戦姫絶唱シンフォギアCW   作:とりなんこつ

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EPISODE 6 ライアーズ・バンケット 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リディアン音楽院の屋上に二人のクリスがいる。

 

とっくに昼休みの終了を告げるチャイムも鳴ってしまったので、他に人影はない。

 

「なんだ、サボるのか?」

 

転落防止用の手すりにもたれながら雪姫=クリス。

 

「一体全体何の用があって学校まで来たんだよ?」

 

睨むようにクリス。

 

「さっきも言ったろ? 暇を持て余した…ってんじゃ納得できないか」

 

「ああ、もちろん」

 

「本音を言えば、こっちの世界のあたしのことが気になったからさ」

 

「はあ?」

 

「なんか妙に捻くれた態度を取ってるから心配したけど、どうしてなかなかこっちの世界でも友達はたくさんいるみたいじゃねえか」

 

そう指摘され、顔を真っ赤に染めてクリスは怒鳴る。

 

「ほっとけ、余計なお世話だッ」

 

「そうがなるなって。他ならぬあたし自身のことだ。知りたいってのは当然だろう?」

 

「保護者気取りかよ…」

 

勘弁してくれ、と切実にクリスは思う。

 

「ってゆーか、こっちの世界のあたしの保護者ってのは誰なんだ?」

 

ふと思いついたように雪姫=クリスが尋ねてきた。

 

先日、両親の仏壇を見られ、その死を知られた。そのことを見越した上で、割と当たり前の質問ではある。

 

「そりゃあ、おっさんだろ」

 

クリスの返答に、雪姫=クリスは眉根を寄せて、

 

「おっさんって誰のことだ?」

 

「おっさんはおっさんだよ」

 

「だからおっさんって誰なんだよ?」

 

埒が明かないので、クリスは半ば怒鳴るような声で、

 

「おっさんって言ったら風鳴弦十郎に決まってんだろッ!」

 

口にしておいて、その新鮮な響きに少し戸惑う。

 

対して、雪姫=クリスはきょとんとした顔つきになる。

 

「おまえ、弦十郎おじさんのことをおっさんて呼んでるのか…?」

 

「な、なんだよ、何かおかしいのか?」

 

「いや、こっちじゃ家族ぐるみの付き合いだからさ」

 

「本当かよッ!?」

 

「しょっちゅう家に飲みにくるみたいだし、正月のときなんか泣いてるぜ?」

 

「…なんだそりゃ?」

 

どういう流れかよく分からないが、妙に興味をそそられる話題になった。

 

もっと詳しく尋ねようとクリスが身を乗り出した時、屋上の入り口に人の気配が。

 

「残念、続きはまたの機会な」

 

言うが早いが、手すりにもたれたままの格好の雪姫=クリスは逆上がりするような形で後転。

 

「おいッ、ここを何階だと…ッ!」

 

慌ててクリスが手すりに飛び乗ると、眼下ではもう一人の自分が、壁や屋根のでっぱりを足掛かりに、飛び跳ねながらするすると降りて行く。

 

シンフォギアも使わないで出来る動きなのかよッ!?

 

まるでハリウッド映画じみたアクションにクリスが驚いていると、地面に着地した雪姫=クリスはこちらを見上げてニヤリと笑った。

 

そのまま何事もなかったかのようにスタスタと歩いて行ってしまう。

 

ただただ呆気にとられたまま、クリスは黙ってその姿を見送った。背後から聞こえる教師の誰何の声にも応えずに。

 

 

 

 

 

 

 

そして、またの機会とやらは、予想を通り越して早くやってきた。

 

その日の放課後、自宅へ帰りついたクリスは、今まさにドアを開けようとしている風鳴翼とばったり会う。

 

「…おい、人の家になに勝手に入ろうとしてるんだ?」

 

「いや、それは合鍵を使ってだな」

 

「そういうこといってんじゃねえッ!」

 

声を荒げるクリスの前にドアが開き、中からひょっこりともう一人のクリスが顔を出す。

 

「お、翼さん、買い出しお疲れ」

 

「うむ、適当に見繕ってきたがこれで良かったか?」

 

「上出来上出来」

 

そのままさも当然のように翼を家の中へ招きいれてしまう。

 

あまりの展開に、クリスは口をパクパクと開閉。

 

それから改めてもう一人の自分を睨みつけて怒鳴る。

 

「……あたしの家でなにやってんだおまえはッ!?」

 

「何もヘチマも、ここは()()()の家だろ?」

 

煙に巻くように言い置いて、自身も室内へ入ってしまう。

 

「おい、待て…!」

 

慌てて後を追ったクリスだったが、玄関の靴の数に嫌な予感を覚え、リビングへ突入するなりその的中を悟る。

 

「あ、クリスちゃん、おっかえり~♪」

 

立花響が満面の笑みで出迎えてくれた。

 

だけではない。響の隣では小日向未来が当然のように寄り添って腰を降ろし、対面には暁切歌に月読調。

 

カウンターでミネラルウォーターのボトルを煽っているのはマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 

買って来た飲み物をテーブルに並べる翼を含めると、全てのシンフォギア装者がここに集まっていることになる。

 

それはともかく。

 

「どうしてあたしン家に集まってんだよッ!?」

 

「まあ、固いこというなよ、あたし」

 

「………」

 

他人に言われれば言い返しもしたが、自分自身に言われたら一体どう答えればいいのだろう?

 

さらに意固地になってヘソを曲げるのも格好悪い話で、それでもやり場のない憤りを抱えたクリスにとって、翼の声はちょっとした救いになる。

 

「ほら、他ならぬ雪音もそう言っていることだしッ! と、どちらも雪音なわけだしな…。うむむ、ややこしいな…」

 

さすがにこれには失笑が起きた。

 

「ともあれ、今日は並行世界から来た雪音の歓迎会ということで、集まってくれた皆には感謝する」

 

なし崩し的に歓迎会とやらが始まってしまう。

 

まったく寝耳に水なクリスだったが、腹を立てることより、どうやら翼が企画・主催しているらしいことに驚きを禁じ得ない。

 

デリバリーの料理が開けられ、飲み物が交わされたあと。

 

どうやら主賓であるもう一人のクリスも同じことを感じていたようで、翼に向かい率直な声を投げかける。

 

「で? この歓迎会は、司令からの差し金かい?」

 

「それは勘繰りだな。決して任務に基づくものではないと断言しよう」

 

顔を上げそうきっぱりと言い切る翼だったが、すかさず溜息をつく。

 

「だが、私たちの純粋な歓迎の意志による―――と言い切れるほど潔白ではないな」

 

「相変わらず嘘がつけない人だな、翼さんは」

 

「なッ…年上をからかうなッ」

 

頬を赤くしてそっぽを向く翼だったが、相対するクリスの身長は翼より高く、下手をすると年上にすら見える外見だ。

 

そんな並行世界から来たクリスは、ニヤニヤしていた顔を真顔に戻すと、言った。

 

「奏さんの件は、残念だった」

 

「…ッ!」

 

翼は一瞬だけ表情ごと全身を強張らせ、ゆっくりと息を吐く。

 

「そちらの世界でも立花が装者になっているようだからな。さもありなん…」

 

スタジアムの惨劇を経てガングニールの欠片を埋め込まれなければ、立花響は適合者へとならない。

 

そのプロセスで、やはり天羽奏の死は避けて通れないものなのか。

 

「本音を言えば、それが一番私が訊きたかったことだ。益体もないと知りつつな。笑ってくれ」

 

「笑わねえよ。奏さんはあたしにとっても本当に格好良い先輩だった…」

 

しんみりとした空気は、響と未来にも伝播したようだ。生前の天羽奏の活躍を肌で経験したことが彼女らにはある。

 

「あの~、マムのことなんデスが…?」

 

そんな空気の中で、おずおずと切歌が手を挙げる。

 

「それは私も訊きたいです」

 

と調。

 

「教えて、あちらの世界では、マムはどうなったのッ!?」

 

ほぼ同じ目線の高さで詰め寄ってくるマリアに、クリスは「おいおい、落ち着け」と肩を押さえて距離を取る。

 

それから、室内の人間を見回すと、

 

「みんなが訊きたいことがあるのは分かっている。あたしだって、知っている限りのことは教えてやるさ。でもな、あくまで別の世界の話であることは弁えて欲しい。それと―――」

 

平行世界からやってきたクリスの眼が細くなる。

 

「あたしが話すことを全面的に信用するなよ?」

 

一瞬皆が絶句したが、真っ先に驚きの声を上げたのは響だった。

 

「そ、それってクリスさんは嘘をつくってこと?」

 

クリスさんは薄い笑みを浮かべて答えない。

 

「―――なるほど、了承した」

 

「そうね。そう前置きするしかないでしょうね」

 

納得の声を上げる翼に、マリアも同調の声を上げる。

 

「翼さんに、マリアさんまでッ!?」

 

「落ち着け立花。あちらの世界のことを、包み隠さず全て話せなど、元から無体なことなんだぞ」

 

「でも…」

 

「いくらこちらと似通っている世界であったとしてもだ。個人の嗜好やプライベートなど暴露されたくはないだろう?」

 

そこで、部屋中の視線はとある一点へと集中する。

 

「…なんでみんなしてあたしを見るんだよッ!?」

 

黙ってソファーに腰を降ろし腕組みしていた小さなクリスは声を上げる。

 

「本人がいる前で、本人の根幹に関わる質問など、まともに答えて言いわけがないだろう」

 

個人が自己責任で自らのことを喋るのは構わない。

 

だが、ここにはもう一人の自分も存在する以上、自己責任論をそのまま適用するのは無理だ。

 

しみじみ言う翼に響がぽんと手を叩く。

 

「ああ、そっか、クリスちゃんの好きな人とクリスさんの好きな人は違うかも知れないわけだしねッ!」

 

「何納得してんだよ、このバカッ! おまけに微妙にズレてるじゃねぇかッ!」

 

がなるクリスを面白そうに眺め、クリスさんは肩を竦める。

 

「ま、おおむねそんなとこだ。それを踏まえた上で、出来る限りは質問に答えるぜ」 

 

「はいはいは~い! それじゃあたしから! クリスさんの好きな人は誰ですかッ!?」

 

「こいつやっぱりビタイチ分かってねえッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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