アイドルのハーレムなんてありえない   作:おるとろす

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まさかの次話


第4話

 午後五時。何というか午後五時ってカタカナにすると強そうじゃないか? ゴゴゴジッ!

 いかん。フレちゃんと戯れすぎた性で、思考がエッフェル塔になっている。そろそろ、喫茶店を出よう。

 奏たちはまだ喫茶店に居座るらしい。

 

 ごめんねウサミン。そいつらの相手、疲れるでしょ? と、ウサ耳メイドを労わると、そんなことないですよ、と元気に笑った。

 ――――天使は、ここに居たのか。

 今度サロンパス買ってあげるから……経費で。

 

 

 テーブルに千円札を置き、颯爽とその場を去る。こういう時、少し多めに置くのがスマートな大人なのだ。

 だというのに、周子は俺のポケットからすっと財布を奪い、俺の諭吉を一人攫った。

 

「今日の夕飯はプロデューサーの奢りねー」

 

 イェーイと湧くアイドルたち。

 は? いや、キレるな。ここは大人な対応を見せる時。

 

「おい、こら、テメェ! 俺の一万円返せよ!!」

「いやーん。シューコちゃん襲われちゃうー」

 

 強引に奪いにいく。が、周子は椅子に倒れる形で俺の手を避ける。奪おうとした勢いで、俺は周子の上に乗ってしまう。

 

 向かいの机からパシャリというシャッター音。

 携帯を構えた美嘉と、俺の下にいる周子がぐっとサムズアップする。

 

 状況を整理しよう。アイドルに馬乗りになる俺。服が乱れた周子。

 なるほど。これが、チェックメイト、か……。

 

「臨時収入ね。みんな、どこが良い?」

「んーフレちゃん焼肉! 叙々えーん!」

「無理よ」

「あたしもフレちゃんにさんせーい。今日はやきにくのきぶんー」

「だから一万円で叙々苑は無理よ」

 

 俺抜きで高級焼き肉店に行こうとしてやがる。悔しい、俺の夕食はもっぱら吉野家だぞ!

 別に、大切なアイドルだし? 俺も、残業代でそこそこ金貰ってるし? 一万円や二万円程度、全然痛くないけど?

 

 ……わるい。やっぱ、つれぇわ。

 これは、一手報いたい。 勇気はどこに?僕の胸に!

 

 してやったり顔の周子。薄給のPの覚悟を舐めるなよ。

 

「えっ、ちょっとPさん? えっ!?」

 

 ふむ。そのまま顔を周子の首筋に近づけてみたけど、どうしよう。ここまで来て理性が邪魔をする。流石に、このままおっぱいを揉むのは事案ではないか?

 ううむ。ま、匂いを嗅ぐくらいならセーフだろ。俺だって志希とかに嗅がれてるし。

 

 すん。すんすんすん。

 

「P、Pさん。流石のあたしも、それは恥ずか――っん」

 

 え、なにこれめっちゃ良い匂い! 香水? 香水なの?

 こう吸ってるだけで、ぶわーっと脳内に快楽物質が出るような、んでその快楽物質が股間に溜まるような――って、いかん! 俺のPちゃんがPちゃんしようとしてる。それはマジでやばいでしょ。美嘉なんてまだ携帯持ったままだろうし。

 

 周子に覆いかぶさったまま、美嘉の方をみると、幸い奏と美嘉は白目をむいて固まっていた。それをフレちゃんが指でツンツンと突いている。

 どうでもいいけど、美嘉の携帯ヒビ入ってね? え、握力いくつあんの? ゴリラか?

 

 って、志希がいない。俺としたことが、あのトラブルメーカーから目を離してしまった。

 探すと、後ろで「叙々苑ー」と鼻歌まじりで俺の財布をいじくっている奴の姿が。

 お前、俺から諭吉を更に奪う気か! ゆるせん!

 

 周子から離れ、志希の元へダイブ。さながら気分はルパン三世。

 だが流石ギフテッド。さらりと、俺の不意打ちを避け、手に持った三人の諭吉を自身の谷間にしまいこみ、俺の体に絡みつく。

 

「にゃはは。嗅がれるのも楽しそうだけど、志希ちゃんは嗅がせてもらいまーす」

「ちょ、お前、忍者かよ!?」

 

「忍者の話と聞いて!」

「いや、してないから」

「そうですか…………」

 

 なんか別なアイドルが横を通り過ぎたが、気にしてはいけない。それよりも現状を打破しないと。

 こうピッタリとくっつくと、肌まで触れ合って、辛い。めっちゃすべすべやん。

 

「さー。どーする? このままあたしたちと焼肉に行くなら、五ハスハスで許すけど」

「五ハスハスって、一ハスハスがどんくらいかわかんねえよっ!」

「んー。一分が一クンクンで、十クンクンが一ハスハスかなー」

「五十分じゃねえか! そんなにこの状態でいられるか」

 

 俺には仕事がまだ残っているのだ。と、いっても杏たちを迎えに行くだけだが。あいつら、俺が車で迎えに行かないと拗ねるんだよ。

 

 む、少し身じろぎしただけで、色々擦れてヤバい。

 

「ねー、キミ、蛇の交尾って知ってる?」

「知るわけないだろ……って、なんだ抜け出せないっ!」

「無駄無駄ー。でさー、蛇ってこう、体を絡め合いながらー何日も……」

「ち、ちちちちょっと!?」

 

 さわっと、触れるか触れないかの力加減で、俺のPちゃんに志希の手が当たる。まるで熟練の痴漢のような技。こいつっ……できる!

 なんてふざけてる場合じゃない。このままじゃ、喰われる。いや、童貞を捨てるチャンスだし、全然喰われてもいいし、むしろウェルカムなんだけど。

 だが、ここは店内。残念ながらアウツ……! コンプライアンス的にも駄目……! 逮捕……! 圧倒的逮捕……!

 

 半ば力づくで、志希の拘束を解く。なんだかんだ無理やり脱出するのは、アイドルを傷つける可能性があるからしたくなかったのだが、緊急事態だ。仕方がない。

 

 だが、解いても志希はしゅるりとまた俺の体に絡みついた。

 

 蛇めっ……!

 体勢が変わり、今度は俺の頭が志希の太ももに挟まれ、志希の頭が俺の股間へ。

 

「だから無駄だってー。あたしの52の関節技からは逃げられないよー。このまま二人で、解け合おっ」

「ちょっ! そこは! マジでハスハスすんな! お婿に行けなくなるって!」

「へー。だったら、キミと二人でずっと一緒にいられるね」

「くそっ! もう誰でもいい! 奏、美嘉、周子、はショート中か。ちっ! パターン青、志希だ! フレちゃん発進!」

「…………すやあ」

「寝てる! この状況で、寝てる!」

 

 フレちゃんはブランケットを使って本格的に眠っている。万事休す、か。もはや身を任せるしかない。

 

 さよならコンプライアンス。さよなら童貞の俺。

 

 と、思って身を預けていたが、いつまでも快感はやって来ない。というか、目を瞑っていて分からなかったが、志希が俺の上から消えていた。

 

「大丈夫ですか? Pさん」

「ウサミン……」

「もー。アイドルとのコミュニケーションも良いですけど、未成年のアイドルにあんまりやり過ぎるのは駄目ですよ」

 

 頬を膨らませて少し怒る菜々。

 志希はウサミンJKチョップでのされたらしい。安らかに眠っている。

 

 未だに固まっているリップスのメンバーは放っておいて、俺は床に散らばる諭吉を財布にしまう。あれだけ暴れたら、いくら志希の胸に挟んでいても落ちる。

 

 今度こそ店を出よう。周子に取られた一万円は……まあ、いいか。慰謝料だ(ゲス顔)

 さっきは冷静じゃなかったけど、これセクハラだよな。社長に知られたら……考えるのはよそう。叙々苑用にもう二枚万札を置いておく。

 

「あれ? もう帰っちゃうんですか?」

「ああ。杏たちを迎えに行かないと。きらりから怪文書が二通も届いてる。急がないとハピハピされる」

「あの……未成年のアイドルにやり過ぎるのは駄目ですけど、その、ナナにはしても大丈夫ですよ?」

「ん? 菜々も未成年だろ?」

「はっ! いえ、そうなんですけど……」

 

 ウサ耳がしゅんとしぼむ。最近、菜々とみくの付け耳は生きてるんじゃないかと思い始めた。

 うむ。腰をさすってあげればいいのかな。

 

「あっ……」

「ライブもバイトもお疲れ。菜々にはいつも助けられてる。本当ありがとな」

 

 無難に頭を撫でることにした。

 アイドルの頭を撫でる、という行為は客観的に見たらキモいが、小学生アイドルにねだられて撫でるうちに、気にならなくなった。職業病だろうか。

 

「はい! これでウサミンパワー全快です!」

「えっ、どういう理屈で……?」

「それはー、内緒です! キャハ!」

 

 びんびんと隆起するウサ耳。確かにエネルギーがチャージされている。俺の手にウサミンパワーをチャージする力があったとは。ひょっとして俺はウサミン星人だったのか……?

 

 

 

 ○

 

 

 

 社用車を飛ばしてニ十分弱。飛ばすと言っても信号が幾つも建つ町中ではそんなにスピードを出せない。

 車をとある民家に止める。外装は明らかに一般宅だが、中は小洒落たカフェである。芸能人御用達の隠れ家風カフェというものだ。

 杏ときらりと智絵里が中で待っているらしい。収録現場からタクシーで来たとか。

 

 あの、タクシー使うんだったら、そのまま事務所にタクシーで来てくれないですか?

 

 こればかりは、何故か優等生である智絵里や菜々まで受け入れてくれない。極力俺が迎えに行かなければいけない。

 うちのアイドル何人いると思う? アイドルの送迎の合間に仕事をこなして、偶には収録の様子も見に行って、二千円札よりもレアな休日は、アイドルとのコミュニケーションで潰れる。

 今日は確か……十七連勤目か。あれ、おかしいな。目から汗が流れてくる。

 もしかして、俺に彼女が出来ないのも、俺が童貞なのも、この仕事の性なのか?

 

 以前、俺を合コンや風俗に誘ってくれた友人が居たが、彼らは悉く消えてしまった。幸運、不幸、謎の黒服に拉致、ヤクザに拉致、ロボットに拉致、忍者に拉致、異世界転生。理由は様々。

 だが、その所為で俺を合コンに誘う勇者は、業界にはいなくなってしまった。

 

 ふと、アイドルたちに告白されたことを思い出す。どうせこの仕事を続けていても彼女は作れないのだから、クビになる危険を冒してでも、付き合うべきではないか。

 仮にクビになったとしても、大手を振って彼女を作れるじゃないか。……無職童貞に彼女ができるかどうかは別にして。

 

 

 

 扉を開けてまず階段。二階の店内に入ろうと、扉に手をかけた瞬間びりっと総毛だつ。理由は不明だが、嫌な予感がする。このまま扉を開けたら、碌でもない目に合うような、そんな予感。

 

 まさか、芳乃のねじり揚げをマカロニとすり替えたのがバレたのか? もしくは事務所にある芳乃の歌舞伎揚げを、高い棚に隠したのがバレたとか?

 いや、前者はレイナ様の所為にしたし、後者もちひろさんの所為にできているだずだ。

 

 なら、憂うものは何もない。この悪寒も、きっと気のせいだ。

 

 ガチャ、と扉が開いた瞬間――――

 

 

「にょわー! Pちゃん遅いにぃ!」

 

 

 トラックにぶつかったような衝撃が全身を襲い、ふっ、と意識が体から離れていく。

 

 ――――あ、死んだ。




深夜の悪ノリで書きました。
後悔はしてます。

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