【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
「はぁ……疲れた……」
昨日に続いて今夜からもあった二回目の勉強会を終えて部屋に戻ってきた。
そして荷物をいつもの場所に置くと、倒れるように仰向けでベットに寝転がった。
「いた……」
眼鏡外し忘れていたので外してベットの脇に置くと枕に顔を埋める。
すると、疲れがドッと押し寄せてきた。
大して身体を動かしたわけじゃないから、これは精神的なもの。
あんな沢山の人の前で話したのもそうだったけど、まさか私が誰かに勉強を教えるなんて思ってもみなかった。
ものは試し。何事にも挑戦とやってみたけど、まあ当然の如く失敗した。
私の説明の仕方は難しいらしい。
付き合いの長い本音までそう言ったのだからよっぽどなんだろう。初めて自覚した。
でも、トーナメントの時彼と訓練した時そんな素振りはなかった。彼は芽が出るのが遅いだけで理解力は高く、要領もいい。後、彼は気遣い屋だ。
きっと気を使わせてしまったのかもしれない。
それは今日だってそう。
分かりやすく説明してほしいと言われ、自分でもそうしなきゃって思うのにすぐには行動に移せなかった。どうしようと思うばかり。
そんな時、助けてくれたのは彼だった。
私の説明を改めて皆に分かりやすく説明してくれ、その後も私が皆に教えやすいようにしてくれた。
また難しく説明してしまうとその都度手助けしてくれたりと最後までいろいろ手助けしてくれた。
おかげで上手くいって、教えていくうちに少しは分かりやすい説明の仕方も分かってきたりといろいろと成果もあった。
何より、昨日から続いてた彼との気まずさも気づけばなくなっていた。
勉強についてだったけど前みたいに彼と話せるようになってよかった。嬉しかった。
でも、それもその場限り。
「……はぁ」
出てしまう溜息を枕に顔を埋めて押し殺す。
溜息ついたせいなのか憂鬱な気分になってしまう。
「わぁ~凄い溜息だね~」
私がどうして溜息ついてるのか知っているはずなのにのんきなことを本音が言うものだから少しイラっとした。
「何……嫌味……?」
「もう~どうしてそうなるの~違うって~それ、さっきのこと思い出して~?」
「……うん」
その通りで。
否定しても大して意味はなさそうだったからここは大人しく頷いておく。
溜息の原因はさっきま出来事を思い出して。あれは嫌でも勝手に思い出させられる。
今日もまたあの噂、彼と私は付き合っているのかと聞かれた。聞いてきた相手は勉強会に始めて参加した本音の知り合いである整備科志望の人達。
始めて聞かれたけど、相手関係なく何度も聞かれるのは正直うんざりする。そろそろいい加減噂も終息して付き合いってない事実が広まってほしい。
でも、あの人達は彼と私をお似合いだと言ってくれた。お似合い……。
「……ふふっ」
「な~に嬉しそうに笑ってるのかな~?」
「な、何でもないっ」
隠すようにまた枕に顔を埋める。
お世辞とかだろうことは分かっているけど、あまり親しくない人達にまでそう言ってもらえたのは少し嬉しい。
けれど、お似合いだと言われても私と彼はただの友達。それ以上でも、それ以下でもない。
「ただの友達……」
彼が言ったことは間違ってない。
付き合ってないのだから、そうとしか言いようがない。私だってきっとそう言う。
なのにその言葉が重くのしかかる。言われたときのことを思い出すと気分が沈む。
私は彼と友達のままの関係が嫌なのか。だったら、付き合いたい?
自問自答をしてみるけど、答えは出てこない。はっきりしない。
でもやっぱり、ただの友達と言われてしまったのは悲しかった。それだけははっきりしてる。
友達と線引きされ、それ以外にはなれないと言われているようで胸が苦しい。
あの瞬間、ほんの一瞬だけ彼との距離を凄く感じた。
「やだ……」
また気まずくなるのもそうだけど、距離を感じるのはもっと嫌。
叶うならこの距離を縮めたい。もっと彼と仲良くなりたい。
でも、私は相変わらずで……一人じゃ何もできない。
「……」
枕に埋めていたを隣に向ける。
するとそこには本音がいる。
ベットに寝転びながら携帯を弄っている本音。
本音は交友が広くて、コミュ力が高い。
誰とでもすぐ仲良くなれる。
本音だったらどうやって仲良くなれるのか知っているかもしれない。知りたい。
だけど力を借りても、頼ってもいいのかな。
お願いしたら一緒になって考えてくれるけど、言い出せず私は躊躇してしまう。
「どったの? かんちゃん」
モンモンとしながら見すぎたのだろうか。
本音に気づかれてしまった。
「え……いや、その」
つい焦ってしまう。
どうしよう。聞いてもいいのかな。
今聞かないとタイミング見失うし、折角の機会。私は意を決した。
「あの……ね、本音。ちょっと相談したいこととがあるんだけどいい……?」
「いいよいよいよ~! わぁ~かんちゃんから相談もちかけられるなんて始めてだ~! 嬉しいな~!」
異様に喜ばれてしまった。ちょっと引いてしまう。
まあ、今まで本音に相談なんてしたことなかったかもしれないけど、そこまで喜ばれるとやりにくい。
でも、ここはグッと堪えて言葉を続けた。
「本音は友達多くて誰とでもすぐ仲良くなれるでしょ……?」
「そうかな~? 自分ではそう思わないけど」
「私はそう思ってる。本音のそういうところ凄い。尊敬してる」
「ええへ~だったら嬉しいな。それでそれで?」
「……どうやったら友達ともっと仲良くなれるのか分かなって」
「ほうほう~なるほどね~」
言ってしまった。
どうしよう。なんて言われるのか変な緊張する。
それに本音がニヤニヤしているのがまた何とも。まあ、こんなこと相談するの始めてだから半分仕方ないと割り切ってはいるけど。
「ちなみにその友達って誰なの?」
「言わない。というか、分かっていってるでしょ」
「そんなことないよ~確認だよ確認。私とかんちゃんと考えてる人違うかもしれないし~。まいっか、じゃあかんちゃん一つにしつも~ん」
「何?」
「そのお友達のことは普段どう呼んでるの?」
「どうって……普通に苗字にさん付けで呼んでるけど」
私は彼のことを苗字にさん付けで呼び。
彼もまた私のことを苗字にさん付けで呼ぶ。
変ではないはず。私は誰にでも基本苗字にさん付けで呼ぶ。
「ふむふむ」
「?」
本音はしきりに頷いているけど意味が分からず私は首をかしげた。
「かんちゃん!」
「は、はい」
「ずばり簡単! もっと仲良くなるには名前で呼び合えばいいんだよ~!」
「……」
瞬間、反応できなかった。
「あれ? 分からない? かんちゃんが私を呼ぶみたいに呼んだらいいんだよー。ね、簡単でしょ~」
「普通に難しい……やっぱり、相手が誰か分かって言ってる。そんな風に下の名前でなんて呼んだことない……無理」
「ん~かんちゃんがいう相手が男子だったら難しいかもね~」
私が言う相手が彼だって本音は確実に分かってる。
本当簡単に言ってくれる。そりゃ本音にしたらなんてことのないかもしれない。
あの織斑さんに気軽に接して変なあだ名までつけられるぐらいだし。
けど、私にはそんなこととてもじゃないけど出来ない。
「ま、何事にも挑戦だよ。頑張ろう~」
「簡単に言うけど……本音、更識のしきたり忘れてるでしょ」
「あっ……うぅ~」
図星を指された顔をする。
やっぱり。まったく、この子は。
更識の女が異性に自分の名前を呼ばせるというのはすごく重要な意味がある。昔から代々守られてきたしきたり。家族や身内、親しい人にしか許されない。
つまり呼ばせるということは婚約関係だということ。
もっとも代々やって来てるから守っているだけで大した拘束力が私の場合、あるわけじゃないのも確か。姉さん、楯無姉さんはいろいろ拘束力あるみたいだけど。
だから、そこまで気にすることもないけど……。
「というか……そんな下の名前、呼んだぐらいで仲よくなれるものなの」
「ちっ、ちっ、ちっ~甘い、甘いよ、かんちゃん! クリームとシロップが沢山あるパンケーキよりもあま~い!」
「何その例え」
「名前で呼び合うっていうのはすっごくパワーがあるんだよ。下の名前なら尚更ね。ほら、下の名前で呼び合うなんてすっごく親密な感じするでしょ」
「そう、だね……」
言いたいことは分かるけど、今一つ腑に落ちない。
確かに名前で呼び合うのは凄く親密だ。友達でも普通苗字やあだ名で呼んでいるのをよく聞く。
アニメとかを見る限り、男女なら余計に。
一方で彼と同じ男子の織斑さんは篠ノ乃さんやデュノアさんたちには名前で呼ばれているからそうでもないような。
まあ、他の人には彼と同じ様に織斑さんは苗字で呼ばれているけど。
「かんちゃんもその人に苗字よりも名前で呼んでもらえたほうが嬉しくない?」
「それは……うん」
嬉しい。
男子に名前を呼ばれることなんて今まで経験してこなかったし。
呼んでくれるのが彼なら尚嬉しい。
呼んでほしい。呼びたい……でも。
「きっかけもなしに呼べない。そもそも急に名前を呼ぶのはハードルが高い」
「それもそうだね。あっじゃあ~、あだ名で呼ぶってのはどう~? 私が呼んでるみたいな感じで」
「えぇ……それはちょっと……」
逆にそっちのほうがハードル高いような。
私そういう呼び方するようなキャラじゃないし。
それに本音が彼を呼ぶ呼び方、あだ名って。
彼の名前のひらがな一文字目にちゃんを付けて呼ぶ呼び方。
犬や猫とかペットにつける名前みたい。男子にちゃんはいいのかな。まあ、彼と本音は気にしてないし私がとやかく言うことじゃない。
「可愛くていいと思うんだけどな~」
「可愛いかもしれないけど……呼ぶなら普通に名前で呼びたい」
「そっか~そっちのほうがかんちゃんらしいよね。となると、きっかけか~」
「うん……」
きっかけ。
それさえあれば、まだ呼べそうな気がする。
でも、例に漏れず案は思いつかない。
というか、そんなチャンスあるのかな。今週はテスト一週間前。テスト前日まで毎晩勉強会はやるみたいだし、その他は学校。一緒になるのはお昼ぐらい。今週は整備室は使用停止。
そうなると機会はほとんどない。
「あっ……」
ふとある考えが過ぎった。
「おっ。何か思いついた~?」
「うん……ほら、期末テストって総合成績の順位出るでしょ。十位までなら掲示板で発表されるし」
「確かそうだったような」
「それで一番を取れたら……って」
「またベタな」
「わ、分かってるっ」
本当にベタだ。
一位を取ろうとする動機としてはあまりに不順。
私にはこれぐらいしか思いつかないのが悔しいといえば悔しい。
それでもこれなら言い出せそうな気がする。頑張れそうな気がする。
「ベタだけどいいと思うよ。かんちゃんにはこのぐらいが丁度いいかもしれないしね~。じゃあ、期末テストより一層頑張らないと」
「うん、頑張るっ!」
私は力強く意気込んだ。
やる気がふつふつと沸いてくる。
代表候補生が多い一年生で総合成績一位を取るのは並大抵のことじゃないけど、やってみせる。
「そのきっかけを言い出すのも頑張らないダメだよ~」
「うっ……分かってる……」
忘れていたわけじゃないけど、頭の片隅に追いやられていた。
きっかけを思いついても、彼に言わなきゃ始まらない。
いつ言ったら……。
「そんな顔して心配しんぱいしなくてもだいじょ~ぶ」
「えっ?」
「私もそれとな~くお膳立てとフォローするからさ。パッパッと言っちゃおう~!」
「本音……ありがとう」
本音には感謝してもしきれない。
今のこともそうだけど、私はずっと一人でやってきたと思っていたけど何だかんだ本音に支えられてきた。
それを今まで私は気づかなかった。気づこうとすらしなかった。
自分はこんな苦しいのに一人で頑張ってるって思ってずっとずっと本音を見てこなかった。
思えば、今までずっと本音には辛く当たってた。
こんな私を見えずとも気にかけてくれていたのに。気づけば、傍にいていつでも手を差し伸べていたくれたのに。
「今までいろいろとごめんなさい……本音」
流れも無視して私はそんな言葉を言った。
こんなことを言ったことで私のやって来たことがなくなるわけでもなければ、許してほしいとかそう言うのでもないけど。
言わずにはいられなかった。
「いいよいいよ。水臭いな~かんちゃんは。私ね、今毎日がとっても楽しいの。新しい生活もだけど、かんちゃんが前とは見違えるように生き生きとしてて毎日幸せそうですっごく楽しい。幸せ」
「本音……」
「今いろいろとお話して、本当に彼のことが好きなんだって感じたよ」
「うん……好き」
まだまだたくさんのことが分からなかったり、曖昧だったりするけれど
このことだけははっきりと分かる。はっきりと言える。
私は彼が好き。
「うはぁ~はっきり言ってくれちゃうな~でも、そういうかんちゃん素敵だよ」
「あ、ありがとう……恋にうつつぬかしてる場合じゃないってことは分かるけど、それでもこれだけははっきりと言っておきたい」
「いいんじゃないの~別にかんちゃんは恋にうつつ抜かして何も手が付いてないわけじゃない。たくさんたくさん頑張ってるのは私もよく知ってるよ。本当に恋って凄いパワー秘めてるんだね」
「うん……私もそう思う」
恋はとてつもないパワーを発揮する。我ながらびっくりするぐらい人生が楽しい。
このパワーをバネに頑張ろう。
まずは名前を呼んで彼ともっと仲良くなるところから。
…