魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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やあ、諸君。

初めましてかな?

新ソ連軍参謀本部 戦務参謀直轄部隊 第二〇三魔法師大隊所属 ターニャ・デグレチャフであります。

…何?私のことはよく知っていると?

ふむ…貴官らとはどこかで面識があったかな?

………なるほど、帝国の時代からよく知っていると。

なるほど。

よし、理解した。



ブタ箱は向こうだ、さっさと失せろこの蛆虫どもが。



__失礼、少々取り乱してしまったようだ。

何分、前書きと後書きを書けという存在Iからの理不尽な指令を受けて気が立っていてな。

それに、存在Iが言うには口汚く罵った方が読者である貴官らは喜ぶのだろう?

存在Iもそうだが頭でも沸いてるのか?

ありがとうございます__か。

…もういい、さっさと仕事を済ませるぞ。

時間外労働など経営戦略の欠陥を露呈するだけの最悪の所業と知れ。

さて、状況を整理しよう。

現在、我々第二〇三魔法師大隊は南西地区にて反魔法師団体並びに大亜連合魔法師部隊の混合部隊と交戦中。

敵軍の戦力を鑑みるに、領土侵攻が目的ではないことは明白だ。

遅滞戦闘の構えだが非魔法師の装備品に対魔法師用ハイパーライフルが装備されており、我が隊にも数名負傷者が出ている。

生半可な魔法障壁ではハイパーライフルの餌食となるから当然だ。

それでも、D地点を残し反魔法師団体の制圧は滞りなく終えた。

目下の案件は敵軍最優戦力である呂 剛虎の対処にある。

目的は恐らく魔法師の鹵獲と技術奪取にあると考えていいだろう。

小柄な少女である私など、相手から見ればカモ同然だろうな。

餌にされるのは気に喰わないが、それでも件の虎は見事に釣れた。

ここまではよろしいかな?

今回、存在Iから出された指令は【呂 剛虎との戦闘報告の詳細説明】だ。

何が悲しくて自分の書いた報告書を朗読しなければならないのだ。

いかんいかん。

ここは冷静にだ、冷静に。

「素敵なお仕事をありがとうございます。___地獄に堕ちろ存在I」










episode3.

 

 

 

 

 

 この世界における魔法とは、事象に付随している情報体に対して「状態の定義」を改変し作用を発生させるものでしかなく、事象そのものを作り出すことはない。

 

 例を挙げると、紙の分子の運動エネルギーを魔法で改変させて燃やすことは可能であるが、紙自体を何もない空間から魔法で作り出すのは不可能で、紙を全く別の物質へ変化させることもできないのだ。

 

 魔法は物理法則の埒外であるが無関係ではなく、物理法則に逆らわない形で発動された魔法であるほど、そうでない魔法に比べ、少ない力による大規模な事象改変が容易となる。

 

 また、物理法則に反しているか否かに関わらず、事象改変の規模や干渉度が大きくなればなるほど難易度の高い魔法であり、魔法師に大きな負担をかける。

サイオンを活性化させたターニャは、呂 剛虎が古式魔法を展開したのを確認し不敵な笑みを浮かべる。

 

(実に私好みな作用機序だ。特に物理法則など、観察と体系化の到達点ではないか。【奇跡】などという俗物とは当に対極)

 

 CADへサイオンが送られる。

 

 CADが返したサイオンの信号を起動式として読み取り、変数と共に魔法演算領域へ入力し、魔法式として出力する。

 

 ターニャが選択したのは、八種の系統魔法の一つである加速系統の術式。

 

 通称、自己加速術式。

 

 魔法演算領域で構築した魔法式がイデアを経由してエイドスの状態の定義を書き換え、事象を改変する作用が発生する。

 

 呂 剛虎が一歩目を踏み出すタイミングで自己加速術式が発動する。

 

 景色が色彩の傍線と成り果てた後、すぐさま次の魔法を発動する。

 

 収束と発散による空気弾だ。

 

 空気中に生じた大気圧により圧縮された空気は、魔法式によって書き換えられた事象改変により、指向性をもって標的に襲い掛かる。

 

 12発の空気弾が弾着し辺りを雪煙が包みこむ。

 

 自己加速術式により呂 剛虎に対して右後方に距離をとったターニャは、敵の出方を伺う。

 

 その数秒後、雪煙の流れに不自然な揺らぎが生じた。

 

「___っ!!?」

 

 瞬間、凄まじい風圧と共に剛腕が繰り出される。

 

 当たれば即死は必至。

 

 かわそうとも身に纏った風に触れれば皮は裂け、肉は削ぎ落されることになるだろう。

 

 ターニャは素早く展開した魔法障壁によって呂の攻撃をいなし硬化魔法を発動させる。

 

 硬化魔法の定義内容は物質間の相対位置を固定する魔法である。

 

 ターニャはその魔法を足元の雪に発動し、呂 剛虎の脚を雪原に固定する。

 

 世界からの復元力によって魔法式の改変効果は永続的にはならず、元の状態に戻ってしまう。

 

 長い時間対象に魔法を作用させるには魔法式の掛け直しを継続的に続けなければならない。

 

 そのため、ターニャは呂 剛虎が魔法を掛け直すその一瞬を狙って、ブーツと雪の相対位置を固定したのだ。

 

 いかに古式魔法といえども世界からの復元力に抗うことは許されない。

 

 コンマ一秒を争う魔法戦闘中にそれをなせるターニャの技能・胆力は流石としかいえない。

 

 足止めを喰らった呂 剛虎を傍目に移動魔法により跳躍したターニャは、振動系統の魔法を使用する。

 

 一辺10mの立方体を二つ構成し、一方の立方体内の分子運動を減少させる。

 

 そうして、分子を運動させていたエネルギーは世界からの復元力によりもう一つの立方体内の分子運動を増加させるエネルギーとして付加される。

 

 ある魔法師は「魔法とは世界を欺くもの。世界にとって自分たちは巧妙な詐欺師でなければならない」と述べた。

 

 その言葉の通り、確かに世界の復元力は分子に運動エネルギーを戻した。

 

 ただし、その返還先を欺いた。

 

 その証拠に、分子運動の減少した空間は外気温を急激に低下させ、空気中の水分は結晶化していく。

 

 一方、分子運動の増加した空間は膨大な熱量を発生させ、炎として具現化する。

 

「焼き時間は30秒といったところか?私は焼き目がこんがりとした方が好みだからな」

 

【氷炎地獄(インフェルノ)】が発動し、空間内の温度を極寒と灼熱に二分する魔法が

呂 剛虎に襲い掛かる。

 

 しかし_____

 

「らあああ!!」

 

「ちっ!野蛮人がっ!」

 

 対象を焼却する前に熱で雪が融解し、相対位置の固定の定義内容に反故が生じたため、硬化魔法の持続時間に狂いが発生した。

 

 その結果、氷炎地獄の熱は呂 剛虎の表皮の一部を焦がすのみとなってしまった。

 

 炎の渦から飛び出した勢いそのままに、呂 剛虎はターニャへと肉迫する。

 

 手指貫徹。

 

 白兵戦ならば誰にも負けないという誇りか。

 

 怒涛の勢いで近接戦闘を仕掛けていく呂 剛虎には得物を狩る猛獣のような獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

 その気迫に圧されてか次第に、ターニャの魔法障壁に綻びが生じ始める。

 

 そして___

 

「っっっガハッ!!」

 

 障壁が突破され、防御のために咄嗟に掲げたCADは主を守ることと引き換えに、その

真っ二つにして雪原に転がるオブジェに成り果てる。

 

 衝撃を殺せず後方に弾き飛ばされたターニャは、基礎単一工程の移動魔法を発動し辛うじて着地する。

 

 しかし、これでターニャはCADを失い魔法の発動スピードは大幅に低下する。

 

 対して、氷炎地獄により負傷はしているものの未だ動きの精彩さが衰えることのない、古式魔法師である呂 剛虎。

 

 ターニャのCADを破壊したことにより勝利を確信した呂 剛虎は、彼女の意識を奪い捕縛するため、ゆったりと、しかし確実に互いに空いた距離を近づけていく。

 

 その時、呂 剛虎はターニャが背中に背負っていた一丁のライフルを構える様子を捉える。

 

 今時、非魔法師でも使用しないような古びた銃身に、木製のフレーム。

 

 アンティークとしての価値しかないような武器で、それでも抗おうというのか。

 

 呂 剛虎にはそんな少女の姿が、祖国を守って死んでいった仲間たちの姿と重なった。

 

 しかし、ここは戦場である。

 

 既に非情に徹している呂 剛虎の眼に迷いなど無かった。

 

 少女が引き金を引く。

 

 魔法は疎か、サイオン光すら発生しない稚拙な攻撃。

 

 呂 剛虎は古式魔法によりその銃弾を弾き飛ばし、早めに意識を刈り取ってやろうと、払いのけるようにして左手を振る。

 

 魔法によって生み出されたその風は、旧型の兵器如きに貫けるものではない。

 

 左手の甲が銃弾を捉える。

 

 そして___手の甲を貫通した銃弾が左肘の関節を破壊する感触と共に左腕が後方に大きく飛ばされた。

 

「___!!?ぐうおおおおお!!!!???」

 

 衝撃で左肩を脱臼し、遅れてやってきた激痛を傷口を抑えることで耐える呂 剛虎は、金色の虹彩を突きつける彼女から咄嗟に距離をとる。

 

 ありえない。

 

 アンティナイトも術式解体も魔法もなしに、ただのライフルで自身の魔法による装甲を貫いた。

 

 呂 剛虎は今の現象に対する理解が出来ぬまま、ただ本能が危険だと警告を発するためそれに従った。

 

 果たして、それは正解であったと呂 剛虎は後に気付くことになる。

 

 

◇◇◇

 

「主を讃えよ その誉れ高き名を___」

 

 私は血を吐くかのような思いでこの言葉を口にしては歯を軋ませる。

 

 以前の転生では、この呪いにも似た神への祈りで爆発的な力を得た私だが、この世界でもそれは同様だったようだ。

 

 しかし、そんな私へのプレゼントとでもいうのだろうか。

 

 あの忌々しい存在Xはもう一つ、ある力を私に押し付けていった。

 

 

 

 

 ___魔導

 

 

 

 

 それが何なのか、説明する必要も無いだろう。

 

 私は奇跡の力を自らに備わった力で否定するかのように、震える引き金にそっと力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 




報告は以上だ。

…なんだその不服そうな眼は?

苦情は存在Iにでも言うといい。

台本の執筆者は奴だ。

私は失礼させてもらう。

………ああ、そうだったな。

それではまた戦場で___これで満足か?

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