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ヒビキは一足先に魔化魍が潜む場所へ到着した。
「アイツの紹介だと、ここら辺なんだが…」
険しい表情のままヒビキは周囲を確認する。いつでも臨戦態勢を取れるよう、音角を手に持っていた。
少し遅れて、明日夢もやってきた。
「ヒビキさん、待って下さいってばー」
「遅いぞ、明日夢。まだまだ鍛え足りないんじゃないのか?」
「そ、そんな事ないです! 僕だってあの頃に比べたら鍛えてますってば…」
その時、ヒビキがいつもするポーズをしようとした明日夢めがけ、何者かにより真上から糸が発射された。
「明日夢、避けろーッ!!!」
「うわっ!!」
うまく糸を回避して、明日夢は空を見上げるが糸は既になくなっていた。
「ふぅ……。ありがとうございますヒビキさん。助かりました」
「油断するな、次が来る」
そう言いながらヒビキは音角を近くの木に当ててから、額へ近づけていく。ヒビキの体が紫色の炎をまといはじめるとすぐに右手を突き出し、勢いよく払った。
『ウゥゥゥゥゥ……タァーーーッ!!!』
ヒビキは響鬼へと変身した。その姿は鬼そのものに見える。
『明日夢、離れるなよ』
「わかりました!」
リュックサックからディスクアニマルを取り出すと無駄のない動きで明日夢も腰にあった音角を使い、周囲に展開した。次にポケットにあったスマホを確認したが、スマホの電波は圏外を示していた。
「ヒビキさん。この場所、圏外みたいです」
『わかった。明日夢、いざって時は《走れ》。わかったな?』
「! …はい!」
響鬼との約束で《走れ》という言葉が使われる時、それはすなわち響鬼だけでは対処が出来ない可能性があるという意味だった。
その場合、明日夢は現場から退避し、安全な場所で応援を呼ばなければならない。
『やっこさん、次は右から来るぞ』
「はい!」
響鬼が示したとおり、爪を突き立てたツチグモが右側の森から現れた。響鬼と明日夢は同時に【ツチグモ】の攻撃を回避する。
『キシャァァァァッ!!!』
攻撃が避けられた【ツチグモ】は雄叫びをあげ、響鬼達を威嚇する。
『おいおい、なんだアレ…』
唖然とする響鬼だったが、無理もない。
目の前に現れた【ツチグモ】は通常の【ツチグモ】とは明らかに違っていた。
赤くカラーリングされた体、上半身に童子と姫が半分ずつ同化し、更には下半身には人の顔がいくつも見えた。ツチグモに取り込まれた顔はどれも目蓋を閉じている。
『目障リナ鬼メ…』
『あぁ、邪魔で悪かったな。おまえが取り込んでるその人達は返して貰うぞ!』
今まで鬼として活動してきた響鬼ですら、あんな姿のツチグモは一度も見たことがない。響鬼は腰の音撃棒を両手に携え、いつでも攻撃可能な姿勢で待ち構えていた。
「いち、にい、さん、しー……。響鬼さん、全部で十人分の顔があります!」
『【ツチグモ】ってよりは【ジュウメングモ】ってヤツだな。あの人達を助け出せるかは賭けだがやるしかない。
ハァァァァ、タァッ!!』
響鬼は呼吸を整え、音撃棒の先端へ意識を集中させると、赤い火の玉である烈火弾を【ジュウメングモ】めがけ発射した。
烈火弾は勢いよく飛んでいき、【ジュウメングモ】の上半身である童子姫の箇所に命中する。
『!!?』
爆発が収まり、煙が晴れてくると童子姫の姿はほぼ無傷のようだった。間髪入れずに童子姫の口から糸が発射された。
『シャーッ!!!』
「あっ!」
童子姫が狙っていたのは響鬼ではなく、明日夢だった。それを確認した響鬼は考えるよりも早く明日夢と糸の間に立ち塞がる。
目を閉じていた明日夢が目を開いていくと体を捕縛された響鬼が目の前にいた。
『……大丈夫か、明日夢』
「響鬼さん!」
『鬼ガ釣レタ! 鬼ガ釣レタ!』
喜ぶ童子姫。響鬼は糸をはずそうと試みるが身動きがとれない事を認識すると明日夢に声をかけた。
『……明日夢、いいか。これから俺が突破口を作るから《走れ》』
「!? ………わ、わかりました」
その言葉を聞いた明日夢の顔は、昔のようないつ泣きだしそうになってもおかしくない顔ではなく、覚悟を決めた男の顔をしていた。
『よし、それでいい』
明日夢の顔を確認した次の瞬間、響鬼は糸に勢いよく引っ張られ、童子姫に抱えられてしまった。
「響鬼さん!」
『ぐっ!! ……なぁ、もう少し丁重に扱ってくれよ、なっ!!』
響鬼はそう言いながら普段見せる事のあまりない口を開き、童子姫めがけ、鬼火を放つ。
『ギャァアアアアア!!!』
童子姫の身体が紫色の炎に包み込まれ、炎を払うべく大きく身悶えする。
『今だ! 走れぇぇぇぇえ!!!』
「はい!!!」
明日夢は【ジュウメングモ】と戦う響鬼に背を向け、全速力で車のある場所へ走り出した。明日夢の姿が見えなくなった事を確認すると、響鬼は鬼爪を両手に出現させる。
『よし、あとはこの糸をどうにかすれば…』
糸を切ろうとしていた瞬間、響鬼の体が宙に舞う。
『うおぉぉぉっ!!』
吹き飛ばされた先に見えたのは、今までその場所に存在していなかった巨大なジッパーだった。
(なんだ、あれは!?)
瞬時に理解しようと考えた響鬼だったが、直後に【ジュウメングモ】の一撃を食らってしまい、意識がそこで途絶える。
意識を失った響鬼を抱え、【ジュウメングモ】はジッパーの中へ飛び込んでいった。
ゆっくりとジッパーが降りていくと、響鬼と【ジュウメングモ】が戦っていたのがウソのような静寂が訪れた。