アイドルのハーレムなんてありえない 作:おるとろす
「と、いうわけで、くれぐれも頼むよ」
「大丈夫ですよ社長。そんなんありえないですから」
目の前のおっさん、もとい社長が言う。何か疲れてるように見えるのは気のせいだろうか。
今朝発刊の雑誌で某有名アイドルの熱愛がすっぱぬかれた。それも相手は担当マネージャーの様で、なんとそのマネージャーは他の複数のアイドルとも関係を持っていたらしい。
その為社長は俺に注意喚起していた訳だが……。
俺も多数のアイドルを受け持っているが、断言しよう。俺のアイドルに限ってそれはない。複数人はおろか一人だって付き合うことはできないだろう。
だって俺ただのプロデューサーだよ?
天と地、月とすっぽん。
アイドルと恋愛とか、どこのエロゲだよ。買うから教えてくれ。
はぁ…………家帰ってエロゲーでもしよ。
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「……それで、私と、付き合って欲しいんだ」
「うん。確かにな……って、なんて?」
「だから、私と付き合って欲しい」
待ってくれ。
えっ、ちょ、これなに? どっきりなの?
もしここで俺が「はい」って答えたら、プラカード持った社長が裏から出てきて解雇通告すんの?
いや、待て落ち着け俺。冷静になろう。
目の前にいる少女、渋谷凛は赤面しながらも、俺の目を真っ直ぐ見つめる。
と、とりあえず確認しようか。雰囲気から察するにまずないだろうが、万が一がある。
「えっと、それは買い物に、とか映画に一緒に行くって意味の付き合うかな?」
「えっと、まあ、そうかな」
失敗した。この質問じゃ駄目じゃん。意味がない。どっちだよ。どっちの付き合うだよ。連れそうって意味? それとも交際するって意味?
「な、なんだよー。ははっ、改めて言わなくても、僕ならそれ位いつだって付き合うのに」
「ちょっと、真剣な話してるんだから、茶化さないでよ」
「や、やだなー。しぶりんおこりん?」
「………………」
「…………ごめん」
某ネズミの声真似をしたらキッと睨まれた。
え、なにこれ。がちなの? 取りあえず目をきりってしとけば誤魔化せるかな。
「それで、その。返事は別に今じゃなくてもいいから。そのプロデューサーも忙しいし、考える時間も必要だと思うから」
いやいやいやいやいや。
まてまてまてまてまて。
ないだろ。いや、ないだろ。担当アイドルと恋愛なんて駄目でしょ。
バレたら速攻首になるわ。てかファンに殺されるわ。
大体凛まだ十六でしょ。もし付き合ったらロリコン認定確実じゃん。俺の社会的地位が失墜するじゃねえか。
いや、そもそも首になった段階で地位も何もないけども。
とりあえず、俺は凛を適当に誤魔化して場を離れた。
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いや、ないよな。ありえないよな。
確かに凛は可愛いし性格も良いし、何かバレンタインで恥じらいながらチョコ渡してきたときはときめき過ぎて死にそうになったけど。
あれ? ありなのでは? 凛良くね? 全然いいじゃん。めちゃくちゃありだよ。
いや、待て。落ち着け俺。
凛と付き合うイコール、ロリコン無職だぞ。
無職はきついだろ。凛だって無職の男と付き合いたいはずがない。
それに俺はこの職業に誇りを持ってる。就活失敗した俺を社長が『ティン』とかいう意味不明な理由で拾ってくれた。経緯はどうあれ、今では仕事もなれ、やりがいだって感じてる。
よし、それならば断ろう。
それがいい。それが一番健全だ。そもそも未成年に手を出すのはギルティだよね。
「ねえ、なんか一人で変顔大会してるところ悪いんだけど」
「真顔のつもりですけどっ!?」
「あっ、そうだったんだ。いやー、ごめんなさい」
あっ、そうだった。休憩室に逃げ込んだら、加蓮と鉢合わせしたんだっけ。
「どうした? もうその雑誌読み終わったのか?」
「えっ、うん。まあね」
なんだろう。この空気。なんか俺の第六感が危険を訴えてる。今すぐこの部屋から出ろって言ってる。
こんなに激しく危険を訴えるのは、芳野のせんべいを見た目そっくりなワッフルにすり替えた時以来だ。
「……プロデューサーさんと出会ってから、色々あったよね。体力がなくて初めはルキとれさんのレッスンすらついていけなかった私を、沢山励ましてくれたよね」
あっ…………やばそう。
「……(中略)それで、私気付いたんだ。私にはプロデューサーが必要だって。それは別にアイドルの事だけじゃなくて、うん。……プライベート、でも。その、さ。プロデューサーさんが良ければ、私と付き合ってくれないかな」
うわ、凛の時よりも更に重く告白されたんだが……。もし俺が某ラノベ主人公なら伝家の宝刀『えっ、なんだって?』を使えるのに。でも言えねえ。こんな状況で言えるわけねえ。
「…………考えさせてくれ。5年くらい」
「え、なんだって?」
「……お前が言うんかい(超小声)」
お前が言うんかい!
「それで、その、返事はさ。プロデューサーさんが都合の良い時にしてくれればいいから。別に今じゃなくても。ずっと、待ってるから」
「あ、ありがとう」
おかしい。アイドルから告白されるのって嬉しいはずだよな。なんでこう、心臓がきゅって縛られるみたいに痛むの?
別にときめいてるとかそういうことじゃないよ。
加蓮はまたテーブルの雑誌を読み始めた。いや顔真っ赤だし、全然ページ動いてないし。なんだ、この甘酸っぱい空間は!
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戦略的撤退をしよう。
取り敢えずトイレに立ち寄ってから家に帰ることにする。んでもって家で熱いシャワーを浴びて眠ろう。
もしかしたら、これ夢かもしれないし。夢なら……いいなぁ……。
トイレの前な廊下。なんか見知った顔がそこに立ってた。おう、今お前のメンバーの所為で俺大変なんだけど。
「奈緒か……チェンジで」
「チェンジってなんだよっ。悪かったな、あたしで」
なお が とびだして きた。
奈緒を見るとつい脊髄反射的に弄ってしまう。因みに早苗さんに同じことを言ったら左大腿骨をやられました。
なんか、秋葉が妙にカタコトで『ダイジョーブ』とかいいながら治してくれたけど。
「冗談だって。俺と奈緒の仲じゃねぇか」
「ちょっ、頭を撫でるなあ!」
奈緒の頭を軽く撫でて、横を抜けようとする。奈緒をからかうのは面白いけど、今はちょっとね。俺の股間(膀胱)が大変だから。
さらばだ、奈緒。
何か話したそうにしてる奈緒には悪いけど、なんか今日は流れが良くない。
うん? なんか服が引っかかるわ。えっ、奈緒にスーツの袖掴まれてるやん。
いつの間に……。こいつっ、できる……!
「に、睨んでも離さないからな。今日は、プロデューサーさんに、大事な話があるんだ」
大事な、話?
……勘弁してくれよ。その前置きは嫌なフラグだろ。
「突然で驚くかもしれないけど、あ、あたし」
「まて、待つんだ奈緒」
「な、なんだよ! 最後まで言わせてくれ」
いや、もうさ。良い。諦める。P諦める。でもさ、一回、一回トイレ行かせてくれよ! マジ漏らすぞ!
「あ、あたしと、付き合ってくれ!」
……まじで告白された。
いや、なんか『次は奈緒が告白してきたりして、トラプリ制覇なんちゃって』位には頭の片隅にあったけどまじか。
話になんの脈絡もない上に、トイレ前で告白されるとは。人生初めての経験だ。やだ、奈緒に初めて取られた……。ああ、尿意でなんか思考がおかしくなってる。
「えーっと、奈緒。話は分かったから、取りあえず手を離してくれ。そろそろ限界なんだ」
直立不動な青い人型のシンボルを指さす。
あっ、意味に気付いて茹でダコになった奈緒がにげだした!
いつもならここで、うまく まわりこむ んだけど、今日は空気を読む。というより本当に漏れる。
早足でトイレに駆け込み用を足す。
……こう連続すると、最初考えて否定した、ドッキリの可能性が浮上してきたな。幾ら何でも偶然トラプリの三人が俺に気を寄せてて、偶然同じ日に告白するなんて無理があるよな。
目の前で立ち会ったぶんには本気にしか見えなかったけど。あいつの演技力も大したものだ。女子三日会わざるわ何とやらだな……男子だっけ?
とりあえず家に帰ろう。
明日一日様子を見るんだ。それではっきりさせる。
一番まずいのは俺が告白されたことが、他の奴や社長にバレることだ。場合によってはそれだけで解雇になりうる。若しくは担当を外されるかもしれない。
でも流石に大丈夫だろう。凛たちもわざわざ自分で言いふらさない……よね?
凛の時も加蓮の時も二人きりの密室だったし、今だって、近くに人のいる気配はない。
あれ? なんでだろう。こんなところに未開封のスタドリが落ちてる。ラッキー。拾っておこう。
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はぁ……憂鬱だ。仕事に行きたくないなんて初めてだ。これからは少し杏に優しくしてやろう。行きたくないのに行くのは、こんなに辛いのか。
「そなたー?」
事務所のドアの前で立ち止まる。
なんだこれ。入れない。まさか中に念の使い手がっ!?
取り敢えず俺は携帯のメールボックスを開いた。時間稼ぎとか言わない。
昨日、俺一人じゃどうしようもなくて、俺の中の頼れる大人トップ2にそれぞれメールで相談した。もちろん誰から告白されたのかは伏せた。
返ってきた返信がそれぞれこれ。
『世界ね』
『星は……数多の輪廻を巡らすもの。悠久の幻想から目覚める刻よ』
とりあえずwebの翻訳機能使ってみたけど無駄でした。熊本弁より難易度高いってどういうことなの?
一緒にいるとめちゃくちゃ万能感ある癖にメールだと…………どうしてこうなった?
「ねーねーそなたー」
と、いうことでここは一人でこの難局を乗り切る時。
どうすんの、俺。
今のところ俺の見立てではドッキリが90パーセント。ガチが10パーセント。
もし、これが社長の狡猾な罠だったなら……俺は恥ずかしさのあまり切腹することになる。
「ねーねーねーそなたーねーねー」
いや。様子をみると決めたばかりだ。取り敢えず今日はいつも通りを装って仕事をしよう。でも、どうあいつら三人と会話すればいいのかわからねえ。いつも通りをできるのか?
『ぶおおおおおおおおお!』
「だっ! なっ、なんだっ!」
「わたくしでしてー」
「よ、芳乃。法螺貝は耳元で吹くなって言ったろ。並みのプロデューサーなら鼓膜破けてるぞ」
「それはー失礼しましたー」
み、耳ががんがんする。これ、後遺症とか残らないかな。突発性難聴とか。
あれ……それならもしかして合法的に『えっ、なんだって』が使えるのか……?
「ねーねーそなたー」
「どうした?」
「わたくしの歌舞伎揚をメロンパンにすり替えたのはそなたでしてー?」
ざわっと、背筋が凍りついた。
目の前の小さな存在を、自分より遥か大きい山の様に錯覚する。決して叶うことはない存在だと、否応にも自覚する。
芳乃は相変わらずにっこりと微笑んでいるだけ。だというのに全身が総毛立ち、呼吸が乱れる。
逃げようにも足はおろか、指先すら動かせない。唯一動かせるのは、口だけ。
しかし、下手な答えをしようものなら…………その口すらも聞けなくなるだろう。
「そ、それなら、レイナが笑いながらすり替えていたぞ」
「……なるほどー。嘘は言ってないようでしてー。それならばわたくしはー、かの者に少し灸を据えてくるのでしてー」
芳乃がパッとこの場から消える。
これ、あいつをけしかけたのが俺だとバレるのも時間の問題か?
…………なんか悩んでるのが急に馬鹿らしくなってきた。人間いつ死ぬか分からないのだ。悩んでたって意味はない。
よし、ドアを開けるぞ!
ん? 何これ。うるさっ。てか何人事務所にいるんだ? アイドルがほとんど勢揃いじゃんか。こんなん年にあんまりないぞ。
「あーっ! Pちゃんが来たにゃあ!」
「みくにゃん! おっはようにゃあ!」
「うわ、きっつ……。ってそれより! Pちゃん! トラプリの三人と付き合うって本当?」
「は? 何言ってんの前川」
ん? もしかしてこれバレてんの?
どちらにせよ、なんでもう付き合ってることになってるんだよ。
「ちひろさんからそう聞いたにゃあ」
なっ! あの糞緑守銭奴め!
奴の席は……空席! 休んだのか? てことはみくはメールか何かで俺のことを聞いたことになる。
まさか、この人の集まり様はみんなちひろさんから聞いてきたのか……?
「「「「「プロデューサーは私と付き合うって約束したよね」」」」」
待とうか……。
なにこれ。意味がわからない。
完全に身に覚えが無いんだが。
俺いつの間に彼女できてんの? それも何股? ヤマタどころですまねえよ、これ。
「……アイドルのハーレムなんてありえない」
後2話程で終わる予定だけど、続きを書くかは未定