『久しいな。冒涜者よ』
「…何時ぞやの邂逅以来だな、存在X。何だ?私を見て嗤いにでも来たのか?ご苦労なことだ。自称:神は有意義な時間の過ごし方の発想さえ儘ならないらしい。全知全能という素敵なアイデンティティも実際には不合理の集合体、いや宝物庫のゴミ漁り同然といったところか?存在X」
『貴様が今更何をほざこうと我には関りの無い事だ。しかし、貴様の信仰心が欠片も芽生えておらん事には些かこちらにも不都合が生じる』
「経営戦略(ビジネスプラン)に問題があるのなら、現実的な見積もりを前以って行うべきだと言った筈だが?即断即決は、確かに成功者に備わっている重要な素質だ。しかし、使い方を誤れば蛮勇、所謂賊軍に成り下がる。ハッ…やはり存在Xか」
『我は以前、貴様に言った。次の転生は無いと』
「存在X。私は、ターニャ・デグレチャフという女はたった今死んだ。死因は糖尿病。まさか、人生最大の敵は銃を構える敵兵でも、世論を操作する政府でもなく、懐に隠した甘味だとは…我ながらくそったれな理由だと言わざるを得ない。だが、私は何も後悔などしていない。なぜなら存在X、私はお前の目論見通りにはならなかった。私に信仰など必要無かった。お前の呪いに屈することなど万に一つも無かったんだ。私はお前に勝利したのだ。存在X。勝ち逃げで申し訳ないが私は今の私で充分に満足している。ほら、さっさと消し去るがいい。勝者が敗者に語ることなど無いのだから」
『__貴様は一つ勘違いをしている』
「……は?今更何をほざいて__』
『肉体の死が終焉だと一体誰が言った?』
「………どういうことだ?」
『貴様にとっての死とは__信仰に目覚めることだと言っている』
「………可笑しいな?それでは存在X、お前はこう言いたいのか?__無信仰者に死ぬ価値などないと?」
『その通りだ。冒涜者よ』
「悪質な出来レースへの強制加入をどうもありがとう、存在X。詐欺容疑で死刑を求刑するとしよう___さっさとくたばれ…!」
『死(救い)が欲しいのなら神に祈るがいい。奇跡に縋るがいい。信仰に目覚めるがいい。___さて、いつ貴様が敬虔な信者と成り果て、その奇跡でも抗うことのできぬ敵に蹂躙され、そして失意の淵で朽ち果てるのか。楽しみにしていよう』
「存在Xウウウウウウウウウウウっっっっっっっ!!!!!!!!』
◇◇◇
魔法大学付属第一高校。
厳かな雰囲気の中、入学式のプログラムは恙無く進行されていく。
新入生代表の少女が降壇して数瞬、司会進行を務めていた男子生徒が幕内にいる私に視線で合図を送ると同時に、進行表に付属された原稿を読み上げる。
「___それではこれより、新任の外部講師から新入生に向けてお祝いのお言葉を頂戴させて頂きたく存じます」
私が歩みを進めると会場が若干の騒々しさを発露させる。
まあ、この見た目なら仕方のないことか。
これも仕事だ。
私の身長に合わせてマイクスタンドの高さを調節してくれた、本校の生徒会長の少女に皮肉たっぷりの謝辞を送り、私は登壇する。
さて、存在Xよ。
お前がどういう意図で私をこの世界に送ったのかは、この際どうでもいい。
「Все лучшее. Студент различных CN.(ごきげんよう、生徒諸君)」
二度目の転生だ。
流石の私も、こうも非現実的な現象を二度も体験させられては折れざるを得ない。
認めよう存在X。
お前はどうやら皆がいうところの神というものらしい。
だからこそ、ここに宣言しよう。
存在X___死ぬのは貴様の方だと。
さて、自己紹介がまだだったな?
私は___
「ターニャ・デグレチャフだ」
これは、世界を欺き、神を冒涜する、無信仰者の物語___