最終三部作を見逃すな!
ブ レイダ、サリエール、相川、橘はいつものように学校に向かって歩いていた。
「痛た…」
ブレイダは呻き声を発しながら片手で頭をおさえた。
「どうしたの?ブレっち」
「頭が痛いのか?」
「うん、ちょっと前からね。こないだまでは時々来るくらいだったんだけど…」
「そうなの…あんまり痛むようだったら保健室連れていくよ?」
サリエールは心配そうな顔をしながらブレイダに言った。
「ううん、大丈夫。確かに少し痛むけど、大した事ないよ」
「そう…それならいいんだけど…」
そう言うサリエールの顔には不安の文字が並んでいた。
「まあまあ、本人が大丈夫だって言ってんだから、気にしないで良いでしょ」
そう言って相川はサリエールの肩を叩いた。
「だといいんだけど…」
サリエールには妙な胸騒ぎがしていた。
四人は教室に入り、自分の荷物を机に置いてすぐさま相川の机に集まった。
「そう言えばさ、ブレっちがあのガディナって奴を倒したんでしょ?」
「うん。新しいオーバーブーストフォームでね」
「それがどうしたんだ?」
「またガディナみたいに新しい娘が来るんじゃないかなって思ってさ…」
「それなら心配はいらないよ。ガディナが特別強すぎただけで、それ以外の子達は一人では時空を超えることはおろか時空の穴すらも開けないから、ガディサイト本人が連れてこない限り来ることはないよ」
「そっか…」
「それに、一番強かったガディナをブレイダが倒したんだから、他の娘を呼んでも倒されるのは目に見えてるからね」
「それじゃあ、サリエールも含め他の変身できるやつらもガディナには勝てないのか?」
「ええ。ガディナは従順な犬のようにガディサイトに懐いていたけど、能力値がおかしくてガディサイト本人も手を焼くくらいだからね」
「能力値?ゲームのステータスみたいなもん?」
「その解釈でいいわ。ガディナはそれがどれも元々高かった…だけど、その作用なのか子供みたいな性格になった」
「なんで?」
「そうね…私達は年相応に精神が成長するようになっているのだけど、ガディナにはそのシステムを組み込まれていなかったからじゃないかしら」
「それでも、普通の人間として生まれたなら、順当に成長するんじゃないのか?」
「…普通の子供として、順当にふむべきステップを踏めなかった…友達も作れず、身の回りの人間はガディサイトだけ…おそらく、私の時以外にも他の並行世界に呼び出されてはその世界の私達のような存在を狩ってきた…友達と言う概念も知らず、悲しいと言う感情も愛も知らないまま、モンスターの様に扱われていたのかもしれないわね。実際、ガディナは人間だったかどうかも分からない…」
「そっか、大森めぐみちゃんがガディナだった訳じゃないもんね」
「ええ。大森さんは一応目を覚まして普通に学校に通っているけれど、ガディナに取り憑かれていた間の記憶はほとんど抜け落ちていたわ」
「そうか…」
如月が教室に入り、三人は慌てて自分の席に戻った。
「またあとで詳しく教えてね」
「ええ」
三人が席について間もなく委員長の号令でHRが始まった。
体育の時間中、ブレイダとサリエールは二人でストレッチをしながら話していた。
「ガディサイトは、ガディナもいなくなってこれからどうするんだろうね?」
ブレイダはサリエールと背中合わせになって腕を組み、サリエールを持ち上げながら言った。
「さあ…考えられるとしたら直接襲ってくるか、あるいはまた他の子を連れてくるのか…それでも、ブレイダのオーバーブーストで倒せるから他の子を連れてくる可能性はほぼゼロだと思う」
サリエールもブレイダと同じようにブレイダを持ち上げて言った。
「そうなると、残る手は直接襲ってくるだけになるけど…流石に単純に攻めてくるわけでもないだろうしなぁ」
ブレイダは座り込んで足を広げているサリエールの背中を左に押しながら言った。
「ガディサイトもそこまでバカではないし…イマイチ分からないね」
サリエールはブレイダに背中を右に押されながら言った。
「でも、狙ってるのはヤミノチカラな訳でしょ?それなら基地に直接攻めてくる…とか?」
ブレイダは足を広げて座り、サリエールに背中を右に押されながら言った。
「確かに…それは考えられそうね。ちょっと前に倒したヤミマジュウの分も合わせて集まっている二十個のヤミノチカラがあれば目的は達成される訳だから…」
サリエールはブレイダの背中を左に押しながら言った。
「うん…でもそれなら、今頃ガディサイトは基地を襲ってると思うんだけど…何も動きがないのはなんでだろう…」
ブレイダは足を広げてその間に両手をつき、サリエールに背中を押されなが言った。
「こればっかりはガディサイト本人にしか分からないわね…」
サリエールもブレイダと同様に背中を押されながら言った。
「うん…」
二人がストレッチを終え、サリエールが立ち上がった瞬間、校舎の近くで爆発音が聞こえ、二人も含めグラウンドにいる全員がその方向を見た。
「えっ…?」「なんだ?」「なになに…?」
全員が見上げた先には、太陽を背に一人の人間が浮いていた。
「これは…!?」
「まさか…ガディサイト!?」
「ご名答。流石我が娘よ」
男は二人の前に静かに降り立って言った。
「もう私はあなたの子供じゃない。帰って」
サリエールはポケットに手を入れてデバイスを出そうとした。が、それをブレイダが手を掴んで止めた。
「ど、どうして…」
「今ここじゃ変身出来ないよ…!皆見てるんだから…」
サリエールはブレイダに小声で言われ、ハッとした。
今この場には自分達だけではなく、ブレイダとサリエールの事情を知らないクラスメイトや先生が沢山いる。もしこの場で変身しようものなら疑惑の眼差しが向けられるのは間違いなかった。
「くっ…!」
サリエールはデバイスを取り出すのを止め、ポケットから手を出した。
「まあ、そういう事だ。今は話を大人しく聞くことだ」
「…要件は何?」
ブレイダはガディサイトを睨みながら言った。
「なに、大した事ではない。そろそろこの世界が歴史の修正を始める、と言うことだ」
「歴史の修正…?」
次の瞬間、ブレイダは頭をおさえながらその場に倒れ込んだ。
「ブレイダ!ブレイダ!?どうしたの!?返事をして!」
サリエールはブレイダの肩を揺らしながら叫び、如月と橘、相川もブレイダの元に近付いた。
「おや、この世界の歴史の修正は案外早いんだな」
「ブレイダに何をしたの!?」
「俺自身は何もしていない。むしろ、何かをしたのはこの世界の方だ」
「世界の方…?」
「本来私自身も含めお前達二人はこの世界に存在しない、いや、存在してはいけない異物…それを排除しようとするのは当然だろう?」
「異物…!?それならあなたもそうじゃない!」
「確かにその通りだ…だが、俺は神の力を得ていることでどうやらその修正とやらから逃れられているようだ」
「じゃあ…いずれ私も消えると言うの!?」
「そうなるな…お前達だけが消え、私はこの世界で永遠に居続ける事が出来る…」
「くっ…!!」
サリエールは鬼のような形相でガディサイトを睨みつけた。
「残りの余生を精一杯楽しむんだな…」
そう言ってガディサイトはその場から消えた。
「く…」
サリエールは力一杯地面を殴りつけた。
「今はこんなことしててもしょうがない。柊を保健室に運ぶぞ!」
「私が運びます!」
「分かった!あとは頼む!」
サリエールはブレイダを背負って保健室に駆け込んだ。
ブレイダは救急車で搬送され、ガードナーの病院の集中治療室に寝かされていた。
サリエールと百合は医師の宝条、鏡、仮野に状態を聞いた。
「尽くせる手は全て尽くしましたが…」
「どうしても治すことが出来ません。私達の腕を持ってしても、治すことが不可能です」
「そんな…」
「どうにか治すことは出来ないんですか!?お願いします!」
「どうにかと仰られましても…」
「どのような方法でも原因が見つけることが出来ないものは何をしても治し様がない…」
「親族の方には申し訳ありませんが…」
そう言って三人は頭を深々と下げた。
「…先生、頭を上げてください。できることは全てやって下さったんですよね…それなら、私はもう…」
「百合さん…」
百合は集中治療室の前を通って病院を後にし、サリエールもそれを追って百合についていった。
「百合さん…」
「…いつか、こうなることは分かっていた…何度も激しいダメージを受けて、今まで無事だった事が奇跡だったのよ…」
「…」
「ガディサイトも言ってたんでしょう?歴史が修正されて、その際に異物を排除して、元のあるべき歴史を辿ろうとしている…そうなれば、私達もいつかは何かの要因で消えてしまう…」
「百合さん…」
「…ごめんね、こんな時、どうしていいか分からなくて…娘を抱きしめることも駆けつけることも出来なくて…母親失格ね」
「…」
サリエールには、かけてやれる言葉が見つからなかった。
百合とサリエールがガードナーの基地に戻り、第一会議室に行くと神凪、玲司、橘、相川が座っていた。
「事情はだいたい分かってる。ブレイダが戦えない今、この世界はサリエールの手に懸かっている」
「…はい」
「しかし、ブレイダをどうにか治す方法はないのか…」
「もう全部の手は尽くしちゃった訳だしね…」
百合とサリエールはそう言いながら椅子に座った。
「あいつもずるいよねー、零さんの力がないと生きられない癖にさ!」
「そうだな…ん?零の力…?」
「零の力があれば…」
「「「それだ!!!」」」
百合、玲司、神凪は顔を見合わせて言い、サリエールの方を向いた。
「…つまり、どういう事です?」
「無いなら持ってくればいい訳だよ!零の居場所を知ってるサリエールもいるんだ!」
「もしかして…その零さんを取り戻してこなきゃいけない、って事ですか?」
「ああ。その役割を頼みたいが…頼んでもいいか?」
「…分かりました。どちらにせよ、零さんが必要でしょうから」
「すまないな…くれぐれも無事に帰ってこい、いいな」
「分かりました!」
「俺達はサポートに回るから、サリエールは零を頼む」
「はい!」
そう言ってサリエールは基地を飛び出し、走りながらデバイスをかかげた。
「トランス・オン!」
サリエールは青色の光に包まれ、一瞬で変身を完了し、ガディサイトの基地へと飛び立った。
ガディサイトの基地は空中に浮かぶ要塞であり、中の構造がとても入り組んでおり、サリエール自身も全てのルートを把握している訳ではなかった。
『サリエール、聞こえるか?』
「はい、玲司さん」
サリエールは通信機に手を添えて言った。
『こちらでは要塞の中の解析が全て完了した。零の正確な居場所はまだ分からないが…おそらく最深部にいると思われる。気をつけていくんだぞ』
「はい!」
サリエールはそう言って要塞の下部に近付き、鎌を使って壁を切り裂いて穴を作り、その穴から中へと侵入した。
『おそらく今サリエールがいる場所の真上に零がいる…が、突き破っていこうものならすぐにでも居場所がバレてしまう。通路を使って零を探せ。こちらでも解析作業は続けていく』
「分かりました。そちらの方もよろしくお願いします」
『ああ。健闘を祈る』
サリエールは足音を立てないように飛行しながら通路を移動し始めた。
「やあ、零くん、ご機嫌いかが?」
ガディサイトは磔にされた零に近付きながら言った。
「…」
「…まあ、あれから十五年、お前もそろそろ死期が近付いて目を覚まず事も出来なくなったか…」
「…」
零は俯いたまま、何も言わない。
「安心しろ。お前が死んでも、お前の代わりは私がいる。そのままゆっくり死ぬがいい」
そう言ってガディサイトは部屋を後にして、扉を閉めた。
「…さて、そろそろ起きた方が良いかな…」
零は目を開け、周りを見回した。
「流石に飽きてくるよな…でもこの言葉が来るってことはそろそろ修正が…ん?」
通気口の蓋が外れ、その穴の中からサリエールが降りてきた。
「お前は…ここにいたやつじゃねえか。なんでそんなとこから来るんだよ?」
「ちょっと色々ありましてね…今はここを出ましょう」
そう言ってサリエールは零の拘束を解き、ゆっくりと零を下ろした。
「悪いな、助けに来てもらってよ」
「いえいえ、そう言う任務なので」
「そうか…とりあえずここを出よう。ここを出れなきゃ話にならないしな」
「ええ」
零とサリエールは通気口に入り、来た道を戻って下に下がって行った。
そして、要塞の下に来たところで通信が復活し、サリエールの耳に玲司の声が聞こえた。
『サリエール!良かった!無事か!?』
「はい、無事です」
「俺もピンピンしてるぜ。結構退屈だったけどな」
『!?その声…零か!?本当に生きてたんだな!』
「ああ。しばらくの間に自分の力は何とか取り戻した。五年ほど経ったら自然と戻ってきたぜ」
『それは本当か?なら、俺達も…』
「ああ。おそらく元に戻ってるはずだ」
『そうか…何はともあれ、生きていてくれて本当に良かった。サリエールと一緒に戻ってきてくれよ』
「All Right.任せときな。準備運動にはちょうどいいぜ」
そう言って零とサリエールは通路に出て、ゆっくりと地面に降り立った。
「さてと…こっからは俺に任せな!」
そう言って零は数秒だけ軽く準備運動を行い、サリエールを脇に抱えて音速の速さで駆け出した。
「えっ!?ちょっ!?えっ!?」
「喋ったら舌噛むぜ!」
零は通路に仕掛けられた無数のレーザー銃の光線をものともせずにかわし、階段の手すりに乗って滑りながら降下して一番下の階に降り、サリエールが開けた穴から一気に飛び降りた。
「ひゃっほー!やっぱり新鮮な空気は美味い!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょー!落ちてる!落ちてるううううう!」
零はサリエールの心配をよそに綺麗な着地を決めた。
「ふう…暗いから適当に着地したけど…ここは?」
零は辺りを見回しながらサリエールを降ろした。
「ここは…どうやらガードナーの基地の屋上みたいですね」
「が、ガードナー?何だそれ?」
零は首を傾げながらサリエールに聞いた。
「道中お話しますよ。とりあえず着いてきてください」
「そうか、ありがとな」
零はサリエールについて行きながらガードナーのことを聞いた。
「…つまり、怪獣とか、災害とか、色んなことから人間や生き物を守る組織…ってことか?」
「そうです。他の詳しいことは玲司さんから聞いてください」
「おう。ありがとな」
そう言って二人は第一会議室に入った。
「よう、戻ってきたぜ」
「零!本当に戻ってきたのね!」
「もちろんだ。…待たせてごめん、百合」
そう言って零は強く百合を抱きしめた。
「やっと…やっと会えたんだね…」
そう言いながら涙を流す百合の涙を零は指で拭ってやった。
「ただいま、百合」
「おかえり、零」
そう言って二人はもう一度抱き合った。
「なあ、玲司、とりあえず風呂入っていいか?あと、ご飯も食べたいんだけど良い?」
「ああ、構わない。基地の中に大浴場があるから、そこを使ってくれ。案内するよ」
「おう。ありがとな」
「皆はご飯を用意しといてくれ」
「分かりました」
「任せて!」
百合は生き生きとした表情で袖をまくって言った。
「私も頑張るわ!」
「よし、じゃあ、着いてきてくれ」
「ああ」
零は玲司について浴場まで向かった。
「しかし、俺がいない間に何があったんだ?ガードナーもそうだし、あの要塞の中にいたサリエール?って子もいつの間にかこっちにいるし…」
「まあ、それも含めて話すぜ」
零は玲司にこれまでの事を全て話した。ガードナーのこと、ブレイダとサリエールのこと、ヒカリノチカラとヤミノチカラのこと、そして今ブレイダが大変だったと言う事も余すことなく全て話した。
「そうか…そんなことが…あの時助けた子供が…」
「ああ。お前が助けた子供がお前に恩返しをしたんだ」
「そっか…ま、助けてくれた事だし、俺もまたその恩を返してやらないとな」
「出来そうか?」
「ああ。時空を司る神の力は移動手段だけじゃないって事を見せてやるぜ」
そう言って零はサムズアップして笑って言った。
「助かるぜ」
「良いってことよ。世界のピンチだしな」
風呂を上がり、夕食も済ませた零は早速ブレイダの元に来た。
「お前があの時の子供なんだな…お前が…ブレイダがいてくれたお陰で俺はもう一度百合の元に戻ってこれた。だから、今度は俺がお前を戻してやる番だ」
そう言うと零の身体が眩い光に包まれ、時空神レイへと変わった。
「待ってろ。すぐ終わる」
そう言うとレイはブレイダの頭に手を当ててブレイダの記憶を全て吸い出した。
「さて、これで大丈夫だな。次で終わる」
レイはブレイダの記憶を頼りにブレイダの脳が強い衝撃を受ける寸前まで脳の時間を巻き戻し、ブレイダの脳を安全なまま今の時間にまで戻した。
そして、最後にブレイダの記憶を全て戻した。
「これで大丈夫だ。時期に元に戻る」
そう言ってレイは人間の零に戻って集中治療室を出た。
「記憶がちゃんと定着するまでに時間がかかる。一晩も経てば元気になるさ」
「そう…良かった…」
百合はそう言って胸を撫で下ろした。
「しかし、養子って言うか…自分達の子供って思うと中々複雑な気持ちだな…」
「あら?どうして?」
「大したことじゃないんだけど、ブレイダの成長過程を見たかったなって思ってな」
「そう…まあ、それでもいいじゃない。まだまだこれからよ」
「…そうだな、一緒に見守っていこう」
そう言って百合は零と腕を組んで集中治療室を後にした。
今回はここまでです!
やっと零さんが帰ってきたよ~!長かった~!
宜しければ感想と評価よろしくお願いします!