【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第二話 更識簪さんとの会話らしい初めての会話

 五月中旬。

 

 学園生活は可もなく不可もなくといった感じだった。

 毎日自分でも勉強をして、自主練をして、何とかギリギリ授業にもついていける。大変ではあるものの、余計なことを考える暇がない分、気楽だ。やり甲斐も感じられる。

 勉強や自主練にかまけてばかりだが、幸い一夏があれこれ誘ってくれ、クラスの人達とも仲良く出来ている。……気はする。

 主観でしかないから本当にそうなのかは分からないが、一人でいても向こうから話しかけてくれることも多くなってきた。

 一夏様々だ。そう考えると、俺の学園生活は始まりに紆余曲折あったものの何だかんだ充実している。悪くない。

 

 相変わらず、整備室に通う日々も可もなく不可もなく変らない。

 今日も今日とてここ第二整備室は静かだった。

 

「……」

 

 隣の更識さんは今日も真剣な様子で真面目に自分の作業をやっている。

 相変わらず静かだ。大体二日に一回のペースで整備室を利用させてもらっているが、いつもこんな感じ。

 ここに来て半月以上経つが会話らしい会話をしたことがない。よくて挨拶するぐらい。挨拶と言ってもこっちから挨拶したら挨拶を返してくれたり、会釈してくれるだけで更識さんの方から挨拶されたことはまだない。

 無視されてないだけマシか。

 

 そりゃもちろんまともな会話はしたい。

 どうして間借りさせてくれる気になったのか、気にはなるから聞いてみたい。

 でも、それ以外に何を話したらいいのか分からない。元々話し上手ではないのは勿論、女子を相手にするのにも慣れてない。

 相手もそんな俺の話につき合わされても迷惑なだけだろうから、今のままでいいか。変に気を悪くさせて、追い出されたくはない。

 

 それにだ。

 

「……」

 

 更識さんには相変わらず凄い警戒されてる気がする。

 具体的なことを言えば、こう……話しかけてくるなオーラみたいなものもたまに感じる。

 男と一室に一緒になんだ。警戒されて当然。

 触らぬ何とかに何とやら。そっとしておこう。地元の同級生達が知ったら、こんな美人な人と一室一緒にいられるだけで幸せ者と言われるに違いない。

 それに間借りさせてもらうのも長くて二ヶ月とちょっとの間だけ。早く別の整備室が空くか、学年別トーナメントが終わったら空きが出来るとの話だから、それまで迷惑かけないようにありがたく使わせてもらう。

 

 といった感じで更識さんとは何もないが、整備室を使わせてもらっているのは大変ありがたい。感謝しなくては。

 おかげでISへの理解を深めることが出来た。以前よりも、少しはまともにISを動かせるようにもなれた。

 早く一夏みたいにちゃんとした試合をできるようになるのが目標の一つ。今のままではISを動かすので精一杯。この学園に入学する前に早ければ小学生の内からIS専門の予備校に通う女子達との差は縮められない。

 というか、どうして同じ男同士なのにこうも違うんだろう。一夏を見るたびに上には上がいるというのを強く実感させられる。世の中にはやっぱり、ああいう先天な天才タイプがいるんだな。

 女々しく悲観しても仕方ない。ただISに乗れるだけしかできない俺はもっと上手く操れるように精進あるのみ。

 頑張ろう。今の俺は頑張ることしかできないんだ。地味だが努力は日々の積み重ねが大切。少しずつでいい前に進んでいればいい。越える一夏()はあんなにも雄雄しく大きいのだから。

 

 そう自分に喝を入れ、織斑先生からの課題を進めていく。

 

 

 

 

 集中力が切れ、背もたれに身体を預ける。結構な時間ずっと集中して課題をしていた。

 座りっぱなしだから、あちこち凝ってる。体を伸ばすとポキポキと音を立てながら骨が鳴った。

 休憩しよう。というか、そろそろ夕食の時間が近い。

 その時だった。スマホが鳴った。まずいことにこの時、マナーモードに設定し忘れていた。設定していた着信音が部屋に鳴る。

 

「あ、それって……」

 

 ぽつりと更識さんは、設定していた着うたの曲名を言った。

 設定していたのは俺が小学生ぐらいの時にやっていたトランプをモチーフにした特撮ライダー物のOP曲だった。

 思わず、更識さんのほうを向いてしまった。

 

「……ッ」

 

 ビクッと肩を震わせた更識さんは当然、そっぽを向く。

 聞き間違い……とかではない。はっきり聞こえた。

 だが、今は先に来たメッセージを返そう。ちなみに相手は一夏だった。そろそろ夕食だから迎えに来てくれるとのことだったが、適当に言って断った。

 一夏一人ならまだいいが一夏が来ると篠ノ之とオルコット、それから2組の凰までついて来て絶対騒がしい。静かなこの場所が騒がしくなる。更識さんに迷惑をかけるのは避けたい。

 

 メッセージを返したが、整備室は微妙な空気だ。

 正直、気まずい。

 どうしよう。更識さんもめっちゃ気まずそうにしてる。一体どうしたら……いや、待て。これはチャンスではないか。更識さんと挨拶以外で話すきっかけなんだこれは。無駄にするのはおしい。

 手始めに俺は、この特撮ライダー知ってるんですね。特撮ライダー好きなんですか?みたいな当たり障りないことを聞いてみた。

 

「えっ……あ、はい……」

 

 返ってきたのはそれだけ。無言が続きそうになる。

 やっぱり、無理に話しかけるべきではなかったのか。気まずさだけが増した気がして辛い。くじけそうだ。

 いいや、まだだ。もう少しだけ頑張ってみよう。これで嫌われたり、追いだされたらそれはそれで仕方ない。今は頑張ってうまくいくことにかけてみる。

 

 俺が一番好き作品で中でも主人公の人間味が特に好きだ。初めこそ職業としてライダーをやっていても、義務や職務で戦うのではなく、人を愛して大切にしたいと思うからこそ戦い続ける。力を持ったからこそ、戦えない人のために戦い続ける典型的なヒーローの姿に憧れた。

 ああいう損得抜きで誰かの為に頑張れる、何かの為に頑張れる人は素晴らしいと知った作品だ。

 他の登場人物や複雑な人間関係もおもしろい。

 

 そんな風に自分もこの作品が好きで、どこがどう好きなのかを言ってみた。言った後で気づく。あまりよくない話をしてしまった。

 気を引こうとあれこれ言ってしまったが、親しくもない相手。特に同年代の女子相手にこれは流石に気持ち悪かったかもしれない。言った後になって不安が押し寄せてくる。

 

「わ、分かります! 私この作品すっごく好きで。主人公が典型的な熱血ヒーローキャラなんですけどそこがまたよくて! どんな時でも熱い想いを胸にあきらめないかっこいいヒーローって感じで! 作品そのものもただシリアスに進むんじゃなくて、コメディ性もちゃんとあって!」

 

 あ、何か変なスイッチを変に入れてしまった気がする。

 大人しかった更識さんは一変、熱く語りだす。凄い熱量だ。本当に好きなのがとても強く伝わってくる。話がところどころマニアックなのがおしもろい。

 更識さんってこんな子だったんだ。俺の中で印象が変った瞬間だった。

 

 ここで押されてはいけない。

 俺も負けじと話していく。

 楽しくなったきた。それはどうやら更識さんもらしい。

 

「そうっそこ! この回の」

 

 楽しそうに会話してくれるは終始笑顔でいてくれた。

 可愛らしい笑顔の人だ。話しながらも見惚れてしまっている自分がいた。

 きっかけは上手くいったようだ。

 

 

 

 

 

「あっ……ご、ごめんなさい。急に話し出して……その、ご、ごめんなさいッ……」

 

 二度も恥ずかしそうに申し訳なさそうに更識さんは謝った。俺も更識さんに謝った。

 話が終わり、お互い我に返って謝りあう。

 突然話しかけたのは俺の方だ。しかも、こんな話普通親しいわけでもない女子にするような話ではないだろう。お嬢様ばかりのIS学園なら余計に。

 いろいろと急すぎた。好きなんだろうけど、きっと気を使って話をあわせてくれたんだろう。

 

「そ、そんなことっ! ない、です……ぜ、絶対に。私のほうこそ、ごめんなさい……へ、変ですよね……女が特撮好きだなんて……」

 

 そうだろうか。普通だと思うが。

 今時特撮好きな女子なんて多くいる。テレビとかネットでもそういう女性の特集している番組は結構見かけるぐらいだ。

 今更ではあるものの好きに性別なんか関係ない。

 

「そう、ですか……で、でもっ、私の話つまらなかったりしませんでした……? わ……私なにもない人間ですし、その……趣味の話とか、ネット以外で話すの初めてだから……」

 

 勢いあるもあるだろうが初めての相手にこんなにも熱く語れるのなら凄いと思う。

 自分のことを悲観して言うが、それはないだろう。でなければ、ここまで話は弾んでなかった。というか、さっき以上に気まずい空気になって、今以上に微妙な関係になっていたに違いない。

 更識さんの話はおもしろい。更識さんと話しているのは楽しい。

 

「楽しい……やめて、下さい。き、気を使ってもらうなくても……いいです……」

 

 気なんて使ってない。

 こんな形でも初めてこうして更識さんとちゃんと話せてよかった。

 

「は、はい……それはその……えっと、その、ありがとう……ござい、ます……」

 

 男と話しなれていないようで更識さんは緊張した様子で怯えながらもぎゅっとスカートの裾を握りながらそう言ってくれた。

 その声からは喜んでくれているのが伝わってきて、俺は安堵した。

 

 折角、上手くいったんだ。この機を逃したくない。

 ほとんど無理やりに間借りしている身ではあるけれど、これから仲良くしていきたい。

 やっぱり、無言のまま過ごすのは辛い時があって、微妙な空気になったらもっと辛い。

 

 出来れば、さっきみたいに会話してくれると嬉しい。

 たまにでいいから。 失礼がないよう俺は更識さんに頼んだ。

 

「そ、そんなかしこまらないで……! 嫌ではないです……でも、私……く、暗いし……人と上手く話せない、のに……そ、それでもいいんですか……?」

 

 構わない。

 俺だって、話すのは得意じゃない。

 お互いできる範囲で……ゆっくりとでも話していければ、それだけで嬉しい。

 

「……そうですか……」 

 

 と言ったきり、更識さんは俯いてしまった。

 無理強いさせてしまったか。 そう不安に思っていると再び更識さんが口を開いた。

 

「……その、私も貴方と話すの楽しかったですから……あの、こ、これからっ……よろしくおねがいしますっ……!」

 

 こちらこそよろしくお願いします。

 俺の方を向いて、深々と頭を下げる更識さんに向かって、俺もまた深々と頭を下げた。

 

 こうしてこの日から少しずつ更識さんと話せるようになった。

 少し前進。まずは始めの第一歩。

 

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