魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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中旬の定義。

私はそんな当たり前の事実から目を逸らした____

戯言を失礼しました。




episode21.

 

 

 

 

 巨人の足音が脳髄を震わせる。

 

 そんな錯覚を覚えるほどには私の神経回路は眼前の異常性を正しく認識できていた。

 

 一辺、1m弱の四方形が確かな殺意と共に頭上から降り注ぐ。

 

 世界最高レベルの魔法障壁【ファランクス】は遺憾なくその本領を発揮し、私の身体を土と同化させようと意気込んでいる。

 

 既に私の衣服は雑草と土の色が染み付き、軍服の迷彩振りに拍車がかかり涙が出そうだ。

 

 しかし、私もただやられているわけではない。

 

 魔法による自己加速術式を展開しつつ、魔術による貫通術式を弾丸に付与する。

 

 回避行動の際、魔法再発動のインターバルに鉛玉を脳天目がけて撃ち込んでいるのだが、多重装甲型の障壁を前に、ただ小さな花火を上げるだけに終わっている。

 

 すまない、君には何の罪も無いのだが、何も理由を聞かずに死んでくれると助かる十文字少年。

 

 額を伝う汗が障壁による空気の高速移動で吹き飛ばされる感覚を、悪態を吐くことで黙認する。

 

「ぐッ…!!」

 

 バックステップした先に物理障壁。

 

 運動エネルギーを付与されていない壁の役割など防御を除けば足止めの罠以外あり得ない。

 

 私は追撃のファランクスを避け切れないと判断し一種の賭けに出る。

 

 魔法障壁の発動。

 

 十文字家のファランクスに真っ向から力比べを挑む。

 

 常時の私なら疎かだと唾棄した戦法だろうが状況が状況だ。

 

 多少のミスもご愛嬌というもの。

 

 全く以って予想通り。

 

 見積もりの甘さが響き、私の身体は一瞬で宙へ浮き建物の窓を物の見事に突き破る。

 

 空中に散らばったガラスの破片ごと叩きつけるように床へ手を突き体勢を立て直す。

 

 手のひらに小さな障壁を展開することで手が血まみれになることは防ぐ。

 

 図らずして遮蔽物に身を隠すことができた私は、存在Xの死角から狙撃するためフラッシュグレネードのピンを犬歯で咥えてひと思いに引き抜く。

 

 小さな太陽を窓の外に投げ込んだ後、自身に掛かるリスクケアのため口を開き目と耳を塞ごうとした時、左目だけ閉じた私は見た。

 

 宙で物理法則を無視した動きで此方に跳ね返ってくるグレネードを。

 

(くそったれ!!!!地獄に堕ちろ存在X!!!)

 

 私は咄嗟に【回帰】を発動し、窓の奥に見えた木の枝とグレネードの位置を入れ替える。

 

 閃光と共に炸裂音が響き渡る。

 

 すぐさま銃口を窓の淵から覗かせ引き金を引く。

 

 しかし、既にその場に存在Xの姿はない。

 

(何処に…?___まさか!?)

 

 私は扉を蹴破り隣接する一室へ転がり込む。

 

 次の瞬間、天井が崩落を始め一秒前に私がいた場所へ破城槌が降り注ぐ。

 

 土埃が舞い視界が遮られる中、威嚇射撃を敢行する。

 

 だが、鳴り響くのは鉛玉がアスファルトの壁を叩く音だけ。

 

 マガジンを換装し銃弾を装填する最中、瓦礫を踏む音を捉えた私は咄嗟に片手で引き金を引く。

 

 これが悪手だった。

 

 銃の反動により体幹が軽度後傾した瞬間、狙い澄ましたように右手の銃を掠め取っていくファランクス。

 

 右手を守るために銃を放したのは正解だ。

 

 手中から取り溢した小銃をきっぱりと放棄した私は、演算宝珠に魔力を通し魔力障壁を展開する。

 

 断続的に襲い掛かる視えない壁の暴力は、私の理不尽な奇跡の暴力と拮抗し合い、そして相殺された。

 

 左手を大仏のように突き出したままの存在Xは、何を思ったのか攻撃の手を止める。

 

 私は半身の体勢のまま右手を身体で隠しつつ、存在Xとの不愉快な雑談に興じる。

 

「盾で槍投げの真似事とは。随分と酔狂なことを思いつくものだな?」

 

【貴様は一度、大地の神に抱かれたほう良い。貴様の薄汚れた血と思想は大地の神が清き色に浄化することだろう。何とも素晴らしく、実に喜ばしいことだ。そのためにはお誂え向きな趣向だと思わないかね?】

 

 存在Xの言葉に、私は徐々に自分が笑顔になっていることに気付く。

 

 無理もない。

 

 私が殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまらない。

 

 そんな、夢に出るほど待ち焦がれた相手が目の前にいるのだから。

 

「ああ、思うとも。___その血が貴様の血なら最高に愉快だよ!!」

 

 私は私という座標と存在Xの背後の座標を相対位置として固定し、中点を軸に頂点を入れ替える。

 

 空間転移魔法【回帰】を発動する。

 

 高速で半円の軌道を描くのではない。

 

 ただ、相対位置にある空間を交換するだけ。

 

 初めからそうであったと世界に承認させる。

 

 心象世界を具現化しようとも、もとの世界から完全に外れているわけでは無い。

 

 だが逆を言えば、もとの世界から外れかけているともいえる。

 

 世界による復元力が弱まるこの世界では、抑止力となりうるのは己の理性、心意のみ。

 

 サバイバルナイフに貫通術式を発動する。

 

 あらゆる障害を無効化する干渉術式による一撃は、ファランクスの重層的な守りを、まるでバームクーヘンにフォークを突き刺すような滑らかさで貫く。

 

 そして私は存在Xから溢れる血を歓喜の表情で迎え入れる___

 

 

 

 

 

 ___はずだった。

 

 

 

【卑しいな、人間】

 

「っ~~~~~~!!?」

 

 刹那、ナイフの刃の部分が砂の城を崩すかのように消失する。

 

 存在Xの手が私の手首から先を覆い尽くすように掴み取る。

 

 冷や汗が噴き出し、左手で右腕を引き抜こうとするが遅かった。

 

 そのままナイフの柄ごと右手を握り潰された私は、喉の奥から漏れ出そうになる悲鳴を、奥歯を噛み砕くことで抑え込み更なる追撃に備える。

 

 手の甲から肌を破って突き出した骨と血の感触に、言いようのない嫌悪感を味わいつつ私は必死に手を引き抜こうとする。

 

 私の抵抗を嘲笑うかのように腕を掴んだままの存在Xは、私を吊るし上げ痛みに苦悶する表情を愉しむかのように私の顔を覗き込む。

 

【貴様の思考をなぞるなど悍ましいことこの上ないが、貴様を信仰心で満たすためならばいた仕方あるまい】

 

「ふざけるな!誰が貴様のような変出者を信仰なぞするものか____ガッっ!!!」

 

 まるでゴミを放り捨てられるように屋外へ投げられる。

 

 ご丁寧位に右肩の関節を外すような投げ方をしてくる。

 

 ゴッ とおよそ人の身体から聞こえてはならない音が自分の肩から響いたと思った時には既に激痛が脳髄を駆け抜けた。

 

 受け身など取る余裕などなく、私にできる唯一の抵抗など悲鳴を上げないよう歯を食いしばることくらいだった。

 

 痛みに思考を阻害される中、存在Xの不愉快な雑音が私の耳管を犯す。

 

【これぞ神。これこそが神。分かるか?創造主とは偉大なものなのだよ、冒涜者。だからこそ貴様の蛮行を見逃すわけにはいかん。選べ。死したまま惨めに生きるのか?生きながらに死を享受するか?それとも______我が信仰に目覚めるか?】

 

「……黙れ」

 

 私は外れた右肩に左手を添える。

 

【信仰は素晴らしいぞ。祈るだけで人間は救われる。安らかになられる。幸福になれる。福音を授かるのだ】

 

「…黙れ」

 

 無理やり骨頭を関節腱板内にねじ込む。

 

 痛みは無視する。

 

 いや、それよりも。

 

【そのような痛みに悩まされることなど無い。苦しみも悲しみもない。満ち溢れた世界が__】

 

 

 

 

 

 

『黙れと言った』

 

 

 

 

 私の思考はこの不愉快な声をどうやって消し去るか、その方法を見つけだすことで埋め尽くされていた。

 

 武器は既にない。

 

 あるのはこの首から下げた宝珠と手首に装着した汎用型CAD。

 

 そして、瞳の色を変えるほどの熱量を発している、この脳のみ。

 

 色彩感覚が消え、雑念は沈まり、思考のみが加速していく。

 

 心象世界が塗りつぶした世界である【封絶】の空間が私の心意に呼応するかのように、その色を変えていく。

 

 カチリッ。

 

 歯車が噛み合ったような音を脳が発する。

 

 私は拉げた右手の親指を立てる。

 

 そして____

 

「自称神よ。話し相手が欲しいのなら初めからそう言ってくれ。あまりにも惨めで可愛そうで私の良心が傷んで仕方がない。どれ、私が慰めてやろうか?___よちよち、神ちゃま上手におしゃべりできてまちゅねーすごいねー!

お可愛いこと(嘲笑)

 

 GO TO HELL.

 

 皮肉たっぷりに最高の笑みを送る。

 

 さて、仕上げといこうか。

 

「見せてやろう、自称神。これが人間の、人間にしかできない___戦い方だ」

 

 

 

 

 

 




次回で入学編終了するといいな…。

何とか夏休み中に九校戦を…!!

ターニャや達也君の水着回を!!

私は描き続ける___睡魔に屈服するその時まで!!←寝落ちまで秒読み

それではまた戦場で
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