不死身審神者が死ぬまでの話   作:べにこ

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第一章・加州清光編⑦

 

「「虚しい」って、それは結局お前が他の刀より贔屓して欲しいって思ってるからだろ。主は平等に優しいから、自分にだけ構って欲しいってさ。でもそんなん無理に決まってるじゃん。刀はたくさんあってこれからもどんどん増えてくけど、主の体は一つしかないんだから」

 

 

 耳が痛い。巨大な鐘が鳴るように、相棒の容赦ない言葉が頭の中でがんがんと響く。ここまで痛手を被るのは、その言葉が図星であるからに他ならないと分かっている。

 

 そうだ、結局はそういうことなのだ。もし緋雨が自分たちの間に引いている一線を取っ払い、すべてをさらけ出して快く迎え入れてくれたとしても、他の刀たちもその一線の内に入ることを許されるのなら、きっとこの胸中を蝕む虚しさは消えない。つまるところ、清光が欲しているのは真実ではなくて、自分だけがほしいままにできる特別な感情。慈悲に似た量産的な愛ではなくて、執着のような依存のような粘度をもった情愛。それを自分だけのものにして、過去の傷のせいでいつまでも膿んだままのこの心を癒したいだけなのだ。

 

 

 安定はそれを見抜いている。だからこれは正当な呵責だ。ここは本丸という共同体で、こんな独りよがりな願いは報われるはずもなく、それを叶えたい自分は我儘で自己本位で、どこまでもはた迷惑な刀。それはきっと、緋雨にとっても同じことだ。

 

 

 それでも、より純度の高い愛に飢えるのは自分の性質なのだと、この長年仕える者を同じくしていた仲間は理解してくれているものだと思っていただけに、責められることに怒りに似た感情を覚えてしまうことは止められなかった。見栄が邪魔をするから伝えたことはないけれど、傷ついて、壊れて、汚くなって、捨てられて、そうして沖田の元にいられなくなった自分を、お前だけは知ってくれていると、だからこうして打ち明けたという節もあるのに。いくら何でも、そんなに責めるように言わなくたって。

 

 

「それなのに特別に愛して欲しいだなんて、よくもまあ言えたもんだよ。その爪だって毎日主に塗ってもらってるんだろ。もう十分優しくしてもらってるのに、いくら初期刀だからってわがままが過ぎ――」

 

 

「うるっさいな!! 分かってるよそんなこと!!」

 

 

 たまらなくなって安定の声を遮るように叫んだ。喉が熱い。灼けるように熱を持ったそこが不規則に震えて、嗚咽がこぼれそうなのをこらえていたら今度は目頭がじわりと湿り気を帯びてきた。枕の布地を渾身の力で握りしめる自分の両手が、汚らしく剥がれ落ちた爪の赤い塗料が、みるみるうちに滲んだ視界の向こうに溶けていく。

 

 

 見られたくなかった。激情を隠せずに歪んでいく顔も、無様に狼狽えていく様子も、気心が知れているだけ余計に見られたくなくて、俯いたまま勢いよく立ち上がる。そのまま振り返ることもせず、襖をぴしゃりと開け放つ。

 

 

「もう良い、安定なんかに話した俺が馬鹿だった!」

「おい清光、」

「うるさい、もう知らない!!」

 

 

 引き留める声を無視して部屋を飛び出す。反論も出来ないのに責められるのはもう耐えられなかった。近くの部屋の刀たちが障子を開けて、どたどたと夜中の廊下を走り去る自分をいさめるような言葉をかけてきたようなそんな気がしたが、それに反応する余裕など一欠片だってなかった。

 

 

「はあ~……っとにめんどくさいヤツ」

 

 

 清光が飛び出していった部屋の中で、安定は自分の布団の上にあぐらをかいたままがしがしと頭を掻いた。自分から意見を求めておきながら、こちらが素直に応じたらあの怒りようだ。理不尽と言うほかない。けれどまあ、そういう清光の気質を知っていながらわざときつく当たった自分も大概だが。

 

 

 おそらくだが、安定がああしてけしかけなくとも清光のことは緋雨がそのうち気づいて何とかしただろう。いや、もしかすると既に気づいているのか。主の聡さは妖の類かと疑ってしまうほどのものだから、まったく要らない世話だったかも知れない。

 

 

「……まあ、清光には要らなくても俺には必要だったんだよね」

 

 

 安定はそうひとりごちると、見つけた髪紐でといたばかりの髪を再び束ね始めた。

 




安定くん何やら動き始めます。
この2人はお互いに歯に衣着せぬ言い合いをしそうですよね。ただこの本丸の傾向(顕現してからの生活が長ければ長いほど精神的に退行する)を考えると、初期刀である清光は安定を言い負かすことはできなさそうです。
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