ぐだアナなお話 作:Luxuria
カルデアという組織のある一室から大勢の声が聞こえる。
それは場を盛り上げるための歌、それは酒に酔って悲しみに嘆く声、それはその場を心の底 から楽しむ声。
それが人のものか、人でありながらも人ならざる者の物かは分からないが。
その声の中一人周りをキョロキョロしながら 歩いている少女がいた。
衣服から肌、髪に至るまでまるで雪のような純白、その気品さはお嬢様を連想させるほど、けれどて人形を抱く姿はどことなく子供の頃を思い出させるような少女。
アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。
このカルデアに人理修復のために召喚されたキャスターの一人である彼女は自分の主である少年を探していた。
「どこに行ったのかしら」
さっきまでは人に囲まれながら雑談を楽しんでいたのだ。遠目から見ても彼はよく目立つ、何せこのパーティが始める直前の事件を含め数々の修羅場を走り抜いたマスターなのだ。ここの人間、サーヴァント含め彼の人気は高い。だから少し目を離したところですぐ見つけられると思っていた。けれど今、その彼ーー藤丸立香が見当たらない。先ほどまで彼と喋っていた人たちに聞いてみてもいつの間にかいなくなっていた、と言い放つ。つまり彼は人しれずこの場を去ったということだ。
「部屋にでも戻ったのかしら……」
そう思い当たったアナスタシアは会場を抜け彼の部屋へと早い足取りで向かう。
いつもならこういったイベントは最後まで残っていた彼にしては珍しいことだなとは思うが、大方別の空気を吸いたいとかそういう理由だろう、と彼女は思い込む。
会場から離れていくにつれ静かになっていく廊下、響く足音だけが耳元に届く虚無感。
虚無、それを思うと心の中の何かが痛んだ。
「……お茶」
それを誤魔化すように思いついて給湯室からそれら一式を揃えて再び彼の部屋へと向かう。
いまの位置からだとそう時間はかからない距離を埋めた先に彼の部屋はあった。
「マスター、いるかしら? お茶を持って来たのだけど」
部屋の前に置かれた小さな物置にお茶一式を置いたトレイを置いてノックする。
暫く待つと「入っていいよ」と声がかかる。とても弱々しく。
なんで悲しい声をするの? よりにもよって貴方が。
声に出さずにただ心の中だけに押しとどめて私はその扉を開く。
その先にあったのはベッドに身を置いて片足だけ膝を曲げその上で頬を乗せこちらを覗く彼の姿。
「どうしたの? パーティ終わった?」
「貴方こそ、パーティを人知れず抜けるなんてらしくない」
彼の部屋に置かれたテーブルにお茶を置いて彼に出すお茶を準備する。
それを側からじっと彼はみている。どことなく恥ずかしくなりそうだが我慢して彼のために淹れたお茶を差し出すと彼は大事そうにそのティーカップを受け取った。
「少し疲れちゃって。もう少ししたら戻ろうとは思ってたんだけど」
そうぎこちなく笑う彼は弱々しい。
何があったのだろうか。思えば今日は妙に様子がおかしい気がする。何かに悲しんでいたような弱い笑みはこちらが不安に思えるほどに、彼がここまで弱々しい姿を見せたのは初めてだった。
私と初めて戦場に立った時も、様々な強敵、ましてあの魔術王や全ての母と謳われる神と対峙した時ですら彼は強くそこに立っていたのに、いまの彼にはそれがない。
「……何か、あったの?」
どことなく理解はしている。けれどそれは彼の口から聞かねばならない気がして。
「何もないよ、本当に」
けれど彼はそう答える。
「いいえ」
アナスタシアは否定する。
「貴方がそんなに弱々しいのにその言葉、ただの強がりにしか見えないもの」
アナスタシアがどれほど彼のそばにいたか、それはマスターである彼が一番知っている。
そう、ただの強がりにしか見えないのだ。必死に殺そうとしても溢れ出す弱さを隠すための強がり。彼女にはそうにしか見えない。
「私じゃなくても、きっとここにいる誰もが貴方を見ればそう思うわ。いまの貴方は強がっているだけの子供」
「……君には、関係ない」
「関係あるわ。私は貴方のサーヴァントだもの」
「もう少ししたら俺の前から消えてしまう君には、関係ない」
何かをこらえて言い出された言葉に納得がいった。ああそうか、と彼女は思う。
彼女含むサーヴァントは、もう時期英霊の座へと帰還する。人理の修復は終わった。ならば役割を終えたサーヴァントは帰還するのが道理だ。当然反発するものはいたが、彼のためだとカードを切られれば断れるサーヴァントはいなかった。アナスタシアもその一人なのだから。
「ここから先、ただの独り言、聞いてくれる?」
「ええ」
立香の手をそっと握る。初めてあの言葉を口にしたときのように彼の手を握った。
何かが崩れていく音がした。こらえていたはずの涙が瞳から流れて頬を伝ってシーツに落ちていく。
「掴んだ手を、離さないでくれ」
「ええ」
「俺の目の届く場所にいてくれ」
「ええ」
「俺の声を聞いたら、いつでも返事をしてくれ」
「ええ」
「俺はもう……」
何も失いたくないんだ……。
いつかいった言葉を彼は言い返してきて、それを彼女は全て肯定する。
その答えとして彼女は紡ぐ。
「貴方の願いであるならば」
続くように。
「掴んだ手を離さないで」
「ああ」
「私の目の届く場所にいて」
「ああ」
「私の声を聞いたら、いつでも返事をして」
「ああ」
ただ強く抱きしめられた。
優しくも荒くもなく、ただ強く。
「私はもう」
何も失いたくないの。
貴方が願うのであれば、私はそれを叶えるまで。
我が身はマスターのためにあるのだから。
故に私は留まろう。
私は彼の願いのために留まろう。私の願いのために留まろう。
「疾走せよ、ヴィイ」
得体の知れないそれを、瞬時に凍結する。
彼の後ろ姿を追うように後ろから一歩ずつ、一歩ずつ近づいていく。
その先には見慣れた過ぎた顔。ああ、なんて偶然なのかしら。
「待たせたわね? リツカ」
けれど負けはしない。
例え私以上に強い私だろうと必ず打ち破ってみせる。
もう二度と、貴方にあんな顔をさせない為に、支える為に。
ただただ甘いのが続くだけの小説だと思いましたか? はい残念!
まあぶっちゃけわたしが書きたいと思ったら書く感じですからね。
というわけで二部のカルデア襲撃時、もしアナスタシアがいたら、って話でした!