【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
トーナメント当日まで後七日。残り約一週間後までに迫ってきた。
昨日、一昨日と二日続けて更識さんとは訓練を休んで作戦会議をしていたが三日続けて作戦会議というのは流石によくないだろうということで今日は訓練の日。
場所はいつもと変らず、シミュレータールーム。
今日の訓練内容はこの二日で話し合った作戦会議の内容をシミュレーターでも実際に体を動かして確認するというもの。
そこで気になるところや更によくできるところを改善と修正を繰り返していく。
そうしていると放課後の僅かな時間はあっという間に過ぎ、もう終了の時間。今日はここまでか。
「ん……お疲れ様」
俺もまた同じ言葉を更識さんに返す。
時間を確認してみれば、もう夕方六時前。夕食の時間だ。
この後はもう予定がない為、折角だからと更識さんを夕食に誘ってみた。
しかし。
「……えっと、ごめんなさい。今日はちょっと……」
断られてしまった。
仕方ない。昨日がアレだったんだ。昨日の今日では流石にきついか。
それとも何か予定。誰かと先に食べる約束があったんだろうか。
「いや、そういうことじゃなくて……。その……先に汗を流したくて……」
遠慮気味に言われ、納得した。
そういうことか。それもそうだ。さっきまで訓練をしていたから当然汗をかいた。俺とてそうだ。
俺も夕飯の前にサッと簡単にシャワーを浴びようと思っていた。
何なら、更識さんが出てくるのを待ってから一緒に食べるってのもアリだが。
「今日はシャワーじゃなくて寮の大浴場に入るつもりだから時間かかる。だから、一緒には……ごめんなさい、折角誘ってくれたのに」
そうなら仕方ない。
また別の機会にすればいいだけの話。
ということは、今日はここで解散だ。
「あ……ま、待って」
別れを告げ部屋に戻ろうかと思った時、更識さんに引き止められた。
「あの、ね……夕食の後、貴方の部屋に行ってもいい……?」
思わず、理由を尋ねてしまった。
「何でって……。ええっと……あっ、ほらっ! 昨日の続き! ボーデヴィッヒさんペアの対策まだ終ってないでしょう? だから、ほらっ」
取ってつけたように何だか必死な様子で言ってくる更識さん。
確かにボーデヴィッヒペアの対策はまだ終っていない。
だが、進捗状況的なあと少しといったところで残りはメッセで事足りる。
実際昨日夕食の後更識さんとは解散したが、その後はメッセで作戦会議の続きをして事足りた。
だから、わざわざ時間を作って部屋に集まるほどではない気が。
「そう、だよね……メッセで、充分……」
しゅんとした顔されると心に来るものがある。
つい癖であれこれ考えてしまったが本当今更だ。
更識さんも部屋に集まってまでやる必要はないと分かってはいるみたいだ。
しかし、こうしてわざわざ言ってきたってことは、更識さんは一緒に少なからず一緒にいたいと思ってくれているから……なんてのは、よく考えすぎか。
何にせよ、更識さんが部屋に来るのは歓迎だ。断る理由はない。
「うんっ……! じゃあ、夕食の後ね! 行く前にメッセするから……!」
更識さんは嬉しそうに頬を綻ばす。
そんな嬉しそうにされるとこっちまで嬉しくなる。
食後が楽しみだ。
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シャワーで汗を流した後、俺は夕食を食べていた。
今日は一人というわけではなく、一夏とデュノア達と一緒だ。というより、さっき捕まってしまった。
「今日は更識さんと一緒じゃないんだね」
「そういえば、そうだ。昨日は一緒だったのに」
デュノアも一夏もいきなりだな。
何だかいつも一緒みたいな言われようだ。
昨日が初めて。たまたま。
「じゃあ、今日は誘わなかったの?」
誘ったには誘った。が、断られた。理由には納得しているから、別に構わない。
そのことを説明しようとしたが、説明するよりも先に気の早い一夏に言われたしまった。
楽しそうなゲスい笑みを浮かべながら。
「お前、振られたんだな」
なんてことを言うんだ、こいつは。一夏のそれは邪な意味があるのは一目瞭然だ。
違うときっぱり否定する。訳あって、ただ単に断られただけだ。
こいつはどうしてこういうゲスい勘ぐりをここぞという時にだけするのだろうか。
一夏の思っているような色っぽいものではない。自分の色恋沙汰には鈍い癖して、他人のにはというものなんだろうか。まったく。
「あら。でも、昨日はあんなに仲睦まじげでしたのに」
「そうね。お似合いだったわよ」
「うむ。おしどりだったな」
当然の如くというべきなのか、今夜は凰やオルコットはもちろん。篠ノ乃までがいて口々にそんなことを言ってくる。
こいつらはまったく。怒るのも馬鹿らしくなってただひたすら呆れた。
普段こいつらは自分がこういうことでからかわれると騒ぐ癖に、逆の立場となると実に楽しそうだ。まあ、あの 一夏からしてこうなのだからそういうものなんだろうな。まったく、飽きれるばかりだ。
しかし、多勢に無勢だ。
苦笑いしながらも中立の立場を取ってくれているデュノア以外は楽しそうに俺をからかってくる。辛く苦しい状況だ。
「もう~皆でからかったらかわいそーだよ~。かんちゃんは先にお風呂行ってるだけだよ~」
と、のほほんとしたゆるい口調で言ってくれたのは布仏さんだった。
今晩彼女も一緒に夕飯を一緒に食べていて、席は俺の右隣に座っている。
意外なところから助け舟。だがおかげで、流石の一夏達も納得してくれていた。
「あ~それなら仕方ないな。よかったな、振られてなくて」
まだ言うか、こいつは。
溜息が止まらない。
「わぁ~凄い溜息。ダメだよ、そんな溜息ついたら。かんちゃん、あんなに嬉しそうだったのに。あんなかんちゃん見たの、小さい頃以来だよ~」
助け舟がドロ舟になった瞬間を肌で感じた。
布仏さんのその言葉を聞いた瞬間、再び一夏達のニヤニヤとしたいやらしい視線が集まってくる。
「お風呂入るのにも凄い気合、あれはまるでデート前って感じだったね」
言い方ってものがある。何より、場所を考えてほしい。
「デート前ねぇ~そうかそうか。うんうん」
許されるのならしたり顔で頷く一夏をどうかしたい。
間に受けやがって……あれはあくまで比喩表現だろうに。
「でも、部屋で一緒なんだろう? 男と女が一つ屋根の下となると……なぁ、シャルル」
「そ、そうだね。実際そういう噂にはなってるっぽいよ。最近、更識さんが君の部屋に行ってるって聞くし」
たった二日でもう噂になるものなんだな。早すぎて何だか関心してしまう。
気をつけてはいたが、やはり限度があった。どこで誰が見てるのかわかったものじゃない。
今だって、周りで同じ様に夕飯食べてる奴らはきっとこちらのことが気になって、聞き耳立てているのかもしれない。
だから今の状況とこんなところで弁解しても意味はなさないだろうが、あえてまた言わせてもらうとやはりそういう色っぽいことではない。
普通にトーナメントに向けての作戦会議。一夏とデュノア達だってやっているやつだ。
まあ、俺と更識さんの場合は男女だから、そういう噂が立つのは承知しているし、仕方ないものだとも思っている。
それでも部屋に来てもらっているのはトーナメントに対しての作戦会議の為。それが事実なのだから他に言いようがない。
「作戦会議の為ってのは分かるけど~でも、その為
何だか痛いところをつかれた気分だ。
そりゃ、ずっとトーナメントの作戦会議してる訳ではない。
共通の話題で盛り上がることはままある。そういうこともあって更識さんは楽しみにして嬉しそうにしてくれているのだろうが。
「それはそうなんだろだけど~……そういうことが言いたい訳じゃないんだけどなぁ~」
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夕飯から部屋に戻ると更識さんが来るまでの時間を適当に潰す。
三日目ともなればこの待ち時間も慣れたもの。多少落ち着かなさは感じるが、それでも以前と比べると大分マシだ。比較的落ち着いて待っていられる。
風呂に入ったら、夕飯を食べてその後に来るだろうから大分時間はかかりそうだ。ゆっくりしていよう。
そうしてしばらく待つと……。
《待たせてごめんなさい。今からそっちにいく》
という更識さんからメッセがスマホに届いた。
その後、いつものように部屋の扉が控えめにノックされた。
扉を開け出迎える。
「こんばんは」
扉の向こうに更識さんを見るや否や驚いた。
「? あの……入ってもいい……?」
不思議そうにしながら言葉をかけてくれた更識さんの声で我に返り、部屋の中へと入ってもらう。
「ごめんなさい。結構待たせたでしょ……?」
いつものように適当なところへ腰を落ちつけた更識さんはそんなことを言う。
それは別に構いはしない。
だが……と、先ほどからチラチラと何度も更識さんのことを見てしまう。以前にも似たようなことがあったが、あの時以上に俺視線は更識さんに釘付けだ。
「そんなに見られるとちょっと……あっ、嫌ってわけじゃないんだけどっ。えっと、そのっ……」
更識さんが視線に気づかないわけもなく、戸惑い慌てていた。
当然の反応。だが、視線はいまだ更識さんに釘付けだった。
今夜の更識さんは、水色のふんわりとした女の子らしい比較的ラフな格好。これはつまるところパジャマだろう。
パジャマ姿は以前にも見たことがあるが、あの時のものとはまた違う。
似合ってるし、可愛いが何でその格好なんだ。
「何でって……そんなおかしなこと言われても……お風呂上り、夜だから……?」
あまりにも変なことを聞くから更識さんは、不思議そうに聞いてきた。
何でっておかしいな。自分でもそう思う。
風呂に行くってのは聞いていたし、今は夜。更識さんの言うことはもっともだ。変なことを聞いてしまった。ここは素直に謝罪する。
「謝らなくて大丈夫……じゃあ、昨日の続き始めよ」
気を取り直して、早速昨日の続きを始めていく。
とはいっても、昨夜別れた後メッセでもやり取りしたこともあって、一時間近くほどで終ってしまった。
正直ことを言うと単純にネタ切れだ。案や知恵は出しつくした感あった。
流石に三日続けて似たようなことをしていれば、いつかはこうなる。
中途半端というわけではなく、現状決めれるところ、詰めきれるところはきちんとつめられたから大丈夫なはずだ。
訓練でも今日はまだ、一夏ペア対策の確認をしただけで、ボーデヴィッヒペア対策の訓練はこれから。実際に動いて確認して足りないところがあればその都度補えばいいし、こうやって場を設けて話し合うのもいいし、メッセでも話し合える。抜かりはない。
「じゃあ、一旦終わりだね。でも、これからどうしよっか……?」
ぽつりと更識さんがそうこぼした。
作戦会議はひとまず終ってしまった。だがまだ、自室からの外出禁止時間という自由時間終了まで時間はわりとある。
どうやって過ごすか……作戦会議は終わったのだからこのまま解散というのが無難な流れではあるが、あそこまで言ってきた更識さんを終わったからといって帰ってもらうのも何だか悪い。
こう言っては変な言い方になってしまうが、俺も更識さんをこのまま帰したくない。少しでいいから一緒にいたい。そう思っている。
しかし、肝心のこれからをどうして過したらいいのかが思いつかない。
このままじっとしてるのは流石にあんまりだ。頭を悩ませる。
テレビ番組でもあれば片手で見てそこから話題を膨らませられそうだが、今夜特にこの時間帯おもしろい番組はやってない。適当につけてつまらない番組で場がしらけて嫌だ。
何か……そうだ。ふと、思いついた。
「ど、どうかしたっ……?」
突然の声を上げたものだから、更識さんを驚かせてしまった。
謝罪して、あることを提案した。
よかったら、毎週日曜朝にやっている特撮番組でも一緒に見ないかと。
息抜きも兼ねて。
「……」
驚いたままの更識さん。
流石に苦肉の策過ぎただろうか。
いくらなんでも女の子相手に特撮一緒に見ようだなんて今更ながらマズかった気がしてきた。
だがここで定番だろう恋愛物の映画や興味ないものを見ても仕方ない。
特撮ならお互い共通したものではあるし、話題にもしやすいと思ったがなかったことにしてもらおう。
「な、何で……こんなこと言われるなんて思ってなかったからすぐ返事でなかったけど私、見たい。今週のまだ見れてなかったし」
更識さんの言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
よかった。それなら大丈夫か。
安心して、見る用意をしていく。
用意を終えると、見る為に元いた場所から動く。元いた場所では画面に近いからだ。
移った場所は更識さんの隣。そこが一番見やすい。もちろん、更識さんに断りは入れた。
「うん、どうぞ」
隣に座ると、甘いいい香りが鼻先をくすぐった。
そう言えば更識さんは風呂上がりなのだということを思い出す。
だからなのだろう。甘いいい香りがするのは。
こんな近くにいるのは初めてではないが、今は訓練中ではないから思った以上に気が緩んでいるせいか余計意識してしまう。おかげでドキドキとして変に緊張している始末。
一夏達に散々否定していたが、こんなのを見られたら説得力がなくなるな。
更識さんはどうなのかと、隣を見てみる。
「……」
言葉なくじっと画面を見つめる更識さん。
その様子は真剣そのもので、見入っているのがよく分かる。
邪な考えはよくない。俺も真面目に見よう。
時間にしておよそ20分ちょっと。
CM中も特に会話なかったが、何事もなく無事次回予告まで見終えた。
「うんっ、今回もおもしろかった」
満足げな更識さんの感想には同意見だ。
今は丁度物語自体が盛り上がっているおもしろい時。
見たのがこの回でよかった。
今回の話だけでなくこの作品自体も今までの特撮ヒーロー物に漏れずおもしろくてハマっている。 こうして特撮作品を毎週見るようになったが、小さい頃以来だ。
それもこれも元々この作品を進めてくれた更識さんのおかげだ。
「そんな……でも、気に入ってくれてよかった」
更識さんは、嬉しそうに微笑んでくれた。
それからは今日の回の感想をつらつらと言い合う。
とは言っても、更識さんほど深い考察や考えをしながら見てるわけではないから、ここがよかったとかこの戦闘シーンは熱くて燃えたとかそんなの。
「そう……! そこなのっ! 私もね――」
更識さんが気に入ったシーンが同じだったようで、いつもの語りだしてくれたのは嬉しい。
だがしかし、ちょっとこれは。
「……? あ、あ、ああああ……っ」
更識さんは自分で気づいてくれたが、みるみる顔が赤くなっていく。
当然だ。語るうちに熱が入った更識さんは、いつのまにか俺の両手を自分の両手で包むように握っていた。
手の甲でも感じられる女子独特の柔らかな手の感触。
隣に座っているからか、また更識さんのいい匂いが鼻先を擽る。意識しないよう務めていたのに、またドキドキと緊張してきた。
「ご、ごめんなさい……!」
謝られてバッと手を離される。
すると名残惜しさを感じた俺は、無意識のうちにあっと情けない声を出してしまった。
「え……?」
更識さんにはきょとんされ、無性に恥ずかしさを覚える。
あっじゃないだろ。みっともない。
これは事故なんだ。名残惜しさを感じてどうする。
「ごめんなさい。私、なんてはなしたないことを……嫌だったよね」
とんでもない。
むしろ、嬉しかったほどだ。
「えっ?」
またきょとんされる。
ダメだ。失態に失態を重ねる。凄い失言だ。
そう自覚するからこそ、今自分の顔は真っ赤なのだろうことがよく分かる。顔が熱い。
穴があったら入りたい。
「嬉しいの……?」
蒸し返される。どうやら、逃げたりは許されないようだ。
「あっいや、蒸し返すつりはないんだけど……そのっ」
嬉しかったのは事実だ。
今更誤魔化したりしない。素直に認める。
だから、更識さんがそんな謝るほどのことではない。
「うん、わ、分かったっ……」
頷くと更識さんはそれきっり黙ってしまった。
釣られてこちらもまた黙ってしまう。
すると二人の間には妙な沈黙が生まれる。
しかしこの沈黙は重苦しい嫌な感じのものではなく、ドキドキと胸を高鳴らせ、落ち着かなくさせてくる。しまいには甘酸っぱさを感じさせ、心地よさすら覚えさせてくる不思議な沈黙。
その証拠。というべきなのか、俺と更識さんはお互い顔を赤くして妙に照れあってしまっていた。
…