アイドルのハーレムなんてありえない 作:おるとろす
うん。なんか理解不明過ぎて逆に冷静になる。
この場にトラプリの三人が居ないのが救いだ。別にやましい事してる訳じゃないけどね?
目の前の光景。アイドルが集まっているのはまさに壮観であるが、彼女らも女である。
女三人集まると姦しい。今は女が沢山。姦姦姦姦しい位か……。
流石にこれは俺の手には負えないわ。だってしょうがない。俺だって人間で男ですもの。
こういうのは冷静に一件づつ対処するのがよろしい。RPGで学んだ。
圧倒的人数不利だし。確実に負けイベント。クソゲーである。
「あー、取り敢えず今から一人ずつ面談するから、順番に応接室に来てくれ。まずは前川、お前だ」
「にゃっ!」
みくの耳がビーンと逆立つ。どうなってるの? あれつけ耳だよね。
なんか心なしか事務所の温度が二、三度下がった。
説教されると勘違いしてんのかな。違うよ、怒ってないよ。
まぁ真面目な話なのは確かなのだが。ある意味では説教に近くなるのかもしれない。
もし、社長に『いやー、なんか俺ー、アイドル(複数)と付き合ってました』なんて言ってみろ。俺の首どころか社長が心労でぶっ倒れるかもしれん。社長もいい年だし。
応接室で座ってるとノックの音が聞こえた。別にそんなんいらないのに。
「みくか。座ってくれ」
「う、うん」
「それで、さっきの話について詳しく聞かせてくれるか?」
みくはおもむろに座ると、俺の言葉を聞いて呆気に取られていた。
「な、なんだー。そういう話? もうっ、みくたちPちゃんをガチ切れさせたのかと勘違いしたじゃん!」
「は? なんでそうなるんだよ」
「だって応接室って今まで説教でしか使われてないし」
「ん、あー。そうだっけ」
うーん。確かに、仕事の話は会議室でするし、ちょっとした話は休憩室でしてた。なんなら俺のデスク前でしていたな。
取り敢えずみくにもう一度同じ質問をする。
「それで、俺とみくがいつどう付き合ったのか教えてくれ」
そしたら、今度は急にもじもじし始めた。
「あれは確かーって、もう。わざわざみくに言わせるなんて、Pちゃん意地悪にゃあ」
「………………続けてくれ」
色々突っ込みたいが、ここは我慢。
「あれは確か……みくがまだ駆け出しで一人でセルフプロデュースで活動していたころにゃ」
それからみくはぽつりぽつりと続けた。
要約してみると。
「つまり、俺がみくに告白をした。その言葉は出会った時の『俺がお前をプロデュースしてやる』って言葉だったと……」
「そうにゃ」
「馬鹿じゃないの?」
「えっ、酷くない?」
酷くない。普通はプロデュースするという言葉に他の意味を見いださない。まして、俺はプロデューサーでみくはアイドル。プロデュースなんて一通りの意味しかねえよ。
というかどうりで初めから距離感が近い訳だ。おかしいと思ったもん。なんか頻繁に買い物誘われるし、俺の家に着いていこうとしたり。
この事務所のアイドルになって一日目でこれだったからね。
今もなぜか俺の膝に居るし。っ、あれ?
「お前なんで俺の膝に座ってんの!?」
「ちょっと、耳元で大声出さないでよね」
「いやいやいや。無理あるだろ! 普通体面のソファに座るよね!」
「だったら最初につっこめばいいのに。正直今更にゃあ」
「いや、取りあえず降りてくれない?」
「いや」
なんか口で言っても全然聞かないので引っぺがそうとしてるんだけど、全然離れない。なに? みくこんなに力強かったっけ?
っておいおいおい。反転して足と腕を体に絡めてきやがった!
そ、それは胸が当たって……ほ、ほんとにやばい!
ちっ、奥の手を使うしかないのか……!
「悪いなみく……お前が悪いんだ」
「へっ? Pちゃん何するってあっ、あはははははは。ちょ、P、Pちゃん! や、やめるにゃ!」
そう、こちょこちょである。これ、実は小学校の頃からの俺の特技である。昔はよく同級生を失禁させていたものだ。
取り敢えず脇と腹をくすぐるけど……これ大丈夫かな。セクハラとか……。絵面的には完全にアウトなんだけど、まあ誰も見ていないだろうから大丈夫か。
適当にくすぐっていると、みくの拘束もほどけたので、止めてやる。
つか、息乱れてるみくめっちゃエロいな。いやいかん。担当アイドルに欲情するなんて持っての他だ。
「……落ち着いたか?」
「うぅ。もうお嫁に行けないにゃ……」
いや、ちょっとくすぐられたくらいでそれは過剰じゃね?
「……じゃあ、本題に戻るけど。お前は勘違いしてるんだよ。俺は別にみくに告白してないし、付きあってもいない」
ちょっと気が引けるけど、ここははっきりさせないと。
俺の言葉を聞いたみくはガーンっと落ち込んで見せ、耳をへこませた。なに、その耳生きてんの?
「う、嘘だよね。だ、だってあの時Pちゃん言ったよね! みくをプロデュースするって!」
「言ったけど、それは一流アイドルにするって意味で。その、色恋とかそういう話じゃない」
「う、嘘にゃ…………」
あ、涙声になった。なんかすっごい罪悪感。俺全然悪くないのに。俺全然悪くないのに!
そうだよね。俺別に悪くないよね。思わせぶりな言葉をささやいたわけでもないし。
「まあ、なんだ。その、そんな顔するな。俺がちゃんと責任持って、これから先ずっとプロデュース(仕事)してやるから」
「え……? こ、これから先ずっとプロデュース(結婚)?」
「うん? そりゃあな。俺が他の奴にみくを渡すわけないだろ」
そう言うとみくは涙を拭って立ち上がる。なんか顔がにやけてる。いや、泣き止んだのは良いけど、情緒不安定しゃない?
「み、みくは! そんな言葉で簡単に堕ちたりしないんだから! だ、だからそういうのはちゃんと色々用意してから言ってよね!」
みくはそう吐き捨て部屋から出て行った。……色々ってなんだよ。ステージと衣装? あっ、なんか凄い嫌な予感する。なんか大変なことをしてしまったような。
どうしよ、秋葉のタイムリープマシンで過去に戻ろうかな? ……ま、大丈夫だよね。嫌の予感ってだけで、むやみに過去を変えるわけにはいかないし。
あ、そういえばみくにゃんに次の人を呼ぶように伝え忘れた。
にしてもみくがこの調子だと他の奴らも同じ感じかな?
俺の言葉の意味をはき違えてた、みたいな。
以下、ダイジェスト。
「わたしと同じメモ帳を買いましたよね!?」
「えっ、メモ帳ってそんな意味あんの!?」
「プロデューサーちゃまはわたくしの手をひいてくださったではないですか!」
「いや、手くらい引くだろ」
「そ、そんな。わたくしの初めてを奪ったのに……あんまりですわ」
「ちょっとやめてそのセリフ。俺社会的に死んじゃうから」
「ここに来たらPさんとお酒が飲めると聞いて」
「……飲めません。ちょっと空気読んで楓さん」
「……しゅん」
「いや、しゅんじゃなくて。てかそれは口で言うものじゃない」
「カワイイボクが来ましたよ!」
「冗談は顔だけにしてくれ」
「なっ! ボクの顔がカワイクないとでも言うつもりですか!?」
「カワイイ」
「ふふーん! そうでしょう。もっと言ってくれてもって、なんで部屋から押し出すんですか! ってちょっと! ボクの扱いだけ酷くないですか!?」
「待てますか」
「ごめん橘、待てないわ」
「ありすです!」
「わかるわ」
「わからないです」
「私と夜道を歩いている時に……プロデューサーさんが『月が綺麗だ』と」
「(やべえ、言ってるやん)あー、うん。あー、ね。……チェンジで」
「私の料理を食べて、毎日でも食べたいって言ってくれたよね」
「まあ確かに毎日でも食べたいけど」
「ならもう結婚だよね」
「いや、それはおかしい」
「そ、そんなバグ、ありえないっ……」
「おーいプロデューサー。もうこっちは飲み始めてるんだから、早くこーい」
「うるさいぞ、佐藤」
「なっ! そんなに大声出してねーだろ」
「……なにがうるさいんだろう……顔? いや、存在かな……?」
「スウィーティーボンバー!」
「痛って! ちょっと! 嫁入り前の女が馬乗りなんてするな! あっ、駄目、グーは痛いって!」
「あ、あの子がちょっと怒ってる」
「は? ちょっと待って、あの子って誰のことだよ」
「そ、そんなに仲が良いのに……。本当に、付き合ってないの?」
「そんなにって、やだなー小梅。なにが見えてんの? なんか俺全体的に体が重いけど今どうなってんの!?」
「今年はキャッツが絶好調ー!」
「交流戦が鍵だな」
「また一緒に観戦行こーね!」
「プロデューサーがドラクエやってる時、ナターリアに言ってくれタはずだよ!」
「ドラクエ……ああ、お前がやけに喜んでた復活の呪文か。なんだっけ?」
「Eu quero passar o restante da minha vida ao seu lado(エウ・キエロ・パサール・オ・ヘスタンチ・ダ・ミーニャ・ヴィーダ・アオ・セウ・ラード)!」
「ああ、そうそう。そんな感じ。ロンダルキアの洞窟がきついんだよなー」
「えっー! 一緒に遊園地の観覧車に乗ったらもうカレカノだって本に書いてあったのに!」
「いや。お前……。莉嘉にはまだそういうの早いって」
「アタシはもうオトナだよ! うぅー、計画が狂ったー」
「まあ、その内大人になって本当に好きな人が出来るだろうから、そん時にまた頑張ればいいって」
「それがPくんだったらどうするのさー!」
「うん? まあ、ありえないだろうけど、そん時は……付き合うか」
「ぷろでゅーさー……いっしょに、おひるねしよー」
「ん、ああ。もうそんな時間か。ってことはあいつら昼前から飲み始めたのか……?」
「あいつらー?」
「ん。こずえには関係の無い駄目な大人達だ。こずえはあんな風になるなよ」
「ふわぁー……」
「この事務所にアイドルをたぶらかしているプロデューサーが居ると聞いて」
「チェンジ」
「ギルティ!」
「っちょ、おまっ! 酔ってるのか!? ギブギブっ、折れる折れる!」
「ある程度の年齢のレディにそんな暴言を吐くプロデューサーが悪いわよねぇ」
「ぷぷっ、レディって」
「……プロデューサー、もしかしてまだ自分が死なないとでも思ってる?」
「は、ちょ、う、嘘でしょ!」
「早苗百二十パーセント!」
以上。ダイジェスト終わり。
疲れた。くっそ疲れた。てかあの巨乳合法ロリの性で体の節々が痛いんだけど。
俺じゃなきゃ死んでたね。
本当はもっと相手してたきもするけど、思い出してたらきりがない、というかサナエサン以降記憶が曖昧だ……。
にしても、全員ほぼ冤罪というか勘違いによるものだと分かった訳だが、どうすればいいんだ。とりあえず全員に『付き合ってない』って風に伝えはしたんだが、うーむ。
「そなたー」
一件落着……なのか? いや、そんな簡単なことでもない気がするが。
「ねーねーそなたー」
うーん。ま、ひとまずこの件がマスコミや業界の関係者にバレてなさそうなことを喜ぼうか。いきなり週刊誌にすっぱ抜かれる可能性もあった訳だから。
疑惑ってだけで俺の人生は終わってしまう。
にしても、俺って案外モテるんだな。小学生中学生組はともかく、高校生組とかに好意寄せられてるってことは、俺モテるんじゃね?
今までずっと彼女いなかったけど……。
んん!? ちょっと待て……。ドッキリ……なのか……?
昨日のアレから今日までずっとドッキリだったのでは?
やばいありえる。そっちの方がアリエールでしょ。
むしろそっちの方が可能性高いわ! 何だよ。さっきまでモテるとか言ってた自分を闇に葬り去りたい!
闇に飲まれよ!
「ねーねーそなたーねーねーねー」
「おっぱぁっ! ネ、ネクタイを掴むのは、や、やめ」
あ、なんか目の前が白くなっていく。
っ、危ねぇ。並みのプロデューサーならこのまま昏倒していたぞ。
「なんだ。芳乃。なんか用か?」
「どっきりとはーなんでしょー」
「ん? ああ、芳乃はまだ体験したことなかったか。ドッキリってのはまぁ、本来ありえない様な状況を作って、その相手の反応を見る、まあ遊びみたいなものだな」
「ほー。そなたはーそのどっきりとやらをーされているのですかー?」
「うーん。それがいまいちはっきりしないんだよなあ」
ナチュラルに心を読んだり、何処からか湧いて出たりしてることに疑問を思わないわけでもないが、芳乃だからなぁ……。
「とりあえずPちゃんその辺確かめに社長と、あと、そうだな他のアイドルのとこに行って様子見てくるわー」
ドッキリなら間違いなく社長とちひろさんが一枚噛んでるだろうからな。
でもこれがドッキリだったなら俺は、しばらく女性不審になるかもしれない。
応接室のもう一つの扉に手をかける。実はこの部屋、事務所と廊下とそれぞれ繋がっているのだ。
今事務所はまるで駄目な大人アイドル、略してマダオで混沌としているだろうからな。
君子危うきに近寄らず。
「そなたーそなたー」
振り返ると芳乃の小さい手が優しく俺の手を包んだ。
「わたくしは、そなたのことを切に思っているのでしてー」
「……急に、どうした?」
「うーん。これはどっきりになるのでしょーかー?」
「ああ、なんだよ。こりゃ一本取られたな」
びっくりした。不覚にも胸がとぅんくしてしまった。だが、芳乃め、ドッキリだと? くそ、なんて小悪魔だ。今この調子じゃ大人になった時って……芳乃は意外と16歳だったな。つい忘れそうになる。
悔しさ半分に芳乃の頭をごりごりと撫でた。
そういえば麗奈様は無事かな。うむ、とりあえず黙祷を捧げよう。