こち亀二次創作「早矢のギャルゲ奮闘録」   作:シベリア!

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※ 右京と左京の設定を改変している個所があります。


こち亀単独二次創作「飛鷹姉妹のキラーパス合戦」

キラーパス……その言葉には2つの意味がある。

 

1つは試合の流れを決定づけるような素晴らしいパスの事。

もう1つは、パスとは名ばかりのデッドボール、あるいはオウンゴールの事。

そしてこの物語におけるキラーパスは、全力で後者であった。

 

この物語は、基本才色兼備だが時々ぽんこつな婦警・磯鷲早矢の恋の物語……ではない。

この物語は……

 

「右京じゃないか。 こんな所で会うなんて珍しい事もあるな」

 

「(え、誰この人?)」

 

……角刈りの警官の前でにこやかに微笑みつつ、じんわりと手汗を滲ませる黒髪の美女の物語である。

 

「(右京の知り合い? 右京の知り合いよね? 右京の知り合いで良いのよね?

 こんな人一度でも会ったら絶対忘れないわよね?)」

 

彼女の名は飛鷹左京、角刈り警官こと両津勘吉の友人の双子の姉である。

この物語は飛鷹左京の物語である。

 

……

 

…………

 

………………

 

オタクの町、秋葉原。

 

「ガルパンが出てから、模型戦車とか、戦場のジオラマの出品が増えましたねえ」

 

「おかげで両津ミリタリー堂の売り上げも上々だよ」

 

線の細いリーゼントの男と、ゴツゴツとした体幹の角刈り男が歩いていた。

彼らの名は本田速人と両津勘吉。

いずれも新葛飾警察署所属の警察官である。

 

「この辺でショーケース借りてるんでしたっけ?」

 

「結構良い値段で売れるんだよなこれが」

 

「先輩器用っすから」

 

「小学生の頃から作り続けてるからな。 ほら、あそこで展示してる」

 

「ちょっと見てきませんか?」

 

「そうだな、寄っていくか」

 

秋葉原の貸しショーケースには、様々なクリエイターが作成したフィギュアや模型が展示されており、目の肥えた客が『良いよね……』『良い……』等と呟き合っていた。

 

「色々あるんですね」

 

「ここは結構な激戦区だぞ」

 

「先輩が借りてる場所、どれっすか?」

 

「あそこだよ」

 

「へえ、結構目立つ場所……」

 

両津が指差した先に『両津ミリタリー堂』と書かれた小さなポップ板があり、ガラスケース内には警察の職務の合間に作った戦場ジオラマがあった。

 

そしてガラスケースを食い入るように見つめ、微動たりしない1人の女性がいた。

 

「シェリダン……ああ、シェリダン……軍の無茶ぶりに答えて作ったは良いが、

 ロクに活躍できなかった残念戦車……シェリダン……」

 

「な、なんか近寄りがたい雰囲気ですよ先輩」

 

「秋葉原だからな」

 

「言われてみればいつもの秋葉原っすね」

 

「ベトナムでは路面の悪さでロクに動かず、パラシュート降下させれば落下で破損、

 軽量化しすぎて装甲は貧弱、一体何のために生まれて来たのか……」

 

女性がさらにぶつぶつと独り言を呟き続ける。

そしておもむろにハンドバックから財布を取り出し、シェリダンの値札と交互に視線を動かす。

財布、値札、財布、値札、財布、値札、財布、値札……

 

「何か凄い迷ってるっぽいですよ」

 

「そのようだな」

 

「ギリギリ買えるけど、買うと色々キツクなるパターンですねきっと」

 

「秋葉原だからな」

 

「ええ、良くある光景っす」

 

両津がそんな姿を見て……気づく。

 

「右京じゃないか。 こんな所で会うなんて珍しい事もあるな」

 

財布と値札を睨みつけていた女性に両津がにこやかに話しかけた。

目の前の人物をたまぁ~に顔を合わせる知り合いだと思ったからだ。

 

一方、声をかけられた方は……

 

「(え、誰この人?)」

 

……きょとんとした表情で突然現れた角刈り男を見上げていた。

 

「まさか右京がシェリダン好きだったとは知らなかったよ。

 そんな印象全然無かった」

 

角刈りの不審者がそう続ける。

警官の恰好をしている時でも不審者一歩手前の外観だ。

私服の状態では見た目THE・不審者と言っても過言ではない。

 

「(右京の知り合い? 右京の知り合いよね? 右京の知り合いで良いのよね?

 こんな人一度でも会ったら絶対忘れないわよね?)」

 

女性が無言で狼狽する。

 

なお、彼女……飛鷹左京は既に忘却しているが、過去一回だけ左京は目の前の角刈りを見た事がある。

 

「(ど、どんな人か分からないし、

 私が戦車好きだなんて噂を流されたら姉の威厳が爆発四散しかねないし、

 この場は早めに立ち去って……)」

 

左京が曖昧な笑みを浮かべながら財布をしまい、回れ右してダッシュで逃げようとしたその瞬間……

 

「ああ、そうだ。 丁度シェリダンのプラモを持って来てるんだ。 昨日完成したばかりの」

 

「先輩、昨日勤務日でしたよね」

 

なお、両津が趣味のプラモを完成させるのはだいたい勤務日である。

 

「ほら、結構良い出来だろ? 良かったらやるよ」

 

そう言って両津はリュックからシェリダンのプラモを出して左京に差し出した。

 

「こんにちは、貴方の右京です」

 

……飛鷹左京、戦車プラモ欲しさに双子の妹のフリをする。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「今度の日曜? 空いてますよ」

 

「そう、良かったわ。 ちょっと予定を開けておいて」

 

双子の姉妹、飛鷹左京と飛鷹右京が2人で食卓を囲っていた。

彼女らの父、飛鷹二徹は遠洋航海中のため家にはいない。

 

「今日は那須与一ごっこしないの、姉さん」

 

「毎日やってるみたいに言わないで! とにかく次の日曜はツーリングに行きなさい」

 

「……ツーリング?」

 

「そう、ツーリング」

 

「オートバイ?」

 

「まさか馬で行く気じゃないわよね?」

 

「姉さん、私バイク持ってない」

 

「私のを貸すわ」

 

「姉さん、私免許持ってない」

 

「私のを貸すわ。 顔似てるしイケるでしょ」

 

「それ犯罪よ姉さん!! そもそもツーリングって誰と!?」

 

「両津さんと本田さん、右京の知り合いの」

 

「その人達警察官よっ!!」

 

「分かったわ、今から6日間で免許を取りなさい。

 カミサマだって世界を6日間で創ったのよ、イケるイケる」

 

注・無理です。

 

「何で両津さんとツーリングする話になったの?」

 

「シェリダ……ばったり会って、意気投合して、戦車カ……普通のカフェでお茶をして、

 それで、来週の日曜に製鉄所に行くから、是非ご一緒させてくださいって」

 

「姉さん、また急場凌ぎに私のフリしてたの?」

 

左京は即座に視線を逸らした。

そんな姉の姿を見て、右京は深ぁ~くため息をつき……

 

「……分かったわ」

 

この状況をどうにかするアイディアを思いついた。

 

……

 

…………

 

………………

 

そして翌週の日曜日。

 

「え、バイクの調子が悪い?」

 

「ええ、今朝急に」

 

右京が……右京のフリをする左京ではなく、本物の右京がそう告げる。

若干額に汗が滲んでいるのは、基本的に彼女は嘘が苦手だからだ。

 

「ううむ、どうするかな……」

 

「あの、両津さんの免許だと、2人乗りも大丈夫だと思ったんですけど」

 

「……良いのか?」

 

「はい、お願いします」

 

……結局、妥協案としてバイクに乗るのは諦め、タンデムをお願いするという手段にでた。

 

「待たせたな! 両津のダンナァ!!」

 

「今日はよろしくお願いします」

 

待ち合わせ場所に2台のバイクが停車する。

本田と本田の彼女の乙姫奈々だ。

 

「お久しぶりです右京さん」

 

「え、あ……ど、どうも……」

 

誰でしたっけという単語が喉まで出かかる。

物凄く昔……具体的にはタヒチ旅行に何故か同行する事に一度顔を合わせているのだが、その後の交流は皆無だ。

 

「じゃあ早速出発しましょうか」

 

「本田、右京の体調見て休憩入れるから、無電はちゃんと聞いておけよ」

 

「了解だ。 奈々、ちゃんとついて来いよ」

 

両津と本田、奈々が付けているヘルメットは無線機付きのものだ。

あらかじめ設定してある相手に、運転中でも声を送れる。

 

ツーリング中はこれを使って意思疎通をするのだ。

 

「はい、先導お願いします」

 

「右京、しっかり掴まってろよ。 メットはあるか?」

 

「はい、お願いします」

 

右京が左京から借りてきたヘルメットを被り、両津のすぐ後ろに座って両手を回す。

 

遠出する時は基本本田のバイクを足代わりに使い、葛飾署交通課でツーリングをした時すら他人のタンデムで同行した両津であるが、決してバイクの運転ができない訳ではない。

自動車免許は全種取得済みで、ワイルド7結成の時等でしっかり自力で運転もしている。

自分で運転する機会が少ないのは、単に面倒臭がりだからだ。

 

そして……

 

「(う、右京って意外と胸あるな……)」

 

両津は今、珍しく自力でバイク(ただし借り物)を運転しようと思い立った事を噛みに感謝していた。

 

「(おお、思った以上の美味しいシチュエーションだな)」

 

両津が密かに鼻の下を伸ばす。

 

美女がぎゅうっと自分に抱きつき、ふくよかな胸の感触が背中に伝わってくる幸福感を堪能しながら、3台のバイクが高速道路をカッ飛ばし……途中パーキングエリアや道の駅で何度か休憩を挟み……

 

「到着だぁっ!」

 

「わぁ~! うわぁ~! す、凄い配管の数……」

 

「どうだ、凄いだろ」

 

3台のバイクが停車した。

重厚な光沢を放ちつつ、複雑に絡み合う無数の金属パイプに奈々が瞳を輝かせる。

 

「両津の旦那が勧めるだけあるな、こいつは確かに壮観だぜ」

 

「教官、早速スケッチします。 カメラお願いしても良いですか」

 

「応っ! 任せとけぇっ! ……素敵な写真、一杯取ってくるからね~」

 

本田はバイクから降りたとたん漢らしさが一瞬で消失し、なよなよとした所作でカメラを構え、鉄と配管の化物のような建物へと向かって行く。

 

「先輩~、お勧めの場所ってどこっすか?」

 

「おう、この時間帯だとあっちのプラントがな……」

 

男2人が製鉄所を前に何やかんや訳の分からない事を話し始める。

右京がヘルメットを脱ぐと、耳元に心地良い風が突き抜けていくのが分かった。

 

「……オートバイ、琴姫と一緒に走ってた時とは風も、音も全然違ったな」

 

生き物が持つ独特の息遣い、体温、そして風、流れる景色……それは過去何回も体験した、右京にとって大好きな感覚だ。

今日感じたものはどれもこれも右京にとって初体験で、未知のもので、新鮮なものだった。

ただ……

 

「免許は取るのは……やめておきましょう」

 

……新鮮ではあったが、それよりも怖さが勝った。

 

決して悪い物だとは思わないが、何となく肌が合わなかった。

というかぶっちゃけ怖かった。

 

右京は自分の手にじんわりと汗が浮かんでいるのに気がついた。

嘘がバレないかとヒヤヒヤしてた時とは別種の汗だ。

 

「おーい右京、こっちに来てみろよ、凄い迫力だぞ」

 

「あ、はい。 今行きます」

 

両津が1人バイクの余韻を感じていた右京に声をかける。

呼ばれた先にある光景は、メカマニアが目の色を変えるような光景だ。

 

「あそこのパイプがあそこで分岐して、あのバルブで量の調節で」

 

「先輩先輩! あっちのパイプは何っすか!?」

 

「あれは天然ガスだよ。 炉の燃料をあっちのタンクから引いているんだ」

 

「はぁ~色々考えてるっすねぇ」

 

「当たり前だ、日本を支える屋台骨を作っている場所だぞここは。

 スーパー電子とは別方向で、技術立国日本の最前線だ」

 

基本メカ好きな両津と本田が子供のようにあちこち駆け回り、パシャリパシャリとシャッターを押す。

乙姫奈々はスケッチブックに鉛筆を走らせ、工場の様子をスケッチする。

 

「うわぁ、この人の絵、凄く上手い……しかも描く速い……」

 

そのあまりに速く、あまりに精密かつ繊細のペン運びに、右京は思わず感嘆する。

 

「奈々ちゃんはプロですから」

 

「プロ……? 画家さんですか?」

 

「いえ、漫画家です」

 

「ま、漫画家!? だからこんなに上手いんですか」

 

「いえ、私なんてまだまだですよ」

 

そう答えつつも、奈々の手は一切止まらまい。

スタープラチナかと見間違える程の速さと精確さで工場のスケッチを続けている。

 

「先輩もプロ漫画家なんですけど、正直絵心は……」

 

「やかましい! わしは勢いで勝負してるから良いんだよ!」

 

「むしろ勢い以外何もないと言うか……」

 

「本田君、どうやら君とは一度ゆっくりと話をしなければいけないようだね」

 

両津が何故か持ち歩いているニューナンブの撃鉄を起こした。

 

「え、いや、決して今のは悪い意味で言った訳ではなく、むしろ良い意味で……

 あ、ちょっと襟首掴まないで、引っ張らないで……ぎゃあああぁぁぁーーーっ!!」

 

奈々が工場の風景をモクモクとスケッチする。

 

右京も奈々の隣に座り、本田が物陰でボコボコにされ、周囲に断末魔の叫びが木霊するのを意図的に無視しながら工場の配管に目を配る。

 

「(……どうしよう、全然面白くない、全然楽しくない)」

 

右京は割とマジで、帰りは自分だけ電車かバスで帰れないだろうかとか、1人だけ先に帰ったら怒られるだろうかとか考え始めていた。

 

……

 

…………

 

………………

 

その日の夜。

 

「姉さん、姉さん」

 

「何か用かな?」

 

「来週の土曜日、確か空いてましたよね?」

 

「そこは2chに書き込みましたかって言いなさいよ。 まあ、空いてるけどどうしたの?」

 

「ちょっと両津さんとデートしてくれませんか?」

 

「……え、何で?」

 

「あの、今日の工場見学の帰り際にですね、もしかしてつまらなかったかって聞かれまして」

 

「まあ、聞かれるかもしれないわね。 貴女工場とか分からないでしょうし」

 

「それを承知の上で勝手に約束を取り付けた姉さんはどうかと思います」

 

「はいはい悪かったわ、後で埋め合わせはするわよ」

 

「なので埋め合わせをしてください」

 

「なに、おねだり? 良いわよ、言ってみなさい」

 

「来週の土曜に両津さんとデートしてきたください」

 

「……何で?」

 

「つい二つ返事で受けてしまって。

 後で気づいたんですけど、その日はどうしても外せない用事があって」

 

「自分の予定位頭に入れておきなさいよ」

 

「余りにも退屈だったのでつい……」

 

「はぁ……そこを衝かれると辛いわね。

 分かったわ、もう一回だけ右京のフリをしてあげる。 どこに行けば良いの」

 

「上野動物園です」

 

「……え?」

 

……

 

…………

 

………………

 

飛鷹左京、被弾2。

顔面と右肩にべっちょりと付着する鳩の糞が、彼女の機嫌をこれでもかって位に損ねていた。

 

「ふふふ……ふふふふふっ! 右京、後で覚えてなさいよ……」

 

怒りの余り両肩がブルブルと震えていた。

無論、右京が何かしらの手品や超能力で鳩の運を操ったとまでは思っていないが、生来息元との相性が悪い左京を、そうと知りながら上野動物園に行かせようとした右京に対し少なからぬ怒りを覚えていた。

 

「……うおっ!?」

 

そんな左京を前にした両津が思わず狼狽え、たじろく。

楽しいデートの筈が、鳩の糞2発に被弾した美女が、明らかに不機嫌そうな顔で待っていれば、誰だってそうなる。

 

しかも……

 

「いだぁっ!」

 

飛鷹左京、被弾3。

 

「はぶぅっ!?」

 

飛鷹左京、被弾4。

 

「あ、嫌な予感……みゃぁあっ?」

 

飛鷹左京、被弾5。

 

何に被弾したのかを描写する事は、彼女の尊厳のために省略しよう。

5発の被弾によって右腕に血が滲み、全身から鼻が曲がりそうな程の悪臭を漂わせ、すれ違う通行人全員から顔をしかめさせるような惨状になっていた。

 

「(右京おおおぉぉぉーーーっ!!)」

 

左京は今、右京に対する怒りで一杯であった。

無論、今日起きた惨劇の全部が右京の仕業だとは思っていないが、その責任の何割かは右京の仕業だと思っていた。

 

左京は昔から動物に嫌われている。

 

全国学生弓道大会当日、ライバルであった磯鷲早矢に一対一の決闘を申し込んだその日に犬に噛まれて負傷した事は記憶に新しい。

それに彼女が右京と違って流鏑馬に出場したがらない理由も、どの馬からも嫌われて、蹴られたり踏まれたり糞をぶつけられたりされ続けているからだ。

 

そんな左京を、そうと知りながら上野動物園に行かせた右京に対し、左京は並々ならぬ怒りを覚えていた。

 

「銭湯、行くか」

 

「……はい」

 

両津のちょっとした気遣い、涙が出る程に嬉しかった。

が、それはそれとして……

 

「(右京……どうやら姉に対する敬意って奴を完全に忘れ去っているようね。

 良いわ、その喧嘩買ったわ)」

 

そんな事を考え、頭の中で昨晩盗み見た右京のスケジュールを……両津とのデートを組み込んでも問題無い日を全力で思い出す。

 

「両津さん、どうしても見に行きたい所があるんですけど、今度一緒に行きませんか?」

 

「ああ、良いよ。 どこに行きたいんだ?」

 

「空母カールヴィンソンです。

 両津さんと一緒なら見に行けるって知人(早矢)から聞いてまして、

 いつか絶対に行きたいな~っと思っていたんです」

 

「なんだそうか。 大丈夫大丈夫、あそこの艦長は良い奴だからな」

 

その言葉を聞いた瞬間、左京の瞳がギラ~ンと光った。

 

……

 

…………

 

………………

 

「高い高い高い高いっ!! 怖い怖い怖い怖いっ!!」

 

その日。飛鷹右京を……右京のフリをしている左京ではなく、本物の飛鷹右京を待っていたのは地獄であった。

 

「ヘリコプター苦手だったか?」

 

「苦手と言うか……無理! 無理です! 高いし揺れるし硬いし!

 遊園地の観覧車でも駄目なんですよっ!!」

 

「え、でも行き帰りは絶対に米軍の輸送ヘリが良いって」

 

「ね、姉さん……ひどい……」

 

なんて事があったり。

 

「無理! 無理ですよ! 舟の上で通し矢なんてやった事ないですから!」

 

「早矢はできたぞ」

 

「あの人と一緒にしないでください!」

 

なんて事があったり。

 

「あれがF/A-18E、あっちはEA-18G、その向こうがE-2C 2K」

 

「……違いが全然分かりません」

 

「攻撃機と電子攻撃機、哨戒機の違いだよ、具体的には……」

 

「(姉さん、どこが楽しいのコレ……?)」

 

なんて事もあって。

 

「そろそろ帰るか、おーい艦長! 輸送ヘリを回してくれー!」

 

「いっそ私だけ泳いで帰るというのは……駄目ですよね、はい、分かってました」

 

なんて事もあって。

 

「高い! 怖い! 揺れて怖い! 落ちそうで怖い!」

 

「はははは、米軍のヘリはそう簡単には落ちないよ。

 まあカプコン製のヘリは毎回と言って良いくらい落ちるんだが」

 

「きゃああぁぁっ!! 落ちる!? 落ちちゃう!?」

 

「いだだだだっ! 冗談だって、カプコンなんてヘリメーカーは無いから!

 あ、でも胸が当たって……」

 

……そういう事もあって、右京が再び大地に降り立つ頃には心身ともに疲弊しきってフラフラだった。

 

「わ、わざとね……姉さん……」

 

瞼を閉じれば、『姉に逆らうとは愚か者め』とか何とか言いながら高笑いする左京の姿が鮮明に思い浮かぶ。

 

右京は珍しく、本当に本当に珍しく……

 

「そっちがその気ならこっちだって考えがあるわよ、姉さん」

 

……珍しく、怒っていた。

 

「両津さん! 今度の御休みの日にスキーに行きましょう!

 友達と良く行くスキー場があるんです!」

 

「スキーか、良いなあ。 どこのスキー場なんだ?」

 

「ちょっと遠いんですけど……」

 

「ここは初心者向けのコースが一切無い所だぞ。 大丈夫なのか?」

 

「私は得意ですから大丈夫です! 私は!」

 

『私は』の部分を強調している所がポイントである。

 

……

 

…………

 

………………

 

「ぎゃああああぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

女の子が決してしてはいけない叫び声と共に、日鷹右京……もとい、右京のフリをしている左京がゴロゴロと転がりながら急斜面を落下していた。

 

「ちょ、止まらな……ああああぁぁぁぁーーーーっ!! がふぅっ!!」

 

本人は必死こいて落下を止めようとしているものの、切り立った崖かと見間違える程の急斜面がそれを許さない。

でこぼこした路面に頭や腰を何度も何度もぶつけながら、くるくると空中で回転し……ロープウェイを支える太く頑丈な鉄柱に正面衝突した。

 

「お、おのれ右京……」

 

全身青あざだらけになった左京がぴくぴくと痙攣しながら大地に倒れ伏す。

 

瞼を閉じれば、『高々数時間早く生まれた程度で良い気にならないでください、ね・え・さ・ん』とか何とか言いながら高笑いする右京の姿が鮮明に思い浮かぶ。

 

「おーい右京! 大丈夫か!」

 

「だ、大丈夫です……」

 

正直今すぐ入院を勧められる程の重傷であったが、妹相手にやられっぱなしでいられるかという意地とプライドを支えにして、左京は立ち上がる。

 

「両津さん、来週ヘビメタバンド大集合、

 爆音轟音100連発スペシャルっていうイベントがあるの、御存じですか?」

 

「ああ、あまりにも煩さ過ぎるとか、火薬を使い過ぎるとかで、

 普通の会場ではライブイベントができない連中が大集結するイベントだろ?」

 

「両津さん! どうにかあのイベントのチケット取れませんか?」

 

「あれの主催者は勘兵衛だからな、今からでもどうにかできると思うぞ」

 

「ぜひ行きましょう! 2人で!」

 

「……え? 右京ってああいうの好きだったのか? 何かイメージが違うような」

 

「私は大好きです! 私は!」

 

『私は』の部分を強調している所がポイントである。

 

……

 

…………

 

………………

 

「2人のォ(ピーーー)は(ピーーー)で(ピーーー)だぜ!!

 オレ(ピーーー)は(ピーーーピーーー)て(ピーーー)うれ(ピーーー)ぜっ!!」

 

「うおおおお!!」

 

「ぐおりゃ~!!」

 

放送禁止用語前回の歌詞をシャウトするボーカル。

狂ったようにドラムにギターを叩きつけるギター。

そしておもむろにラグビーボール状の爆弾を床にたたきつけるドラム。

直後、ステージが大爆発してバンドメンバーは当然、最前列で観劇していた客も数名黒焦げになる。

 

「何これ! 何これ!? 何なのこれぇっ!?」

 

そんな狂気の光景を目の当たりにして、右京のSAN値は消失寸前である。

 

「がははははっ! あいつらまだ生き残ってたのか、チャーリーよりしぶといな」

 

一方、両津は腹を抱えて笑い転げていた。

 

「やっぱりわざとね、姉さん……」

 

ひりひりと痛む鼓膜を押さえながら、右京は小さく呟いた。

 

「両津さん! 警視庁騎馬隊で使っている馬のお世話をしてるって話、本当ですか!?」

 

「え? まあ、今でも時々手伝ってるけど」

 

「是非とも一回お手伝いさせてください!」

 

「結構気性が荒い馬もいるけど大丈夫か? 慣れてないと危ないぞ」

 

「大丈夫です、私は琴姫で慣れてますから、私は」

 

『私は』の部分を強調している所がポイントである。

 

……

 

…………

 

………………

 

「右京、傷は大丈夫か?」

 

「馬に蹴られるのは初めてじゃないです」

 

日鷹右京……もとい、右京のフリをしている左京は見事に馬に蹴られていた。

顔面に蹄鉄型の痣ができ、鼻血をどばどばと垂れ流し、とても女の子がしてはいけない面相になっていた。

 

「(おのれ右京おおおぉぉぉ~~~!!)」

 

表面上はにこやかに笑っていたが、左京は内心右京に対する怒りで一杯になっていた。

 

「(もう良いわ、もうこうなったらこっちも本気よ右京。

 流石にやりすぎと思って自粛してたけど、

 こうなったら貴女の人間関係を複雑骨折させてくれる)」

 

それ故に左京は、心配そうに自分の顔を覗き込む両津の両肩に手をかけ、やや強引に引っ張り込み……

 

「んん……んぅ……」

 

「……んんっ!!?」

 

……唇と唇を重ね合わせた。

長身の左京が少し身をかがめ、上から覆いかぶさるかのように吸い付き、10秒も、20秒も、30秒も唇を重ねていた。

 

そしてようやく2人の唇と唇が離れると、左京はとても真剣な顔で両津の目を見つめ……

 

「貴方が好きです、両津さん」

 

そう告げた。

 

歯の浮くような台詞を口にしながらも、思っていたよりも左京は冷静だ。

自分でも驚く位に、心臓音は小さく、穏やかで、整っていた。

 

「右京……お前……」

 

一方、両津の心中は穏やかではない。

口を阿呆鳥のようにあんぐりと開けて、目の焦点は定まらず、心臓は暴走機関車の如くバクバクと脈打っていた。

 

それを見た瞬間、左京はイケると思い、僅かに口角を尖らせた。

 

「(勝った! 第三部完!

 このまま次のデートでは2人でラブホテルに消えるよう誘導してくれる!

 姉に逆らった事を後悔しながら、好きでもない男のちOこで処女を散らすが良いわ!!)」

 

その時、その瞬間、左京は確かに勝利を確信した。

 

が……しかし……

 

「姉さん!!」

 

……そんな勝利の確信は、甘い甘い妄想は、次の瞬間に砕け散る。

両津と左京の目の前に、日鷹右京が現れたのだ。

 

「え、右京!? いやでもこっちも右京……」

 

「その人は姉の左京です!

 私のフリをして何度も両津さんとデートを繰り返していたんです!」

 

「な、何だって!?」

 

決して嘘はついていないが、全てを話しているとは程遠い。

 

「ちょ、ちょっと右京、何でこんなタイミング良く出てくるのよ!?

 貴女まさかずっとどこかに隠れて様子を窺っていたの?」

 

「はい! 姉さんの事が心配でしたから!」

 

右京は力強く断言した。

そんな右京の様子を見て、左京は全てを察した。

 

「(しまったあああぁぁーーーっ!! ハメられ……いや、ウラをかかれたぁーっ!!)」

 

「(そろそろ仕掛けると思ってましたよ、ね・え・さ・ん!)」

 

視線と視線が交差する瞬間、右京と左京は互いに相手が何を考えているかを完全に察した。

 

「さ、左京がわしを……」

 

「姉さんがそこまで両津さんの事が好きだったなんて知らなかったわ!

 私全力で後押しします!」

 

「しなくて良いわ! 自分のケツくらい自分で拭くから……って、

 右京押さないで! どこに連れてく気!?」

 

「全力で! 後押し! しますから!」

 

右京が突然の愛の告白(自爆)で混乱する両津と、作戦の失敗に動揺する左京の背中を物理的に後押しし、厩舎の外へとぐいぐいと移動させる。

 

「ちょ、ちょっと待って右京! 前にあるのラブホテルよ!

 貴女アレがナニをする場所か分かって……」

 

「全力で! 後押し! しますから!」

 

「あ、その顔は分かってる顔……じゃないわよ! 右京やめなさいっ!!

 連載終わる! 連載終わっちゃうから駄目ぇっ!」

 

「大丈夫よ姉さん、とっくの昔に連載は終わっているもの」

 

「わぁ、それなら安心……じゃなくて!! お姉ちゃんまだ経験無いから……」

 

「頑張って!!」

 

右京は2人の背中を押しながら器用に無人契約機に諭吉を挿入し、やたらと妖艶な雰囲気のラブホテルの一室へと2人を叩き込んだ。

 

「両津さん、姉さんをよろしくお願いします」

 

右京は静かにそう呟くと、後は野となれ山となれとばかりに全力ダッシュでその場から離脱した。

 

「もう二度と右京のフリなんてしないからあああぁぁぁ~~~っ!!」

 

その後両津と左京がナニをしたのか……それは皆様のご想像にお任せしたい。

 

 

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