魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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episode14.

 

 

 

「ようこそ、おいで下さいました!私がここの開発主任を担当しております、牛山と申します!」

 

都内近郊某所。

 

FLTの門を潜って数刻、厳重なボディチェックを受けた私とデグレチャフ少佐は、待合室に顔を出したツナギ姿の男性の独特な圧に、若干気圧されながら右手を差し出した。

 

『ターニャ・デグレチャフです。貴方にお会いできて光栄です。Mr.トーラス・シルバー』

 

私の右手を見た彼は、何度も自分のツナギに手を擦りつけた後、私の手を握ってきた。

 

「こちらこそ、よろしく頼んます!すいません。こちとら根っからの機械オタクなもんで、女性の扱いには疎いんですが、なるべく失礼のないよう気をつけるので。何か不快なことがあればいつでも言ってやって下さい」

 

『いえいえ。人間関係や礼儀作法に疎いのは私も同じですから。失礼があったらおっしゃって下さいね?』

 

「そう言っていただけるとありがたい限りです。___ところで、そちらの嬢ちゃんが通訳ですかい?随分と可愛らしいですなあ」

 

牛山さんが少佐の頭を撫で始めました。

 

ああ…生きた心地がしない。

 

私は少佐の堪忍袋の緒が切れる前に、牛山さんの蛮行を止めます。

 

『ヴィーシャと言います。彼女はまだ幼いですが実力は確かです。今も私の研究室で助手をしてもらっているので。…あまりちょっかいを出すと怒っちゃうので程々にしてくださいね?』

 

「おっと、これは失礼」

 

牛山さんに頭を撫でられている間、少佐は終始笑顔でしたが…。

 

明日のニュースにトーラス・シルバー死去の文字が並ばないことを祈るばかりです。

 

『__ところで、そちらの男性は?』

 

私は牛山さんの後ろに控えていた男性に視線を向けます。

 

『ご挨拶が遅れました、自分は司波達也と申します。牛山さんの助手を務めております。入学式でのご挨拶は、非常に興味深い内容でした』

 

『…驚きました。第一高校の生徒さんだったんですね。それにまだお若いのにロシア語も堪能で…。人前に出るのは慣れてないので、あんな稚拙な挨拶でお恥ずかしい限りです』

 

『自分は二科生なので、デグレチャフ先生の講義を受けられる機会はありませんが、妹は顔を合わせる機会も多いと思うので、どうぞよろしくお願いいたします』

 

『妹さん?…ああ、新入生総代の司波深雪さんですか?彼女には舞台袖で声を掛けて頂いたので凄く印象に残っています。授業がなくても教師と会うことを禁止されているわけではありません。だから司波君も、私に何か力になれることがあったらいつでも呼んでくださいね。あ、でも、いやらしいことはダメですよ?』

 

『分かりました。機会があれば伺わせて頂きます』

 

『はい、お待ちしてますね』

 

「___それじゃあ、おんz…達也はヴィーシャちゃんの相手を頼めるか?」

 

「それは構いませんが…牛山さん、ロシア語は大丈夫なんですか?」

 

「舐めるなよ。この日のために駅前留学してきたし、いざとなったらこの翻訳機でバッチリだ!」

 

「…そこはかとなく不安ですが、頑張ってきてください」

 

「おうよ!」

 

『それでは私も行ってきますねヴィーシャ。ちゃんとお利口にしているのですよ?』

 

『子供扱いしないでよ。はい、さっさと行ってらっしゃい』

 

『はいはい。___それではMr.牛山、行きましょうか?』

 

「はい、こっちでさぁ」

 

先を促されて歩き出す私たち。

 

チラリと振り返り視界に映った少佐の顔は、どこか愉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___さて、お互い面倒なままごとの時間は終わりとしようか。なあ?トーラス・シルバー。いや、Mr.シルバーとでも呼んだほうがいいかね?」

 

「白銀の二つ名を持つ君に呼ばれるなら光栄な限りだ」

 

「ふん、その減らず口も変わらぬままだな。彼女に嫌われるぞ?」

 

「生憎、青春を謳歌するには時代が遅すぎる。もう百年早ければそのような悩み事も許されただろうな」

 

「物は言いようだな。魔法学の歴史を数百年進めた張本人に言われるとは、これほど腸を煮えくり返される皮肉は他にない」

 

「俺はまだライセンスも持っていないただの学生だ。騒いでいるのは物の本質を捉えられていない社会的盲目者だけだろ?」

 

「あ?誰が盲目者だと?私が君よりも劣っていることは重々承知の上だが、老眼になるような年齢ではないはずだ。何かを普通と定めればそれ以外は異常と捉える社会の膿と同義の考えだぞ、君のソレは」

 

「俺は事実を伝えるだけだ。実際に見えていないのだから仕方がないだろ。人は見たいものしか見ないのだから」

 

「そういう所だけ同感なことに自分でも驚くほど腹が立つ…!」

 

「同族嫌悪じゃないか?」

 

「やめろ私は人間だ。お前みたいな人外と同じにするな」

 

「___なにはともあれ、こうして顔を合わせるのは初めましてだな、ターニャ・デグレチャフ」

 

「ふん…、できれば文書のみのやり取りでこの関係を終わらせたかったよ。タツヤ・シバ」

 

「着眼点や発想の転換はタイムリーに記録するのが一番だ。…まあ、君の年齢を考えるとそうしたくなかったという感情も分からなくはない」

 

「分からなくはないというのなら、もっと表情筋を動かしてから言え」

 

「…こうか?」

 

「エチケット袋を頂けるかな?ああ、三枚ほどあれば足りるだろう」

 

「どれだけ昼食を摂ったんだ?」

 

「皮肉に乗ってくるな…君と話すのはただでさえ疲れるんだ」

 

「それならば尚更良かったのか?牛山主任と二人にして。あの女性が副官なんだろ?セレブリャコーフさんだったか?」

 

「人間、考えることは皆同じだな。まあ、だからこその共通認識か。___このことはMr.トーラスには?」

 

「牛山さんは器用に嘘を吐ける人柄ではない。化かし合いをしていれば、確実にボロを出していただろうな」

 

「ウチの副官も同様だ。二人には悪いが、暫くは費用対効果の最底辺を歩んでもらうとしよう」

 

「随分と愉しそうだな?」

 

「自分よりも下の人間を見ると安心しないか?」

 

「やはりお前は人間のクズだな」

 

「光栄だ」

 

 

 

 

 

神の化身など呼ばれるよりも何倍もマシだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____とある日常の一幕より

 

 

 

 

 




存在Iはただいま引継ぎの作業で脳死状態らしい。

趣味の最中に仕事のことを思い浮かべる等、まさに愚の骨頂。

さて、休暇の次は出勤日だ。

相手先は…なるほど。

これは少しばかり、荒々しいことになりそうだ。

それではまた戦場で

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