戦姫絶唱シンフォギアCW   作:とりなんこつ

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EPISODE 3 蒼穹の回天

 

 

 

 

 

雪音クリス宅に、立花響と小日向未来が泊まり込んで早一週間が経過している。

その間、クリスが危惧するような出来事は何も起きず、寝不足とストレスを感じながらそれなりの心の安寧を得ていた。

対して未来が響を二人きりで独占できないことにそろそろフラストレーションを抱きつつあったころ。

 

その事件は勃発した。

おそらく、全ての装者たちが忘れえぬ事件が。

 

 

 

 

 

 

「福岡にアルカ・ノイズの出現を確認ッ!」

 

S.O.N.G.司令部に藤尭朔也の声が響く。

 

「北海道函館市内にて自衛隊がアルカ・ノイズと交戦中! 援軍の要請が入っていますッ!」

 

友里あおいも吠えるように報告した。

 

「…止むを得ん! 切歌くんと調くんを緊急派遣だ!」

 

命令を下し、弦十郎は拳をデスクに叩き付ける。

現在、日本全土で同時多発的にアルカ・ノイズの出現が確認されていた。

旧ノイズに比べ普通の重火器にて駆逐可能ではあるが、それでも物理攻勢に対し圧倒的なアドバンテージを得ていることには変わりない。

さらに出現した場所が都市部であることも混乱に拍車をかけている。

逃げおくれた市民などで混沌としている市内に、強力な兵器の投入は躊躇われていた。

となれば対ノイズに特化したシンフォギア装者の出番であるはずだが、もともとS.O.N.G.は少数精鋭の特殊部隊だ。

限定的かつ特殊な作戦に投入されるのが本来的なもので、大規模な防衛戦への運用など元から想定されていない。

 

「ただでさえ少ない戦力を分散させるなど、兵法から逸脱しているにもほどがある…ッ!」

 

呻く弦十郎は、この大規模な同時多発テロが発生したことに対し、部下たちへの苦言を呈すつもりはない。

このような事案が発生する可能性は十分に検討されていた。

対アルカ・ノイズマニュアルなども策定し、防衛省にも働きかけている。

その件に関しては上でも色々と政治的な悶着があったらしく、現場へと精確にトップダウンされたかは疑わしい。

が、水際で阻止できず、後手に回ったことは司令である自分の責任だと弦十郎は考えている。

今さら悔やんでも仕方のない話で、漏れてしまった水はこれ以上零さないようにするしかない。

 

「敵の狙いはッ!?」

 

追い詰められたパヴァリア光明結社残党と、欧州の錬金術師の過激派たちが手を組んだとの情報は把握していた。

大規模な掃討作戦は立案されていたが、先手を打たれて逆に攻め込まれている現状だ。

半ば暴走した自爆テロなのか?

それとも各地に装者たちを分散誘導するのが目的か?

後者の場合であれば、目的ははっきりしている。S.O.N.G.が擁する聖遺物の数々。

特に存在自体が秘匿されているギャラルホルンは、使いようによっては世界を滅ぼしかねない。

これは絶対に敵の手に渡すわけにはいかなかった。

本部である潜水艦は深海まで沈降してしまえば取りあえずは安全が確保できるだろう。

しかし、風鳴翼は沖縄へ飛び、立花響は大阪だ。マリアは福岡へ急行中で、切歌と調は先ほど北海道へ向けて出撃している。

残る装者は雪音クリス一人のみ。

いわば最後の切り札であり、このカードを切る判断は弦十郎に委ねられている。

 

「ッ! 東京湾上空に多数のアルカ・ノイズの出現を確認ッ!」

 

「…是非もなし! 緊急浮上だッ!」

 

藤尭にそう命じ、弦十郎は待機室へといるクリスへ声を飛ばす。

 

「行けるか、クリスくん!」

 

「まかせときなッ!」

 

浮上した潜水艦のカタパルトからクリスが飛び立つ。

空には輸送型アルカ・ノイズが無数に浮かび、そこから雲霞のごとく飛行型を吐き出し続けている。

標的は、おそらく日本国首都東京。

 

「やっぱりド本命はこっちかよッ…!」

 

既にイチイバルを装着したクリスのアームドギアから無数の弾丸が放たれた。

クリスが本部へ残ったのは伊達ではない。

彼女のシンフォギアほど広域攻撃力を持つ装者はいないからだ。加えて飛行型にも強力な相性を誇る。

 

「さあて、楽しいパーティをしようぜッ!」

 

吠えるクリス。

 

弾丸が放たれるたびに、ノイズが次々と炭化して散っていく。

まるで半紙に穴が穿たれるがごとくノイズが殲滅されていく。

自ら精製したミサイルの上で空を縦横無尽に駆るクリス。

都心部へ至らせず海上で迎撃する彼女の手腕と活躍は、絶賛されて然るべきもの。

しかし―――。

 

「クソッ、在庫の一斉セールかよッ!」

 

減らす端から輸送型が現れ、同時に飛行型も補充されている。

単独で決定力を欠き、迎撃するので精一杯なクリスの様相は、消耗戦となりつつあった。

シンフォギア装者とて無限の体力を持っているわけではない。

敵のノイズが潰えるのが先か、それともクリスが体力を使い果たすのか先か。

 

『こちら翼ですッ! ノイズの殲滅を完了しました! 至急帰投しますッ!』

 

『待っててクリスちゃん! こっちはもう少しで全部倒せるからッ!』

 

『OK、こっちも全滅を確認したわ。すぐに戻るから待ってて!』

 

『クリス先輩、頑張ってくださいデスッ!』

 

『終わったらすぐに切ちゃんと駆けつけます!』

 

日本全国に散った装者より次々と入る通信。

仲間たちの激励にクリスは奮起するも、弾幕に間隙が生じ始める。

 

「まだだッ! まだまだいけるッ!」

 

歯を喰いしばり、さらなる弾丸を撃ち続けるクリスだったが、彼女の消耗具合は傍目にも明らかだった。

 

「…限界だな」

 

誰にも聞こえないよう、口中で弦十郎は呟く。

それから背筋を伸ばし、発令所全体に響き渡るような大喝で命令を発した。

 

「これより本部は全速力で沈降するッ! 聖遺物の安全確保を最優先事項とせよッ!」

 

他の装者たちの救援は間に合わない。

取りこぼしたノイズは、首都圏上に自衛隊が防衛ラインを構築してはいるものの、甚大な人的物的被害を齎すだろう。

それが分かるだけにクリスは引かない。全身全霊を振り絞り戦い続ける。

自分の責任で他人が傷つくことを、彼女は何よりも忌避しているのだから。

弦十郎の断腸の決断は、すなわち、いまだ奮闘するクリスの覚悟を見捨てるということに他ならない。

万が一にでも敵の真の狙いが本部である可能性が捨てきれない以上、万難を排さなければならない。

感情を排し、冷静に優先順位を見定めた故の命令だった。

 

「…諒解しました」

 

覚悟を決めてはいたが、藤尭は忸怩たる思いで潜水艦の沈降プロセスを開始する。

 

「司令、どちらへッ!?」

 

鋭い声は友里あおいの発したもの。

 

何事かと振り向く藤尭の視界には、発令所を出ていこうとする弦十郎の姿があった。

 

「後先になるが、俺が船外に出てから急速沈降してくれ」

 

弦十郎は振り返った顔に屈託のない笑みを浮かべ、

 

「クリスくんに絶唱を使わせるわけにもいくまいよ」

 

声を失う藤尭と友里。

兼ねてより自重していた風鳴弦十郎の自らの出撃。

いよいよそこまで事態は追い詰められているのか、と重苦しい空気が蔓延する発令所内。

今まで沈黙を守っていたエルフナインが大声を出したのはまさにその時だった。

 

「司令! ちょっと待ってください!」

 

「どうしたッ!?」

 

「ギャラホルンが起動しています!」

 

「なんだとッ!?」

 

三者三様の驚きを響かせたのもつかの間、藤尭は即座にギャラルホルンのモニタリングを開始している。

 

「フォニックゲインを確認! これは…何か質量を伴うものががこちらに転移して来る!?」

 

「こんな時に、偶然なの…ッ!?」

 

モニター越しに友里は光り輝く聖遺物を仰ぎ見た。

終末の角笛と称されたギャラルホルン。それは無数にある並行世界の往来を可能にする脅威の力を秘めている。

 

「放出されたエネルギーが本艦の上に集約されていきます!」

 

エルフナインが叫ぶ。

 

「アウフヴァッヘン波形の固有パターンを確認!! ……なッ!? この反応は、まさか!?」

 

藤尭の驚愕の声に続きモニターに大きく表示される文字。

それを読み上げ、弦十郎も仰天するしかない。

 

 

 

 

 

「イチイバルだとぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の奥を刺すような激痛が絶え間なく襲い、時々視界が真っ赤に染まる。

疲労の極みに達しながらも、それでもクリスは歯を喰いしばり引き金を引き続けた。

だが、とうとうその努力も献身も限界を迎える。

薄くなった弾幕の隙間を縫うように、飛行型アルカ・ノイズが首都を目がけて飛んでいく。

今のクリスに残された体力では射程外だ。

もちろん追うだけの力も残っていない。

 

「…ちくしょうッ!」

 

クリスの目尻から悔し涙が弾け飛ぶ。

 

いま取り逃したノイズが、どれだけの人を殺すか。傷つけるか。

あたしに力が足りないばっかりに…ッ!

 

しかし、涙を振り切り、クリスは毅然と顔を上げる。

まだだ。まだ切り札がある。

装者の命そのものを燃やす絶唱。

体力を使い果たしたこの身でも、命を賭せばノイズを殲滅する力くらい絞り出すことが出来るはずだ――。

覚悟を決め、クリスが大きく息を吸い込んだ瞬間だった。

 

クリス自身、撃った覚えのない光線の軌跡が、遥か先行く飛行型アルカ・ノイズの群れを貫いた。

それだけではない。クリスの背後から、無数のミサイルや弾丸が次々と空高く駆けて行く。

そしてトドメとばかりに輸送型ノイズへ向けて飛ぶ12機もの大型ミサイル。

これはまさか。

 

「MEGA DETH INFINITY…ッ!?」

 

強烈な爆発音を響かせた蒼穹に、もはやアルカ・ノイズは一欠片すら残っていない。

硝煙染みた臭いを海風が洗い流していく中、クリスはおそるおそる背後を振り返る。

本部潜水艦の先端に、その人影は立っていた。

人影が身に纏う赤いFG式回天特機装束は、クリス自身が着装しているイチイバルと酷似している。

いや、イチイバルそのものだ。

そして、そのシンフォギアを纏う装者の顔は―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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