魔法科高校の無信仰者   作:苺ノ恵

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episode6.

 

 

 風呂は素晴らしい。

 

 文明が生み出した、いや、大地というリソースから人類が生み出した娯楽の一つといえよう。

 

 両手で椀の形を作り、ゆっくりと鼻先に近づける。

 

 指の間から零れた湯が、心地よい流麗感と共に水面に波紋を生む。

 

 寒空の吐息に中てられた華奢な体躯を隅々まで解す様に、湯気の白さが頬を朱色に染める。

 

 不意にこのまま湯の中に全身を浸からせてみるのも悪くは無い、そんな子供じみた発想をするほどに私の思考は湯の魅力に蕩けきっていた。

 

 ふうぅ…と、小さく息を吐き出すと全身がより脱力し、瞼を開く筋力すら奪われるような錯覚を覚える。

 

 私はそのまま数瞬の時を快楽に委ねた。

 

「___お隣、失礼しますね」

 

 どの程度、瞳を閉じていたのか。

 

 気がつけば、無駄に有能な副官が隣にいた。

 

「珍しいですね。少佐が此方の浴場を使用なさるなんて」

 

 セレブリャコーフ少尉は実に女性らしい仕草でタオルに纏め切れなかった髪を耳に掛ける。

 

 シャンプーにリンスと、髪の手入れを念入りに行っていたのか。

 

 既に彼女の肌には若干の朱が差していた。

 

 普段は拝めない婚約適齢期女性の香気したうなじの何と艶めかしいことか。

 

 だが、悲しいかな。

 

 元は男性だった私も、女性としての一生涯を体験したせいか、女性に対する劣情の類を感じることは疎か、動揺することさえなくなってしまった。

 

 それどころか、女性に対して妙な対抗心を覚えてしまう始末だ。

 

 コレだから理論に感情を交えてしまう女性脳は煩わしいことこの上ない。

 

 余談だが、チラリと見えたヴァイス中尉の腹筋に心臓が若干跳ねた時は自分の心臓に爆炎術式を掛けてやりたくなったほどだ。

 

 …シックスパックだったな………死にたい…。

 

 と、無駄な独白に思考を働かせたお陰で幾分か脳が再起動してきた。

 

「私がいては部下である貴官らは気が休まらないだろう?兵士にとって休息は重要な任務の一環だ」

 

「少佐のお心遣いには感謝の念が堪えません。ですが、もうちょっとだけ隊員との距離を近づけてもよろしいのではないですか?」

 

「本音は?」

 

「少佐がキチンとお肌と髪の手入れを成されているのか心配なのです!」

 

「そんなことだろうとは思ったよ…」

 

「私だけではありません。メアリーだって少佐の髪の手入れをしたいといつもボヤいているのですよ?」

 

「スー二等兵か…。私はどうにも彼女が苦手だ…」

 

「確か少佐が大尉に昇進前、孤立した部隊の救援戦でメアリーのお父君である現場指揮官だったスー大佐に気に入られてからですよね?メアリーに懐かれ始めたのは」

 

「あれは懐いているというのか?どこの部隊に上官に向かって誤射する馬鹿がいる?」

 

「あはは…メアリーってサイオン量も事象干渉力も桁違いなのに、なぜか射撃だけは壊滅的なんですよね」

 

「まあ、魔法障壁の強度と波状攻撃だけならば既に彼女は私を超えているからな。作戦行動中に彼女の誤射で殉職しないよう、精々気を付けるとするさ」

 

「___ところで少佐、私にお話とは?」

 

 彼女が居住まいを正し私を正眼に捉える。

 

 背筋を伸ばしたせいで彼女の凶悪なまでの女の魅力が強調される形になり、私は若干胸の内にどす黒いものを感じたが、既に思考は切り替わっている。

 

「喜ぶといい、セレブリャコーフ少尉。___バカンスだ」

 

「バカンス…!?私と少佐がですか?」

 

「詳細は後日伝えるが、あと一名加えても良いそうだ」

 

「なるほど、それで行き先は?」

 

 私は勢いよく立ち上がりのぼせ始めた瞳で高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

 

 ___【日本】だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お久しぶりです。九島閣下。ご壮健そうでなによりです」

 

『何とも懐かしい顔じゃないか。ゼートゥーア。君とは北方でワインを酌み交わして以来かな?』

 

「憶えていていて下さるとは嬉しい限りですな」

 

『私はうまい酒と有能な人材には目が無くてね。特に、君のような手の読めない戦略家は実に好物だ___して、要件を訊こうか?』

 

「私としても閣下とワインを酌み交わしたいのは山々なのですが、無駄に年を重ねるといらぬ役職まで就かされる。複雑な心境です。そこで今回、我が秘蔵のボトルを閣下に献上させていただきたく思い、こうしてお目通り願った次第です」

 

『ふむ…して、その中身は?』

 

「ターニャ・デグレチャフ」

 

『!?』

 

「近々、飛行魔法の体系化に踏み出すようでしてな」

 

『なるほど、【トーラス・シルバー】への橋渡しか』

 

「此度の共同開発が成功すれば、互いの魔法技術、誣いては軍事力はより強固なものとなるでしょう」

 

『条件はなにかね?』

 

「多くは望みません。ですが、お渡しする秘蔵のボトルを開けることはオススメしかねます。なにしろ___今開けては、せっかくの熟成期間が台無しですからな?」

 

『___いいだろう。私から軍の方に話は通しておくとしよう』

 

「ありがとうございます」

 

『なに、君と私の仲だ。今度は君に日本酒をご馳走するとしよう』

 

「楽しみにしております」

 

 

 

 

 

 

 

 レルゲン中佐の筆文書より抜粋____




新年あけましておめでとう。

どうも、ターニャ・デクレチャフであります。

存在Iの変わりに近況報告を少々。
先日、劇場版幼女戦記を鑑賞してきたが素晴らしい出来だったと言わざるを得ない。

緻密な設定に壮大な音楽。

そして、戦争の狂気に飲まれた登場人物達の勇敢な姿。

そして___メアリー・スー

おっと、これ以上は無粋だな。

精々、私は存在Iが興行収入の贄となるよう手を尽くすとしよう。

それではまた戦場で


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