魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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スー二等兵「少佐?こちらは?」

デグレチャフ少佐「これは前書きというやつだ。私の変わりに適当に書いておいてくれ」

スー二等兵「え?ですが何を書けば?」

デグレチャフ少佐「日記でも書いておけ。私はこれから仕事だ。頼んだぞ」

スー二等兵「え、ちょ、ちょっと少佐!…行っちゃった…。どうしよ…。____あ!そうだ」


episode13.

 

 

 

 

 

 

 はじめまして、私はメアリー・スー。

 

 敬愛するターニャ・デグレチャフ少佐の右腕になるべく日々頑張っている高校一年生です。

 

 ヴィーシャから日記を貰って、こうして初めて文章を手書きしてはいるのですが、そもそも日記に自己紹介は必要なのでしょうか?

 

 それでも、いつか誰かに読まれちゃうこともあるかもしれませんのでこのまま書き進めます。

 

 私の一日は少佐の寝顔を拝見する所から始まります。

 

 少佐は起きてるときはホントに私より年下なのかな?と思うほどに達観していて、滅多に隙を出すことがないのですが、眠っている時はホントマジ天使で可愛すぎるんです!

 

 何故かというと___

 

 

(約三万字の文は割愛)

 

 

 ___ということです。

 

 つまり、少佐が寝静まってから私が同衾するのは自然な流れということです。

 

 ただでさえ少佐は幼児特有の高い体温で、手に触れるだけでアロマ効果があるのに、私が布団に入ると寒いのか私に抱き着いてくるんです!!

 

 ありがとう神様!ビバ幼女!!私、幸せです!!

 

 幸福を噛み締めながら眠りにつき、そして朝目覚めると、天使の寝顔が目の前でおはようです。

 

 ありがとうございます、ありがとうございます。

 

 はじめの頃は、布団に入る前にバレて大目玉をくらっていたのですが、最近では意識しなくても気配を周囲に溶け込ませられるようになり、気付かれることなく少佐のお布団に入れるようになりました。

 

 継続は力です。

 

 残念ながら少佐の朝は早いです。

 

 朝5時には起床されるので、私はたったの一時間しか少佐の寝顔を拝見できません。

 

 いくらショートスリーパーの私でも徹夜で少佐の寝顔を眺めていてはお肌が荒れてしまいます。

 

 そんな顔を少佐に見られたくありません。

 

 だから一時間で我慢してます。

 

 私は我慢強いんです。

 

 少佐の寝顔を部屋から出るまで目に焼き付けたら、自室に戻って急いで身支度を整えてから朝食の準備をします。

 

 少佐は朝は決まったものしか口にしません。

 

 目玉焼きとソーセージとスクランブルエッグにジャガイモのポタージュ、そしてトースト。

 

 サラダをお出ししてもいつもプチトマトだけは残してしまいます。

 

 一度、夕食のスープにこっそりトマトを使ったのですが少佐は一口も手を付けてくれませんでした。

 

 あーんして食べさせようとしたら次の日はテーブルにも近寄って来なくなって私は泣きました。

 

 そうしたら、その日の夕食のハヤシライスを嫌そうな顔をしながらも少しだけ食べてくれました。

 

 感激した私が少佐を見つめていると、チラリと此方を見た少佐はプイッとそっぽ向いてしまいました。

 

 好きです少佐、結婚してください。

 

 ちょっぴり好き嫌いが多い少佐も愛らしくて素敵です!

 

 朝食を終えると少佐は必ず珈琲を召し上がります。

 

 私には理解しがたいのですが、少佐はいつも珈琲をブラックで嗜みます。

 

 私はどうしても苦いものが苦手なのでコーヒー牛乳にして飲んでいたら少佐に鼻で笑われてしまいました。

 

 少し怒った私は次の日からデザートに出していたチョコレートのお菓子の種類を換えました。

 

 私、知ってるんですよ?

 

 少佐が甘いもの大好きだってこと。

 

 お部屋の右から二番目の戸棚の隠し冷凍棚に、限定品のチョコレート菓子があることを。

 

 その日に出したチョコ―レートケーキは本当に美味しかったですね?

 

 ヴィーシャも喜んでました。

 

 少佐も余程美味しかったのでしょう。

 

 目を泳がせ、身体を震わせながら一口一口噛み締めながら召し上がってました。

 

 その次の日から、私がコーヒー牛乳を飲んでいても少佐は何も言わなくなりました。

 

 少佐?オイタは程々にですよ?。

 

 食器の洗浄をHAL(自動家事人形)に任せて、私は少佐の髪を梳かします。

 

 少佐は放っておくと無造作に髪を後ろで結ぶだけです。

 

 お風呂でも平気で髪をお湯に浸けてしまいます。

 

 そんなことしたら髪が痛んじゃいます、枝毛にでもなったらどうすんですかまったく。

 

 私が小言を言うと、少佐はいつも不機嫌そうに逃げてしまいます。

 

 それでも、髪を梳かしている時だけはそんな少佐も大人しく従ってくれます。

 

 フフフ、髪を梳かされるのは気持ちいいですからなね。

 

 私のテクで少佐もイチコロです。

 

 さて、準備を終えたら登校です。

 

 私たち三人が纏まっている所を見られると少し言い訳に苦労するので、登下校時は私だけ別行動です。

 

 ヴィーシャ、ズルい!私と変わってよ!!

 

 それでも任務なのでこればかりは仕方ありません。

 

 少佐にご迷惑をおかけしたくないのでグッと我慢です。

 

 1-Aの教室に入ると皆さんが挨拶をしてくれます。

 

 最近、私にもお友達が出来ました。

 

 北山雫さん、光井ほのかさん、そして____司波深雪さん。

 

 それと、森崎くんという男の子がよく話しかけてくれますが、言葉の端々からプライドの高さが滲み出ていて、個人的にはちょっと苦手な人です。

 

 ですが、そのおかげでクラスメイトの方々と円滑にコミュニケーションを取れているので、そのことに関してだけは感謝しています。

 

 さて、今日の授業に私の所属するクラスで、少佐の担当している外国語の授業はありません。

 

 …帰ろうかな。

 

 一気にやる気が無くなりましたがこれも仕事です。

 

 少佐に認めて頂けるように私、頑張ります。

 

 少佐のいない長い長い授業が終わると、私は先生に頼まれた資料を職員室に提出し一目散に校門へと向かいます。

 

 すると、そこには道を塞ぐように森崎君たちが、二科生の生徒と言い争っているのが見えました。

 

 一触即発の場面で皆がCADを取り出しているのが見えました。

 

 間に入って制圧すべきか迷っていると、三年生の先輩が介入して、一問答あった後解散となりました。

 

 一瞬、司波さんの隣にいる男子生徒が何かをしようとしたようですが、未遂に終わりました。

 

 このことは当然、少佐に報告しました。

 

 少佐は「そうか。ご苦労」とだけ言ってましたが、顔は悪い人の笑い方でした。

 

 ああ…少佐、カッコいい…!!

 

 このような形で今日は終わりです。

 

 明日からも頑張って書いていきます。

 

 …取り敢えず、この日記は少佐にバレないように隠さないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブランシュ…漸く動いたか」

 

 私たちが一校に潜入して早数週間が経ち、今の生活に馴染んできたところ、遂に状況が動いた。

 

 夕食後、アフターのコーヒーを嗜んでいたところ、学生として情報収集に当たっていたスー二等兵が、興味深い単語を口にした。

 

「はい、二科生を中心に差別撤廃を目指した学内勢力が活発化してきているようで、その後ろ盾にブランシュの存在があるとのことです」

 

「なるほどな。ただでさえ、一科と二科との間に溝がある現状だ。幼稚な脳味噌で身体だけが成長した人生の劣等感を嘆く愚か者どもにとっては、十分すぎるほどに魅力的なマニュフェストだ」

 

 はあ…と、私がため息を吐くとセレブリャコーフ少尉も賛同するように口を開く。

 

「確かに、一科と二科の生徒に魔法力の差が出てしまうのは仕方のないことだと思います。ですが、それだけが個人の価値を図る指標ではない筈です。今いる一科の生徒の一体何人が、社会に貢献でき、または戦場で生き残れるのでしょうね」

 

「一科の生徒は二科の生徒を足蹴にして、二科の生徒は一科の生徒を自分たちのフィールドに引き吊り降ろそうとする…。私たちが何のために魔法を学んでいるのか、偶に分からなくなる時があります」

 

「もちろん、メアリーの言うそれが一部の声だって言うのは私も分かるよ。でも、そういう声って、どうしても大きく聞こえちゃうから…」

 

「ヴィーシャ…」

 

 元々、素養のあったセレブリャコーフ少尉は性格的にも教師という役柄に向いているのだろう。

 

 生徒たちの現状に頭を悩ませるその気持ちは私も分からないわけでは無い。

 

 人としての成長を望むのならそれは正しいことなのだろう。

 

 しかし、私たちは軍人なんだ。

 

「セレブリャコーフ少尉。…あまりのめり込み過ぎるなよ?」

 

 少尉は瞠目した後、何かを押さえつけるかのように声を絞り出した。

 

「…はい…、失礼しました」

 

「スー二等兵は今後も情報収集を行い、逐一私に情報を集約しろ。アジトの特定が可能ならスパイ活動などの行動も許可する。ただし、魔術の使用はくれぐれも慎重にな?」

 

「了解しました」

 

「私とセレブリャコーフ少尉は予定通り、十師族のデータを集めていく。今回の戦場は【情報の災禍】だ。各員、記録データの持ち運びにはくれぐれも留意しておけ。…特にスー二等兵」

 

「はい?………えっと……その……」

 

 私がとあるノートを差し出すと、スー二等兵の眼がこれまた嘸かし泳ぐ泳ぐ。

 

「私の部屋にコレを隠してどうする?もう一度言うぞ?___情報管理は厳に、留意しておけ」

 

「…はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず___お前はこの物件出禁だ」

 

「すみませんでした!!もうしませんからそれだけはどうか!!」

 

 私は未だ嘗て、これほどまでに美しい土下座を見たことが無かった。

 

 日本の伝統文化を、色褪せた記憶から掘り起こしては懐かしみつつ、私はそっとカップを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




スー二等兵「大隊長殿、拝命した任務、滞りなく遂行致しました!」

デグレチャフ少佐「ご苦労だったな___と言いたいところだが、まさか本気で日記を書くとは…」

スー二等兵「?どうかされましたか?」

デグレチャフ少佐「いや、なんでもない。ところで、今日の夕食のメニューはなんだ?」

スー二等兵「ミートソースたっぷりのパスタです!」

デグレチャフ少佐「やはりお前は出禁にする」

スー二等兵「何で!?」

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