魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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episode9.

 

 

 

 

 

 

「___ヴィーシャ、起きて下さい。着きましたよ」

 

「ん……ふああぁ………むー…?」

 

「ん~~~!!可愛すぎますターn…ヴィーシャたん!!」

 

「むぎゅ!?」

 

 起きたらスー二等兵にチョークスリーパー(ただハグされただけ)を掛けられた、解せぬ。

 

 それにしてもセレブリャコーフ少尉?

 

 私のことをヴィーシャと呼んだか?

 

 寝ぼけているのか貴様、私は………あ~、なるほど、そうだったな…。

 

 私はスー二等兵の拘束から縄抜けのように逃れると、機内の窓から外の景色を覗き込み、努めて9歳児らしい口調でセレブリャコーフ少尉に訊ねた。

 

「お姉ちゃん、ここが日本なの?全然雪が無いんだね」

 

 私の演技に露骨に頬をひきつらせたセレブリャコーフ少尉は必死に平静を装って私の質問に答え始める。

 

「寒冷化の影響で気候が変わっても、日本は四季の豊かな国ですからね。今は…晩秋頃でしょうか」

 

「ばんしゅう?Aventure(アバンチュール)?冒険でもするの?」

 

「うふふ。そうかもしれませんね。日本でヴィーシャにとって大切な人ができるやもしれません」

 

「大切な人?」

 

 コテンと首を傾げて9歳児らしさを全力でアピール。

 

 …心なしか私が演技をするたびにセレブリャコーフ少尉の顔がだんだん青白くなっている気がするのだが気のせいだろうか?

 

 今からでも修正すべきかと思案していると、スー二等兵が口を挟んでくる。

 

「だ、ダメです!!ヴィーシャたんは私と結婚するんです!!他の男には渡しません!!」

 

「お前は黙っていろ」

 

「ヴィーシャたんが辛辣すぎる!?」

 

 いかん、いかん。

 

 つい何時もの口調で話してしまった。

 

 だが、本音なのだから仕方がない。

 

「ダメですよヴィーシャ。女の子がそんな言葉遣いをしては。女の子はお淑やかでなくてはね。メアリー、貴女もですよ?ここが公共の場であることを自覚してください」

 

「はい…ごめんなさい」

 

 割と本気で反省してるスー二等兵。

 

 だが悪い。

 

 いい気味だとしか思えない、許せ。

 

 そんなコントのような三文芝居をしていると一人の女性がセレブリャコーフ少尉に声を掛けた。

 

「日本へようこそ、デグレチャフ氏。私たちは貴女方を歓迎します。日本国でのエスコートを仰せつかりました。藤林響子と申します」

 

「ご丁寧にどうも。私はターニャ・デグレチャフの通訳として同行しております。ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフと申します。長いのでヴィーシャと呼んでください。こちらは侍女件護衛のメアリー・スーです。この度はお世話になります」

 

「い、いえ。こちらこそ」

 

「?どうかなさいましたか?」

 

「通訳の方が同行なさるとは伺っておりましたが、てっきりメアリーさんの方かと…申し訳ありません」

 

 藤林殿が驚くのは無理もない。

 

 何せ通訳だと豪語しているのは外ならぬ私、ターニャ・デグレチャフ。

 

 若干9歳の幼女なのだから。

 

「ああ、そういうことですか。慣れているのでお気になさらず。メアリーも日本語は理解できますが円滑なコミュニケーションを取るにはまだ支障がありますので。片言で宜しければ問題はないのですが…」

 

 言外に話は私を通せと伝える。

 

 彼女は私の意を組んでくれたようで、その後の細やかな伝達事項の確認もスムーズに行われた。

 

「___了解いたしました。今後はヴィーシャさんを通してデグレチャフ氏への連絡をお願いしたいのですがよろしいですか?」

 

「はい。お手数をお掛けして申し訳ありません。今後ともよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ」

 

 藤林殿が握手を求めてきた。

 

「『ターニャ、握手をお願い』」

 

 セレブリャコーフ少尉が私の指示の通り藤林殿の手を取る。

 

「ヨロシク」

 

「はい。精一杯務めさせていただきます」

 

 ファーストコンタクトは成功。

 

 その後は軍の所有するホテルに案内され、今後のスケジュールや警備など諸々の説明を受けたのち眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

~日本軍 陸軍一〇一旅団 独立魔装大隊 駐屯地某所~

 

 

 

 

 

 

「藤林少尉。貴官から見て彼女たちの様子に不審な点はあったかね?」

 

 陸軍一〇一旅団・独立魔装大隊隊長 風間 玄信少佐が会議の口火を切る。

 

 モニターには機内でのターニャ達の会話や様子が映し出されていた。

 

「いえ、マナーも行き届いており、所作からもそれぞれが良心を持った人格者であることは窺えました。強いて言うならば…ヴィーシャさんがあまりにも幼かったことですかね」

 

「とは言っても、達也君を見てきている僕らからすれば彼女の理路整然とした口調は想定の範囲内で収まるんじゃないかな?」

 

「真田大尉。私は一般論で語っているのですが?大体、達也君の方が異常なんですから、彼を比較対象とするのは止めてください」

 

「それは失礼。藤林君にとって達也君は特別と___」

 

「セクハラで訴えますよ?」

 

「柳君はどう思う?」

 

 真田大尉が藤林からの糾弾から逃れるように、柳 連大尉に話を振る。

 

「…あの9歳児を含めて全員、足音を出さないように歩行している。それだけで、ただの一般人でないことは容易に想像がつく」

 

「なるほどね」

 

 体術と魔法の連動によって、組手では達也と互角の実力を持つ柳は、彼らしい身体的視点をもって自身の考察を述べた。

 

「ターニャ・デグレチャフは影武者である可能性が高い」

 

「確かに、彼女は軍に所属しているとはいえ、戦場の舞台は机上の端末の筈。純理論畑の箱入り娘にあそこまでの体捌きができるとは、到底思えないね」

 

「あくまで彼女の公開されているパーソナルデータを信用するなら…ですけどね。___如何されますか、風間少佐?」

 

「今回の飛行術式の共同開発は、新ソ連との友好関係の締結を期待されている。あちらが本人だと言っているのであれば、我々はそれに対して首を縦に振ればいい。ただし、魔法技術の奪取が目的であるのなら話は別だ。諜報員である可能性は最大限考慮して事に当たるべきだろう」

 

「了解いたしました」

 

 

 

 

 

  ___藤林少尉のボイスレコーダーより抜粋

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「____うっ!!」

 

 キリキリと胃が捻じれる様な痛みが腹部を貫く。

 

 最近、増加してきた胃薬の消費量に辟易しながら、眼鏡の位置を元に戻す。

 

 昨日、何か傷んだものでも口にしたか?と思えていた頃が懐かしい限りだ。

 

 例の問題児は既に日本に到着した頃だろうか?

 

 もうそのまま二度と帰ってくるなという思いと、頼むから何も問題を起こさずに帰って来てくれという思いが綯交ぜになり、意味の分からない不安感に吐き気すら催してきた。

 

 彼女から『日本に行きたい』という希望を聞いた時、私は自分の耳を疑った。

 

 あの狂気的なまでの愛国者がそのようなことを口にするとは思えなかった。

 

 まるで幼い子供のように、我儘を言うかのように。

 

 いや、確かに彼女は幼いが…。

 

 まさか!?_(コンプライアンス)_か!?

 

 …どれだけ考えようと、私には彼女の真意を知ることは敵わぬのだろう。

 

 思えば、私は彼女のことを書類上でしか知らない。

 

 孤児という境遇からその才気のみで這い上がり、銀翼突撃賞を持つ天才魔工技師。

 

 我々に戦争の勝ち方を説いた、幼女の皮を被った化け物___

 

 分からない。

 

 分からないが、可笑しいな。

 

 私は、ここにはいない私ではない私は、彼女のことを知っている。

 

 そんな気がする…。

 

「ハッ…馬鹿馬鹿しい」

 

 思考は常に理論的かつ合理的に。

 

 それが正しい軍人の在り方だろう。

 

 私は懐から煙草を取り出し火をつける。

 

 久方ぶりに肺を満たした紫煙はどこか懐かしい香りと共に宙を揺蕩った

 

 

 

 

 

 




(コンプライアンス)

劇場版を見に行けば分かる

それではまた戦場で
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