【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第十二話 更識さんと作戦会議を 後編

 一週間の始まりである月曜日。

 昨日更識さんと約束した通り、今日二回目の作戦会議をする。

 

《今ホームルーム終わった。一旦部屋に戻ってから行きます》

 

 とスマホの画面には数分ほど前に更識さんから来たメッセージが表示されている。

 それを見て俺は、掃除をしながら更識さんが部屋に来るのを待つ。

 掃除する必要はないほど綺麗だが、女子を部屋に呼ぶんだ。やはり、いつも以上に綺麗にしておかなければ。

 

《部屋出た。今から部屋に行く》

 

 今度はそんなメッセが来た。分かったと返信しておく。

 こうして気軽に連絡取れるようになってよかった。おかげで互いの状況をすぐ伝え合うことができる。連絡先交換して正解だった。

 それにただ連絡を取り合うだけではなく、チャットのように雑談できるのもまたいいところだ。

 実際、連絡を取るよりメッセで雑談しているほうが多い。昨日の今日でだ。

 

『私、いっぱい送ってしまうかもしれないけど……』

 

 なんて言っていたが、言われた時始めは冗談だとばかり思っていた。

 最初、メッセでまず俺の方から挨拶を送り。

 

《こちらこそ、よろしくお願いします》

 

 と畏まったたどたどしい返事がきて、その日一日のことを話しているうちはまだ普通だった。

 だが次第に趣味の話、二人の共通の話題であるアニメや特撮の話になるといつもの更識さんだ。

 たどたどしかったのは何処へやら。更識さんはメッセのやり取りでも熱く語る。文面からでも楽しそうなのが伝わってくるほどに。

 驚きはしたが、更識さんらしくて何だか安心した。更識さんとメッセでもこういう話が出来るのは楽しい。

 

 そんな風に昨日の出来事を掃除しつつ思い返していると、部屋の戸のノックが聞こえた。更識さんが来た。

 俺は、玄関へと行き出迎える。

 

「ごめんなさい……遅くなって」

 

 扉を開けるとそこにはラフな格好をした更識さんの姿があった。手には何やら手提げ袋がある。

 一度部屋に戻っていたのは着替えていたからだったのか。このラフな格好はおそらく部屋着だろう。

 部屋着でも昨日見たお洒落着に負けず劣らず、よく似合っていて可愛らしい。素敵だな。

 

 いつまでもこうして玄関先で立ったままというのはよくない。

 部屋の中へ入ってもらった。

 

「お邪魔します」

 

 更識さんを部屋へ通し、昨日みたく適当なところに座ってもらう。

 

「あのっ、これ……よかったら。購買で買ってきた奴だけど」

 

 お茶を出すと、更識さんが袋を一つ差し出してきた。

 受け取り中を見てみると、プリンや菓子パンなどおやつがいくつか入っていた。

 気持ちは嬉しいが、わざわざどうして。

 

「いや……ほら、手ぶらだと悪いかなって。昨日手ぶらだったわけだし……だから、遠慮しないで」

 

 昨日のことで更識さんには気を遣わせてしまったらしい。

 悪いことをしたなと思うが、ここでまた遠慮したりすると余計更識さんに気を遣わせてしまう。

 ここは素直に気持ちも物もありがたく頂こう。

 恩返しというほどのことではないが、この礼はまた別のところで返していく。

 

 でも折角今一緒にいるんだ。

 後で食べるにしても、一人で食べてしまうのはもったいない。

 貰ったこれを俺は更識さん分け合い一緒に食べることにした。

 

「え、いいよ、そんな……」

 

 当然のように遠慮はされる。

 だけど、俺としてはただ一人で頂くのも忍びない。

 お茶も出しているんだ。お茶菓子にしつつ、作戦会議をすればいい。

 元より、これは更識さんが持ってきたものだ。更識さんが遠慮する必要はないし、一人で食べるより二人で食べたい。

 

「そこまで言うのなら……じゃあ……お言葉に甘えて、私はこれで」

 

 袋の中から更識さんはプリンを選び、俺はゼリーを選んだ。

 更識さんにスプーンを渡すと、二人で一緒になって食べる。

 

「ん……」

 

 美味しそうにプリンを食べ、更識さんは幸せそうに頬を綻ばす。

 そんな更識さんを見ていると更に美味しく感じる。やはり二人で食べてよかった。

 

 しかし、いつまでもこうやってただお茶するみたいなことはしてられない。

 本題である作戦会議をそろそろ始めなければ。

 放課後なのだから、昨日みたいな充分な時間があるわけではないし。

 

「あっ……」

 

 思い出したかのような顔をする更識さん。

 更識さん、忘れてたのか。

 

「忘れてないっ……始めよう、うん……始めよう」

 

 本人にしたら努めて平然をアピールしているのだろうが、あからさまに取り繕うように言う更識さんに俺は何も言わないおいた。

 今、ツッコんだりでもしたら可哀想だ。

 

 さて、今回はどういった作戦会議にするか。

 昨日は一夏とデュノア達についてやったとなると今日はラウラ・ボーデヴィッヒが順当か。

 

「そうだね」

 

 更識さんも同意のようで頷いてくれた。

 しかし、俺はボーデヴィッヒについて知らないことだらけだ。

 クラスこそ一緒だが話したこともなければ、彼女自身クラスから距離を置いているから知りようがない。

 一夏や織斑先生が絡まない限り、一切話すこともなくいつも無表情でただ静かにしている。流石に授業中に先生から当てられれば、答えてはいるが。

 

 知っていることと言えば、ボーデヴィッヒのペアがくじで決まった篠ノ之だということ。

 後は授業中に見たボーデヴィッヒの専用機の外見のことぐらい。

 肝心の機体スペックやら詳しい戦い方やらは知らない。

 一夏はボーデヴィッヒと一戦交えたらしいが、俺はそこに遭遇してなかったし。

 

「それについては大丈夫。用意してきたから」

 

 そう言って更識さんはもう一つの袋からタブレットを取り出した。

 

「えっと……あった。これ、はい」

 

 差し出されたタブレットを受け取り、画面を見るとそこにはボーデヴィッヒの専用機について情報が書かれてあった。

 ドイツの第三世代機シュヴァルツェア・レーゲンのカタログスペック。

 装備や機体出力、推力などが詳細にまとめられている。

 

「流石に戦い方までは調べられないけど……せめてこれだけはと思って」

 

 そうだったんだ。

 よくこんなに調べられたものだ。

 かなり苦労したんじゃないだろうか。

 

「ううん、全然。これは通常公開されるデータ。授業かどっかで聞いたことない?  アラスカ条約により、原則としてISに使われる技術は開示しなくてはならないのが決まりだがあるのを」

 

 そういえば、授業でそんなことを習った覚えがある。

 パソコンや電子機器などのメーカーがカタログなどで公表している製品の性能表みたいなものなんだろう。

 

「大体そんな感じかな。まあ、公開されてると言ってもISに深く関わってないと見れないけどね……開示されるとは言え、軍事機密な訳だし。後、ここを見て」

 

 更識さんが指差したところには第三世代機の搭載されている特殊兵装であるシュヴァルツェア・レーゲン第三世代型兵器 停止結界《慣性停止能力(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)》というのが表記されていた。

 これは。

 

「見ての通り。これがシュヴァルツェア・レーゲンの目玉兵装とも言えるもの」

 

 こんなものまで載っているのか。

 

「それと気持ち程度。何処まで参考になるか分からないけど歴代有名ドイツ選手の傾向のまとめ。参考資料動画も用意した」

 

 何とそこまで……感心。いや、頭が上がらない。

 トーナメントに向けて更識さんは本当に真剣なんだと改めて痛感させられる。

 流石だ。

 

「そんなことないよ。私にできることはこれぐらいしかないから。でも、出来ることがあるのなら最善を尽くしたい」

 

 その通りだ。

 俺も更識さんの最善に応えられるよう更なる最善を尽くす。

 そう気持ちを改める。

 

 

 

 

 体をグッと伸ばすと凝っていたからか、骨が鳴ってしまった。

 

「んー……」

 

 同じ様に更識さんも体をグッと伸ばすと凝っていたらしく、骨が鳴った。

 思わず俺達は顔を見合わせ、笑った。

 

「あはは……凄い音」

 

 くすくすとおかしそうに小さく笑う更識さん。

 ビックリした。でも、それだけ集中していたという証拠。

 流石に昨日ほど事細かに作戦などを詰めることは出来てないが、大まかに決めることは出来た。

 更識さんが用意してくれた資料がなければ、大まかに決めることは出来なかっただろう。感謝しかない。

 

「もう、大げさ……でも、どういたしまして。にしても、ドイツの第三世代機。本当、合理主義のドイツらしい」

 

 更識さんはタブレットを見ながら感慨深そうに言う。

 ドイツらしい、合理的といえばそうなのかもしれない。

 遠距離は大口径レールカノン、中距離は6本のワイヤーブレード、近距離は両手からなるプラズマ手刀。

 隙がなく、堅実な3段構え。

 そして、奥の手として停止結界《慣性停止能力(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)》。通称、AIC。

 搭載されている兵装の中でこれが一番厄介だ。

 

「そうだね。試作品とはいえかなりの完成度を誇ってるみたいだし」

 

 今度は更識さんの表情が険しくなる。

 それもそのはずだ。先ほどまでの作戦会議で打開策は勿論、対処法もろくに決まってないのだから。

 現状決まっていることと言えば、シュヴァルツェア・レーゲン相手にギリギリ中距離を保つことぐらい。

 近づけば、AICでPICによる機体運動を強制的に止められ、プラズマ手刀で倒され。

 かといって、警戒しすぎて離れすぎれば、大口径レールカノンとワイヤーブレードで攻められる。

 ゆえにギリギリのところで中距離を保つことで大口径レールカノンとAICを使わせない状況を作るという誰でも思いつきそうな作戦。

 

 特に更識さんが険しい表情をするのは、ボーデヴィッヒの相手も更識さんがするからだろう。

 全体的な作戦としては更識さんがボーデヴィッヒを見ながらあしらい、二人で確実に早くペアである篠ノ之を落とすというもの。一夏達と変わらない。

 篠ノ之は通常使用の訓練機を使う。デュノアみたいにカスタム機でない分、危険度も低い。

 

 そんな風に言葉にしたら簡単に思えるが。

 デュノア曰く、ボーデヴィッヒは一年生の中で現時点最も強いとのこと。

 更識さんは機体の世代間差というハンデを背いながら、強敵を見続ける。並大抵なことではない。

 

 状況によっては俺がボーデヴィッヒを見ることも想定しているが、基本は更識さんが見る。

 ここでも更識さんの負担は大きいが、デュノア戦と同じで、俺がボーデヴィッヒのマーク役をすれば、それを逆手に取られて技量差で押し切られ、落とされる未来は想像に容易い。

 更識さんにはデュノア達の時といい更識さんには負担をかけてばかりだ。

 

「負担だなんて……それは私の台詞でもある。貴方には私が落とされないようにフォローしてもらいながら、篠ノ之さんを早く落としてもらわないといけないんだよ」

 

 そうだった。

 基本的にやることは一夏達の時と分からないが、一夏達の時よりも早く俺が篠ノ之を落としきなければならない。

 これもまた並大抵のことではないが、そうしなければ現状勝機はない。

 並み大抵のことではないとしてもやるしかない。

 

「うん、そう……やるしかない」

 

 頑張ろうと俺達は気持ちを一つにする。

 

 しかし、ペアとしてはボーデヴィッヒと篠ノ之ペアは比較的やりやすい相手ではある。

 コンビネーションなんてなさそうだからだ。

 警戒はするが、普段のボーデヴィッヒの様子を鑑みるととてもコンビネーションを取るようなタイプではない。ペアを信じておらず、邪魔しなければどうなろうがお構いなし。全部自分ひとりでやると言った雰囲気。

 篠ノ之はプライドが高いからそう邪険にされれば、フォローしたりあわせたりはしない。ムキになってくるに違いない。

 そこがある意味このペアの弱点と言うか隙みたいなもの。

 

「油断大敵だけど気持ち楽……ボーデヴィッヒさんの実力は高いのかもしれないけど、これはタッグ戦。それに重点を置かないとダメ」

 

 その通りだ。自分の力だけを過信してはならない。

 もっとも、こんなこと言ってもあのペアには関係ないことだろうが。

 あのペアなら最悪相方を盾にするなんてことも用意に想像できる。近くにいたお前が悪い、と。

 

「あ、それアレだよね……」

 

 更識さんは元ネタが分かったらしい。ちょっと嬉しい。

 それから元ネタ談義に始まり少し雑談をしてしまった。

 いい息抜きにはなったが、まだ詰めるところや改善できるところは沢山ある。続きを再開しなければ。

 そんなことを考えながら、ふと時間を確認すると凄い時間だった。

 

「あっ……夕食」

 

 ハッとした顔を浮かべる更識さん。

 俺達はいろいろな意味で時間を忘れてしまっていたらしい。

 時刻は夕食時真っ最中。しかも、混雑しているのが予想できる時間。 

 早めに気づいていればよかった。

 夕食が終る時間まではまだ大分あるが、今食べずに再開してしまうとこの調子なら多分また時間を忘れてしまう。

 それに今なら丁度中断になったし、一区切りもついた。タイミング的には今か。

 

「どうしよう……?」

 

 俺の意見を待つ更識さんは様子を伺うようにジッとこちらを見つめる。

 

「……」

 

 更識さんの目は静かに語っている。

 昨日のことだろう、それは。

 しかし、混んでいる今の食堂を思うとそれはいいものなのかと躊躇してしまう。

 でも、いつまでも待たせるのは勿論。はぐらかすのはもってのほか。

 強制するわけではないんだ。どうするからは更識さん本人の意思次第。ここは打って出る。

 

 俺は更識さんを一緒の夕食へと誘ってみた。

 

「あ、貴方がいいのなら……喜んで」

 

 嬉しそうな返事を返してもらえた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 肩を小さくさせながら、隣で更識さんは俯いて黙々と料理を食べる。

 まあ、案の定の光景だった。

 更識さんがこうなるのはある意味当然か。何せ、周囲からの奇異な視線が度々向けられているのだから。

 理由は明白。俺が更識さんを連れてここ食堂にやってきたからだ。俺が女子を連れてくることなんて初めてのことで、しかも相手が代表候補生の更識さん。気にもなるだろう。

 しかし、向けられている身としては堪ったものではない。

 飯が食べにくくて仕方ないし、何だかひそひそ話をされているようで気分はよくない。

 更識さんにはやはり迷惑をかけてしまうし、今更ながらよかったものかと考えてしまう。

 

「いい、気にしないで……大丈夫」

 

 そうは言うが全然大丈夫そうには見えない。

 かといって、現状を打開何かしてあげられることはない。

 こんなことになるのなら、次からはこれまで通り別々に食べるべきかもしれない。

 

「ま、待って。それは……嫌。この状況に自分から負けを認めるみたいで悔しい」

 

 勝ち負けの問題ではない気がするのだが。

 けれど、確かに現状や噂されているのを間に受けるのは馬鹿らしい。

 何かしら被害が起きたら流石にその時はしかるべき対処を尽くすが、この程度のことなら適当に流すに限る。

 気にしてられない。それにその内、周りは慣れるか飽きるかして落ち着くだろうし、俺達のほうもこの雰囲気に慣れてしまうだろう。

 そういうものだ。

 

「ん……慣れるのが一番」

 

 今は更識さんとの食事を楽しむ方が大切だ。

 そうして食事を進めていると、早くも慣れてきたのか、最初よりかは周りのことを気にならなくなった。

 周りも周りで俺達に飽きたか慣れたと同時に、別の奴らに人達に興味を向けていた。

 一夏達だ。ペアのデュノアと一緒だが、当然の如くオルコットと凰も一緒だ。

 

「おぉっ! よっ!」

 

 こっちに気づき、一夏が声をあげながら手を振ってくる。

 それに俺は手だけ振って返事した。

 

「……」

 

 こんなことをして一夏達に更識さんが気づかないわけもなく、何処か険しい顔をしながらご飯の残りを静かに食べていた。

 

 それにしても一夏達がこんな時間に食堂に来るなんて珍しい。

 いつもはもっと早い時間にきて食べている。

 大方、俺達のように部屋でトーナメントに向けてのことをやっていたからか、オルコット達に絡まれて遅くなったか。そんなところだろう。

 どうでもいいことではある。俺はもう食べ終わって、更識さんが食べ終わるのを待つのみ。一夏達と一緒に食べるわけでもないし、こんな隅の席には来ないだろう。

 

「ね、ねぇ……こっち来てない……?」

 

 更識さんの言葉に釣られるように見ると、確かに夕食を持った一夏とデュノアがこっちに来ている。

 オルコットと凰をゾロゾロ連れて。

 

「よっ! 前いいか?」

 

「こら、一夏。許可もらう前に座ってんじゃないわよ」

 

「まったくですわ」

 

「あっはは……ごめんね、騒がしくしちゃって。前、いい?」

 

 許可を取りながらも勝手に俺達の前へと座る一夏とツッコミながらも同じく勝手に座るオルコットと凰。唯一苦笑いしているデュノアだけは許可を取ってきた。

 どうしたものか。断る理由がない。更識さんがいいなら俺は構わないが……。

 

「……大丈夫……どうぞ」

 

 更識さんがそう言うとデュノア達は後の席へついた。

 目の前には一夏。その両隣にはデュノアと凰。凰の横にオルコットといった順で並んでいる。

 何でこっち来るんだ。食堂は賑やかだが、ここ以外にも席は充分空いている。あっちいけばいいのに。

 

「そう邪険にすんなって。いいだろ。賑やかなほうが飯は美味くなるってな!」

 

 一夏の眩しい笑顔が少しアレだ。

 言っていることは最もなのだろうけど、その賑やかは俺達にとっては騒がしい。

 実際、隣の更識さんは静かにしているがあまり快く思ってないことは何となく分かる。

 

「後はお前達に用があったんだ」

 

 俺と更識さんは顔を見合わせる。

 用ってなんのことだろうか。

 

「忘れたのかよ。土曜日の模擬戦のこと」

 

 そのことか。すっかり頭の片隅に追いやられていた。

 更識さんには聞いて、今はまだ返事を待っている最中だ。

 

「なら、いいけどさ。まあ二人一緒にいるのを見かけたから、折角だと思って。っと、更識さんには挨拶がまだだったな。俺は織斑一夏。よろしくな!」

 

「こんなところでごめんね。僕はシャルロット・デュノア。フランスの代表候補だよ」

 

 一夏とデュノアに続いて、オルコットと凰も更識さんに自己紹介をする。

 

「……どうも。四組の更識簪、です」

 

 更識さんは平然を装っているが物凄く戸惑っている。

 急に一夏と会ってしまったから、そうなっても無理ないか。

 

「この方が日本の代表候補生。大人しい方ですわね」

 

「そうね。でも、この学園の生徒会長の妹なんでしょう? 大人しそうにしていても腕は確かなはずよ」

 

 オルコットと凰は代表候補生として更識さんのことが気になるのか、興味深そうだ。

 対する更識さんはそんな視線を向けられて、言葉こそは耳には届いてないようだが少し居心地悪そうにしている。

 というか、更識さんが感じている居心地の悪さの一番の原因は一夏だ。

 

「……何か?」

 

「ああ、悪い。いや、まあ何だ。なるほどなって思って」

 

「……?」

 

 下手な誤魔化し方をする一夏に更識さんは不思議そうな顔をする。

 そして次、一夏から俺へ向けられる微笑ましいと言わんばかりの生暖かい視線。

 どうせまた一夏の奴は変な勘違いをしながら余計なこと考えているだろうことが分かってしまう。

 お得意のつまらない冗談つきで。

 

「そうだね。一夏、それは面白くないよ」

 

「二人して酷ぇ。というか、勝手に人の心読むなよ」

 

 一夏は分かりすぎるんだ。

 しかし、一夏達が俺達の元へ来た理由は分かった。

 一夏達から模擬戦を誘われて大分日にちが経っている。更識さんを急かすつもりはないが、流石にそろそろ何かしら返事をしなければ、一夏達に悪い。

 

「そうだね……」

 

 一言そう言って更識さんは顔を伏せた。おそらく、今一度考え直してくれているのだろう。

 しかしやっぱり、乗り気ではないんだろう。いくら必要度が高いこととは言え、更識さんにとっては相手が相手だ。

 

「模擬戦の件、手合わせよろしくお願いします。返事が遅くなってすみません」

 

 更識さんは意を決したように言った。

 

「気にしなくていいよ。いや~嬉しいっ! ありがとな、更識さんっ!」

 

 嬉しさのあまり一夏は体を乗り出して喜んでいた。

 だがしかし、乗り出しすぎて一瞬更識さんと顔と顔とが凄い至近距離にあった。

 

「一夏、アンタっ!」

 

「一夏さん、近すぎですわよ!」

 

 たまらず二人が抗議の声をあげる。いつもの光景だ。

 

「……っ」

 

 更識さんは小さいながらも悲鳴を上げて、後ろへ体を引いていた。ビックリしていたというよりかは、本気で怖がっている。

 嬉しい気持ちは汲んでやれるが、一夏はやりすぎだ。

 

「まったくその通りだよ。ダメだよ、一夏。近すぎ」

 

「お、おう。すまん。シャルル、怖い顔するなって」

 

 デュノアが静かにだが怒っている。

 凄い怒りっぷりだ。オルコット達よりも怒っている。一夏がやったことはよくないことだが、そこまで怒るものなのか。

 何か違和感を覚えた。

 

「僕に謝るより先に更識さんにごめんなさいするの」

 

「おっしゃる通りで……ごめんな、更識さん。つい嬉しくて」

 

「いえ……はい」

 

 更識さんは曖昧に返事するのみ。

 

「もう、いいですか? すみません、私達食べ終わったので。ね、戻ろう」

 

 ここにいるのは更識さんにとって辛そうだ。

 俺としてもここにいていつもの馬鹿騒ぎに巻き込まれたりしたくないからこの辺でお暇したい。

 食べ終わったし、模擬戦の件も無事返事を返すことが出来た。充分だろう。また何かあれば一夏の方からメッセ飛ばしてくるだろう。

 

「おう、そうか。悪いな。じゃあ、模擬戦楽しみにしてるぜ」

 

 一夏の嬉しそうな声を受けながら、俺と更識さんは食堂を後にした。

 

 

 

 

 あの後一旦更識さんと一緒に俺の部屋へ戻ってきた。

 そして部屋へ入るなり更識さんは自分の荷物をまとめだしていた。

 帰るみたいだ。

 

「うん……ちょっと疲れたから、もう部屋で休ませてもらってもいい? まだ途中なのは分かってるんだけど」

 

 申し訳なさそうにしているが、気にする必要はない。

 トーナメント当日まで日にちが残り少なくなってきたが、時間は取れる。

 それに疲れたってのはさっきのことでなんだろうか。思い当たることがそれぐらいしかない。

 更識さんの承諾を得て、正式に一夏達と土曜日に模擬戦をすることになって、俺としてはよかったが更識さんには無理させてしまったかもしれない。

 こんなこと野暮だと分かっているが、知らないうちに断るに断れない状況を作っていたかもしれないと考えてしまう。

 

「もう、気にしすぎ。そんなことない。嫌々だなんてこともないから安心して。そりゃ、まだいろいろと複雑だけど……だからって逃げていられない。私、頑張るっ」

 

 そう力強く更識さんは意気込みを見せてくれる。

 なら安心だ。更識さんの意気込みに負けず恥じぬよう頑張らねば。

 

「また何かあったらメッセして。というか、また私の方からすると思うけど。昨日はごめんなさい。遅くまで一杯話しちゃって」

 

 大丈夫と

 更識さんとやり取りするのは楽しいのは変らない。

 それにメッセでのやり取りなら同じ部屋にいなくても、自由にやり取りできるのはいい。

 

「そう、ありがとう。じゃあ、今日はありがとう……また、後で」

 

 控えめに手を振って帰っていく更識さんを俺は見送る。

 

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