』の原作知識で登場する各種施設。
■SFC
スーパーファミコンの略称。
■盗賊
SFC版で追加された職業なので、原作のファミコン版には登場しない。
■DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
オリジナルのドラゴンクエスト世界を描いた漫画作品。漫画であるためか、ゲームでは登場しないオリジナルの技や呪文なども登場しているが、後にそれらの一部は後のDQシリーズに取り入れられている。
■ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章
ドラゴンクエストⅢの百年後の世界を舞台にした漫画作品。
■合体魔法
大賢者カダル(ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章)が編み出した二つ以上の呪文を合体させる秘術。
■固定化
『ゼロの使い魔』に出てくる系統魔法の一つ。物品を長期間保管するのに向いていて、原作では太平洋戦争時のゼロ戦もこの魔法で劣化することなく保管されていた。