【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
曰く記念すべき勉強会第一回目があった日の翌日。
言われた通り夕食後、第二回目の勉強会をする為食堂にいた。
勉強会のことは一夏の望み通り、たくさんの人が広まった。おかげで食堂にはたくさんの人が詰めかけ賑わっている。
喜ばしいことなんだろう。賑やかながらも、皆しっかりと勉強中だ。
今夜も昨日と同じく布仏さんや相川さん達と同じテーブル。
そして、かく言う俺も勉強中なのだが……。
「……」
チラと今夜も同じ席、昨日と変わらず隣にいる更識さんを見てはまたテキストに視線を戻す。
更識さんは勉強会に来てから黙々と勉強を続けている。
言うまでもなく今日も今日とて更識さんとの間に会話はない。あったとしても挨拶程度。
周りの会話に参加しないというわけでもなく、これまでどおりと言えなくない。
だから、ただの気にしすぎなんだろうが気になってしまうものは気になる。
気まずさは昨日よりも増すばかり。
更識さんとどうなりたいのか。どういう関係になりたいとか。
そういうの以前にまずはこの気まずさからどうにかしたい。
となれば、行動に移すべきだろう。気まずいからと黙っているのがよくなかった。
こういう時こそ黙っていればいるほど気まずさは増すばかりなのは明らかなのに。
何はともあれ行動あるのみ。とまず手始めとして更識さんに普段通り声をかけてみた。
「……何? ……どうかした……?」
よかった。
当たり前のことかもしれないが、更識さんがちゃんと反応してくれてひとまず安心。
しかし、肝心なのがここから。話題を振らなければ。
ここは無難に勉強の進み具合、調子はどうかと聞いてみた。
「調子? ……、……普通」
返ってきた言葉はそれだけだった。
「……」
話はそこで終ってしまう。俺の方もそうかと納得してしまいそれ以上話は広がらなかった。
突然調子なんて聞かれても普通としか答えられないだろう。いくらなんでも無難すぎたのかもしれない。
初っ端から失敗してしまった。ここでやめてしまえば何も進まないが、かといって話しかけすぎると更識さんを困らせる。正直、しつこいだけで迷惑以外の何物でもないだろう。嫌われたくはない。
その辺り気をつけつつ、ゆっくりでもこの気まずさを解決していくか。
「おっ、やってるやってる」
「のほほんさんこんばんは」
「ばんは~」
また誰かが食堂にやって来た。女子二人組みだ。
見た感じ布仏さんの知り合いのようだが、俺には見覚えない。
1年生の寮にいるのだから同級生だろう。多分、別のクラスの人だ。
「ん? あっほら、前に話した整備科志望の子達だよ~私が誘ったんだ~」
かなり前、確か初めて布仏さんと一緒に整備室に行った時に整備科の子達とお茶してたとか言っていたような覚えがある。
この時の人達か。
「のほほんさんが知らせてくれてよかった。こんなおもしろそうなの知らなかったら一生ものの損だったよ」
「ねー、織斑君達男子二人が手取り足取り教えてくれるって話だし」
また変な噂が出回ってる。初耳だ。
察するまでもなく。いつものこと。話が広まるうちに学年別トーナメントの時みたいにまた変な尾ひれがついたんだろう。
俺はあくまでもオマケ程度。彼女達の本命は一夏だろうが……。
「おりむーは忙しそうだね~」
のんきなことを言う布仏さんを筆頭に俺達の視線は一夏へと向く。
「一夏さんっ! さっ、私と英語のお勉強をしますわよ!」
「何言ってるのよ。一夏は先に私と社会やるのよ!」
「ふん。一夏は昔から国語が苦手だったから現代文をやったほうがいいな。ということでやるぞ! 一夏!」
「貴様らは何を言っているんだ。嫁は私と数学をやるのだぞ。な、嫁よ」
「まあまあ、皆落ち着いて。一夏は今僕と理科からやっているんだから後は順番に」
お約束の光景。
一夏は今夜もモテモテ。うらやましくはない。
騒がしすぎて周りからは隔離されているのがまた何とも。
当の一夏は……。
「皆仲良くやろうぜ! なっ!」
状況を分かった上で言っているのか分からなくて言っているのか。
いや、半分分からずにあんなのんきなこと言ってる。
たまにこっちにこいというような助けを求めてるような目を向けてくるが、あの中に割って入るなんてとてもではないができない。
「あれじゃあ残念だけど仕方ないよね」
「代表候補生ばっかりの中には入れないって。ただこういう時ちょっと寂しいよね」
「それは分かるかも」
「うんうん」
皆一様に頷く。
まあ、アレだけあいつらに一夏を独占されてたら近づけないな。
近づいたら近づいたであいつらが一夏に絡むだろうし。
「まあ、それは置いといて。こっちはこっちでやろうよ~」
「そうだね。始めちゃお」
やってきた彼女達もすぐ近くの席に座っては勉強を始めた。
後は彼女達が来る前と変らない。
更識さんにもう一度声をかけるタイミングを探りながらも淡々と勉強を進めていく。
・
・
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「んー」
誰かが悩むような唸り声を小さく上げた。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと分からないところあって。ここなんだけど」
彼女達が大分時間が経った頃。
手を止めた整備科志望の子がそんなことを言った。
「あーここか。私も分からなくて飛ばしたんだよね」
「あ~やっぱり? だよね~」
「君はこれ分かる?」
聞かれて問題を見てみるがパッとすぐには分からなかった。
難しい問題だが習った覚えがあるから少し考えたら分かるかもしれないがすぐには力になれそうにない。
申し訳ない限りだ。
「いいよいいよ。ここ習ったはずだけど難しいよね」
「他にこの問題分かる方はいらっしゃいますか?」
「ん~あっ! かんちゃんなら分かるよね。この問題」
「えっ……?」
突然、布仏さんに話を振られた更識さんは手を止め驚いている。
解けそうな四十院さんもダメとなると残るは更識さんだけだから、聞かれるのは無理なのいもしれないが布仏さんらしく本当に急だ。
「本当? じゃあお願いしよっかな。ここなんだけど」
「あっ、えっ……あっ、ここ。……ここは……」
突然振られて更識さんは戸惑いながらもすらすらと答えていく。
「――という感じの答えになるんだけど……」
「ああ~そうなるんだ。ありがと更識さん! 助かったよ!」
「流石は日本の代表候補生! 頭いい!」
「……う、うん」
皆の反応に更識さんは若干引き気味だが流石と言うべきか皆も納得できる答え。
代表候補生だからってわけではないが、すらすらと答えてた辺り更識さんは頭いいんだな。
「じゃあさじゃあさ、これ分かる? ちょっとここが分からなくて」
「えっ……あっ、あの……分かるけど……」
「じゃあ、解き方教えてほしいな~なんて」
「私もそれ教えてほしいんだけどいい?」
「私も」
「……分かった。いいよ、大丈夫」
「やった! ありがと!」
流れで更識さんが皆の先生のようなことをすることに。
雰囲気的に断れなくさせてしまったがその辺大丈夫だろうか。
当然自分の勉強もあるだろうに。
「え……あっ、うん。大丈夫、だと思う……自分の勉強は後でするし。それに私、そういうの全然だけど……やってるみる。その、貴方も分からないことあったら聞いて」
更識さんがそう言うのなら大丈夫なんだろう。
変な心配するのは返って失礼というものだ。更識さんにしたら心配される義理もない。
ただ折角なのでこれから皆が教えてもらうところを開き、一緒になって教えてもらい始めた。
「――っていうことになって……えっと、それでここから」
更識さんの教えを皆と一緒になって聞く。
気づけば、いつしか別の席、別のグループの人達まで聞きに来てる。
更識さんほど有名な人が教えていたら、皆興味沸くのだろう。
そう言えば、こうして更識さんに何かを教えてもらうのは学年別トーナメント以来だ。
あの時と変らず言っていることは的確だ。こちらが理解さえしていれば、凄く分かりやすい。
ただやはりと言うべきか、理解が追いついていなければ難しいようで。
四十院さん以外は皆、しかめっ面したり不思議そうな顔をしていた。
皆の異変に更識さんも気づいている様子だが、どうしてそうなっているかまいでは分からないみたいだ。
「どうかした……?」
「えっ……いや、ねぇ」
「う、うん……まあ、ねぇ……」
「?」
皆言いづらそうにしている。
自分から頼んでおいて分からないとは言えないんだろう。
相手は更識さんだ。
だが、いつまでもこのままではいられないので見かねて布仏さんが言った。
「答えとかはあってるんだろうけど説き方の言い方が難しくて皆分からないよ~」
「えっ……あっ……そうなの……?」
皆言葉なく静かに申し訳なさそうに頷いた。
「ご、ごめんなさいっ! 私っ……」
「いいよいいよ。謝らないで」
「こっちこそ理解できてなくてごめんね?」
「……わ、私が説明下手くそなだけだから……」
更識さんの表情にみるみる影が立ち込める。
落ち込んでいる。
やる気だっただけに、失敗は堪えてしまったのだろうか。
「もう~落ち込まないのっ、かんちゃん。これから分かりやすく教えてくれればそれだけで充分。嬉しいよ~」
「うん……」
頷きはしたものの更識さんは困っている様子。
いきなり分かりやすくと言われてもどうしたらいいのか分からないといったところ。
まあ、無理もない。いきなりそうできたら苦労はしない。
差し出がましいかもしれないがここは一つ更識さんの助け舟になれればいい。
そう思い更識さんにもう一度さっきの説明をそのまま繰り返してもらうようお願いしてみた。
「え……うん。えっと……」
繰り返される説き方の説明。
いいたいことは分かるので先ほどまでは特に気にとめてなかったが言われてみれば、更識さんの説明は言葉が難しい。
だから、更識さんの説明を自分なりの意訳で皆に説明しなおす。
「ああっ! なるほどそうやって考えるんだ!」
「分かるとスッキリするね」
これでようやく皆も理解できたらしい。
ひとまず安心だ。
本当に意訳ではあるが間違ってないないずだ。
「うん、大丈夫。それであってる。ありがとう、助かった。後ごめんなさい……私が説明下手くそなばかりに貴方にまで迷惑かけて」
気にすることはない。
得意不得意は誰にでもある当たり前のことで、まだ最初の方。
まだ挑戦したいという気持ちは更識さんの中に残っているだろうからゆっくり慣れていけばいい。
そもそもこの問題の解き方すら俺には始め分からず、教えてもらったことをただ意訳しただけなのであまり気にせず、また教えてほしい。
また、何かあれば手助けぐらい教えてもらっているお礼としてさせてほしい。
「ありがとう……じゃあ、他に分からないところはある……?」
「次はここなんだけど……」
「こそ……えっと、そこは……」
気を取り直した更識さんはまた教えてくれ始めた。
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「っと、時間だな。おーい皆、今夜の勉強会はここまで。織斑先生にドヤされないうちに早く戻ってくれ」
一夏の言葉を聞いて時間を確認する。
後少しで寮部屋からの外出禁止時間。
もうこんな時間……あっという間だ。
「皆乙~」
「お疲れ~何か今日は時間が経つの早かった」
「だね。それだけ私達集中して勉強してたってことじゃない?」
「言えてる。おかげで凄く捗った。こういったアレかもしれないけど最初は難しかったけど、最後のほうは凄くわかりやすく教えてくれたしこれも全部、更識さんのおかげだよ」
「流石は候補生って感じだったよ」
「そんな……」
謙遜こそはしているものの更識さんは満更でもない様子。
何処か照れているようにも見えて嬉しそうな顔をしている。
「貴方もお疲れ様。今夜はありがと。いろいろ助けてくれて」
助かったのはこちらのほうだ。
それに手助けできたのはほとんど最初の方だけ。
流石というべきか、時間が経てば慣れるのは早いようで最初の頃と比べて分かりやすくなっていた。
後半は教えてもらうことのほうが多かったが、それでも少しは更識さんの力になれたのなら嬉しい。
「更識さんも自分の勉強あるの分かるんだけど、明日もまた教えてもらってもいいかな?」
「もちろん、いいよ。教えるのも勉強になるし、自分の勉強も部屋に戻ったら出来るから」
「ありがとう~助かるよ」
明日も更識さんの勉強会はあるらしい。
自分もまた教えてもらいたい。
「いいよ。私で教えられることがあるなら喜んで」
それはありがたくて楽しみだ。更識さんに教えてもらえるのならこの勉強会俄然参加する気が出てきた。
「もう、大げさ」
そう言って更識さんはくすくすと楽しげに微笑む。
釣られて俺もまた笑った。
ふと今気づいた。もうあの気まずさも感じなくなり更識さんとも普通に話せるようになっている。
何となくとは言え勉強会に参加してよかった。
今日はこれで終いだが、この調子ならもうこれからは大丈夫。少しは以前のように過せる。
「あ、あのさ。少し更識さん達に聞きたかったことあるんだけどいい?」
部屋に戻ろうとしていると整備科志望の子に呼び止められた。
「達って……?」
「更識さんと君のことだよ」
更識さんと俺に聞きたいこと。
何だろう。嫌な予感がする。この感覚に既知感を覚える。
というか、何だか整備科志望の子達は何処かニヤついていたり、何処かワクワクとした様子。
いや、彼女達だけではなく布仏さんや相川さん達までもが同じ様子だ。
これはもしかしてなくてもだ。
「……」
更識さんも察したのか、心なしに嫌そうな顔をしている。
今から言われるだろうことを思えばある意味当然の反応だ。
「二人そろって何ぼーっとしてるの。早くこっち」
呼ばれて皆で顔を突き合わせて小さな輪のようなものを作る。
少し緊張と戸惑ったのは内緒の話。
「本当に気になっただけで他意はないから気を悪くしないでほしいんだけどやっぱ、二人って付き合ってたりするのかな?」
来ると思っていた通りの言葉が来た。
今まで何度も同じことを言われて、その度に否定してきたが正直面倒だ。
ただまあ否定してまわってもなければ、この子達に聞かれたのも今日が始めて仕方のないことなのかもしれない。
その噂があるのは前から知っていてながらも、否定するわけでもなく。それどころか噂に拍車をかけるようなことをしているのだから。
「で、どうなの」
「えっ……いや、つ、付き合ってない。うん……ね、ねぇ」
更識さんに同意を求められ、その通りなので頷いて答える。
「またまた~」
「隠さなくてもいいのに」
簡単には信じてもらえなかった。
気になって仕方ないんだろう。その気持ちは分からなくはない。
俺だって一夏が特定の女子一人だけと目に見えて親密にしていたらそういう勘ぐりしてをいただろし。
否定したところで彼女達みたいな反応になるだろう。
それでも付き合ってないのだから、付き合ってないとか言いようがない。
「でも、教えてくれる時更識さん達あんなに息ぴったりだったじゃん。お似合いだったよ」
「てっきり友達以上の親密な関係だと思ったんだけどな」
「友達以上……」
更識さんは何か思うところがある様子だが。
友達以上なんて言われても更識さんと俺はただの友達だ。
「うわー」
「あちゃ~」
何故か全員に引かれた。
失言だったのか。しかし、他にどういえば言い。
間違ったことは言ってないはずだと更識さんの様子を確認してみたのが。
「ただの友達……」
あからさまに更識さんは落ち込んだ様子だった。
失言だったらしい。いろいろ思うところはあるが兎も角、まず俺は更識さんに謝罪する他なかった。
「う、ううん……謝らないで。大丈夫……そうだ、私と彼は付き合ってない。ただの友達だから……その、こういうことはあんまり……」
「わ、分かった」
「ごめんね、更識さん。変なこと聞いちゃって」
「大丈夫……こっちこそ、ごめんなさい」
何でもない様子を装っている更識さんだがその様は何処か痛々しくも見え。
整備科の子達は申し訳なさそうにしていた。
更識さんには何だか申し訳ないことを言ってしまった。
だが、他にどう言えばよかったのかは分からないまま。
折角更識さんとの気まずさはなくなったと思ったのに、これでは振り出しに戻ってしまいかねない気がした。
…