こち亀二次創作「早矢のギャルゲ奮闘録」   作:シベリア!

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こち亀二次創作「早矢のギャルゲ奮闘録」

きっかけは、新葛飾警察署内でのちょっとした世間話であった。

 

「なあ知ってるか? 先週発売したギャルゲーなんだが」

 

「ああ、公園前派出所の両さんがモデルなんだろ」

 

「やっぱりそうなのか。 でもあの人、ギャルゲーにできる程モテてたか?」

 

「派出所勤務の麗子さんとマリアさん、交通課の纏さん、早矢さん、

 それと右京って娘がヒロインのモデルになってるって聞いたぞ」

 

「右京……って、誰だ?」

 

「前に婦警と両さん達がタヒチ旅行に行った時に一緒に来てた娘……らしいぞ。

 俺は写真でしか見た事ないけど」

 

「俺も買ってみようかな」

 

「買うなら早くした方が良いぞ、人気で品薄になっているらしいから。

 デートシーンとか、新婚生活の描写が結構良いらしいぞ。

 俺も買うのに苦労し……ごほんっ! 噂ではな」

 

「タイトル、何だったっけ?」

 

「亀有メモリアルだよ」

 

署員同士のそんな世間話があった。

普通なら誰も気に留めないような他愛も無い世間話を、休日を新葛飾警察署に併設されている弓道練習場で過ごし、帰り支度をしていた早矢が聞いていた。

 

「両津さんと……デートを……」

 

早矢が小さくそんな事を呟いたのを、聞いたものはいなかった。

 

……

 

…………

 

………………

 

顔認証、静脈認証、全身スキャン、声紋認証、筆跡認証の超・超厳しいセキュリティを一つずつこなす。

我侭放題な新葛飾警察署婦警達の象徴のような出入り口を抜けて、早矢が真っすぐ自分の部屋へと歩き出す。

普段は着ないロングコートで全身を覆い、屋内だというのにサングラスを装着し、暖房の効いた寮の廊下を駆け足一歩手前の速さで進むため、早矢の顔はすぐに赤くなり、呼吸も鼓動も速くなり、首や額は汗に濡れる。

奇妙な事にロングコートは新品そのもので、しかも首の後ろに値札がついていた。

そんな奇妙な格好のまま、早矢は何度も何度も知り合いが廊下を歩いていないか、誰かに注目されていないかを確認するため、首をきょろきょろと左右に振る。

 

「あら、早矢さん。 今お戻りですの?」

 

……が、しかし、自分の部屋まであと一歩といった所で麻里愛・通称マリアに声をかけられてしまった。

 

「ひゃうぅ!?」

 

瞬間、早矢の方がビクンと震え、明らかに挙動不審な叫び声が漏れる。

ほぼ同時に、ロングコートの内側から四角いシルエットが浮かびあがった。

 

「早矢さん、どうかしましたの?」

 

その明らかに挙動不審なうろたえぶりに、思わずマリアがそう尋ねる。

 

「い、いえ、何でもありませんわ!」

 

そう答える早矢の声は微妙に上ずっている。

当然、増々マリアの疑心というか、違和感のようなものを強めてしまう。

 

「早矢さん、寮の中でコートを着たままでは暑くありませんの?」

 

「いえ、戻って来たばかりですから脱ぐのを忘れていまして」

 

「あら? コートの下に何か四角い物が……」

 

「何でもありません! 何もありませんからっ!!」

 

これ以上会話を続けるとボロが出ると、早矢は足早に……いや、全力疾走で廊下を進む。

途中何度かコートの下に隠した箱を落としかけ、慌てて担ぎ直すという場面もあったが、とにかく早矢はマリアを振り切り、女子寮の自分の部屋まで駆け込むことに成功した。

 

嘘が嫌いな早矢の父親が見たら罵声と共に殴りかかって来るであろう拙い対応であったが、彼女にとって幸いな事に、父はこの場にいなかった。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 

早矢が個室の扉にもたれかかり、大きく肩で息をする。

顔が真っ赤になっているのは、暖房が効いた室内を厚着で全力疾走したからだけではない。

服の下のある物品……亀有メモリアルのせいである。

 

「か、買ってしまいしたわ……亀有メモリアルと、ノートパソコン……」

 

早矢がごそごそと新品のコートの中からノートパソコンの箱と、亀有メモリアルと書かれたPCゲームの箱を引っ張り出す。

 

ゲームの箱には水着かと思う程に肌の露出が多い婦警服を着て銃を構える麗子とマリア……ではなく、秋元麗子をモデルにしたキャラクターと、マリアをモデルにしたキャラクターの姿がある。

箱の裏面には擬宝珠纏、檸檬、磯鷲早矢、日鷹右京をモデルにしたキャラクターの立ち絵、デートシーンと思われるCGサンプルと、ギャルゲに良くあるエロハプニングと思われるCGサンプルまで描かれている。

 

どのキャラクターも別人と思えば別人に見え、同一人物と思えば同一人物に見える、微妙なボカし方のデザインがされていた。

いずれにせよ早矢は、こんなものを買っている所を見られてはいけないと急遽服屋に飛び込んでロングコートとサングラスを買い、コートの下にゲームの箱を隠して帰宅したのだ。

 

「やっぱり良くないですよね、友人がモデルの……この……

 い、いかがわしいゲームで遊ぶなんて……」

 

彼女の常識からすれば肌色の面積が異様に広く、R-18一歩手前のパッケージを見ているだけでも恥ずかしくなってくる。

 

たまたまいつもより遠回りして帰る途中、たまたまPCショップのゲーム売り場を通りかかり、たまたま棚に一個だけ残っていたそれをレジに持って行ってしまい、たまたまゲームプレイできますというポップ広告のあるノートパソコンも買ってしまったとはいえ……まるで友人の痴態を除き見るかのような羞恥心と罪悪感に襲われる。

 

「と、とりあえずパソコンを……えっと……」

 

まるで目の前の問題から目を逸らそうとしているかのようにノートパソコンの電源をつけようとする。

するが……

 

「こ……この線はどこに繋げば……えっと……ボタンがこんなに沢山……F2? F3?

 何を押せば何が起きるのか全然分からないわ。

 そ、そうだわ説明書を……ど、どこに何が書いてあるのか全然分からない……」

 

……

 

…………

 

………………

 

「……早矢、大丈夫か?」

 

「大丈夫です」

 

……翌朝、げっそりとした表情でミニパトのハンドルを握る磯鷲早矢の姿があった。

同僚の纏が思わず不安になる程のやつれっぷりであった。

 

昨日早矢が読んだ説明書は、高性能ゲーミングパソコンに付属していたもの。

当然、パソコン初心者が読む事は全く想定していない。

専門用語てんこ盛りの辞書のような説明書は、片手で数えられる回数しかパソコンに触った経験が無い早矢を早々と置き去りにして、まるでターヘルアナトミアの翻訳に挑む杉田玄白、前野良沢のような苦しみを生じさせた。

結局、四苦八苦した挙句どうにかこうにか初期設定に成功し、ゲームをインストールし、ゲームのタイトル画面にまで辿りついた頃には東の空に朝日が昇っていたのだ。

 

磯鷲早矢、完徹である。

いくら武術の達人とはいえ、完全徹夜の翌日に車の運転は普通にキツい。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「……さて」

 

磯鷲早矢(完徹)の目の前に『亀有メモリアル』のタイトル画面が映る。

パソコンを起動するだけならと、ゲームの箱を開けるだけならと、ゲームをインストールするだけならと、ゲームタイトルと表示するだけならと自分自身に言い訳をして、とうとうここまで来てしまった。

 

主題歌が流れ、画面にタイトルロゴと『GAME STERT』の文字が浮かぶ。

画面のどこかでマウスを一回右クリックすれば、亀有メモリアルの本編に進む。

 

……早矢の指先が震えていた。

 

「さ、流石に……いくらなんでも……これ以上は……」

 

いくらなんても悪いような気がした。

 

本物の擬宝珠纏や秋元麗子、麻里愛のデートシーンや新婚生活を覗き見る訳ではない。

あくまで纏や麗子、マリアをモデルにした人物のキャラクターと、両津をモデルにしたキャラクターの物語を描いたゲームなのだ。

そう自分自身に言い訳をして、早矢の右手がゆっくりとマウスに伸び……

 

「や、やっぱりいけませんわ! こんないかがわしいゲームは!!」

 

右手がマウスに触れた瞬間、早矢は弾かれるように後ずさる。

やはり何度考え直しても、自分がとても悪い事をしているような気になるのだ。

 

「で、でも……こういうのを知るのも勉強として……」

 

早矢はそうやってまた自分自身に言い訳を始める。

嘘が嫌いな彼女の父親が見たら殴り倒されるような光景だが、幸か不幸かこの場に早矢の父はいない。

 

早矢は自分のパソコンを持つのも初めてであれば、ギャルゲーを見るのも初めてだ。

羞恥心と罪悪感が心を覆い、好奇心がそれを突破しようと暴れ出す。

そしてふと思い出す……

 

「……確か、個別のルートに入ってから、デートや新婚生活が描写されるんですよね」

 

再び署員同士の世間話に聞き耳を立てて得た情報が早矢の背中を押した。

 

「私のルートに入れば、他の人のデートや、新婚生活は見れないから……」

 

そんな事を呟き……早矢の右手がマウスをクリックした。

 

「だ、大丈夫ですわ……両津さんの言動は誰よりも分かっていますから。

 それをそのまま辿っていけば、私のルートに入れる筈……」

 

早矢がもう一度マウスを右クリックして、NEWGAMEを選択する。

 

自分はこんなにも両津の事が大好きなのだから、両津の行動を再現すれば、きっとゲームの中の早矢(をモデルにしたキャラクター)も両津の事が好きになる筈だと思った。

 

そして……

 

「両津さんならこういう時はこうする筈だから……

 確かこの時、謹慎になって、纏さんのご実家に住み込みで働くようになって……」

 

……

 

…………

 

………………

 

「……早矢、本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です」

 

……磯鷲早矢、完徹2日目である。

 

昨晩プレイを始めた亀有メモリアルであったが、初めの方こそ順調にシナリオを進められたものの、途中から纏(をモデルにしたキャラクター)との交流がどんどん増えていき、気がつけば纏(をモデルにしたキャラクター)と両津(をモデルにしたキャラクター)のデートシーンや、結婚式のシーンや、新婚旅行のシーンや、新婚生活のシーンや、R-18一歩手前のエロハプニングといった愛のメモリアルを延々と見続ける羽目になり、スタッフロールが流れる頃には完全に夜が明けて、勤務時間直前になっていたのだ。

 

完徹1日目はギリギリ勤務ができる程度の消耗度であったが、流石に2連続で完徹となっては、真っすぐ車を走らせる事すら難しくなっている。

右にふらつき、左に蛇行し、次の瞬間にはアクセルとブレーキを踏み間違い、ジェットコースターよりもヒヤヒヤする運転を連発していた。

 

「ちょ!? 早矢ぁっ!! 流石にヤバいよ!! 一旦止まって、運転代わるから!」

 

「大丈夫です! 全く問題ありません!」

 

「問題あるっての絶対! いいから運転代わって!」

 

纏が半ば強引にハンドルを奪い取り、腕づくで運転席から退かせる。

そして助手席に早矢を座らせたまま、基本荒々しい纏にしては珍しく安全運転で車を走らせ……

 

「勘吉、いるかい?」

 

……亀有公園前派出所の傍で車を停めた。

 

「纏か、何の用だ」

 

競馬新聞に丸とかバツとかを書き込んでいた、両津が顔を上げる。

部長は署の会議に出席のため、中川と麗子はパトロール中のため、現在派出所には両津1人しかいなかった。

 

「悪いんだけどさ、しばらく奥の部屋で早矢を休ませてやってほしいんだ」

 

「何、早矢をか? 体調でも崩したか?」

 

「良く分からないんだけど、顔色が悪くてね。

 しばらく休んでもらった方が良いと思うんだけど……駄目か?」

 

「何だサボリか」

 

「馬鹿、お前じゃあるまいし、早矢がそんな事するかよ」

 

「そりゃそうか。 今は奥の部屋が空いてるから、そこで仮眠させても良いぞ。

 仮眠用の布団の場所は分かるか?」

 

「知ってるよ、大丈夫。 2~3時間したら迎えに来るから」

 

「分かった、部長が戻ってきても適当に誤魔化しておいてやるよ。

 まあ、部長は早矢には甘いから誤魔化すまでもないかもしれんが」

 

「ありがと、助かるよ」

 

纏が奥の部屋の机を脇に寄せ、押し入れから仮眠用の布団を引っ張り出した。

部長達が休暇中の間だけとはいえ、纏は一時期公園前派出所勤務だった事がある。

派出所のどこに何があるかはしっかりと覚えていた。

 

纏が布団を敷いている間に、両津は二夜連続の徹夜でへろへろな状態の早矢を担ぎ、奥の部屋へと連れて行く。

 

「早矢にしては珍しいな」

 

「す、すみません……ご迷惑を……」

 

「なぁに気にすんなよ」

 

「早矢、しばらくしたら迎えに来るから、それまでちゃんと休んでなよ」

 

「はい……」

 

早矢を布団の中に転がすと、あっという間に小さな寝息を立て始める。

 

「勘吉、うるさくするなよ」

 

「努力はするよ。 こういう日に限って特殊刑事が飛び込んで来たり、

 部長がガトリング砲を担いで怒鳴り込んで来たりするんだがな」

 

「特殊刑事はともかく、部長が怒るのはお前が原因の場合が殆どだろ」

 

「部長はシャレが分からないんだよ」

 

「じゃあパトロール中だから、あたしは行くよ。 早矢の事はくれぐれも頼むからな」

 

「何かあったら電話しろよ」

 

「ああ、ありがとな」

 

纏が1人ミニパトに乗り込んで、パトロールの続きに戻る。

両津も再び自分の席で明日のレースの勝馬予想に戻っていった。

 

「ここは4を軸に流しで……まず4-2、4-6は切り捨てるべきだな。

 3番は悪天候のレースでの勝率が高いんだが、天気予報では晴天になってるしな……

 うむ、やはり4-3も捨てよう。 となると……」

 

その日は珍しく、派出所は静かであった……

 

「両津うううぅぅぅーーーっ!! 助けてくれえええぇぇぇーーーっ!!」

 

……いや、この日も公園前派出所にうるさくて暑苦しいのが飛び込んできた。

 

「なんだ誰かと思ったら左近寺か。 なんの用だ?」

 

「亀有メモリアルだ!

 この間買ったんだが何度やっても早矢さんのルートに行けんのだ!!」

 

「わーっ! 馬鹿っ! しーっ! しぃぃーーっ!!」

 

亀有メモリアルの名前が出た瞬間、両津が慌てて左近寺に飛び掛かり、その口を無理矢理塞いで黙らせた。

 

「……ふぅ、麗子がパトロール中で助かった。 危うく麗子ドールの二の舞になる所だった」

 

盛大に冷や汗を流しながら両津がほっと一息つく。

 

「両津、お前まさか……」

 

「こら、大きな声を出すんじゃない。

 奥の部屋……は、今塞がってるから、台所で話をするぞ」

 

引っ張りこむかのように両津が左近寺を奥の台所に連れて行く。

 

「あのゲーム、お前が関わってたのか?」

 

「わしの協力無しにあんなゲームが作れる訳がないだろ」

 

「流石に知り合いをギャルゲーのモデルにするのは酷くないか?」

 

「そんなゲームを嬉々としてプレイしているお前に言えた台詞かよ。

 それにわしは過去の体験談をそのまま話しただけだ。

 ゲームを企画したのも作ったのもあくまでゲーム会社。 シナリオ監修もしていないぞ」

 

「ゲーム会社ってのはなんでもやるものだな」

 

「スマホゲーの台頭で、ギャルゲー業界は苦境に立たされているからな」

 

「それはそうとして、何回やっても早矢さんの個別ルートに入れないんだが、

 何か分からないか?」

 

「……纏ルートに進むのか?」

 

「な、何故それを!?」

 

左近寺が驚きの表情と共に後ずさる。

 

「やはりか。

 テストプレイヤーも初見プレイではほぼ全員が纏ルートに進んでしまったらしい。

 開発者の話では、わしの普段の言動を再現すると纏ルートに行ってしますらしい」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「良いか左近寺、わしが一般市民をボコボコにして謹慎になるイベントが発生するだろ。

 その時に寿司屋にバイトに行く選択肢が出るが……あれは罠だ」

 

「わ、罠だと……?」

 

「あそこで寿司屋に行くと纏ルート、右京ルートにぐっと近づくが、

 その選択肢を選んだ瞬間に早矢ルートに行ける可能性がゼロになる」

 

「なにぃ!?」

 

「早矢ルートに行きたい場合、謹慎になっても寿司屋に近づくな。

 謹慎期間中に一度でも店内に入ると、バイトを承諾した事になるからな」

 

「くそっ、両津と言えば寿司屋だからな。

 ついついバイトに行く選択肢を選んでしまっていた」

 

「弓道場に行けば比較的早矢に出会いやすいから、

 時間があったらできるだけ弓道場に行くようにしておけ。

 それと白線流しイベントと、

 纏の友人を更生させるイベントは好感度の伸びが大きいから絶対に回避しとけ」

 

「分かった、助かったぞ」

 

左近寺は満足した様子で公園前派出所から立ち去って行った。

両津は誰にも聞かれてないだろうなと、きょろきょろと派出所の前の通りを見回し、部長や麗子といった聞かれたら拙い連中の姿が見えないことを確認すると、ほっと胸をなでおろした。

 

そんな両津と左近寺の会話だが……

 

「……寿司屋でのアルバイトを回避するのでしたか」

 

仮眠を取っていた筈の早矢が聞き耳を立てていた事に気が付く者はいなかった。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「……さて」

 

早矢の目の前に再び亀有メモリアルのタイトル画面が表示された。

昨晩はうっかり寿司屋に行ってしまうというミスにより、早矢ルートではなく纏ルートに入ってしまった。

しかし、それを防ぐ手段は両津から聞き出した。

 

早矢は再び『GAME STERT』文字をクリックする。

 

「纏さんの実家にはできるだけ近づかずに……

 弓道場ができたらできるだけ足を運んで……あら? 弓道場開設反対集会ですか?

 弓道場ができないと困りますし、ここはNOを選択して……」

 

……

 

…………

 

………………

 

……数日後。

 

「……早矢、最近ずっと顔色が悪くなっていないか?」

 

「大丈夫です」

 

……磯鷲早矢、完徹である。

 

昨晩プレイした亀有メモリアルであったが、途中まで順調にシナリオを進められたものの、途中からマリア(をモデルにしたキャラクター)との交流がどんどん増えていき、気がつけばマリア(をモデルにしたキャラクター)と両津(をモデルにしたキャラクター)のデートシーンや、結婚式のシーンや、新婚旅行のシーンや、新婚生活のシーンや、R-18一歩手前のエロハプニングといった愛のメモリアルを延々と見続ける羽目になり、スタッフロールが流れる頃には完全に夜が明けて、勤務時間直前になっていたのだ。

 

「勘吉、悪いんだけど今日も派出所で早矢を休ませてやってくれないか?」

 

結局、今日もまた早矢を派出所の奥で休ませる事になり……

 

「両津うううぅぅぅーーーっ!! 助けてくれえええぇぇぇーーーっ!!」

 

またもや亀有メモリアルをプレイし続けている左近寺が助けを求めて飛び込んできた。

 

「なるほど、今度はマリアルートに吸われたか」

 

「どうすれば良いんだ両津!?」

 

「わしが弓道場開設に反対するイベントがあったが、スキップしただろ?」

 

「な、何故それを……」

 

「そのイベントは早矢ルートに進むための必須イベントだ。

 そのイベントをスキップしている場合、どれだけ好感度を稼いでも無駄だ。

 弓道場はマリアと右京の好感度が上がるイベントも多いから、

 たぶん二番目に好感度が高かったマリアのルートに進んだんだろう」

 

「そうなんだ!

 気が付いたら男に戻ったマリアさんに尻を掘られるイベントが始まってしまったんだ!」

 

「ほう、同性愛ルートに行ったか。

 実はマリアと右京のルートは2種類用意されていてな、

 マリアの場合魔法使いに頼んで女になった後、女のまま最後まで行く異性愛ルートと、

 もう一度男に戻る同性愛ルートがある。

 同性愛ルートは運も絡むからな、ラッキーだったじゃないか」

 

「冗談じゃない! 俺は早矢さんのシナリオが見たいだけなんだ!」

 

「まあとにかく、弓道場開設阻止のイベントはスキップするな。 言っておくが勝つなよ。

 弓道場がゲームセンターに改装されるイベントを起こしても早矢ルートは潰れるから、

 わざと負けろ」

 

「な、なるほど」

 

「ただし大差で負けると早矢の好感度が下がる、逆に僅差で負ければ好感度が上がるから、

 早矢ルートに進みたい場合、できるだけ接戦になってから負けた方が良い」

 

「分かった! 助かったぞ両津!」

 

そんな両津と左近寺の会話を……

 

「……弓道場開設は反対して、僅差で負けるんですか」

 

仮眠を取っていた筈の早矢がやっぱり聞き耳を立てていた。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「上手く負けられましたわ。 後は私のイベントをできるだけ見て……

 でも、超神田寿司からの収入が無いから弓道や茶道の道具を買うお金が足りませんわ。

 ここはまじめに派出所に勤務して、給与査定とボーナスを……」

 

……

 

…………

 

………………

 

……数日後。

 

「……早矢、本当に大丈夫か? 何かヤバイ病気にでもなってるんじゃないのか?」

 

「大丈夫です」

 

……磯鷲早矢、今日もまた完徹である。

 

昨晩プレイした亀有メモリアルであったが、途中まで順調にシナリオを進められたものの、途中から麗子(をモデルにしたキャラクター)との交流がどんどん増えていき、気がつけば麗子(をモデルにしたキャラクター)と両津(をモデルにしたキャラクター)のデートシーンや、婚約者決定戦なる大会で激闘を繰り広げるシーン、結婚式のシーンや、新婚旅行のシーンや、会社経営のシーン、新婚生活のシーンや、R-18一歩手前のエロハプニングといった愛のメモリアルを延々と見続ける羽目になり、スタッフロールが流れる頃には完全に夜が明けて、勤務時間直前になっていたのだ。

 

「勘吉、悪いんだけど今日も派出所で早矢を休ませてやってくれないか?」

 

結局、今日もまた早矢を派出所の奥で休ませる事になり……

 

「両津うううぅぅぅーーーっ!! 助けてくれえええぇぇぇーーーっ!!」

 

またまた亀有メモリアルをプレイし続けている左近寺が助けを求めて飛び込んできた。

 

「派出所で起きるイベントの大部分は麗子の好感度を上げてしまう。

 それとマリアの好感度が上がるイベントも地味に多い。

 部長が爆発するギリギリを見極めて、可能な限り勤務をサボれ。

 それと麗子の好感度の上り幅が大きいイベントが起きる日は派出所に近づくな。

 逆に麗子の好感度が下がるイベントや、上り幅が小さいイベントが起きる日は、

 全力で勤務を行って部長の怒りゲージを下げておくんだ」

 

「しかしそれではアイテムやプレゼントを買う金が……」

 

「金はギャンブルで稼げ! ミニゲームが上手くなれば警察の給料などどうでも良くなる」

 

「分かった! 助かったぞ両津!」

 

そんな両津と左近寺の会話を……

 

「……麗子さんの好感度が上がりにくいイベントを狙うんですか」

 

仮眠を取っていた筈の早矢がやっぱり聞き耳を立てていた。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「だいぶ競馬の勝ち方が分かってきましたわ。 パチンコも慣れれば簡単ですね。

 後はできるだけ弓道場に通って……あら、警視庁騎馬隊のお世話係ですか?

 懐かしいですね、あの時は両津さんと2人きりで馬に乗って、運動場を走ったのでした。

 もちろんYESを選んで……」

 

……

 

…………

 

………………

 

……数日後。

 

「……早矢、一回検査してもらった方が良いぞ、絶対」

 

「大丈夫です」

 

……磯鷲早矢、またまた完徹である。

 

昨晩プレイした亀有メモリアルであったが、途中まで順調にシナリオを進められたものの、途中から右京(をモデルにしたキャラクター)との交流がどんどん増えていき、気がつけば右京(をモデルにしたキャラクター)と両津(をモデルにしたキャラクター)のデートシーンや、流鏑馬の競技大会で絆を深めるシーン、結婚式のシーンや、新婚旅行のシーンや、新婚生活のシーンや、R-18一歩手前のエロハプニングといった愛のメモリアルを延々と見続ける羽目になり、スタッフロールが流れる頃には完全に夜が明けて、勤務時間直前になっていたのだ。

 

「勘吉、悪いんだけど今日も派出所で早矢を休ませてやってくれないか?

 ああ、うん、本当に悪いと思ってるよ」

 

結局、今日もまた早矢を派出所の奥で休ませる事になり……

 

「両津うううぅぅぅーーーっ!! 助けてくれえええぇぇぇーーーっ!!」

 

またまた亀有メモリアルをプレイし続けている左近寺が助けを求めて飛び込んできた。

 

「右京は好感度が上がるイベント数は少ないが、その分好感度の上り幅が大きい。

 特に体調を悪くした琴姫を2人で看病するイベント起こした場合、

 あっという間に他のキャラの好感度を抜き去ってしまうから注意が必要だ」

 

「どうすれば回避できるんだ」

 

「警視庁騎馬隊の世話係に任命されるイベントを回避しろ。

 あれが琴姫の看病イベントの前提条件になっている」

 

「しかしあのイベントは早矢さんの好感度を上げてると思うんだが」

 

「確かに早矢の好感度も上がるが、右京の好感度の方が上り幅が大きい。

 何度やっても右京ルートに入ってしまう場合、あそこでNOを選択するのもアリだ」

 

「早矢さんには大量のプレゼントを渡しているんだが、まだ好感度が足りないのか……」

 

「プレゼントによって上がる好感度は、品物が好みかどうかによって左右されるが、

 実は上がり幅もキャラによって違う。

 マリア、右京、纏、麗子、早矢の順で上がりやすい」

 

「早矢さんが最も上がりにくいのか……」

 

「マリアは何を貰っても喜ぶから一番高くなってる。

 残りは金持ち程上り幅を低くしている」

 

「早矢さんも相当だが、麗子さんの方がお金持ちという印象があるぞ」

 

「麗子は花束とか、ぬいぐるみとか、そういうシンプルなプレゼントに意外と弱い。

 早矢はわしにすら何が好みなのか全然分らんから低くなっている。

 同じ物品を同じ相手にプレゼントすると好感度が下がる設定になってるから、

 好感度を下げたい相手には安物の品を大量に送り付けろ。 オススメはカップ麺だ。

 ただしマリアだけは同じプレゼントでも好感度の上り幅が小さくなるだけで、

 マイナスにはならんから注意しろ」

 

「そうか、早矢さんにプレゼントを贈りすぎて逆に好感度が下がっていたのか……

 なら、早矢さんの好感度が上がりやすいイベントは何だ?」

 

「やはり武道館建設イベントだな。

 あれを起こす事ができれば早矢の好感度を荒稼ぎできる。

 実家は呉服屋だとか、東京に1000坪の土地があるとか、早矢に嘘を言いまくれ」

 

「分かった! 助かったぞ両津!」

 

そんな両津と左近寺の会話を……

 

「両津さんから貰った物ならカップ麺でも嬉しいのですけど……」

 

仮眠を取っていた筈の早矢(カップ麺すら貰った事がない)がやっぱり聞き耳を立てていた。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「本名は越前屋兵介です、悪魔がとりつくので普段は偽名を使っています。

 実家は10代続いた名門の呉服屋で、赤坂に土地を1000坪所有……

 なんだかだんだん両津さんの気分になってきて、楽しくなってきましたわ」

 

徹夜続きのナチュラルハイによるものなのか、早矢の目がぐるぐると渦を巻くようになっていた。

今の早矢はアルコール度数60%のビールをラッパ飲みした時と同じくらい、マトモな状態ではない。

 

「ああ、また部長さんにお仕置きされて……まあ、この方が両津さんらしいですわね。

 あら? レモンさんが差し入れを……」

 

……

 

…………

 

………………

 

……数日後。

 

「……早矢、もう何も言わないけどな、死ぬぞそのままじゃ」

 

「大丈夫です」

 

……磯鷲早矢、もう何度目になるかも分からない完徹である。

 

昨晩プレイした亀有メモリアルであったが、途中まで順調にシナリオを進められたものの、途中から檸檬(をモデルにしたキャラクター)との交流がどんどん増えていき、突如として檸檬(をモデルにしたキャラクター)が急に20歳くらいにまで急成長した上、そんな檸檬(をモデルにしたキャラクター)と両津(をモデルにしたキャラクター)のデートシーンや、結婚式のシーンや、新婚旅行のシーンや、新婚生活のシーンや、2人で寿司屋を経営するシーン、R-18一歩手前のエロハプニングといった愛のメモリアルを延々と見続ける羽目になり、スタッフロールが流れる頃には完全に夜が明けて、勤務時間直前になっていたのだ。

 

「勘吉、悪いんだけど今日も派出所で早矢を休ませてやってくれないか?

 分かってるよ。 流石に何かあるだろうから、その辺ちょっと調べてみるよ」

 

結局、今日もまた早矢を派出所の奥で休ませる事になり……

 

「両津うううぅぅぅーーーっ!! 助けてくれえええぇぇぇーーーっ!!」

 

またまた亀有メモリアルをプレイし続けている左近寺が助けを求めて飛び込んできた。

 

「レモンルートだが、流石に幼稚園児に手を出すのは問題だという事で、

 とらいあんぐるハート2を参考に、魔法で急成長させる事にしたらしい」

 

「聞きたいのはそこじゃない! どうすれば早矢さんのルートに入れるんだ!?」

 

「簡単だ、わしが部長にお仕置きされる回数を抑えろ」

 

「どういう事だ?」

 

「レモンルートは判定が特殊でな、わしがお仕置きされたり、

 派出所や超神田寿司から追い出されるイベントが起きると、

 時々1人で差し入れを持ってきてくれるんだ。

 他にも、警察寮の部屋の片づけに来てくれるイベントが起きる時もある。

 そういうイベントが一定回数続くと、レモンルートが確定する」

 

「好感度も必須イベントも関係無しにか……」

 

「一応好感度の設定はされているが、

 レモンの好感度が上がるイベントは多すぎて回避困難な上、下がるイベントが無い。

 しかもレモンはマリア同様、プレゼントでは好感度がマイナスにならない。

 レモンの好感度を下げるのはいっそ諦めて、

 お仕置き回数を減らし、レモンが来ない事を祈るしかない」

 

「なるほど、部長の怒りゲージが重要になる訳か」

 

「一番確実な方法は、レモンが来たら少し前のデータをロードしてやり直す事だ。

 それとレモンに食パンを食べさせるイベントや、京都に行くイベント、

 レモンが味見をボイコットするイベントだけは回避しておけ、好感度が急上昇する」

 

「分かった! 助かったぞ両津!」

 

そんな両津と左近寺の会話を……

 

「思わぬ伏兵でしたわ……」

 

仮眠を取っていた筈の早矢がやっぱり聞き耳を立てていた。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜……ではなく、翌朝。

 

「や、やった……やりましたわ……」

 

東の空に朝日が顔を出し始める時間帯に、早矢はパソコンの前で感動に打ち震えていた。

纏ルートの入る事7回、麗子ルートに入る事5回、マリアルートに入ること3回、マリア同性愛ルート(隠しエンディング)に入る事1回、檸檬ルートに入る事4回、右京ルートに入る事2回、左京ルート(隠しエンディング)に入る事1回……何度も何度も最初からやり直し、ようやく早矢(をモデルにしたキャラクター)が、両津(をモデルにしたキャラクター)に告白するシーンにまでたどり着いたのだ。

 

「これでようやく……ようやく私のルートに……」

 

目尻に涙が浮かんでいた。

ここまでの苦労が一気に報われるような気持ちだった。

 

これでようやく分かるのだ。

あの日、あの時、自分が身を引かなければどうなっていたのかが。

あの日、あの時、両津勘吉が好きだという気持ちを固く、強く、心の奥深くへと飲み込み、押し込んでしまわなければ、どうなっていたのかが分かるのだ。

 

自分と両津が結ばれていればどうなっていたのかが……それが、分かるのだと。

 

『お慕いしております』

 

『おう、わしも愛してるぞ』

 

『こうして2人は固く結ばれ、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました』

 

……僅か3クリックで全てが終わり、見慣れたスタッフロールが流れ始めた。

 

早矢は画面の前で石像のように硬直し、死んだ魚のように濁った瞳で画面を見ていた。

他のキャラクターの個別シナリオは4~5時間分はあったというのに、自分(をモデルにしたキャラクター)の個別シナリオは僅か3クリック、僅か15秒で終わった。

 

もしかして夢なのではなかろうかとも思ったが、残念ながら現実だ。

 

……

 

…………

 

………………

 

……数時間後。

 

「……早矢、体調管理も仕事の内だって、うちの婆ちゃんが言ってたぞ」

 

「大丈夫です」

 

……磯鷲早矢、やっぱり完徹である。

 

「勘吉、悪いんだけど今日も派出所で早矢を休ませてやってくれないか?

 うん、またなんだよ、ごめんな」

 

結局、今日もまた早矢を派出所の奥で休ませる事になり……

 

「両津うううぅぅぅーーーっ!! 助けてくれえええぇぇぇーーーっ!!」

 

またまた亀有メモリアルをプレイし続けている左近寺が助けを求めて飛び込んできた。

 

「まあ、ネット上で叩かれてるのは知ってるよ。 一番クリアまで苦労するくせに、

 早矢のシナリオだけたけしの挑戦状のエンディング並みの薄さだって。

 これはここだけの話だが、

 早矢シナリオと右京シナリオ担当のシナリオライターが交代したんだよ、大人の事情で。

 右京シナリオの方は後任がギリギリ形にできたんだけど、

 早矢シナリオの方は時間的に無理だったらしい」

 

「そんなのを発売するなよ……」

 

「色々大変なんだよ、ゲーム作ってる方も」

 

「だが俺はどうすれば良いんだ。

 早矢さんのシナリオ見たさにゲームを買ったんだぞ、俺は」

 

「左近寺、お前公式サイトは見てるのか?」

 

「公式サイト……いや、見ていないが」

 

「公式サイトの新着のお知らせページによると、今夜修正パッチが公開されるらしいぞ」

 

「何ぃっ!? 本当なのか!?」

 

「何とシナリオが一本追加されるらしい」

 

「つ、つまりたった3クリックで終わった早矢さんのシナリオが……」

 

「ああ、たぶんな。

 それとこれもここだけの話なんだが……実は今18禁版も製作中らしいぞ。

 『リトルバスターズ!』とか『戦国♰恋姫』みたいに、

 全年齢版と18禁版を別ゲームとして売って2度儲ける計画らしい」

 

「は、早矢さんの……18禁だと……」

 

左近寺の脳裏に磯鷲早矢とあ~んな事やこ~んな事をする光景が浮かび、思わず鼻血を漏らしてしまう。

 

「分かった! 助かったぞ両津!」

 

そんな両津と左近寺の会話を……

 

「修正パッチ、シナリオが追加……」

 

仮眠を取っていた筈の早矢がやっぱり聞き耳を立てていた。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「公式サイトにアクセスして……ありましたわ、これが修正パッチ。

 ダウンロードして、解凍を……」

 

既に連日連夜の徹夜で気力体力共に限界寸前だ。

しかしそれでも早矢は最後の力を振り絞り、公式サイトから修正パッチをダウンロードした。

 

知りたい、どうしても知りたい。

自分があの日、あの時身を引かなかったらどうなっていたのかを。

両津が好きだという気持ちを二度と表に出すまいと考えなければどうなっていたのかを。

自分が両津勘吉と結ばれていればどうなっていたのかを……その想いが、執念が、限界寸前の早矢を突き動かしていた。

 

そして……

 

「え……?」

 

早矢は信じられないものを見た。

自分(をモデルにしたキャラクター)の個別シナリオが僅か15秒で終わったのを見た時以上の衝撃と絶望を感じていた」。

 

即ち……

 

「私が……いない……!?」

 

存在そのものが抹消されていた。

共通シナリオでそれなりに出番があった早矢(をモデルにしたキャラクター)が一切登場しなくなっていた。

 

「なんで……なん……でぇ……」

 

涙がぽろぽろと零れて止まらなくなった。

胸がきゅうぅっと締め付けられているかのようだった。

 

シナリオは確かに追加されていた。

大阪への出向を命じられるイベントや、唐突に派出所の隣に大阪警察が出張所を建築するイベント、中川(をモデルにしたキャラクター)と共に串カツ屋でソースの研究をするイベント、双胴型ハインケルに無理矢理乗せられて悪党の3つ子と戦うイベント、サンミーの良さについて延々と語られるイベント……御堂春(をモデルにしたキャラクター)との交流を描いたシナリオがこれでもかってくらいに追加されていた。

 

……しかし、そこに早矢(をモデルにしたキャラクター)の姿は一切無かった。

 

それが早矢の辛さを何倍にも、何十倍にも加速させていた。

 

まるで自分には……磯鷲早矢には両津と結ばれる未来は無いと告げられているかのようだった。

磯鷲早矢には擬宝珠纏や秋元麗子、マリア、それに飛鷹右京と同じ土俵に立つ事すら許されないと告げられているかのようだった。

それが辛くて、悲しかった。

 

「ううぅ……うう~~~……」

 

早矢が1人慟哭していた。

誰にも見せられない、誰にも見せた事のない、幼女のように泣きじゃくる早矢の姿があった。

 

……

 

…………

 

………………

 

「はぁ……私、何をやってるんでしょうか……」

 

亀有公園のブランコにて、早矢は1人うなだれていた。

今日は非番の日であるために、隣に纏はいないし、制服も着ていない。

普段の彼女なら非番の日は新葛飾警察署の弓道場や剣道場で弓や薙刀、剣道や柔道の練習をしていたり、近所の人に茶道や琴を教えてたりするのだが、今日はそういう事ができる気分ではない。

今の自分の精神状態では、弓も、茶も、琴も、何もかもが上手く行かないと分かり切っていたからだ。

 

昨晩の事を……いや、亀有メモリアルを買ってきた日から今日までの事を思い出し、また目に涙が浮かんできた。

 

ゲームの中での事とはいえ、纏も、麗子も、マリアも、右京も、檸檬も、本当に幸せそうに笑っていた。

彼女達には輝くような未来があって、自分にはそれが無いのではと思っていまう。

それが根拠の無い思い込みだと頭では理解しているが、それでも……

 

「早矢、何やってんだこんな所で」

 

……そんな早矢の前に、私服姿の両津がいた。

 

「両津……さん……?」

 

一瞬、自分はまだゲームをしていたのだろうかと思ってしまう。

信じられないといった表情で両津のゴツい顔を見上げてしまう。

ああ、やっぱりかっこいいな……と、世間一般の女性とはちょっとズレた顔の好みでそう感じる。

 

「あの? どうしてここに?」

 

「非番だよ。 派出所に予想をメモした新聞を置き忘れてたから、急いで取りに来たんだ。

 今日のレースは荒れそうな気配だからな、上手くいけば万馬券だ」

 

見れば、超猛スピードで駆け抜けたためか、タイヤやブレーキから煙が漂う自転車が亀有公園前に置かれていた。

 

「それより早矢、今泣いてなかったか?」

 

「いえ! 眼にゴミが入って、取っていた所です!」

 

……早矢は咄嗟に嘘を言った。

早矢の父が何よりも嫌う嘘を言った。

 

「そうか、最近空気が乾燥してきてるし、そんな所に1人でいると寒いだろ。

 わしのコーヒーをやるよ。 さっき買ったばかりだからまだ暖かいぞ」

 

両津がジャケットのポケットから未開封の缶コーヒーを出して、早矢に手渡す。

ゲームの早矢は、缶コーヒーを渡しても好感度は上がらない。

好感度が上がると設定されているプレゼントが数える程しか存在しない。

 

しかし、現実の早矢はどこにでも売っている、安物でありきたりな缶コーヒーを渡されただけで、心臓が飛び跳ねそうなくらいに嬉しかった。

 

「纏が心配してたぞ、最近眠れてないんじゃないかってな」

 

「……徹夜は、もうしませんわ」

 

「なんだ、やっぱり徹夜してたのか。 麻雀仲間でもできたのか?」

 

「パソコンを買いました」

 

「はっはっはっ、そうかパソコンか。 使えるようになると楽しいよな。

 わしも昔は世界のおげれつサイト巡りで何日も徹夜したよ」

 

「両津さんらしいですね」

 

「まぁな」

 

早矢は思う。

嘘つきで、失敗を誤魔化してばかりで、お金に目が無くて、何でも挑戦して、どこまでも自由な両津が好きだと。

 

そして同時に、早矢は思う。

もしも両津に、今でも貴方が好きですと伝えたら、どうなるだろうかと……

 

「……競馬、今から行かれるんですよね?」

 

「そうだよ、今日はガッツリ儲けてやるぜ」

 

「一緒に行っても良いですか?」

 

「へ……?」

 

だけど早矢には、今でも貴方が好きですと伝える勇気が無いので……この位で良いかと妥協した。

 

 

 

 

 

……なお後日。某婦警がはずれ馬券の山に沈んでいたり、某ゲーム会社が(物理的に)炎上したり、某巡査部長が簀巻きにされて東京湾に漂っていたりしたが、それは別の話である。

 

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