不死身審神者が死ぬまでの話   作:べにこ

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第一章・加州清光編①

 加洲清光。幕末武士・沖田総司の愛刀として激動の時代を駆け抜けたものの、数百年の時を経て再び現世(うつつよ)に呼び戻された刀の付喪神。過去を塗り変えんとする歴史修正主義者から正しい歴史を護るため、審神者と呼ばれる霊能者に人形(ひとかた)となって仕え、自ら刀をとって戦うという何とも希有な第二の生を与えられた。

 

 

 自らの意思で動き回ることが出来るようになった一方で、主君と見上げる審神者に命の限りに尽くす毎日。まるで本当に人間の戦士になったかのようだが、そんな珍妙な運命を清光に与えた男も、今まで見たこともないような異様な存在であった。

 

 

 戦場の敵を次々と斬り伏せる清光の横で今、彼は舞でも舞うかのような軽やかな身のこなしで襲い来る屈強な刀達を沈めている。単純に兵数を鑑みればこちらの陣が圧倒的に不利なのに、彼一人いればそんなものは些事のうちにも入らなくなる。それほどの圧倒的な武力だ。短剣よりも軽やかに。脇差よりも鋭く。打刀よりも鮮やかに。太刀よりも勇猛に。大太刀よりも圧倒的に。もはやこの戦自体、一人でも十分切り抜けられるだろうだろうといった勢いだ。

 

 

 清光を現世に引き下ろしたその男は、外見に限って言えば「白い」ただその一言に尽きる。高く結い上げた長い髪も、女人かと見紛うような滑らかな肌も、身につけている着物も、いつもどこか哀しげに潤む右眼ですら、陽の光をはねかえす高潔な色をたたえている。ただ一つ、左眼がそこだけ血をこぼしたように鮮やかな緋色を帯びていた。

 

 

 埃と血と硝煙を全身に浴び、それでも少しも損なわれない不思議な美しさに見とれる――と、そうして余所事にかまけていたせいか、背後に脅威が迫っているのに気づくのが遅れた。斬り伏せたはずの敵の一振りが最後の力を振り絞り、起きあがったのを視界の端に捉えるが、その攻撃を受け止めるために斜めに振り上げた自分の刀が間に合わない。さすがに死に損ないに折られるようななまくらな自分ではないが、おそらく無傷では済まないだろう。嗚呼、格好悪い。刀のくせに。戦闘中に気を抜いて負傷するなんて。情けなさと悔しさが血液のように体を駆けめぐって思わず舌打ちをする。

 

 

 ――しかし敵の凶刃が清光を襲うことはなかった。敵と自分との間に白い光が飛び込んできたかと思うと、自分が受けるはずだった敵の斬撃と激しくぶつかり合ったのだ。光に優しく押され尻餅をついた清光の頬に、生ぬるい液体が散る。それが血だと気づくと同時に、彼は緋雨が自分を庇って敵の刃を受けたことを知った。

 

 

「ああ。いたい、いたい。いたいなあ」

 

 

 悲痛な声が清光の頭の上に降り落ちる。緋雨の声だ。堪えることもせず、さもさめざめ、といった風に素直に身を襲う苦痛を吐露する彼の、胸を抉るような壮絶な慈悲のこもった声だ。右肩に牙が貫通するほど深々と噛みつかれ、しかも自分の背丈ほどもありそうな身幅の刀に胸のど真ん中を刺し貫かれた状態で、悠長に「いたい」などと言っている様子はかなり異様だ。守られたこっちもこっちでぽかんと阿呆みたく見つめている場合ではない。普通なら。

 

 

 けれど彼が主ならそれも許される。彼は死なないのだ。この程度の裂傷が彼をあの世へ連れて行くことなど出来はしない。

 

 

 異形の敵がうなり声を上げながら渾身の力を込めると、緋雨の華奢な体がくの字に曲がった。ばぎ、ぼぎと響く聞くに堪えない音は、敵の凶悪な歯が彼の骨を食いつぶす音だろうか。ぼたぼたと地面に落ちる夥しい量の血を見て、清光の全身にみるみる冷たい汗が差す。死ぬことはない。分かってはいるが、だからといって簡単に分別がつくものでもない。敵によって傷つけられ崩れていく主の体を見て、肝が冷えないわけがないのだ。

 




夢主登場です。刀剣男士たちより長命で不死身。
実は他ジャンルで書いている夢小説の夢主を流用して作ったキャラです。(クロスオーバーではありません)
まだそちらには登場しておりませんが……そういう繋がりも楽しんでいただけたら幸いです。
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