自分への苛立ちがぬるい硝煙と共に肺に渦巻くのを、自らの依代である刀の柄を軋むほど握りしめて堪えながら、緋雨に声をかける。
「主、大丈夫?」
「私は平気だ。清光が怪我をしていなければそれで良い」
自分が弱いと言うことを露見することになってしまいそうで素直に謝れない清光をしかし、緋雨は責めることなくその安否だけを気にしているようだった。それはそれで自己嫌悪を加速させていくだけだと分かっていても、彼のその底のない優しさに清光はどうしても甘えてしまう。許されればそれで良いと思ってしまう。
「これは私の返り血か。ああすまない、お前の綺麗な顔を汚してしまったな」
緋雨の細長い指が頬についた血糊を撫ぜるともう、触れられた箇所から脊髄までが電撃が走ったように甘く痺れて、先ほどの葛藤も戦っていたときの切迫感も最初からなかったかのように消え去ってしまった。嗚呼、やっぱり愛されるって良い。すべてのわだかまりを棚に上げて手放しで喜んでしまいそうになる。
「~~~っもう! そうやって無茶するなって何度言えば分かるのさ!」
「清光が斬られると思ったら、体が勝手にな。いやすまない、悪いとは思っているよ」
骨の抜けた忠告に、薄く笑む白い顔はもはや見ているこちらが怖くなるほど美しい。まるで職人の粋を尽くして作られた細工人形のようだ。
「私はこうしてすぐに治ってしまうのだし、心配しなくても良い」
「……その言い草。悪いと思ってないじゃん」
「はは、そんなことは、ごぼぼっ、」
その先の言葉は続かず、あぶくのような濁った音の奥に崩れていった。清光の汚れた頬に新たに血の斑点が散ったのは、目の前の緋雨が切り裂かれた肺にこみ上げる血を吐いたからだ。清光を汚すことのないよう一応顔を逸らしてはくれたのだが、間に合わなかった。
一瞬肩を盛り上げ、前屈みになり、口唇から密度の高い真っ赤な液体を溢れ出させる――その光景は否応なく、かつての主の記憶、その体に忍び寄る、死の魔手の記憶に、重なって。
「……ああ、」
その瞬間、緋雨の顔が悲愴に歪んだ。顎を血で濡らしたまま音もなく歩み寄り、表情を失っている清光を抱きしめる。
「すまない。思い出させてしまったか」
違う。主のせいじゃない。悲痛さを湛える美しい顔に、その優しさと聡さに、どうにか報いたくてそんな言葉がこみ上げる。しかし、それを声に乗せようと必死になる清光の表情を見て悟ったのか、緋雨は安心させるかのようにふっと口元を緩めた。
「こんなことにも気を遣えないようでは、沖田殿に面目が立たないな」
そう微笑んで言われた途端、底の見えない穴をのぞき込んだような得体の知れない感情が溢れ出た。心の底から申し訳ないとばかりに歪む顔は、整っているだけ余計に表情が胸に刺さる。言わなければならないと躍起になっていた言葉は、全部喉の奥に詰まって見る間にほどけていってしまった。せっかく気持ちを言語にして伝える口があるのに、こういう時ばかりうまく動いてくれないのだから全く人間の体というものはままならない。
「さあ、もう帰ろう。また爪を塗り直してあげなくてはね」
「……うん」
出てこなかった言葉が灼けるように渦巻く胸を押さえながら、清光は頷いた。とはいえ、女性と見紛う彼の手が自分の煤けた指を優しく擦れば、やっぱりその熱も簡単にかき消えてしまうのだが。
不死身も不死身で大変なんだろうなーと思います(他人事)
こういう特殊体質のキャラクター書くの死ぬほど好きです。