戦姫絶唱シンフォギアCW   作:とりなんこつ

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EPISODE 4 デュオ・アンサンブル

 

 

 

 

 

 

 

各々の戦場より帰投した装者たちは、身支度を整えるのもそこそこに、S.O.N.G.本部発令所に集まっていた。

壁際に整列する彼女たちの視線は、いま、司令席の風鳴弦十郎に対峙する人物へと注がれている。

 

並行世界から来訪したイチイバルの装者。

ギャラルホルンの能力で並行世界に渡ったことはあっても、その逆に向こうから突然訪問されるのは前代未聞である。

加えて、大惨事になりかけた危機を寸でのところで救ってくれたエトランジェは、この世界の装者たちにとって、非常に見知った人物でもあった。

興味をそそられる一方、この世界側の全員が揃いも揃って戸惑う様子を隠せないでいる。

特に装者たちにその傾向は強く、常在戦場を自認する風鳴翼の動揺っぷりも只事ではない。

そんな彼女たちの心情は、おそらく立花響の漏らした呟きに最大公倍数で凝縮されている。

 

 

 

 

「…なに、あのクリスちゃんの顔したスーパーモデル」

 

 

 

 

 

 

「あたしの首をすげ替え式みたいにいうなッ」

 

さすがに小声ではあるが突っ込まずにいられないクリスもまた動揺していた。

 

「いや、私も最初は縮尺が狂っているのかと思ったが、あれは間違いなく雪音だな」

 

「アンタも言ってることが大概ひどいぞッ!?」

 

しかしながら、並行世界から来たらしい雪音クリスがそう評されるのも無理はなかった。

見慣れた髪型こそそのままだが、すらりとした背丈は隣に立つ友里あおいより高い。

加えてS.O.N.G.の正規女性制服を纏う豊かでバランスの取れた肢体は、おそろしくメリハリを主張している。

 

「…なるほど。そちらの世界にもギャラルホルンが存在する、と」

 

「はッ。初の起動にあたり、突発的ではありますが、小官が並行世界の観測任務を与えられた次第です」

 

弦十郎からの質問にハキハキと答え、ピンと伸ばした背筋には凛とした雰囲気が漂う。

 

「転移直後にアルカ・ノイズの反応を察し、居ても立ってもいられなくなり許可も得ず戦闘へ参加してしまいました。先走ってしまった上に、まことに差し出がましいことを…」

 

「い、いや、それはこちらが逆に助けられている。改めて礼を言わせてもらおう」

 

「はッ。そう言って頂けると僥倖です!」

 

ピシッと敬礼をした後、彼女は懐からメモリースティックを取り出し机の上に置く。

 

「これには、私たちの世界の情報が入っています。情報閲覧するにあたり、ディレクトリ構造にしてありますので、適宜確認しつつ掘り下げて取得して欲しいと、()()()()()()()()()()()()()()()言付かっております」

 

「そうか。ではさっそく精査させてもらう」

 

細かい打ち合わせに入った司令席を遠目に、壁際の装者たちは小声で各々の感想を漏らし合う。

 

「…悔しいけれど、最高に仕事が出来るイイ女って印象よね」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴが親指の先端を噛みながら言えば、

 

「なんか大人の女性って感じデース」

 

と暁切歌はぽーっと頬を赤らめ、

 

「マリアより大きい…だと…?」

 

そう呟いて月読調はボーゼンとしている。

 

「うん、あれはクリスちゃんじゃなくてクリスさんだね」

 

立花響が締めくくった。

 

「おまえらなあ…」

 

並行世界とはいえ自分のことである。苦言を呈すればいいのか頭を抱えればいいのか。

対応に困るクリスの前に、打ち合わせを終えたらしいクリス()()がツカツカとやってきた。

 

「あなたたちがこちらの世界の装者ですか」

 

敬礼され、慌てて直立不動で敬礼を返す一同。

そんな一同の姿の上を、並行世界より来たクリスの視線が彷徨う。

そして止まった先は、こちらの世界のクリスだった。

自分から見下ろされるという不可思議な体験に戸惑うクリスに、

 

「初めまして、こちらの世界の私」

 

「お、おう? じゃ、じゃなくて、こちらこそ、初めまして…」

 

手を差し出され、おずおずと握り返すクリス。

そのままじーっと顔を覗きこまれる。

毎朝鏡で見慣れているはずだ。

なのに顔に血が上り、思わずクリスは叫んでしまう。

 

「な、なんだよッ! なんかついているのか?」

 

すると、並行世界から来たクリス―――クリスさんは、涼しい顔から一転、くしゃくしゃに破顔した。

 

「いや~、こっちの世界のあたしってすっげぇ小せえのな!!」

 

「ッ!?」

 

同じ勢いで崩壊した口調に、こちらの世界の装者たちは全員目を見張る。

そんな驚きの視線も意に介さず、クリスさんは胸元のネクタイを緩めると、

 

「あー、固い口調で喋って肩が凝ったぜ。おまけに制服も息苦しいのなんのって…」

 

「ね、猫被ってたのかよッ!?」

 

「ありゃ仕事上の余所行きってやつさ。素のあたしはこっちだぜ」

 

ニヤリと笑う。

 

「こっちのマリアに、調と切歌も元気そうだな、変わらねぇなあ」

 

ついでに、よっ! とばかり手を上げて三人に挨拶。

 

「なんだ、そちらの世界でも雪音はやはり雪音だったかッ!」

 

かつて飛んだ異なる世界で半グレの立花響が目撃されている。

こちらの世界と異なる要因で分岐しているのが並行世界であるから、並行世界から来た雪音クリスも何かしらの性格の変遷もあるかと身構えていたが、どうやら杞憂のようだ。

 

「こっちの翼さんも、やっぱ堅苦しい喋り方だな」

 

「翼さん、だと…?」

 

名前を呼ばれ、目を白黒される翼がいる。

 

「ありゃ? なんかおかしいかい?」

 

「い、いや、普段から先輩とかアンタとかしか呼ばれてなかったものでな」

 

「ふーん…」

 

何故か頬を赤らめる翼の横で、元気よく挙手する響がいる。

 

「すみませーん! 質問質問! そっちのクリスちゃんは歳はいくつなんですか?」

 

「ん? 17でリディアンの三年生だけど、それがどうした?」

 

「じゅうしちぃ!?」

 

その場にいたほぼ全員が異口同音に叫ぶ。

 

「あ、あたしたちは同じ歳ってことか!?」

 

「そうだよ? なんだ、どっか変か?」

 

そういってクリスさんはその場でくるくると回って見せる。

落ち着いた佇まいの高身長。加えて抜群のプロポーションのせいもあってか、こちらのクリスより遥かに大人びて見える。

 

「…一体、あちらの世界で何があったのかしら…」

 

マリアが茫洋と呟くが、誰よりも本気でそう訊ねたいのは当のクリス本人だ。

 

「まあ、見た限り、こっちの世界とあっちの世界では、それほど差異はないみたいだな」

 

などとクリスさんはのたまい、ぽんぽんと響の頭を叩きながら言う。

 

「こっちの響も、本当に馬鹿みたいに元気そうで、見てるだけで安心するぜ」

 

「…クリスちゃん、今なんて?」

 

「あ? 響、どうかしたのか?」

 

果たして、いきなりぶわっと両目から涙を溢れさせる響がいる。

 

「お、おいッ!? どうした? どっか痛かったかッ!?」

 

「ううん、違うんです。こっちのクリスちゃんは、いっつもわたしのこと、バカとかアイツとかしか呼んでくれないから…」

 

さめざめと泣く響の頭を撫でるクリスさんが、なぜかこっちを睨んでくる。

 

「な、なんだよ…」

 

「あたしが言うのもなんだが、頑張っている後輩の名前くらい呼んでやれよ」

 

「う…」

 

言葉に詰まるクリスを前に、更に切歌と調までが参戦。

 

「あー、それはいわゆるクリス先輩のテレ隠しデスね♪」

 

「そう、クリス先輩は恥ずかしがり屋さんだから」

 

「おめーらまで乗っかってくんのかよ!」

 

助けを求めるように周囲を見回せば、マリアはニヤニヤ笑いを浮かべ、翼も腕組みをしてウンウンと頷いている。

 

…なんだよ、ホームなのにこのアウェー感は!

しかも原因が自分自身ってのが救われねえッ!

 

喘ぐようなクリスの脳裏に、全く別ベクトルの危惧が浮かんだのは、決して窮地から逃れたいがためではない。

 

「そ、そういえば、並行世界間の同一人物同士は干渉し合うってのはどうなったんだ!?」

 

かつて、並行世界の響と精神が干渉しあった結果、こちらの世界の響が行動不能に陥った事実がある。

 

「その件に関しては、これから詳細に調べますけど、ひとまずは大丈夫かと思われます」

 

エルフナインがひょっこりと一同の輪の中へ顔を出した。

 

「現状でお二人がこうやってお話できていますし、干渉は起きてないようですから」

 

クリス二人が顔を見合わせる。

 

「それでも、クリスさんには当面本部の方へ滞在して貰いたいです。色々と検査も必要ですし」

 

「おう!」

 

「おう!」

 

「…あの、並行世界からいらしたクリスさんだけでいいので…」

 

クリスが周囲を見回せば、皆が皆口元を押さえて笑いをこらえている様子。

顔を真っ赤にしながらクリスは叫ばずにはいられない。

 

「なんなんだよ、もうッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…疲れた」

 

自宅に帰りつくなり、クリスはベッドへと突っ伏す。

事後処理を済ませ、どうにか帰宅許可が降りたのがお昼すぎ。

並行世界からきたもう一人の自分と話がしたいと思ったけれど、前日からの緊張が解けた疲労が、ずっしりと全身にのしかかっている。

 

…さすがにもう頭も回らない。

駄目だ、眠ろう。

色々と訊きたいことがあったんだけどなあ…。

 

瞼を閉じて、次に目を開けたときには、部屋は暗くなっていた。

時刻は日付が変わる寸前の深夜。

このままもっと眠ろうかと思ったけれど、お腹がぐーっと音を立てる。

しばらく我慢してみたが、どうにも腹の虫が収まってくれない。

眠るのを諦め、クリスはベッドから立ち上がる。

 

「…なんか買い置きあったっけかなあ」

 

そのままキッチンへと足を向けたときだった。

 

ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

 

「誰だ、こんな時間に…」

 

不機嫌そうに眉根を寄せるクリス。

もっとも全然心当たりがないワケではない。

未来とケンカしちゃった~どうしよ~と半べそで響が駆け込んできたこともあるし、前触れもなくSAKIMORIがお茶を飲みに来たこともあった。

だいたいとんでもないことを持ち込んでくるのは同僚の装者たちだ、とクリスは勝手に断定している。

どうせその手の類だろう、と一応用心しつつも扉を開けたクリスの予想は、ある意味当たっていた。

 

「よッ、こんばんは!」

 

扉の向こうで軽く手を上げているのは、間違うことなき自分の顔。

ただし、目線はだいぶ頭上にある。

 

「な、なんでここにいるんだッ!?」

 

「御挨拶だな。あたしが一人暮らししているっていうから陣中見舞いにきたってのに」

 

そういって中身のたっぷり詰まったビニール袋を掲げてくるもう一人の自分。

 

「だけど、本部で色々しなきゃならないって…」

 

「あ、それなら取りあえず済んだぜ?」

 

「はあッ!?」

 

「あとは、適宜協力してくれとさ」

 

言いながら、クリスさんはずかずかと室内へと上がり込んでくる。

 

「へえ、結構いいトコに住んでんじゃん」

 

遠慮なくリビングを見回した彼女は、とある一点で視線を止めた。

 

「…この仏壇はなんだ?」

 

「なんだって、パパとママの仏壇だよ」

 

「……ッ!?」

 

クリスさんは立ち尽くした。

顔をくしゃっと歪め、それから何かをこらえるように天井を仰いだ。

 

「これで色々と納得いった気がするぜ…」

 

「おい、何の話だ?」

 

彼女は、部屋の主であるクリスに顔を向けると、悲しげな声で言う。

 

「こっちの世界のパパとママは死んじゃっているんだな…」

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

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