【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
――春。
新入学生となって早いものでもう一ヶ月近く経つ。
この一ヶ月は怒涛の目まぐるしさだった。なんせ進学予定だった地元の学校ではなく、IS学園に入学しまったのだから。
それもこれも今の世の中を作っていると言っても過言ではない女性にしか動かせない超兵器インフィニット・ストラトス、ISを男が動かせたのが原因だ。
おかげで全世界は大騒ぎ。他にも動かせる男がいるんじゃないかと全世界で調査が始まり、その一環で見つかったのが自分だった。
正直、男の自分がISを動かせた時は凄く嬉しかった。興奮もした。
有り体に言えば、思春期の男なら誰でも憧れる転身願望という奴だ。ある日突然異能の能力に目覚め、自分は選ばれた存在なのだと知る的な奴。
だが、そんな甘い考えも現実の前ではかき消される。政府がいくら守ってくれていても、再調査後に入学取り消しは怪しすぎる。火のないところには煙は立たない。
語弊を含みながら悪い噂になってしまい、両親に迷惑をかける始末。あのまま地元どころか実家にいるのもよくないので、保護という形で俺は全寮制のIS学園に通うことになった。
「学校終わったことだしさ、今日も一緒に訓練しようぜ」
帰る用意をすませ、席を立つと友達となった一夏が声をかけてきた。
こいつが世界で最初に見つかったISを動かせる男。苗字は織斑。俺達1組の担任でもあり、あのブリュンヒルデと名高い織斑千冬先生の実の弟。
もし、こいつが最初に動かしてさえいなければ俺もここには……そう思うと、いろいろ思うところはあるが、八つ当たりじみてくる。考えるのはよそう。
こいつもこいつで大変なのだから。
「一夏さん、今日は私と訓練の約束してましたわよね」
「あれ? そうだったか? そんなはずは……」
「いいえしていましたわ! さあ、行きましょう! この私、セシリア・オルコットが特別に指導してあげますわ!」
「聞き捨てならないな。一夏は私と訓練するのだ。ISは身体が基本。身体ができてないこいつにはまず基礎の身体作りから教える必要がある。私が適任だ」
「あら、冗談もほどほどにしてほしいですわね。一夏さんと訓練するのは私ですわよ!」
「いいや、私だ!」
「お、おいっ! やめろって、セシリアも箒も、なっ!」
一夏を取り合いいがみ合う同じクラスの篠ノ之とオルコットに一夏は困った様子だ。
相変わらずこいつら一夏のことになると騒がしい。惚れた男が別の女といるのが気に食わないのは分かるが。
というか、騒がしいからクラス中から注目を集めている。居辛い。
モテまくる一夏を見て最初は羨ましいと思ったが それは昔の話。毎回こいつらの相手してる一夏には尊敬しかない。
どうやったらそこまで寛容でいられるんだ。俺だったら逃げてる。
そういう寛容なところがたくさんの女子を人を魅了しているんだろう。このおかしな生活も送っていても明るく裏表ない前向きなこいつはいい奴だ。凄いの一言に尽きる。友達でいてくれて何だかんだ嬉しい。
もっとも鈍感というか、朴念仁なところは目に余るが。
「すまん二人とも! 今日はこいつと一緒に訓練したい気分なんだ!」
そう一夏が言うと二人の視線が俺に集まる。
二人揃って何も言わないが、目が遠慮しろ、譲れと言っている。睨まれている気分だ。
そんな目をしなくても恋路の邪魔はしない。好きにしていてほしい。
俺は今から職員室にいかなければならない。だから、訓練には付き合えない。
「そうか……それは残念だな」
しょぼんと落ち込んだ顔を見せる一夏。
そこまで落ち込まなくても。こいつも女子の中にいるのが辛いのだろうか? 今更、能天気なこいつが気にするとも思えない。いつも平気そうだし。
それにしたら大げさだ。別の意図を感じる。篠ノ之とオルコットもそう感じたのだろう。俺を見る目が怖い。やめてくれ、俺にそういう趣味はない。一夏にもだ。多分、きっと。
兎も角そういうことで一夏には悪いが、訓練には付き合えない。
何といえばいいんだ、いろいろ頑張ってくれ。そういろいろと。
「お、おう? また夕食の時にでもな」
頷いて、その場から去る。
すると早速、後ろではまた一夏の取りあいが再開。心配しなくても一夏なら何とかするだろが、本当に頑張ってほしい。
教室を後にして、職員室へと向かっている道中廊下でも目立つ。
仕方ないか、こればっかりは。俺達という例外を除いて、今も女性にしかISは動かせず。その競技者を育成するこの学園は実質女子校だ。
男がいたら嫌でも気になる。
「あの人が例の……」
「千冬様の弟の織斑君はかっこいいのに……あの人は何ていえばいいんだろう」
「うーん……あっ! 地味?」
「そう! それ! 地味だよね~」
今みたいな話もしたくなるだろう。
何度聞いても、その手の話は心に来るものがあるが仕方ない。
比較対象が一夏だからなあ……元々女子は苦手なほうで一夏みたいに人付き合いが上手くなければ、愛想いい訳でもない。比較されて当然で、その言葉は悲しいけど自分でも納得してしまう。
気にしたら負けだ。よくなるようにしていくしかない。難しいことではあるが。
挨拶して着いた職員室の中へと入る。
「あ、待ってました。整備室の件ですよね」
職員室の中で副担任の山田先生が話しかけてくれる。
中には仕事中らしき織斑先生の姿もあった。
用件とは整備室を借りたいというものだった。
IS学園は超難関校。あの馬鹿みたいに高い倍率の中で合格した生徒は皆一様に頭がよく優秀だ。
スポーツ競技であるISの競技者を育成する為の学校だから、座学はオマケ程度。それでも難しくて、入学してから毎日の予習復習をして何とかギリギリについてけている。と思う。
勉強をしていたいが、実技がメインのこの学校。俺はISを本当に動かせるだけ、一夏みたいに試合できる訳じゃない。訓練を重ねて、最近ようやくまともに空中でも人並みに動かせるようになった。
それでも周りからしたら大分遅いが。
授業についてく為に座学や実技だけではなく、ISについてより理解を深めたいと思い整備室を借りれないかと先生に聞いてみた。
整備室ならISを展開しても問題にならないし、落ち着いて機体をシステム面から理解を深められ、よりISに慣れられると思ったからだ。
俺にはただ努力しか頑張ることしかできることがない。信じて送り出してくれた両親の為にも。何より、自分のためにも。
だがしかし、山田先生は申し訳なさそうにしている。
「その、ごめんなさい。空いてるところがないか調べてみたんですけど、やっぱり5月の今、6月の学年別トーナメントに向けてどの整備室もいっぱいでして。空くとしても7月以降になりそうで……間借りというか共同利用もできない状態なんです」
借りられないと。
それならどうしようもないか。6月の学年別トーナメントはここの学生にとって将来左右する可能性が高い大事な学校行事だと、以前織斑先生に教えてもらった。
困ったな、これは。
「手がないわけでもない」
織斑先生が現れ、そう言ってくれた。
「悪い言い方になるが私の弟、織斑一夏みたいに複雑な背後関係もない。織斑よりも自由が利く男のお前がISを稼働させたデータは委員会や企業、研究所は喉から手が出るほど欲っしている。学園、私ら教師にしてもより理解を深めて、稼動データがよくなることにこしたことはない。その為なら、ねじ込むこともできるがどうだ?」
意地の悪いことを織斑先生は言ってくるものだ。
織斑先生の言っていることはもっとも正しいのかもしれないが、男だからってそんなことしたら反感買いそうで怖い。この時期に女子校でトラブル起こしたら、精神的に死ぬ。慎ましやかにいきたいんだ、俺は。
気持ちは嬉しいが、きっぱり断らせてもらった。織斑先生も俺が断ると思って、一応聞いてくれたみたいだった。
整備室がダメになると、やっぱり実技訓練してよう。放課後は。
今日のところは、一夏……はそっとしておこう。ISのシュミュレーターがあるらしいのでそれでいこうと思った時だった。
「失礼します」
眼鏡をかけた綺麗な水色の髪色をした女の子が職員室に入ってきた。
パッと見、物静かで大人しい知的さを感じさせる綺麗で可愛い子。結構可愛くて、思わず目を奪われた。
やっぱり、IS学園はレベルの高い子ばかりだ。そんな中にいる俺や一夏は傍から見れば、文句言うのがおかしなぐらいいい身分なのだろう。
「お前は確か……更識簪だったな」
「はい そうですが、何か」
別の先生と話を終え、職員室から出て行こうとした更識簪さんという人は織斑先生に呼び止められた。
そして手招きされ、こちらへと近づいてくる。
「お前が使っていたのは第二整備室だったな……あそこは候補生のお前に貸しているだけあって設備も充実していて、多人数で使える」
「……えっ……そ、そうですけど……それが……」
「更識の事情も聞かされているから理解しているのだが……そのすまないが、こいつに間借りをさせてやってはくれないか? 今整備室は何処も満員なんだ。候補生の特権で一人で使っているのは分かるが」
耳を疑った。
それはいいんだろうか。いや、よくない気しかない。
候補生って、代表候補生のことだ。旧オリンピック選手候補みたいなものであり、超エリート中の超エリート。
オルコットみたいに重要機密情報の塊の専用機持ちでもあったりする代表候補生。そんな人が特権で使っている。普通に考えて無理だろ。
「……」
一瞬、更識さんと目があった。
当然すぐ逸らされたが、真面目な顔している下で凄い嫌そうにしているのが分かった。
そういう特別な事情を抜きにしても、男と同じ一室にいる。IS学園の生徒はほとんどが女子校上がりだと聞くし、抵抗はあるだろう。
間借りできれば、当初の目的が適うのだから願ってもない話だが断るしか。
「それは……その、どうしてもということですか?」
「出来れば、だ。無理強いするつもりは毛頭ない。ただ学年別トーナントが終るまでの間でいい。他の部屋が空き次第、すぐ出て行かせるのでその点は安心してくれ。万が一、トラブル等があればちゃんとした対応も約束する」
織斑先生としては大人な提案をしているのは分かる。
でも、段々と断りにくい雰囲気が出来つつあるのもわかる。
実際、更識さんという子も困っている。
「おい、お前……それとさっきから静かにしているが、お前借りたいんだろう?」
それはそうなのだけどもだ。
更識さん凄い悩んでる。無理させてしまっているのでは。
「……っ、……分かりました。……お受け、します……」
しぶしぶ納得してくれた様子だった。
本当に申し訳ない。絶対に迷惑かけないようにしよう。何かあったら、すぐ出て行こう。
「無理強いさせる形になって悪いな、更識。ありがとう」
俺からも深く感謝を更識さんに伝えた。
「いえ……」
「では、早速で悪いが整備室に案内してやってくれないか?」
「……えっ……ぁ……はい……」
間借りした上に整備室に案内してもらうことになった。
申し訳ないばかりだ。
「……いえ……気にしないで下さい……」
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「……えっと、ここです……そっち側を使ってください」
言われたスペースにいく。
整備室は織斑先生が言ったとおり、広くて充実していた。以前、一夏に学校内を案内してもらった時に見た整備室とは大違いだ。
辺りを見渡すと、たくさんのコードにつながれた展開待機状態のISがあった。察するに彼女の専用機だろうか。更識さんは、その前にあるデスクに着く。
そうだ。自己紹介をしていなかった。
「……っ!」
声をかけるなり、更識さんは体をビクつかせた。
気を付けていたが、驚かせてしまった。謝罪した。
「いえ……はい……」
小さく頷くだけ。
場の流れが止まりかける。
続けざまに改めて自己紹介をさせてもらった。
「……えっと、私は……更識簪といいます。クラスは一年四組。い、一応……日本の代表候補、です」
丁寧で控えめな挨拶をしてくれると更識さんはモニターに向かいなおす。
そして、頭にISのヘッドギアらしきものをつけた。何の意味があるのか気になってしまう。
けれど、更識さんは我関せずと自分のことをやっていく様子だった。
むしろ、どこか話しかけてくるな。関わるなというオーラを感じる。
まあ、仕方ない。俺もやらなければ。自分の専用機となった倉持技研貸し出しの打鉄を待機状態から展開し、空間ディスプレーを開いて、教科書片手にあれこれやっていく。
「……」
静かに真剣な表情でキーボードを立ててきながら空中に投影されたディスプレイを見る更識さん。
これが彼女、更識簪さんとの初めての出会い。
ちなみにここから半月、挨拶以外で俺達の間に会話はまったくなかった。
…