「レオ!ここは任せたぞ」
「おうよ!!___さあ、来い!!」
銃声と剣戟。
戦闘の円舞曲が鳴り響く校内で、ここに一人の二科生徒が躍動する。
硬化魔法を逐次展開することで、魔法の重ね掛けによる処理落ちを起こすことなく、遺憾なく硬化魔法の利点である強固な白兵戦を展開する男子生徒の名は西城レオンハルト。
実技等へ向かった達也達に追ってが掛からぬよう一人残り、その恵まれた体格を生かし、ブランシュの残党数十人を相手に大立ち回りを演じていた。
序盤こそ、魔法師のアドバンテージを活かし魔法による掃討を行っていたが、物量とは案外馬鹿にできないもので、徐々に戦線の後退を強制され掛けていた。
(ちっ!こいつ等、大した強さじゃねえが、如何せん数が多い!!ダメだ、抜かれる!!)
仮に数人取り逃がしたとしても、あの程度の輩に達也達が後れを取るとは全く思わない。
それでも、自分はこの場を任されている。
友達(ダチ)にそう頼まれて、すみませんできませんでした、じゃあ自分で自分が許せなくなる。
しかして、そんなレオの心情を嘲笑うかのように現実という名の敵は次々と押し寄せてくる。
「…クソっ!!」
小太刀を振りかぶり襲い掛かってきた二人の敵の攻撃を、硬化魔法により防ぎつつカウンターを放つことで意識を刈り取る。
しかし____
「死ねッ!!」
(しまった…!)
二人の陰に隠れていたもう一人の敵が懐に潜り込み、サバイバルナイフをレオの心臓を目がけて突き出す。
魔法の
レオは魔法の発動が間に合わないと判断するや否や急所を守るために、左腕を自身の胸の前に引き寄せる。
レオが刺傷による痛みを覚悟した時、不意に柑橘系のような爽やかな香りが鼻腔を凪いだ。
「___そんなの持ってたら危ないですよっと!」
透き通るような真っ白な肌をした細腕が、サバイバルナイフを持った敵の手首を掴んだ瞬間、その敵はサバイバルナイフだけをその場に残し、慣性の法則を無視したような動きを見せながら側方に吹き飛び、カエルが踏まれたような声を出して地面に衝突し、そして動かなくなる。
一瞬の出来事に目を白黒させたレオは、今しがたの現象を引き起こした人物の相貌を捉える。
その人物、いや少女は自身の左腕に付けられた腕章を、奪い取ったサバイバルナイフの柄で指し示しながら言った。
「風紀委員の雛鶴アリスです!!私も微力ながら加勢させていただきます!!」
朗らかな笑みを携えながら戦場に立つその姿は、現代のモードレッドのようにも思えた。
◇◇◇
どうも、私はメアリー・スー………違いますね。
メアリー・スー改め雛鶴アリスです。
今回の任務中はこの名前で呼称するので私も間違えないように注意しないといけませんね。
さて、現在の状況を簡単にまとめると、敵が攻めてきています、以上です。
私が少佐から言い渡された命令は実技棟に一定数以上の敵を近づけないことです。
命令が実技棟を死守しろ、ではなかったことが少々疑問ですが、少佐のお考えなら異論などありません。
少佐の命令は絶対なんです。
ということで、二科生の男子生徒が刺突され掛けていたので割って入りましたが余計なお世話でしたでしょうか?
ですが、私が用があったのはサバイバルナイフを持っていた男性の中指です。
どれどれ?……うん。これですね!
切り取った男性の中指は、魔法により灰にして、残った指輪をポケットにしまいます。
これを沢山集めれば少佐がご褒美をくれるそうなので私、頑張ります!
おっと、ちょっと興奮しすぎて男子生徒の存在を忘れていました。
仕方ありません。
ここはワザとらしく自己紹介でもして、先ほどの私の奇行を不問に伏していただくことにしましょう。
「風紀委員の雛鶴アリスです!!私も微力ながら加勢させていただきます!!」
笑顔もサービスです。
さて、任務を継続しましょう。
……………。
…ああ、来ていたのか?
わざわざこんな場所にご足労頂いて感謝の極みだが、生憎と今、貴官を歓迎する気分には到底なれなくてね…。
端的言うと、そうだな____
存在Iが我々の作成した報告書(文書データepisode16~21)を紛失したそうだ。
憤慨ものだよ。
現在、我が隊の人員を総動員して紛失物の探索・復旧作業にあたっている。
デスクトップは…さながら地獄らしい…。
それではまた戦場で