【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
いろいろありすぎた臨海学校から帰ってきて一日。
三日という短い期間だったが中々濃かった。中でも特に初日は濃すぎるほど濃い。
あの日の出来事は今でも鮮明に思い出せる。
更識さんのことをまた一つ知ることが出来た。更識さんは新しい考えや目標を持つことができた。そして、俺は更識さんへの想いに気づくことが出来た。
俺は、更識さんのことが好きだ。
友達としては勿論。それ以上に一人の異性、女の子として好きだ。
一夏のおかげで自覚はできたものの我ながらアレなことに、意識すると無性に恥ずかしくなってくる。気をつけてはいるが自分で思っている以上に顔に出てたら嫌だな。
けれど、更識さんのことを考えて感じる胸の高鳴りは苦しい時もあるが心地よかったりもする。不思議だ。
これが恋をするということなんだろか……と思うのは少々アレだな。
しかし、想いに気づけたのはいいことなんだろうがこれからどうしたいいのかは決まってない。
いや、どうしたらいいのか分からない。
更識さんのことは好きだ。それははっきり胸を張って言いきれる。
だったら想いを更識さんに伝えるべきか。所謂、告白だ。
でも、告白されても更識さんを困らせてしまうのではないだろうか。
好きでもない奴に告白されても困ると聞いたことあるから、あれこれ悪い方向に考えてしまう。
嫌われてはないはずだ。よく思われていると思う。友達としてだろうけど。
というより、告白したことで気まずくなって友達ですらいれなくなったらそれはそれで嫌だ。
変にお互いを意識してしまうわけだし、今のような友達関係には戻りにくい。
そう思うと余計悶々としてくる。
大体俺は更識さんとどうなりたいんだろう?
ただ想いを伝えたいだけなのか。それともいっそ恋人関係にでもなりたいのか。
そこがはっきりとしない。
恋人関係になりたいとしても、なってどうしたいだ俺は。
そもそもこんな身の上でそういうことは許されるんだろうか。更識さんの迷惑になるんじゃないか。
考えは止まらない。
何より最近俺は更識さんに――。
コンコン、と部屋の扉がノックされた。
誰か来た。更識さん……ではないだろう。
今は夜の八時過ぎ。こんな時間に部屋に来るなんてことはない。
来るなら来るで一言連絡くれるはずだ。
となると消去法で思いつく相手はほぼ一人。気は乗らないが無視するわけにもいかず、扉を開けた。
「よっ!」
扉を開けた向こう側には案の定一夏がいた。
夜用のラフな格好をして一人みたいだが一体何のようだ。
「いや、来週期末テストだろ。一週間前だから皆で一緒に勉強しよって言っていたの忘れたか?」
確かそんなことを言っていたような。
来週は入学初めてのテスト。中間テストがないIS学園では期末テストの結果がとても重要になってくる。
一年生は臨海学校直後から来週の月曜日までがテスト一週間までの期間で日数にしたら一週間もないが、テスト範囲などは七月の始めから説明されて皆その頃からテスト勉強を始めているらしい。俺もその一人。
皆でしたら教えあえるとかそういうところは分かるけども、一夏の言う皆というのはあの五人……篠ノ之達のことだろ。行く気がしない。
「何でだよ」
一夏とあの五人の輪に入ったら、一夏がアイツらの相手に手一杯でアイツらも一夏に相手してほしくて離さない。そうなると俺は一人ポツンと残されることがある。実際何度も経験済み。
だったら、一人で勉強しているほうがいい。
「あーそれはそうだな。すまん。でも、心配無用だぜ。勉強会はロビーの広間でやろうっことになってて箒達以外にものほほんさんとか相川さん達がいるからよ」
そういう問題ではないということは一夏に伝わらないようだ。
「兎も角、ほら行くぞ。なっ!」
抵抗してみたもののあえなく連行されかける。
仕方ない。行くか。一夏は一度言い出すと中々聞かないからな。
使いそうな勉強道具一式を持って一夏についていく。
「そうだ。多分まだまだ人増えるだろうし、お前も呼びたい人いたら呼んでいいからな。例えば更識さんとか」
向かう道中一夏がそんなことをニヤ付き顔で言ってくる。
想いに気づけたのはよかったが、気づかせてくれた相手が悪い。
前以上に一夏は何かにつけて余計な世話を焼いてくることが多くなってきた。
更識さんと俺をわざとらしく一緒、しかも隣同士の席にしたりとかいろいろしてくる。
自分に向けられている色恋沙汰には本当疎いのにどうしてこうなのか。そんなんでよく俺が更識さんのこと好きだと気づけたな。
「前も言っただろ。見てたら分かるってアレは。お前と更識さん仲いいし、何よりお前の更識さんを見る目と雰囲気が明らか優しいからな。真面目な話、本当冗談抜きで呼んでもいいぞ」
言葉は嬉しいが躊躇い曖昧な返事をするに止めた。
更識さんがいれば、それはそれでよかったんだろう。以前なら。
ただ想いに気づいてからはそういうわけにもいかない。更識さんのことを変に意識してしまって、そのことが更識さんにも伝わってしまったらしい。
臨海学校二日目から更識さんと俺との間には妙な距離感が出来ていた。
別に避けたり、避けられたりはない。ただ隣にいても遠くに感じるというか、何とも気まずい状態。早くも今までのようにはいかなくなってきつつある。
だから、そう気軽には呼べない。第一俺が呼んだところで来てくれるか。
「馬鹿一夏遅いっ!!」
「馬鹿はないだろ。鈴」
「だとしても鈴の言う通りだ。さっさと連れてきたらいいものを」
「まったくですわ」
「なってないな」
ロビーに着くなり、一夏は凰や篠ノ之、オルコット、ボーデヴィッヒに責められている。
見慣れた光景だ。ただ臨海学校から彼女達の一夏のアピールは更に激化。
余計な騒ぎにならないといいが。
「心配しなくても大丈夫だよ。さっ、勉強始めよっか」
「おうっ」
「よいしよっと」
「なっ!? 嫁の隣は私のものだぞ」
「私の席ですわっ」
デュノアの言ってくれたことはなんだったのか。
早速デュノア含めて一夏の強奪戦争になった。
そして一人ポツンと一人残れる。だから、これが嫌なんだ。
「こっちこっちっ」
誰かに呼ばれた。
「こっちおいでよっ」
声のほうを向けば、それはクラスメイトの相川さんや谷本さん達だった。
知らない仲ではないし、俺が座れる様に一人分のペースを空けてくれている。
言葉に甘えて座らせてもらった。
「いや~来てくれてよかったよ。君が来ないと織斑君勉強会したがらなかったからさ」
「勉強会でもないと期末テストでも中々勉強する気になれなくて」
ああ、なるほどそういうこと。
勉強会なんて一夏が言い出すから変だとは思っていたが納得だ。
というか。
「テストのほうはどうです? 自信のほどは」
既に始めている周りの人達と同じ様に勉強を始めようとしていると四十院さんがそんなことを聞いてきた。
自信は正直あんまりない。最近はもう授業にしっかりとついていけているが、それでも期末テストとなれば難しさは一際だろう。
油断してたら赤点取りかねない。赤点回避できたとしても、初めての学力テストなのだから言い結果は残したい。
「なるほどね~私達も似たようなものかな」
「うん、多分普通に勉強してれば平均点ぐらいは軽く取れると思うけど、油断してると赤点取っちゃいそうだから頑張らないと」
「ですね。それにテストとは言えやるからにはいい結果も残したいですし」
IS学園でもこういうところは普通の学校と変らない。
皆頑張るのなら、より一層気合いれて頑張らないと。
とその前にずっと気になっていたことがあった。布仏さんはどうしたんだろう。一夏の話では勉強会に居ると聞いていたけども。
「のほほんさん? のほほんさんならもう一人呼びに行ってるよ」
もう一人……まだ人増えるのか。
周りには篠ノ之達や相川さん達以外にも1組のクラスメイトが見た限り全員いる。
これ以上増えるとなると他のクラスの子あたりか。
「どうだろうねー」
「まあ、もうそろそろ来るはずだから来てのお楽しみだよ」
「ふふっ」
何で相川さんや谷本さん、四十院さんはそんな温かい目を向けてくるんだ。
その目、更識さんがらみでからかってくる一夏を思い出して嫌だ。
布仏さんが呼びに行っている人ってもしかして……いや、まさか。
「おっまたせー」
聞き慣れた声。布仏さんがようやくきた。
顔を上げてみてみると絶句した。
考えてなかったわけじゃないが、考えたらすぐ分かることだ。
布仏さんが連れてきたのは更識さんだった。
「……」
遠慮気味に頭を軽く下げられ、気まずそうな顔される。
仕方ないか。無視されなれないだけマシというもの。
さっきの考えがフラグか何かになったんだろうか。
というか、何で呼んだ……普通に勉強会に参加しに来ただけだろうが、何か仕組まれた感じがひしひしとする。
これも考えるまでもない。一夏はそれもあって連れてきたんだ。
「のほほんさんおっそーい!」
「ごめんね~かんちゃん連れてくるのに手間取って~。かんちゃん、彼がいるって言ったらめっちゃくちゃしぶって~」
ずしりと重いものが上からのしかかるのを感じる。
そうか。そうだったのか。そうだよなあ。
「ち、違うからっ……! 本音の嘘っ、嘘だからっ。変なこと言わないで本音っ」
「えへへー怒られちゃった」
「本当嘘だからそんな顔しないで……ね」
悲しい顔されて言われるといつまでもこうしているのは更識さんに悪い。
その言葉を信じ、気を取り直そう。
「……それで……私はどこに座れば……」
「かんちゃんはあそこに座りなよ」
「更識さんここどうぞ」
「ええぇっ!?」
驚く更識さん。
彼女が座るように勧められた席は俺の隣に座っていた相川さんの隣であり、それは俺の隣でもあった。
「えっ、ちょっ……!」
「ほらほら、座る座るっ」
「わっ!」
立ち止まったままの更識さんがじれったくなったのか、皆は半ば無理やりそこへ座らせた。
「では、更識さんも来たことですしお勉強再開しましょうか」
「お~」
更識さんと俺をほっぽって布仏さん達は勉強を始めていく。
どうしたものか。とりあえず、今のところは勉強でもしておこう。
更識さんも同じことを思ったのか、テキストとノートを開いて勉強を既に始めていた。
「……」
周りは話しながらも勉強しているが、更識さんと俺には会話らしい会話はない。
いつものこと。普段からそんな会話するほうではないから変ではないのだろうけど、今日はこの無言が気になってしまう。正直、気まずい。
この両隣の現状が原因の一つなのは明白だ。
そもそも一体何なんだ。この状況は。
隣に座りあう必要はないだろ。かと言って他の席には下手に動けない。更識さんと俺の両脇は布仏さん達でガッチリガードされている。
こんな席順にするということはそういうことだろうな。有り体に言うならば、余計なお節介。
何処で相川さん達にバレたんだ。一夏か。一夏が言ったのか。
いや、待とう。それはないはずだ。言ってたら、もっと凄いことになっていただろう。
となると普通にバレたのか。一夏でも気づいたんだ。ありえないことではないのだろう。
恥ずかしいな。一夏以外に気づかれたことは勿論だが、こういうお節介をされると余計に恥ずかしい。
だが、ここで変に動揺でもして自分で余計事を煽るだけ。動揺すればするほど、こんな人前で更識さんに迷惑をかけてしまう。巻き込むような真似はしたくない。
いつも通りいることを心がければ大丈夫なはずだ。よし、そうしよう。
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「お前達、テスト勉強に精を出すのは結構だがそろそろ時間だ。部屋に帰れ」
織斑先生の声がロビーに響く。
時刻は寮部屋からの外出禁止時間近く。今日はもう終わり。やっとだ。長かった。
結局、勉強している間更識さんと会話はなかった。いつものことと言えなくはないが、正直今日は会話がなさ過ぎた。
おかげでテキストは進んで勉強が捗ったけども、いつもより時間が長く感じた。
気まずさからこうなってしまったとは言え、これはよくない気がする。
「織斑、賑やかなのはいいが場所を変えろ。ロビーではきついだろ」
「そうだな。結構増えたし」
ロビーには元いたメンツ以外にもここで勉強会をやっていると聞いて参加しにきた別クラスの人達が大勢詰め掛けていた。
かなりの人数。ロビーでは全員の席を賄いきれず、どこかからイスを持ってきたり立っている子がいる。これからも続けるのなら、別の場所に変えたほうがいい。
やめるなら話は別だが。
「やめねぇって。折角皆で楽しくやってるんだからな、テスト当日までするぞ」
「さっすが織斑君!」
「いやー、一人だと分からないところ多くてこういうのあると助かるよ」
皆もやる気らしい。
ということは次も参加した方がいいか。
「参加した方がいいとかじゃなく。お前は絶対参加だ」
「かんちゃんもだよ」
「……うん、分かった」
更識さんは小さく頷く。
「となると他の場所……寮の食堂なら一年生全員入っても結構余裕あったよな。千冬姉、食堂使ってもいいか?」
「先生と呼べ。食堂の使用は許可しよう。だが織斑、お前が責任者として責任持て。騒がしくしない。来た時よりも美しくを守るように。明日の朝でいいから食堂の方やコンシェルジュの方にも一言知らせておけよ」
「了解。助かるぜ、先生。じゃあ、明日の勉強会は食堂。時間は夜飯終ったあたりで。自由参加ってことで他の人達にも声かけといてくれ」
「は~い!」
皆の嬉しそうな声が上がる。
明日はもっと人が増えそうだ。
「凄いね……織斑さんを中心に綺麗にまとまっていく」
一連の光景を更識さんは関心していたようすで眺めている。
確かに凄い。そこにいるだけで自然と人を引きつけ、輪の中心になっていく。
こういうことをサラッとできるのが一夏の凄いところだ。
「話はそこまで。時間厳守。早く部屋に戻れ」
今日は本当にお開き。
後片付けして皆それぞれ自分の部屋へと戻っていく。
俺も部屋に戻ろう。
「私も戻る。じゃあ……おやすみなさい」
おやすみと返事を返す。
それが今夜更識さんと交わした最後の言葉だった。
…