【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第二十一話―幕間―私の想い、彼への想い

 タブレット片手に私は一人誰もいない部屋の片隅。自分用に敷いた布団に寝転びながら明日ある実技の確認真っ最中。

 言うまでもないけど、宿泊する旅館の部屋は相部屋。他の人達は時間まで他の部屋の子達のところへ遊びに行っている。

 私はそんな相手いないから、こうして一人作業中。臨海学校だというのに我ながら味気なく寂しい。これじゃあいつもと変らないけど、何かしてないと別のことを考えてしまう。

 例えば。

 

「昼間、楽しかったな」

 

 こんなことを。

 昼間、談話室で彼と話しながら過せたの凄く楽しかった。

 始めは正直、臨海学校嫌で仕方なかった。夏は暑くて嫌い。ましてや、夏の海で水着着て遊ぶなんて考えられない。

 そもそもそんな相手私にはいない。しいていえば、本音と彼の二人ぐらいだけど二人は海行くだろうから、一人ぼっちは覚悟してた。

 だから、外の景色でも見て気を紛らわそうと談話室に行ったのに彼も来た時は少しビックリしちゃった。

 おかげで楽しい時間を過せて、悩み事も一気に解決できた。

 

「本当、はっきり言われてしまったな……」

 

 しぶる彼に無理を言ってはっきり言ってくれるよう頼んだのは私。彼ならはっきり言ってくれると踏んだのも私。

 彼と出会いただひたすら弐式の完成を成し遂げようとしていた以前とは打って変わって今まで見てこうよとしてこなかったもの達、周りにも目をやるようになっていろいろなことに気づけた。

 と同時にこのままま弐式を完成させたところで本当に姉……お姉ちゃんの背中に追いつけるのだろうか。越えることが出来るのだろうかと漠然とした不安を覚え始めた。

 何一つ満足に出来ない私がたった一つ、弐式を完成させてもそれは無理かもしれないと思え始めてしまったから。

 

 実際、彼にも無理だとはっきり言われてしまった。

 それは私にとって無理じゃないと言われるよりも遥かに満足いく答え。

 きっと私は誰かに無理だと言われたかった。人生かけてと言えば大げさだけど、それほどの思いで取り組んでいたから自分ではとてもじゃないけど無理だと断じるなんてことはとても出来ない。

 

「凄い人はただ一つすごい事をしているわけじゃない……」

 

 とっても当たり前なことで、見落としがちなこと。

 その通りだ。お姉ちゃんはただ一人でISを完成させたから凄いわけじゃない。

 二年生のうちから生徒会長になっていることもそう。早いうちから国家代表になったのもそう。そして、更識家当主になったのもそう。

 そのどれもこれもがあるからこそ、今のお姉ちゃんはあんなにも凄くて眩しい人。

 

 そんなに人に対して、ただ一つすごい事を成し遂げてもとてもじゃないけど追いつけない。越したりなんかできない。

 そもそも専用機の開発はお姉ちゃんもやっていたこと。最低限それすら出来ないと、影すら踏めないと思い込んでいたけど、踏んだら踏んだでそのまま影の中へと落ちていく。

 それほどまでにやっぱり、お姉ちゃんの背中は高くて大きい。

 いつまでも同じことをやっていてはダメ。

 

「方法は一つじゃない」

 

 いつも胸にあるこの言葉。

 弐式の完成は今更やめたりはない。これは絶対に成し遂げる絶対事項。

 中途半端に投げだしては追いつく、越える以前に人としてダメ。最後まできちんとやらない。

 でも、弐式の完成はゴール地点じゃなく準備の一つ。別の方法でお姉ちゃんを越えてみせよう。

 

 国家代表……モンドグロッソ……。

 こんなこと今まで考えたことなんてなかった。

 こういったら他の人には悪いけど、このまま自然と代表候補から国家代表になるものだと……そもそも、なれないなんて疑いすらしていなかった。

 でも、それって凄い驕り。あくまでもなれる可能性が候補生の中で一番高いだけで本当になれるかどうかはまだ決まってない。これからの結果次第。私が代表候補生としての出来が悪ければ、代わりの人になるは当たり前のことだ。

 それに国家代表になったところで私に目標なんてない。私にとって目標はお姉ちゃんの背中に追いつくこと。越すこと。今まではただそれだけ。

 彼にも言われたけど、お姉ちゃんの背中に追いついたら。越すことが出来たら私はそこで満足して燃え尽きてしまう。自分でもそう思う。

 

 だったら、正式に国家代表になって、モンドグロッソへの出場……そして、優勝。

 それらをお姉ちゃんの背中に追いつく為の。越える為の準備にする。

 もしくはお姉ちゃんに追いつくとか、越えるとかそういうのじゃなく、まったく別の目標にするのもアリだと今なら思える。

 目標は別に他にもあってもいい……そうだ、今の目標を達成できたとしても私はそこで終るわけじゃない。その後も続いていく。

 だったら、別の目標があったほうがないよりかはずっと気が楽なはず。何処に行けばいいのか分からない怖さは私が一番よく知っているから。

 

 正直なところ、お姉ちゃんと試合するなんて怖い。できることなら、ずっと避けていたい。

 でも、お姉ちゃんに追いつく。越すのなら、いつかはそうなるのかもしれない。だったら、準備はしておかいなと。心はもちろん、身体でも技術でも。

 私は甘えている。他人に対して能動的……助けられたり、教わったりするのは私にとって甘え。結局、一人では何も出来ない。

 けど、甘えでも何でもいいからまずは行動しないと。動かないと何も始まらない。それを私は、彼と過して学んだ。

 悲しんで絶望していて立ち止まっていても何かがずっと寄り添って慰めてくれるくことはない。置いてかける。それは嫌。

 

「よしっ……!」

 

 私は小さく意気込む。

 頑張ってみよう。彼みたいに歩みが遅くても迷いながらでも確実に前へと進んでいきたい。

 足掻いて足掻ききってみる。まずは第一目標を達成。そして、私の思い描く強くてやさしいヒーローに私自身がなれるように。

 

「不思議……」

 

 本当に不思議。

 言葉にするととても簡単なことで。これはあくまでもまだ気持ちを改めたにしかすぎない。

 でも、不思議と前よりかは進んでいけそうな気がする。勇気みたいなのが湧いてくる。

 そう思わせてくれたのは彼。

 どうして彼はここまで私にしてくれるのだろう? 自分でも意識しないうちに彼へ問いかけ、その答えは聞けてないまま。

 何か言いかけていたけど、彼はなんて言おうとしていたのだろう?

 気になる。こう何となく分かるような感じはするのに、それのいざ明確な言葉には出来ないから余計。

 というより、彼は私のことどう思っているんだろう? 分からない。友達として仲良くしてくれているし、悪くは思ってないはず。だと思いたい。

 水着姿も見たいって言ってくれた。しかも、即答。あの時は驚いたけど正直、凄く嬉しい。だってそれって私を女子として興味あるってことだよね……と言うことはそういうことだよね。

 

「……? あれ? そういうことってどういうことなんだろう……?」

 

 納得していたけど、考えてみればよく分からないまま。

 むしろ、考えていたらますます訳なくなってきた。頭の中、グチャグチャ。

 私は一体何を考え……期待して……。

 

「わ、忘れよう……! うん……!」

 

 これ以上考えるのはよくない気がする。

 一旦落ち着いて頭冷やさなきゃ。

 もうそろそろ出かけた子達が帰ってくる時間。タブレットにはそれを感じさせる時刻が表示されていた。

 

「あっ……」

 

 そろそろと言えば、彼からのメッセージ返ってきてるかな。スマホを手に取り見る。

 タブレットで予定を確認する前、特に用はないけど彼にメッセージ送ってみた。

 実の本当は彼が泊まる部屋に遊びに行く。他の子もしてるだろうよくあるイベントをやってみたい気持ちはないわけじゃないけど、彼が泊まる部屋は織斑と織斑先生と同室だと聞いた。

 そんなところに流石に遊びに行くような勇気は私にはない。

 だから、せめてものとメッセージを送った。

 

「……返事ない……」

 

 どころか既読すらついてない。

 彼からの返事が楽しみだったから、少し寂しい。

 既読すらつかないってことは忙しかったり、携帯見れないほどの忙しい状況だったりするのかな。

 逆に他の女子の部屋……デュノアさん辺りの部屋にでも行って……。

 それだったら仕方ない。仕方ないのだけど……。

 

「嫌……」

 

 今更自分だけが一人でいることに寂しさを感じるような達でもないのに寂しいどころか、嫌だと思ってしまう。胸がズキンと痛む。

 今日の私おかしい。さっきみたい余計なこと考えちゃうし、こんな風に思ってしまう。

 頭切り替えないと……でも……。

 

「かんちゃ~ん! たっだいま~!」

 

「っ!? ふぎゃっ……!」

 

 突然した他人の声に驚いて、スマホを落とす。

 寝転びながら見ていたせいか顔に直撃。

 眼鏡のおかげで目は守られたけど、鼻とか口とかにぶつかったところが痛い。涙出た。

 

「ご、ごめんね~かんちゃん。驚かせた~?」

 

「更識さん、大丈夫?」

 

「き、気にしないで。……大丈夫」

 

 身体を起こしながら、一旦眼鏡を外して涙を拭う。

 無事だったスマホで確認するとそろそろ就寝予定時間。相部屋の子達が帰ってきた。

 ちなみに相部屋する人達は本音と一組の相川さんと四十院さん、谷本さんの五人部屋。

 しおりを見る限り、本来なら自分のクラスの誰かと相部屋になるっぽいけどこの部屋割りは多分、学校側が配慮してくれたんだろう。

 情けない話、クラスの人達とは親しくもないから見知った本音が一緒の相部屋なのはありがたいと言えば、ありがたい。

 でも、本音の仲良しさんもいるし、本音自体騒がしいからこれから賑やかになっていくんだろうな。

 明日は一日実技。寝にくいだろうけど、さっさと寝てしまおう。布団被って目を閉じてればすぐ寝られるはず。

 私はスマホとタブレットを鞄にしまうと明日の着替えとかの確認をする。大丈夫……準備はバッチリ。歯磨きは済ませてあるから、後は本当に寝るだけ。

 

「かんちゃん、な~に一人いそいそ寝ようとしてるのかな~?」

 

「そうだよ。聞きたいこといっぱいあるんだから!」

 

「きゃあっっ!?」

 

 いきなり後ろから胸を触られ、私は声を上げながら部屋の隅へと反射的に逃げる。

 犯人が誰なのかは何となく分かるけど、一応確認する。本音と相川さんの二人。

 手をわきわきとさせながら、楽しそうな顔してる。

 

「な、なんてことするの……!」

 

「かんちゃんが一人勝手に寝ようとするからだよ~夜はこれからなのに」

 

「あのこと聞かないと今夜はとてもじゃないけど寝るに寝られないよ」

 

「ねー!」

 

「何を言って……」

 

 谷本さんまで加わってきて私は更に追い詰められる。

 あのことってなんだろう……まあどうせ、ろくでもないことに違いない。

 おそらく、遊びに行った部屋で変に話が盛り上がったのをまだ引きずっている。

 

「み、皆さん。落ち着いて……流石に更識さんが困ってますよ」

 

一人だけ加わってない四十院さんだけは他の人を宥めようとしてくれている。

 よかった、四十院さんがいてくれて。これで助かった。そう思ったのだけど。

 

「でも、神楽も気になるでしょ?」

 

「それはまあ……ええっと……はい」

 

 遠慮気味に頷く四十院さん。

 そして、申し訳なさそうな視線を送られてしまう。

 そんな風に見られても困る。

 というより、四十院さんですら気になることって一体どんな……。

 

「ふ、ふ、ふっ。かんちゃん覚悟はいいかな~?」

 

「覚悟ー!」

 

「覚悟ー!」

 

 余計なこと考えている場合じゃない。

 三人は手をワキワキとさせながらにじり寄ってくる。

 

「わ、分かった! 分かったから! 話すからそれやめて」

 

 またセクハラされたら堪ったものじゃないから、背に腹は変えられない。

 

「でも、その前に……ここで話したことは他の人には絶対他言無用」

 

「うんうん! いいよいいよ!」

 

「もっちろん!」

 

 皆の期待する顔を見ていると不安は拭えないけど。

 一応予防線は張ったし、ここは信じるしかない。

 

「で……話ってのは何……?」

 

「いやね。更識さんって彼と仲いいでしょ? 今日昼間ずっと一緒にいたみたいだし」

 

「う、うん……仲はいいと思うけど、それが……?」

 

「更識さんも流石に知っていると思うけど、あの噂本当なのかな~って」

 

「え、その噂……?」

 

「う、うんっ。ほら、だって男子って二人しかいない訳じゃん? 織斑君はそういうの疎そうだけど、彼はそうじゃないっぽいし。二人最近、すっごく仲いいからもしかして本当は付き合ってるんじゃないかなっと」

 

「……」

 

 絶句。というほどじゃないけど、返答の言葉を失った。

 またその噂。出始めたのが随分昔のように記憶してるけど中々絶えない。

 本音は分かってて答え楽しみにしているっぽいのがまた。

 これよく聞かれて、否定しているはずなんだけど。

 まあ、相川さん達には直接否定したわけじゃないから仕方ないと言えば仕方ない気もするような……。

 

「そこのところど、どうなんですか?」

 

 四十院さんまでこの食いつき。

 あっ、そっか……彼が気にしていたことはこういうことだったんだ。

 否定しても昼間みたいに二人っきりでいたら噂を返って自分達で煽っていることにもなる。

 こうなってある意味当然。彼にまた迷惑かけちゃってるし、これはこれは確かにしんどい。

 まあ、女子と男子が一緒にいれば疑いたくもなる、よね……?

 

 だとしても、私と彼は友達。

 これはある種の自業自得なのは分かっているけど、友達なのにこういう言われ方何か嫌……。

 

「付き合ってない」

 

「またまた~」

 

「隠さなくていいのに」

 

「いや、本当に付き合ってない」

 

 こう言っても皆は納得していない様子だけど、これ以外言いようがない。

 ただ一緒にいるってだけでそこまで気になるもの……そこまでそんな風に思えるものなの?

 

 いや……でも、そう例えば。彼が本音とほぼ毎日一緒にいて、今日の私達みたいに昼間二人っきりだったら、それはそれで気になるかも。

 というか、凄く嫌。

 

「ふふんっ、ダメだよ皆。もっとハッキリ聞かないと」

 

「と言いますと本音さんか何かいい案でも?」

 

「もちろんだよ~! あのねあのね~」

 

 私以外の三人に本音は何やらひそひそ耳打ちする。

 当然聞こえないけど、何だろう。悪い予感しかしない。

 どうせまた、変なこと聞いてくるに違いない。

 

「それまた何ともハッキリですね」

 

「でしょでしょ~かんちゃんにはこのぐらいハッキリ聞いたほうが言いって」

 

「でも、誰が聞くの?」

 

「それは……」

 

「じゃ、じゃあ! 私が聞くよ!」

 

「おお~!」

 

 相川さんに拍手が送られる。

 何か決まってみたい。

 

「こほん、更識さんっ」

 

「あっ、うん」

 

 わざとらしい咳払いをして相川さんは真面目な様子で問いかけてくるものだから、釣られて私も姿勢を正す。

 

「ハッキリ聞くけど……更識さんは彼のこと好きだよね」

 

「? ……うん、好きだけど……」

 

 聞かれたから私は普通に答えた。

 すると。

 

「きゃっ~!」

 

 何故か大盛り上がりする相川さん達三人。

 まったく意味分からないんだけど……何処にそんな盛り上がる要素が?

 好きじゃない人となんて私が一緒にいるわけない。そもそも私と彼は女子と男子なんだから余計にそう。

 こんなこと聞きたかったんだ。変なの。 

 皆の反応についていけず私は一人呆然するばかり。

 

「はぁ~……かんちゃん……」

 

 ただ本音だけは深い溜息をついて呆れ顔をしている。

 しかも、哀れむような目を向けてくる。

 何なのそれ。腹立つ。

 

「皆まだ喜ぶのは早い。かんちゃん、意味ぜ~んぜん通じてない」

 

「えっ? もしかすると好きの意味が通じてない?」

 

「そのもしかしてだよ~かんちゃん、その好きってのはかんちゃんが思うような友達としてじゃないんだよ」

 

「どういう意味……?」

 

「かんちゃんは異性として男の子として彼のこと好きなんじゃないかって聞きたかったんだよー」

 

「私が異性……男の子として彼のことを……?」

 

 いきなり言われても実感沸かないけど、流石にそれがどういうことにのかは分かる。

 つまりは篠ノ之さん達みたい感じってことなんだよね。

 私が彼を……。

 実感沸かないはずなのに、変なことをいうものだから胸がざわつく。

 

「まだ実感ないか~……そうだ! 更識さん、例えば彼と大勢の時に会うのと二人っきりでどっちがいい?」

 

「えっ……それは……二人っきりのほうがいい」

 

 谷本さんからの質問に私は戸惑いながらも答える。

 そりゃ二人っきりになれるのなら、二人っきりのほうがいい。大勢だと落ち着かないけど、彼と二人っきりなら凄く安心できるし楽しい。

 

「じゃあじゃあ次~かんちゃんは彼が他の女の子といるの見たらどう? 具体的に言うと~自分と話してるときよりも楽しそうにして仲良さそうだったりしたら~」

 

 本音は私がどう答えるのか分かって聞いてきてる感じがまた腹立つ。

 でも、答えないわけにもいかなさそう。答えを楽しみにする皆の視線が私に突き刺さりまくってる。

 

「……気にはなる……あんまりいい気分じゃない、かも……」

 

「むしろ、嫌だよね、かんちゃんは。最近、私と彼とがお話してるとかんちゃんの視線が痛くて痛くて」

 

「まぁっ」

 

「へぇー」

 

「そうなんだ!」

 

「……」

 

 ニヤニヤする相川さん達から視線をそらしこれ以上は何も答えない。

 これはこれでかえって肯定しているようなものだってことは分かってる。

 でも、これ以上は何も言いたくない。

 

 というか、私そんな感じだった。気づいてなかった。

 確かに二人が話していて、私と話す時より盛り上がってたらモヤモヤしてたけど。

 それが顔に出てたなんて……穴があったら入りたい。

 

「今度は私いいですか?」

 

「……うん」

 

 四十院さんは苦笑いしてくれたけど、私は疲れ気味に頷く。

 

「ありがとうございます。そうですね……正直なところ更識さんは彼といてドキドキしたり、ニヤけてしまいそうなぐらい嬉しくなったり、胸の奥があったかくなったりはすることはありますか?」

 

「うん……沢山ある」

 

 覚えがあるから私は素直に答える。

 

 彼といると変な風に緊張してドキドキしたり。

 何気ない言葉のはずなのに言葉一つ一つが嬉しくてニヤけてしまいそうになったり。

 彼のこと、彼の言葉を思い出すだけで胸が温かくなる。

 それが何度も何度もあって、何度感じても新鮮。

 

「そうか……こういう事なんだ」

 

 モヤモヤがスッと晴れていく。

 

「おっ! 更識さんようやく分かったみたいだね」

 

「うん」

 

 自分の中でさっきまでなかった実感が確かなものになっていくのが分かる。

 

「私は彼が好き」

 

 異性、男の子として彼のことが好きなんだ私。

 

「――っ!」

 

 自覚できたのはいいことのはずなんだろうけど、どうしよう。

 高鳴った胸がドキドキとうるさいぐらい。

 オマケに無償に恥ずかしくなってきた。私、皆の前で彼のこと好きだって自分からバラしてしまった。

 

「ど、どうしよう皆。今の更識さんめっちゃ可愛いんですけど」

 

「うんっ! かんちゃんお顔真っ赤で可愛いよ~!」

 

「やぁっ! み、見ないで……!」

 

「そんな隠されると余計にたまらないものがあるよ」

 

「はいっ、何だか私までドキドキしてしてきました」

 

「うぅっ~……!」

 

 眼鏡に指紋がつくのなんておかまいなしに私は両手で顔を隠すけど、余計墓穴掘った。

 悔しくて何か唸ることしかできない。

 背に腹は変えられないからって、いくらなんでも素直に言い過ぎた。

 ハッ――。

 

「そ、そうだっ。もう一度言うけど、このこと他の人には絶対他言無用だからね」

 

 忘れられないうちにもう一度念を押さないと。

 こんな恥ずかしいこと言いふらされ嫌だ。

 彼にも今以上に迷惑かけてしまう。

 

「はい、お約束します。言いません」

 

「そうだよ。心配しないで大丈夫だって」

 

「本当の本当にだからね。後、からかったり余計なお世話もやめて」

 

「もう信用ないな~」

 

 信用できるわけないでしょ。

 四十院さんまでニヤニヤしたと楽しそうな顔してたら余計に。

 

「あっ、かんちゃん。ちなみに~もしやったらどうなるの~?」

 

「えっ……えっと、それは……お、怒る。それはもう凄くっ」

 

 とっさに思いつかず凄い間抜けなこと言ってしまった気がする。

 

「あ~もうっ! 更識さん、可愛いな!」

 

「うんっ。更識さんってこんなに表情ころころ変るんだね」

 

「何だかのほほんさんがお世話焼きたくなる気持ちがよく分かりますね」

 

「分かる~? だよね~」

 

 これはダメそう。

 言いふらされなくてもからかわれるんだろうな。嫌だな……。

 というか。

 

「いいのかな……?」

 

「何が?」

 

「彼のことは好きだけど……友達なのにこんな風に想うなんて」

 

 友達として好きなのとはまた別に異性として好きになるなんて絶対重い。

 彼に負担をかけてしまう。ただでさえ迷惑かけっぱなしなのに、また迷惑をかけてしまいそう。

 やだそんなの。

 

 自分の想いに気づくことが出来たことはいいことのはずだと分かるけど、これからどうしたらいいのか。

 絶対ぎくしゃくして、彼を不安がらせる。

 そもそも私なんかが好きになっても……。

 

「いいじゃない? 別に」

 

「え……?」

 

「友達でも好きになるって全然いいことじゃん」

 

「そうそう。むしろ、ロマンティックだよ。友達から始まる恋ってさ」

 

「そういうものなの……?」

 

 自覚したのは今ようやくのことで、知っていてもそういうことには疎くて今一納得はできないけど。

 そういう考え方もあるってこと……なんだよね。

 

「性分だろうから難しいとは思うけど~かんちゃんは難しく考えすぎなんだよ~こんな話始めて何だけどかんちゃんの恋は始まったばかりなんだからかんちゃんのペースでね」

 

「私のペース……」

 

「夏休みもあることだね~」

 

「夏休みで深まる二人の愛……甘いひと夏の恋……あぁ青春だね」

 

「そ、そういうのやめてっ」

 

 そんな仰々しく言われると余計変な意識しちゃう。

 恋だなんて……そんな恥ずかしい。

 

「ふふっ、からかわないでと言っていましたが何かあればお話聞かせてもらったり、相談とか乗らせて下さい。微力ではありますがお力になりたいです」

 

「あっ、神楽抜け駆けずるい。私も力になるからね、更識さん!」

 

「私もなるよっ」

 

「もちろん私もなるからね、かんちゃん」

 

「ありがとう……皆」

 

 お世辞かもしれないけど、それでも心強くて嬉しい。

 私にもこんなこと言ってくれる人が増えた。

 これも彼のおかげなのかもって大げさながらにでも思う。

 

「でさぁ更識さん。どうして彼のこと好きになったの?」

 

「えええっ!? 今それ聞くの!?」

 

「聞くなら今しかないでしょ。で、どうなの?」

 

「気になるー!」

 

「い、嫌よ……そんなの」

 

 するとええ~っというブーイングの嵐。

 そんなこと言われても嫌なものは嫌。

 また恥を晒せというのか。

 

「そんなこと言わずにさ」

 

「一つ! これが最後だから!」

 

「お願いします!」

 

「かんちゃんお願い!」

 

 切実に懇願されても困る。

 ……仕方ない。言っておしまいにしよう。

 言って減るものじゃない。恥ずかしいけど、これが最後なら我慢してしまおう。

 

「うっ……それは……その、辛い時苦しんでる時落ち込んでる時上から手を差し伸べるんじゃなくて隣に寄り添って一緒になって考えてくれたから……」

 

「おぉ~!」

 

「それでそれで!?」

 

「一つって言ったでしょ。それがきっかけ。はい、おしまい。寝ましょう。明日実技なんだから」

 

 私は隙間を見つけるとそこを抜けて皆の包囲網から出る。

 ぐしゃぐしゃになった布団を直して寝る用意。

 またええ~とは言っているけど、それ以上の追求はないのでとりあえずは納得してくれみたい。

 

 すらすらと言えてしまったけどきっかけなんてそんなもの。

 こんなの誰にでもある。

 

「でも~かんちゃん。それをしてくれたのが別の人。例えばおりむーとかだったら、その人のこと好きになってた……?」

 

 突然の質問に驚く。

 別の人、織斑さんだったらか……あの人相手は何か想像つかない。

 でも、どうなんだろう。

 

「……うーん……好きになったかもしれないし、好きにならないかもしない。……よく分からない」

 

 言えるのはこんな答えにもなってない答え。

 

「でも……今私が好きになったのが彼でよかったと思う」

 

 これが私が言える素直な答え。

 あの時、整備室が一緒になったのが、今日までずっと傍にいていくるのが彼でよかった。

 

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