「こっちはもう片づいたよ~」
向こうで声がする。少し離れた所で敵と交戦していた第一部隊の刀達がこちらに来たようだった。
「って、主! また怪我したね?」
「……いや」
「うそはいけませんよあるじ! かおがひきつってます!」
さっそく燭台切と今剣に責め立てられ、緋雨はばつが悪そうに顔を逸らした。誤魔化しても服の破れ具合と血ぬれ具合でどの程度の怪我をしたかは一目瞭然だ。
「いくら再生するからって、無茶は禁物だってあれほど言ってるのに!」
「思いっきり血塗れじゃねえか」
「またこれは派手にやりましたなあ」
「痛そう」
第一部隊として共に出陣した同田貫、石切丸、骨喰もわらわらと緋雨の周りに寄ってくる。皆目立った負傷をした様子はない。今回は道中検非違使も出現したし、戦況はだいぶ苦しかったはずだが足りない分の戦力はすべて緋雨が補ったのだろう。刀たちのプライドに傷を付けないぎりぎりの所まで。全く恐れ入る。
緋雨を囲む輪を、清光は少し離れたところから眺める。皆気づいているのだろう。彼にいつもよりひどい傷を負った形跡があるのは、弱い清光を庇ったのが原因なのだと。
けれど誰も何も言わない。気を遣っているつもりなのだろうか。だとしたら余計な世話だ、責めたければ責めればいいのに。静かな苛立ちを抱くと同時に、そういう風に卑屈なことしか考えられない自分にますます嫌気が差していく。
「みんなご苦労だった。お前たちのおかげで、戦況も良くなってきたよ。大阪もあと一息で攻略できそうだ」
凛とした声が土煙と血のにおいの満ちた戦場に響きわたる。溌剌とした、けれどやはりどこか哀しみを帯びたその声音は、敵すら慈しむ彼の心根を写しとったかのように辺りに折り重なる大量の屍の上に降り落ちた。
「さあ、帰ろう。私たちの家へ」
*
「主ってさ、沖田くんのこと「沖田殿」って呼ぶんだよ」
「……何なの急に」
夜の刀部屋。月明かりの下、布団の上に寝転がる清光が発したつぶやきに、寝間着に着替えている途中だった相部屋の安定が怪訝な顔をして反応した。
「安定も知ってるでしょ」
「知ってるけど」
「何かさあ、知り合いみたいな呼び方だなあって」
「知り合いなんだよ」
清光の骨の抜けた物の言い方に、心底嫌気が差すとばかりに安定は顔を逸らした。しかし長年の相棒とも言える関係性にある彼のそういう態度には清光も慣れていて、特に気にする様子はない。
「でも俺覚えてないんだよ、主のこと。全然。安定は覚えてる?」
「覚えてない」
「何でだろう。沖田くんと知り合いだったんなら、俺たちが会ったことないわけないじゃん。いつも一緒にいたんだから……」
「僕に言われたって知んないっての」
「そもそもさぁ、主って突っ込みどころありすぎじゃない? 絶対普通の人間じゃないよ。ていうかそもそも人間なのかな?」
「だぁから、知らないってば」
あれ、髪紐どこいった?と辺りをがさごそと漁り出す安定。その無関心さに清光は眉根を寄せる。こういう素っ気ない態度をとりがちではあるが、安定は仕える者に忠実な刀だ。緋雨のこともそれなりに好いている。沖田と知り合いであるはずの彼のことを、なぜ沖田の刀として片時も離れずにいた自分たちが覚えていないのか、疑問を抱かないはずがないのだ。
というかそもそも、当の彼の存在自体が得体の知れない怪しいものである。不死身。反則的に強い。年齢推定千数百歳。ご丁寧に三拍子揃って、もうこの時点で普通の人間ではない。そういう誰もが違和感を禁じ得ないほどの特異な経歴と体質とを持ち合わせているにも関わらず、刀剣たちから大きな信頼を集め慕われているのはひとえに彼の人徳によるところが大きいだろう。
けれどこちらもそう馬鹿ではないから、緋雨のその特異さについて考えないわけではないのだ。どういう過去を経てここにいるのか、どうして審神者になったのか、知りたいと思っているのは自分だけではないと思う。知ってどうにかできるものでもないだろうし、知る必要がないと言われればそれまでなのだが、そういう理屈で納得できれば世話はないというものだ。
刀剣男士たちはたとえ不死身でも主の身の心配をしてくれるんだろうな~と思います。
そして嫉妬で悶々とする清光はかわいい(確信)