【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第十話 更識さんを誘って

 土曜日の昼。学食。

 

「今日の昼飯も美味いな!」

 

 目の前の席で本当に美味そうにガツガツ食べる一夏の言葉には同意だ。

 結構な金がかかってる国際学校とだけあってシェフは超一流。料理の品数も豊富で何より美味い。他にデザートがあったりと至れり尽くせり。

 箸が止まらないとはまさにこのことかと毎食実感する。

 サービスがいいのも学食のいいところだ。男子だからそうしてくれているんだろうが、いつも大盛りや多目に入れてくれる。今日三人揃って頼んだカレーが大盛りなのも嬉しい。

 

「気持ちは嬉しいんだけど……僕にはちょっと多いかな」

 

 一夏と同じく前の席 デュノアは困った様子でそう言っていた。

 皿を見ると俺と一夏がもうほとんど平らげているのに対して、デュノアはまだ半分ほどしか食べてない。

 こいつ小食だったっけか。男子でも小食は当然いるが、デュノアのは何か女子っぽい。後食べ方もそうだ。

 偏見が過ぎるのは分かっている。それにこの間更識さんと話していたことが気にかかっているせいだろう。デュノアの容姿が中性、どちらかというと女顔だからそう思ってしまうのかもしれない。

 こういうのはよくない。いつまでもあの話を引きずるのも気をつけなければ。

 というか量が多いのなら、普通の量にしてもらえばよかったものを。

 

「それはそうなんだけどね。あんな嬉しそうに出されると断れなくて」

 

「あ~それはあるな。食堂の人すげぇ嬉しそうだし」

 

 揃って一夏と納得した。

 俺と一夏がよくおかわりして、その食いっぷりを気に入ってくれたようで、嬉しそうにサービスしてくれる。

 デュノアはその巻き沿いを食ったというわけか。

 

「まあ、無理して食べる必要はないって。何なら俺が食ってやるよ」

 

「ええぇっ!? い、一夏が!?」

 

 凄い驚きようだ。

 あまりの驚きっぷりと声に周りで食べている人達の何だ何だと視線が集まる。

 デュノアは慌てて何でもないと周りを宥めた。

 

「そんな驚くようなことか? 残すの勿体ないだろ」

 

「それはそうなんだけど……僕の食べかけだよ?」

 

 一夏は不思議そうにしており、デュノアは何処か恥ずかしそうにしてる。

 俺にとってもデュノアの様子は不思議で仕方なかった。 

 本当にそこまで驚くようなことか。代わりに食べるなんてよくあることだろう。異性ならまだしも俺達は男同士だ。まだ同じスプーン使っているのならまだしも。

 そもそも驚くだけでデュノアは嫌がっている様子はない。むしろ、満更でもなさそうな。デュノアって変な奴だ。

 

「気にすることないって。俺とシャルルの仲だろ」

 

「そ、そうだよね。じゃあ、悪いけど代わりに食べてくれるかな?」

 

「おうっ。任せろ」

 

 一夏はデュノアからカレーを貰うと早速食べていく。

 

「どう? 美味しい?」

 

「ん? 美味いぞ。ここのカレーは最高だな」

 

「だね。ははっ、よかった」

 

 自分が作ったものを食べてもらっているかのように喜ぶデュノア。

 和気藹々とした雰囲気。というよりかは、何処か甘い雰囲気になっている。

 極端な例えをするならば、まるでカップルのような雰囲気だ。

 この雰囲気…一夏は天然でやっているがデュノアからは故意でやっている感じがする。まさかデュノアにはそっちの気が……。

 

「どうした? 難しい顔して。何かあったか? あっ、このカレーお前も食うか?」

 

 いらないと俺はすぐさま遠慮した。

 一夏とデュノアは仲いいな。

 そんな濁すように言うので精一杯だった。

 

「そりゃ、シャルルとは友達だからな。な、シャルル」

 

「う、うんっ。そうだよ」

 

「こんなこと急に言うなんて。何だお前寂しいのか? 大丈夫だってお前も大切な友達だぜ」

 

 そう言ってくれるのはまあ嬉しいんだが、こんな場所でそんなことを言うな。

 おかげで遠くの女子達が変な盛り上がり方をして、俺達三人とは別に各々自分達のグループで昼飯を食っている篠ノ之やオルコット達の視線が突き刺さって居辛い。

 一夏はこういうことをサラッという奴だった。これは俺が悪かった。

 

 しかし、友達か……と二人を見ながらふと考える。

 一夏とデュノアは確かに友達だが、最近輪をかけて仲がいい。

 男三人で一緒に行動するようになったから、それをよく感じる。

 しかし二人の仲のよさには違和感も感じていた。何がどうとは上手く説明できないのだけども一夏からデュノアへの距離感は変ってないのに、デュノアから一夏への距離感は凄く近くなった。

 現に今もデュノアは一夏にベッタリだ。親しくなったと言うだけでは片付けられないレベル。きっと二人の間に何かあったんだろう。

 まあ、こっちに害がない分にはそっとしておこう。下手に踏み込んでさっきみたいなことになっても嫌だ。

 

「あ……仲いいと言えば、君って四組の更識簪さんとペア組んだんだったよね」

 

「そう言えば、そうらしいな。女嫌いのお前がまさか女子と組むなんて奇跡ってあるんだな」

 

 一夏にしみじみと言われると凄くムカつく。

 苦手なだけで嫌いというほどじゃない。

 そもそも男三人いてそのうち二人が組んだら、一人は女子と組むのは普通のことだろう。

 

「いやそれはそうだけどさ……お前、その更識さんとは上手くやれてんのか?」

 

 一夏が心配そうに聞いてくる。

 先日一波乱ありはしたが上手くやれてるとは思う。

 トーナメントに向けての特訓とは言え、教わっていることの方が多いが、それでも更識さんは一生懸命教えてくれる。一緒にいて楽しそうに笑ってくれてもいる。嬉しい限りだ。

 ただの同級生ではこうはいかなかっただろう。友達というのは大きい。

 

「友達か~。じゃあ、あの噂って……」

 

「ちょっ!? 一夏それ言ったらダメだって!」

 

「おっとそうだったな。すまん、気にしないでくれ」

 

 聞き返せというフリでもされているみたいだ。

 デュノアの反応を見る限り、聞かせたくないようだから、ここはふれないでおこう。

 大方噂ってのは大体、俺が無理やり更識さんを手篭めにしたとかそういうよくない噂だろうし。

 

 そういう一夏のほうこそ上手くやれているんだろうか。

 一夏のことだから一々気にすることはないんだろうが、こいつが訓練か何かしようとすると女子達。

 具体的には篠ノ之、オルコット、凰達三人が集まっては、教えるのは自分だと我先に言ってきていつも一波乱になって、訓練どころではなくなる。

 もっともデュノアがいるから大丈夫だろうが気にはなる。

 というより、こいつらはトーナメントに向けてどんなことをしているんだろうか。二人は専用機持ちだ。俺と更識さんよりもより実践的なことが自由に出来る。そっちのほうが気になった。

 

「どんなって言われてもなぁ。普通だよ普通。毎日放課後にアリーナでシャルルと模擬戦だな」

 

「後はたまに同級生のペア組んでる子達とか上級生のペア組んでる人達と模擬戦したりかな」

 

「あんまり受けてくれないけどな」

 

 だろうな。

 相手は両方専用機持ちでデュノアは確かな実力を持つ代表候補生だ。

 相手にとって不足はないが、進んで模擬戦したいペアではないだろう。

 戦わないとしても今の時期、手の内を明かしたくはないだろうし。

 

「あいつらが元気ならもうちょっと楽だったんだけどなあ」

 

「それは言っちゃダメだよ、一夏」

 

「いや、分かってるんだけどさ」

 

 一夏が言うあいつらとはオルコットと凰、二人のことだろう。

 二人は先日ボーデヴィッヒとの私闘で受けた機体ダメージが酷かったようだ。

 それでもまだISの自己修復機能で直る程度のものらしいが全快するにはトーメント当日までギリギリかかるらしく、間に合わないのでトーナメントを辞退した。

 企業や国の偉い人が見るのにそれで立場的に大丈夫なんだろうか。そう思いはするが、部外者が何を言っても余計なお世話。

 確かに二人がいればいい練習相手にはなっただろう。実力は確かで、一夏が誘えばあの二人なら絶対引き受ける。

 そう分かっていると惜しい気がして、つい一夏も言いたくなったんだろう。

 幸い当の本人である二人には聞こえてないみたいで安心した。

 その他は何かしているんだろうか。

 

「他はそうだな。シャルルに勉強見てもらったり、夜に部屋でトーナメントに向けての作戦会議とかになるか。戦う相手の対策はしっかりしないといけねぇし」

 

「だね。ボーデヴィッヒさん対策はいくらしてもしたりないぐらいだから」

 

 夕方は特訓で夜は作戦会議か……。

 トーナメントに向けて外出禁止時間まで時間をたっぷり使えるってのは同室の強みだ。そこは少し羨ましい。

 こっちもトーナメントに向けて更識さんとすることは山ほどだ。

 作戦会議というほどのものはしてなかったけど、一回ちゃんとやったほうがいいかもしれない。

 

「作戦会議は重要だぜ。というか、お前こそ更識さんとどんなことしてるんだよ」

 

 カレーを食べながら一夏は聞いてくる。

 俺達も一夏達と大して変らない。放課後はトーナメントに向けて特訓。

 俺達の場合は更識さんが訓練機を使う都合上、シミュレーター室でのVR訓練が主。実機訓練は今のところ一昨日にやった一回のみ。

 正直、実機を使って更識さんと訓練を充分にできないのは不安だが、それは言っても仕方ないこと。

 VR訓練はVR訓練で実機みたいに一々相手を用意しなくてもコンピューターが相手になってくれる為、簡単に2対2ができるのは大きい。

 

「シミュレーターか……アレ、2、3回しか使ったことねぇんだよなぁ」

 

「専用機持ちにはほとんど必要ないからね。使ってると他の人の迷惑になるだろうし」

 

 デュノアの言う通りなので何も言わず黙るしかなかった。

 

「それよりさ、ずっと気になってたんだけど更識さんってどんな子なんだ?」

 

「あ、それはぼくも気になってた。あんまり情報ないんだよね、更識さんって。日本の代表候補生で専用機持ちなんだよね」

 

 肯定するように俺は頷いた。

 

 どんな子か……ふと、脳裏に整備室での更識さんの様子が蘇る。

 やっぱり、努力家で頑張り屋な子だろうか。

 ちょっと思い込み激しいところあるが、強く凛々しい。そして、自分の目標に向けて頑張る更識さんの姿には尊敬しかない。

 後は、素直で優しく可愛らしい子。そんな印象。

 

「……」

 

「……」

 

 目の前の二人が呆気に取られている。

 しまった。また俺は何か変な失言を。

 聞かれたからとはいえ、こんなところで言うべきではなかったかもしれない 

 どこで誰が聞いているのか分からない。また曲解でもされて、更識さんに迷惑かけるようなことは避けたいところだが。

 

「いや、別に変じゃないけど。まさか、あのお前がこんなこと言うなんて思ってもいなかったからさ」

 

「うん。ビックリした……何だろう、これ。一夏、僕ドキドキするんだけど」

 

「ああ、俺もだ、シャルル。こりゃ、こいつの春は近いなぁ。もう夏だけどな。あっはは」

 

 ニヤニヤしながら笑うな。

 周りの人がまた何だ何だと見てきてる。

 デュノアまで顔を赤くして。口元隠しているが一夏と同じぐらいニヤニヤとしているのがよく分かる。

 こいつら確実に変な勘違いしてる。そういう意味のことじゃない。

 

「照れんなって。そうだ。まだ実機訓練する予定はあったりするのか?」

 

 後一回。本番二日前には借りられると確か更識さんは言っていた。

 

「じゃあ、俺達とお前達とで実機使った模擬戦しようぜ」

 

 また唐突なことを言ってくる一夏。

 だが、魅力的な話だ。本番二日前に実機で模擬戦することが出来れば、最終チェックができる。相手も一夏とデュノアなら申し分ない。

 しかし、更識さんを一夏と合わせるのはちょっと躊躇う。いろいろあるからなあ。

 

「何かあるんか? まあ、更識さんと相談しといてくれよ。俺達はその日空けとくからさ。シャルルもそれでいいか」

 

「うん、いいよ。僕も更識さん気になってきたし」

 

「だよなぁ。こいつがあんなこと言う子なんだ。この目でちゃんと見ときたい」

 

 なんだ、その理由は。

 まあ、相談ぐらいはしとくか。折角、誘ってくれたことだし。

 もっとも、二人のニヤニヤした顔見てると事情抜きにしても乗り気はしないが。

 

 

 

 

 放課後。今日もシミュレーター室で訓練をした更識さんと俺は休憩所で一旦休憩をしていた。

 

「ん……」

 

 隣で更識さんはペットボトルの水を飲みながら休憩している。

 共に休む俺達に特にこれといった会話はない。お互い好きなように静かに休んでいる。

 だが、気まずいということなはなく、むしろ、居心地よかった。

 

 そうしてぼーっと休んでいると、今日の昼間一夏に言われたことを思い出した。

 そうだ。あのことを更識さんに伝えておくのを忘れていた。更識さんに少し話しかけてみる。

 

「何……?」

 

 更識さんに昼間一夏に模擬戦を誘われたことを伝えた。

 すると、更識さんは凄い反応をしていた

 

「え、織斑達と模擬戦……」 

 

 更識さん、凄い嫌そう。顔に出てる。

 まあ、相手が相手だからそういう反応になっても仕方ないんだが、そこまでなんだ。

 

「べ、別に嫌じゃない……貴方はどうなの? 織斑達と模擬戦したい?」

 

 それはもちろん。

 本番前日は準備に駆り出されるらしいから訓練どころではないし、二日前に実機を使って最終チェックできるのはデカい。

 それに一夏達と模擬戦することで本番に向けて自信をつけることができたらと考えている。

 

 しかし、更識さんは乗り気ではない。

 そのことは一々聞くまでもない見て同然のことだ。

 やはりまだ、一夏のことを。

 

「ううん……別にもう逆恨みとかはしてないけど……なんて言うか複雑で……気持ちを上手く言葉に出来ない。ごめんなさい」

 

 謝る必要はない。

 ことがことだ。そう全てのことがすんなりいくものでもない。やはり、どうしても時間はかかる。

 

「少し……時間ほしい」

 

 長くは待てはないが今日の今ですぐに答えないといけないものではないない。

 だから、更識さんにはじっくり考えた上で答えを出してほしい。

 パートナーとして更識さんの意思を尊重したい。

 

「うん。ごめんなさい……ありがとう」

 

 それともう一つ思い出したことがあった。

 作戦会議のことだ。

 

「作戦会議……?」

 

 言葉の意図が分からない様子の更識さんは小首をかしげる。

 そのままの意味。

 訓練でもコンビネーションみたいなものは大まかに決まっているだけで最後まで詰めきれてない。

 何より、一夏達みたいに専用機持ち対策はまったくといって出来ていない。俺達もしとくべきだろう。

 

「それはそうだね。必要……でも、いつする?」

 

 放課後の時間を使うのが一番ベストなんだろうが、放課後は放課後でしっかり訓練をしておきたい。

 となると残るのは夜なのだが……こう、躊躇うものがある。

 何もおかしいことはないはずだ。一夏だって同じ様にしている訳だし。

 しかし、いきなり夜というのは中々ハードルが高い気がしてならない。

 明日ならどうだろうか。土曜日の今日の明日は日曜日。休日だ。更識さんの予定が何もなければ、午前中は今まで通り訓練をして、午後から作戦会議という流れがベストかもしれない。

 

「うん、明日特に予定ないからそれでいいよ。場所は……?」

 

 場所か……やはり、作戦会議なのだから他人に聞かれないほうがいいだろう。

 後、人目につかないところのほうがいいかもしれない。こそこそしていることにはなるが、人目につく場所だと見えない時よりも変な噂になりやすい。

 そうなると適当な場所……俺の部屋とか。

 

「部屋……?」

 

 更識さんがきょとんしているのが見えて、ハッとなった。

 俺は今とんでもないことを。今日の俺はどうかしてる。

 いきなり部屋に誘うだなんて馬鹿だ。やっぱり、教室とかちゃんとした部屋を借りるべきだ。

 

「ま、待ってっ……!」

 

 考えをめぐらせていると更識さんに待ったをかけられた。

 

「あ、あ、貴方がよかったらなんだけど……あの、その、私……貴方の部屋、行ってみたい……」

 

 顔を真っ赤にしながら勇気を出して更識さんはそう言ってくれた。

 しかし、逆に俺の方が余計に慌ててしまった。

 本当にいいんだろうか。男の部屋に女子連れ込むのっていろいろあるだろう。いろいろと。

 

「生真面目すぎ……や、やましいことをする訳じゃないんだよ。私達がするのはトーナメントに向けての作戦会議。ただそれだけ。それに私達は友達同士なんだから……ね」

 

 それもそうだ。難しく考えすぎか。

 あれこれごちゃごちゃ考えていても始まらない。

 作戦会議は明日日曜の昼、俺の部屋で決まりだ。

 

「うん、分かった。楽しみにしてるね」

 

 更識さんは小さく笑った。

 そう言って貰えると俺も明日が楽しみになってきて待ち遠しい。

 


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