魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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episode15.

 

 

 

 

 

 出会いは一つの電子掲示板から始まった。

 

 数々の魔法大学で教授達の頭を悩ませてきた難問を組合せ、その解の法則性から得られるパスワードを手に入れることができた者だけが立ち入ることを許される電子の砂城。

 

 片や、完全記憶能力という頭の可笑しい能力を最大限に用いて、軽々とその門をこじ開けたとある日本の青年。

 

 片や、知性の合理化と称し、人生というリソースを社会の有能な歯車として機能すべく狂気的効率化を徹底することで、天才共のちっぽけな努力を嘲笑ってきた、幼女の皮を被った化けもの。

 

 そんな、およそ人らしからぬ二人が出会うのは、もしかしたら必然だったのかもしれない。

 

 青年は、魔法師が兵器としての役割以外の居場所を社会に生み出そうとした。

 

 幼女は、魔法を凡庸なものとして、狂気的なまでの公平さを社会に浸透させようとした。

 

 道は違えど、従来の魔法師の在り方に疑問符を唱える両者は互いの思想を尊重し、また尊敬の念を送り合った。

 

 しかしてこの時、日本にて二人の悪魔的技術者が顔を合わせることと相成ったわけで、その光景は以下のようになった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 紙コップに淹れられた安物のコーヒーの香りに、露骨に顔を歪めた私はデスクに腰掛けた青年を見やると、おもむろにとある二つの記録媒体を差し出した。

 

「既に聞き及んでいることかもしれんが、一応の形式として渡しておく」

 

「ブランシュの件か?」

 

 一切、席を立つ素振りが窺えなかったため、一番受け取り辛い正中線から利き手側の方向に、当てつけのように記録媒体を放り投げる。

 

 何の苦も無くそれを受け取ったタツヤは、流れる様な手つきでハードを立ち上げ、記録を端末に同期させていく。

 

「ふん…。私の職場を嗅ぎまわりゴミに集っては、ぶんぶんと耳障りな音を発てる蝿共か。確かに気に喰わない連中に違いないが、今回は別件だ」

 

 画面に映し出された文字の羅列を、信じられないほどの速度でタツヤは読み込んでいく。

 

 全てを読み終えたタツヤの表情は、無表情の中に一種の怒りという感情を携えているように思えた。

 

「………どこでこれを?」

 

「四葉のご当主様、とでも言えば納得するかね?」

 

「それを証明するものは?」

 

「ない。だが、これを君に見せるという事実が、何よりの証拠になると思えないか?」

 

「言っておくが、俺にとって四葉家は利用するものであって、後ろ盾となるような存在ではない。例え俺を懐柔したところで、四葉の力を手にすることなど不可能だ」

 

 私は渡されたコーヒーにミルクと砂糖をこれでもかと投入していく。

 

 これは最早コーヒーではなく泥水に近いものだ。

 

 それでも、安物の香りに舌と鼻腔が侵される前に、甘みという味覚を使って、コーヒーのような液体を一思いに胃の中へと流し込む。

 

 喉に残る甘ったるさを押さえ込みながら、私は次の言葉を紡ぐ。

 

「知っている。アンタッチャブルで世界的に有名な魔法師の家系だ。それに手を出すなど、スズメバチの巣に両手を突っ込んだ方がまだ安全だろう。私が欲しいのは君だよ。タツヤ・シバ」

 

「…断ると言えば?」

 

「これは勧誘ではない。最後通牒でもなければお願いですらない。ただ、君は私の計画になくてはならない存在。ただそれだけのことだよ」

 

「話にならないな。この文書…【常駐制御型熱核式融合炉】のプロトタイプ運用実績記録書を見るに、まだまだソフト面に関する欠陥が多い。これではまだ魔法師に掛かる負担量が許容範囲外だ。そもそも魔法師を装置の部品として据えている時点でこの構想はナンセンス極まりない」

 

「だが、装置の稼働は実証され日本で採算も獲れるよう大まかな見積もりも既に協議済みだ。後はこれを改良し、大々的に世間に公表すれば君の名声と巨万の富は約束されたも同然だぞ?お得意のループキャストシステムで元素の循環システムをアップデートすれば、それだけで装置の可動性は飛躍的に向上する。その時得た君の権力を、四葉殿は果たして無碍に扱うことができるだろうか?」

 

「そこまで理解しているからこそ俺には君が理解できない。何故、自身の研究成果を他人に、しかも俺に譲る?君にとって本研究は価値あるものではないのか?」

 

「価値はある。あるだろうが、これを世に生み出したのは君でなければならないのだよ。タツヤ・シバ。かの有名な絵画のひまわりに価値があるのは、ひまわりという絵が素晴らしいからではない。ゴッホが描いたひまわりだからこそ、あの絵には価値があるんだ」

 

「ならば、ゴーストライターを演じることになる君はどうなる?俺は一人の研究者として、今回の話を受け入れることはできない」

 

「それならば問題ない。なぜならこの装置を作ったのは私ではない、別の者だからな。しかも、その者はもうこの世におらず、この記録書の存在を知るのは私と君の二人しかいない。____ゴーストライターは生きている人間が代わりに物語を書くからこそ成立する。なら、名前も知らぬ、存在さえ認知されていない本物のゴーストが物語を書いたとして、その想いを代わりに世に知らしめてやることは、果たしてそんなに罪深いことなのか?」

 

「君は本当に人間なのか?」

 

「ああ、人間だとも。私ほど人間らしい人間は他にいまい」

 

「………」

 

 タツヤは短い黙祷の後、記録媒体を懐にしまうと私の前まで歩み寄り私に右手を差し出した。

 

「気がついていないようだから先に言っておく。君は間違いなく化け物の類だ」

私は椅子から飛び降り、タツヤの手を取ると清々しい嗤い顔で首を傾げる。

 

「その言葉、そっくりそのまま返しておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 魔法大学付属第一高校。

 

 その施設の一角では、一科生に対する二科生からの処遇改善に関する物議が醸し出されていた。

 

 二科生の代表者が恫喝に近い意見を一科生の生徒にぶつけ、それを懇切丁寧に一つ一つ反論の余地もないほどの容赦のなさで、圧倒的演説力を見せつける生徒会長。

 

(…大隊長殿の予想だとそろそろ来る頃合いなんだけど…)

 

「___雛鶴(ひなつる)君?雛鶴君?どうかしたかい?」

 

 私が窓の外に視線を向けていたことを不思議に思ったのか、風紀委員の先輩である沢木先輩が私に問いかけてくる。

 

「いえ…ちょっと、今日は交通量が多いなと思いまして」

 

「ん?ああ、あれは機材のメンテナンスをする魔法師協会の車両だね。…でも、可笑しいな?予定だと来週末の筈なんだが_____」

 

 

 

 どーーーんっっっ!!!!

 

 

 

 会議堂に途轍もない轟音と衝撃が響き渡る。

 

「何だ!?何があった!?」

 

(来た来た来ました!ミッション開始です!!)

 

 私は騒音の鳴り響いた方向に走り出す。

 

「私が様子を見てきます!沢木さんは渡辺委員長に報告を!」

 

 私に制止を訴える沢木さんの声を背に私は屋外に向かい駆けだした。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「___少尉」

 

「はい」

 

 少佐の合図と共に、私は演算宝珠を起動させ光学系術式により少佐の幻影を生み出す。

 

「今後の行動はブリーフィング通りに。例の物の回収を忘れるなよ」

 

「了解しました。少佐、ご武運を」

 

「よし___作戦開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____対ブランシュ戦 開戦____

 

 

 




存在I「残業ゥ…概念ごと消え去って下さい頼むから」

投稿頻度が圧倒的に減ってますが、ちまちまと書いているので、暇なときにでも覗きに来てくだされば幸いです。

取り敢えず私は上司と戦争してきます!

社会人の皆様が定時帰宅できることを心よりお祈りしております。

それではまた戦場で
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