不死身審神者が死ぬまでの話   作:べにこ

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第一章・加州清光編⑥

 

 何だか人間のようなことを言っているなと自分で思う。そう、最近人の身を得て喜怒哀楽を覚え始めた自分たちの方が余程人間らしいのではと思えるほど、緋雨には感情の起伏がない。いつも穏やかに微笑んでいるか、傷ついた刀剣のためにさめざめと泣くかのどちらかで、怒りや、憎悪や、侮蔑、絶望、興奮、悦楽、そういう人間独特の激しい感情を憂いや慈悲で全て補ってしまっているかのようだ。

 

 

 だからなのだろうか。どれだけ愛されてもこの締め付けるような胸の痛みが消えないのは。彼が与えてくれる愛は例外なく、穏やかで、温かくて、柔らかくて、突き刺さるような痛みや鋭さを一切伴わない。けれどいつもどこか遠いのだ。他人行儀とまではいかないが、彼の中にはけして他者には立ち入らせない一線がある。自分の過去を露呈しないのも、それがその一線の内側にあるものだからだろう。

 

 

 中が見えず得体の知れないそこから、出所の分からない慈愛が生まれ出て手渡される、そんな感じだ。それを偽られたものだとは思わないけれど、理由の分からない愛を与えられて手放しで喜べるほど、人間の感情を得た自分は楽観的ではいられないらしい。

 

 

「まあ別に、それでも良いんだけど」

 

 

 しかし思っていることは裏腹に、そんな言葉がぼそりと清光の口をついた。そもそも隠しているのだから暴かれたくないのは当然で、その一線があるからこそ彼はあれだけの優しさと愛を惜しみなく振りまけるのだろう。それをもし無理矢理暴いてしまったら、今まで見たことのない彼の負の感情を引きずり出してしまうかも知れない。傷つけてしまうかも知れない。そして何より、嫌われてしまうかも知れない。そうなったらもう終わりだ。自分は生きていけなくなる。そんなことになるくらいならたとえ量って分けたような、いっそ無慈悲なほど平等な愛でも、喜んで受け入れるのが得策なのだろう。そもそも自分は本来刀なのだから、こんな人間的な感情には蓋をしてただ彼の得物として在れば良いのだ。分かっている。分かっているから、初期刀として最も長い間彼に仕えながら、この葛藤をずっとひた隠してきた。

 

 

「良くないから言ったんだろ。馬鹿」

 

 

 しかし、安定はそんな清光の悩む諸々を躊躇無く一刀両断した。そこから彼の今までの吐露の穴を残らず突かんとばかりに矢継ぎ早に反論する。

 

 

「ったく、主はあんなに優しいってのにさ。何が不満なんだよ。毎日俺たち全員に声かけてくれて、大事にしてくれて、気い遣ってくれて、傷が付けばすぐ手入れしてくれる。理想の審神者じゃん」

 

 

 分かっている。愛してくれて、傷ついたら癒してくれて、それだけのことが自分たちにとってどれだけありがたいことか。自分たちが在るために必要不可欠なそれらのものすら、与えられずに放り投げられた同族など腐るほどいる。自分は幸せなのだ。それなのに、無償で与えられる愛情の性質に疑念を抱いて、それ以上のものが欲しいと駄々をこねるなんておこがましい。分かっているんだ、そんなことは。

 

 




うだうだ清光くん。
彼は愛に飢えてるって感じしますね。慈悲愛というよりは、もっと自分に執着してほしい、そっちの方がむしろ精神安定しそう。俺を支えにしている主のために絶対に死ねない、みたいな。

しかし緋雨にはそういうのは望むべくもありませんね……清光カワイソス。
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